こいしと靈夜が戦う羽目になった。
どうしてこうなったのか分からない……なんでこう血の気が多いと言うかバトルジャンキーというか…戦闘狂というか…
いずれにしてもどちらかが負けるまでこの勝負は終わらない。
本当は私が引っ張り込んだことだから私自身が対処しなければならないはずなのに…こいしまで巻き込んでしまうなんて。
まあ…こいし自身の事も考えれば、私だけに任せるのが不安というその心も分からなくはない。
さて困ったことに私は彼女達の戦いに介入することは出来ない。
ここはおとなしく、待つとしましょうか。
そういえば結構調味料とか残っていましたから……戦いが終わるまでには何か作れそうですね。
刀と剣が交差し、空中に浮かんだ魔法陣から砲撃のように剣や斧が飛び出していく。
これだけたくさん出したのにほとんどダメージを与えられないって…流石博麗の巫女だね。
面白くなって来ちゃった。
相手に反撃の隙を与えない。与えてしまったらこっちがやられるから。
それにしても……少し動きが鈍いような…本気で戦っているんだけど全力で戦っていないような…無意識に私を倒すのを恐れているようなそんな感じだなあ。
「考え事してる余裕がよくあるわね!」
真後ろ⁈まず……
体に衝撃、地面に向かって叩き落される。
それに続いて次々に撃ち込まれる弾幕とお札。それらを全て回避してその場を離れる。
やるじゃん。
私を見失っている巫女の後ろ側に回りながら新しく剣を引っ張り出す。取り回しやすいように小型の双剣。
気づかれないように近づいて後ろから……斬る。
振り下ろした剣は振り返った巫女が持っていたお祓い棒で防がれ青白い光が六角形を描くように空間に走る。
「結界?」
「あんた…性格悪いわよ」
「それはそっちもでしょ?」
たかが結界で止められると思わないでね。
一度でダメなら何度でも攻撃すればいい。どれくらい守ってくれるかな?
2回目3回目と連続で斬りかかる。
ほらヒビ入ったよ?そこが一番負担が大きくなっていたところ…だから……
あと一撃入れれば壊れる。
「っち…あんたほんとうにさとり妖怪?」
「多分ね。でもそう言われるとよく分からないや」
あまり気にしていなかったけれど改めて考えてみたら確かにそうだね。
私はなんなのか…なかなか難しいや。今度お姉ちゃんと一緒に考えよっと。
バルカン砲を二つと重機関銃って言うものを引っ張り出す。
直接照準、撃っちゃえ。多分…大丈夫でしょ。
今までの弾幕とは桁違いの量の鉛玉が一斉に巫女に襲いかかる。
再び張った結界も一瞬のうちに粉々になって破片をきらつかせる。
「マズっ…」
高速で動かれるせいで照準が合わない。ちょと止まって欲しいなあ…でもこれで撃っちゃうと吹き飛んじゃうからなあ…それはお姉ちゃん望んでないし。
「もういいや。勿体無いし」
それに長時間撃てるものでもないからねえ。
「なに、手加減のつもり?」
「違うよ。これ一応やばいやつだからさ…貴女が死んじゃったらお姉ちゃん悲しむもん」
博麗の巫女なめないでって言われても流石にあれはやりすぎだからね。別に私は殺したいわけでもないからあれくらいで丁度いい。
向こうの体力と精神的余裕を奪えたなら大戦果。
ってあれ?なんでこっちに突っ込んでくるの……
「近づけばさっきのあれはもう撃てないでしょ!」
わわわ!こっちに来ないでよ!刀を構えて飛び込んでくる巫女から距離を取ろうと後退。
振り回される刀をスレスレで躱す。本当はもっと余裕を持ちたいけど…無理。これが限界!
あ…服の一部が持っていかれた。
でも体に傷がつかなかっただけマシか……
このままじゃやばいから距離を取らせてもらうよ!
一目散に空へ逃げ出す。
「こら待ちなさい!」
なんで追いかけてくるのさ!しかも誘導お札大量に使わないでよ!
右左の感覚がどっか行きそうなほど急旋回してるんだけど!
もう…さっきのもう一回!
バルカン砲を私の頭上に展開。近づいてくるお札や弾幕に向けて残ってる弾を撃ちまくる。
いやー気持ちいい。バカスカ落とせるよ!
「このっ!」
え⁈真後ろにいる⁉︎
巫女の声がすぐ側から聞こえて思わず振り返ったら真後ろにぴったりくっついていた。
いつの間にそこにいたの!
「やば……」
「逃がさないわよ!」
あまりなめないでね。お姉ちゃんほどじゃないけど私だって空戦は出来るんだから。体を持ち上げて急上昇。巫女が私につられて上昇し始めたところで急制動。体の向きを反転させて真下に降下。
巫女のすぐ側を通過する。
「待ちなさい!」
ありゃ…もう追っかけてきた。対応早いね。
それじゃあこれはどうかな?
