古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.62さとりの大図書館訪問

私が起きている合間もずっと外で建築をしていたのか、さとりは姿を現さなかった。

その代わりとしてはあれであるが、かなりの騒音が屋敷全体を覆っていた。

「全く…うるさいわ」

 

「仕方ありませんよ。建物を建ててるんですから」

 

美鈴の言いたいことはわかってる。だが少しは言ってやらないとダメかもしれない。それにここの当主は私だ。ここで威厳を示させておかないとさとりについていてしまうヒトが出かねない。

彼女は私みたいにカリスマがあるわけでも、格別なにか得意というわけでもないが、それでもなんだか放っておけない…嫌いになれないちょっと変わった雰囲気を持っているのだ。

 

「美鈴、ちょっと様子を見にいくから……」

 

「承知しました。対処が必要なものは任せてください」

 

「あなたがいて助かるわ」

 

カーテンの締められた廊下を歩き、廊下の突き当たりにある扉を開く。私や空を飛ぶことができる奴しか使わない外に通じる最短ルートの扉。

背中に生えた翼を少し大きくし、その扉に手をかける。

 

「目が目があああ!」

 

扉が開いた瞬間差し込んだ光が私の目を貫いた。

眩しすぎる!目がやられたあああ!痛い痛い痛い‼︎

 

「あ、照明器具眩しすぎました?」

 

さとりとは違うとぼけた声が聞こえてきて、一瞬そっちに向かってグングニルをぶん投げてしまう。

この声の主がなんかやらかした時の癖でつい投げてしまったが後になって後悔した。

目も見えないのにどこにぶん投げたのか…他のところに当たってないのか…

「ム……ムス○」

 

なんだムス◯って私はレミリアだ!く…前が見えない…夜目にしたままだったから瞳孔開いちゃってたのにぃ…

 

「すいません。暗がりの作業の為に大型照明を作っておいたのですが…」

さとりの声だ。貴女が原因ってわけではないから別に良いのだけれど…もうちょっと光量を落として欲しかったわ。

「気にしないで…すぐに見えるようになるわ」

 

その言葉通りすぐに視界は回復した。

それでも眩しい照明に照らされてしまい少し目が細まる。

 

私の放ったグングニルはちゃんと目標に当たっていたようだ。

従者の1人がグングニルをお腹に喰らって地面に伸びている。

「散々な目にあった…」

 

生意気な口調を言うものだ。散々な目にあったのは私の方だというのに。

もろにお腹に食らったせいなのか服の中から飛び出た狐の尻尾とカチューシャで隠した耳が飛び出てしまっている。

 

「ああ、お狐さんですか」

 

「まあ…狐ね」

 

って今はそんなことじゃなかった。ちょうどすぐ近くにさとりが来たんだから一言言ってやらないと。

 

「工事するのはいいけど少し耳障りよ」

 

「…は、はあ…でもこれ以上静かにできませんよ?」

 

「じゃあ一旦休憩にしましょう?もちろん私の従者に休息なしで働かせるなんてこと…」

 

「あ、それは無いから大丈夫ですよ」

 

あ、あら…それは大丈夫なのね。それにしても人数が少なくない?引き抜かれている数と今現場にいる数が合わないのだけれど…

ローテーションを組んでいるのかしら…

 

「…そうですね。じゃあ皆さん休憩しましょうか。丁度プリンが完成しているでしょうからね」

 

あら、全員分のプリンまで作っていたのね。っていつの間にそんな作業していたのよ…本当にこの子大丈夫なの?

 

そうこうしていると、屋敷の方からプリンを乗せたワゴンが転がってくる。

って美鈴じゃないの。貴女まで何しているのよもう……別にダメとは言ってないからいいんだけれど。

 

「あ、さとり。洗濯終わったよ」

 

呆れていると、お燐が屋根から飛び降りてきた。

洗濯していたにしてはなんだか焦げ臭いのだが…一体何を洗濯していたのだ?そもそもなぜ屋根から降りてきた?まさか屋根に干しているんじゃないだろうな!ちゃんと乾燥室があるはずなのだが…

 

「お疲れ様お燐。貴女も休んでなさい」

 

「そうするよ」

 

そういえばお燐もメイド服にしているのね。まあ別にいいわ。ただ、猫にその服はどうかと思う。

 

「ちょっとどこ行こうとしているのよ」

 

どさくさに紛れて何処かに行こうとするさとりの手を掴んで止める。

「え?食器を洗いに…」

 

なにさぞ当たり前に食器を洗いによ!貴女見てる限り全然休んでないじゃないの!