降下したまま神社へ向かう。かなり危ない賭けになっちゃうけど大丈夫だよね。
爆発音が立て続けに起こりその度に地響きのような揺れが建物を揺さぶる。
全く…どれほど派手にやりあっているのやら。
建物に着弾するのはやめてくださいね。危ないですし修理が大変ですし…でもまあ、私がそれを言っても私の家だから関係ないって靈夜は言うでしょうね。
甲高い悲鳴。こいしのものね…
まったく何をしているのだか……あ、甘葛あるじゃないの。ちょうどよかったわ。
ひときわ激しい衝撃が家を襲う。
爆発音じゃないから何かが飛び込んで来たのね…
全く…一体何をしているのやら。
ひと段落したら見に行きますか。あ…危ない危ない。焦げるところだったわ。
行ってみたら喧嘩していた。喧嘩というよりこいしがCQCで靈夜が必死に抵抗しているってところでしょうか。天井に大穴が開いているし部屋に散乱した瓦礫から2人が屋根から飛び込んだのは容易にわかる。
さっきまで弾幕で戦ったりしていただろうにどうしてこうなったのだか…
それに2人とも刀持ってるでしょ…どうしてそれを使わないのよ。
確かに靈夜の刀じゃリーチが長すぎてこの距離だと扱いづらいですけれど…
それにゴロゴロ転がらないの。転がるなら靴脱ぎなさい!
なんで私がこれを言わないといけないのかしら。
「二人ともそこまで」
もうここまで来てしまったら完全に勝敗関係なしの喧嘩のようなものだ。私が止めないとこれはどうしようもないだろう。
でも二人とも止まる様子はない。
いい加減にやめてほしいので二人の動きが止まった一瞬を利用して頭に拳を叩き込む。
「いっ!」
「いったーい!」
やめないからですよ。自覚してくださいよ。
拳骨が効いたのかようやく止まってくれました。今度からは節度を守ってくださいね。特にこいし…なぜ貴女だけ服がボロボロになってるのよ。どうしたらそんな際どい姿になれるわけ⁈狙っているの!
「引き分けでいいわね。異論は認めないわ」
まあこいしのことは置いておきましょうか。ともかく今回は引き分けですよ。異論はないですからね。
「そんな…冗談じゃ」
何か言いたげですけどダメです。そもそもあれじゃもう勝負になってないです。体術戦では妖怪の方が強いんですからね。
貴方はまず体術じゃなくて遠距離で倒すことだけに集中しなさい。刀も使っていいけど刀すら使えない近距離に持ち込んじゃダメよ。
「ともかくもう少しでこっちも完成するんですから大人しくしてなさい」
「……」
そうそう、完成すると言っても後は皿に盛り付けるだけなのですけれどね。
早く盛り付けないと…
「それで……」
「引き分けになっちゃったね」
出来上がった餡入りお餅を持って再び部屋に戻ると、壊れかけた机を挟んで二人が座っていた。
一応いうことは聞いてくれたようですね良かったです。
「あら?お餅なんて作れるのね」
入ってきた私を見て靈夜がそう呟く。
あはは……妖怪って普段どんな目で見られているのかがよくわかります。
「お姉ちゃんはなんでも作れるからね!」
「なんでもじゃないわ。知っていることだけ」
そもそもここまで凝って何かを作るなんてあまりないだろう。私の場合暇な時間が多かったから色々と研究できたし技術も勝手に身についていっただけですけどね。
「お茶がないけど…まあいいわ」
早速靈夜がお餅を食べ始めた。
食べてる時は意外と可愛いところあるんですけれどねえ……
まあそれを言ってしまうと本人不貞腐れてしまいますけどね。
「私も食べる!」
二人が食べ始め、少しだけ静かになる。
さて、ある程度は予想していましたけれど…まさか本当に引き分けになってしまうとは…それをした私が言うのもなんですけど。
そもそも今回の件は私が原因のはず…
まあいいや。こいしの方が彼女の心を掴むのがうまそうですからね。
「それで…引き分けになったらどうするの?」
やっぱりそう来ますか。それじゃあ……よくある普遍的な……もう定型文になってるような答えですけど。
「じゃあ半分だけそれぞれのやりたいことを叶えればいいじゃないですか」
願いを半分づつ…こいしはともかく貴方の言っていたことは退治でしたからね。半分退治なんて出来ないでしょう。
「そうしよっか」
こいしも私の言いたいことに賛成したようですね。
「ちょっと!それじゃあこいつを退治できないじゃない!」
あ…やっぱり気づかれた。
「本気で退治する気でいたんですか?」
「そんなつもりないと思うよ?」
心を読まない私に変わりこいしが答えてくれる。なんだ結局退治する気は無かったのですね。なんだかんだ言っても詰めが甘いんですよね。
「じゃあ平気ですね」
一息ついてお茶を注ぐ。
「勝手に決めないで…」
私の手元から湯呑みが持っていかれる。それ…私の。
「そうだねえ…それじゃあ……」
こいしは靈夜のことなど御構い無しに彼女の背中に乗ってくる。
危ないからやめなさいこいし。
「人の話聞いて……」
「私と友達になって!」
靈夜が拒否する前に彼女の言葉は遮られる。
振り払おうとしていた手が止まる。
「あんた……分かってるの?」
「分かってるよ。だから敢えて言うんだ。友達になろって言わなきゃ始まらないからね」
心を読めば私も事の真相を知れるのでしょうけれど……今更私が出る幕ではなくなってしまった。
「そもそも半分じゃなかったの?」
「半分だよ?大親友になってじゃないんだから」
こいしらしい。
「なんだそりゃ?」
諦めてください。それがこいしなんですよ。
「……だめ?」
顔を伏せてしまった靈夜からはなんの表情も読み取れない。こればかりは自らの意思が介入しないようにとこいしも能力は使わないようにしている。
まあ、どのような答えを出しても私は彼女を受け入れる気でいる。
そもそも人がどのように考えどのように振る舞うかに善も悪もないし私達がそれを裁くことはできない。出来るとしたら閻魔だけだろう。
「ふふふっ」
顔を伏せていた彼女が笑い出した。初めてだ…彼女の笑いを聞いたのは。
「あはは!負けよ負け」
何やら吹っ切れたようだ。さっきまでの仏頂ズラとは違い清々しい笑顔になっている。
それが本来の貴女だったのね。
「良いわ、なってあげる」
「じゃあ…!」
こいしの顔にも笑顔が浮かぶ。やれやれ、私は静かに退散した方が良いですね。
「ええ、ただし、何かあったら容赦しないからね」
二人の言葉を聞きながらこっそりと部屋を出ようとする。
「ちょっとさとり。どこにいくつもりなのよ」
ありゃ…気づかれてしまいましたか。
「お邪魔かと思いましてね」
「邪魔じゃないよ。お姉ちゃんも一緒だよ」
「そうよ。あんたもこっち側よ」
こっち側って…確かにそうですけど良いのでしょうか…いや、こんなこと言ってしまったら彼女達の意思に背くことになる。
「そう……ですね」
誰かから明確にそう言われたことは少ない。
だか少しだけ戸惑ってしまうけれど…まあ私はそんなものだろう。
「それよりお餅、お姉ちゃんも食べようよ」
「あんたは食べ過ぎよ」
あれ…もうお餅なくなってる。
「そうだっけ?貴女も食べてなかった?」
「知らないわ」
靈夜がムスッとする時って大体嘘をついている時ですよね。
いつものことですから良いんですけれどね。そもそも自分の分を確保していない私が悪いんですから。
「友人…ねえ」
隙間から全てを見ていた主人はふとそんな言葉をこぼした。
その音色には様々な感情が入り乱れ、複雑にねじれている。後ろ姿しか見えない主人がどのような表情をしているのか…
「やはり引き離しておきますか?」
「いいえ……元々人間は一人では生きることはできないの。それは博麗の巫女も同じ。特に彼女は結構寂しがり屋だったからね」
それなのに周囲には純粋に彼女の友人になってくれる友達はいなかった。それが結果としてあの様な事を起こしてしまうとは……人間側にある程度非があるとはいえ防げなかった私達も残念には思う。
「……それでさとりさん達を仕向けたと」
「彼女達は心理の専門家。それに……私と理想を同じくする者よ」
確かに適任だろう。だが彼女の代だけにどうしてこんな手を入れるのだ?似たようなことなら前の時代にも何回かあったような気がするのだが……
その事を訪ねてみると意外な答えが帰ってきた。
「それはね藍、いくつかしたいことがあるの。それと…かなり致命的な問題もあるからここで巫女が早死にしてしまっては困るの」
「早死にですか……」
なるほど……ちゃんと考えがあってのことだったのか。
だがそれを一言言って欲しかった。
「結果的に……さとりを利用することになるのだけれどね」
寂しそうな笑顔を見せる主人に…私は何も声をかけてあげることができなかった。
どうしたら良かったのだろうとすぐに後悔してしまうが考えても思いつかない。
大妖怪だと自負する私でも……こればかりは弱いなと苦笑してしまう。
「後はあの子の働き次第……私が関わることは出来ないわ」
「では私が手助けしても?」
「構わないわ。むしろお願いね藍」
主人の願いとならば…何なりと。
「……」
「さとり?どうかしたの?」
「みられているような気がしただけです」
いつもの事ですけれど…今回は少し冷たい視線だった。
今度は何を企んでいるのですか…紫。