「あんたも休みなさい!」

 

「……え?」

 

なんで怒られたのかわからないような顔するんじゃない!どう考えても働きすぎよ!どんだけ働き癖がついているのよ!アホなの⁉︎

 

「そうだわ。案内したいところがあるのよ。来なさい」

 

手を掴んだままさとりを引っ張る。そうでもしないとどこかにフラフラ行ってしまいそうで怖い。それにこれから案内する場所はちゃんと構造を理解していないと絶対に迷う。

そう言うように作られているのだから仕方がない。

 

「それじゃあお燐、後の指揮を任せます」

 

「はいはい。ごゆっくりやすんでおいで。ところでここで伸びてる狐さんはどうするんだい?」

 

「もう少しして回復しないようでしたら医務室に連れて行ってあげてください」

 

そういえば忘れていたわ。でもすぐに復活すると思うのだけれどね。後その子ちゃんと名前あるわよ。確か…あなた達と同じ東洋出身だから聞き覚えのある名前かもしれないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリアに手を引かれ階段を昇り降りし廊下や扉をいくつも抜ける。

正直歩いた感覚が実際の建物の大きさとあっていないような気がする。

まあそれもそれで仕方がないのかもしれないけど…それにしても迷路ですね。

地下の大図書館に連れていくのに何度も上がったり下がったりを繰り返すなんて…

これも魔法使いの防御結界の一種なのだろう。

 

「…長いですね」

 

「魔法使いの領域を脅かされないようにという理由で複雑なダンジョンにしているらしいわ」

 

敵が出ないだけまだ良い方なのかもしれない…

 

「それはまた……それにしても魔法使いですか」

 

「私の友人よ。知ってる中じゃ最も優秀な魔法使い」

 

パチュリー……うん、パチュリーの事ですね。

それにしてもいつまで手を握っているつもりなのだろうか…もう引っ張らなくても良いのに…

別に手を引っ張られて嬉しいとかそういうことではなくて…ただ手を引っ張られるのが嫌なだけなのですがね。

 

「着いたわ」

そうこうしている内に目的地に着いたらしい。

ここまでどのような経路を通ってきたのか覚えていないが、多分気分次第でルートが変わるダンジョンなのだろうから別に気にすることもないですね。

 

 

「パチェ。入るわよ」

 

そう言いながら既に部屋の扉を開けているレミリア。

許可でもなんでもなく入るということを伝えるだけ……別にそれがどうというわけでもないのですがなんとなく変なことを考えてしまう。

結局それは答えなんてないし考える意味すらないようなものなのですけどね。

 

「大きな扉ですね」

 

「紅魔館自慢の大図書館だから立派な扉が必要でしょう?」

 

そういうものなのだろうか…庶民にとっては分からないですね。その感覚…一応レミリアの意識から感覚の一部はサードアイ経由で来ていますけどそれを理解しようとするには私の方の価値観が邪魔をしているのでしばらくは無理ですね。

 

「勝手に入らないでほしいのだけれど……ああ、お客さんを連れてきたのね」

 

不意に図書館中に声が響く。だが本人の姿は見えない。どうやら魔法か何かでこっちに話しかけてきているようだ。

「わざわざ連れてきてあげたのよ?」

 

「別に、あなたがわざわざ連れてこなくても…こあが迎えに行ったわよ」

「良いじゃないの。時には友人を使うべきよ」

 

…2人がしゃべっている合間に軽く中の様子を観察しておく。

大図書館というだけあって大量の本が棚に収められている。その棚も、高さ3メートル前後の巨大なもの…どれほどの量の本を収集しているのだろう…

ぶら下がったシャンデリアのようなものの周辺にはさらに浮遊する本棚がいくつか見える。そっちにも本がぎっしり。おおまかではあるが見た感じ3万冊は超えているだろう。

 

「さっきから何見てるの?」

 

どうやら私に向かってかけられた言葉らしい。

だが反応するのが遅れた。そもそも相手が視界の中にいない時点で反応するのが難しいのだが…はてはて本人はどこにいるのでしょうね。

「……見えたものを見ていたのですけど」

 

「当たり前なこと言わないで頂戴」

 

だってそれくらいしか言いようがないんですけど…他になんて言えばいいんですかね?本棚が空中に浮いていることとか?でもそれだって普通のことのような気がしますし…

 

「まあいいわ。レミィ、早く案内したら?」

 

「言われなくてもそうするさ」

 

そう言ってレミリアは慣れた足取りで図書館の奥へ歩き出す。

下から行ったのでは迷ってしまいそうな程の本棚の隙間を抜けたどり着いたのは、本や紙が山積みになった机…かなりの広さだろうけど机自体は本に埋まってしまい全然見えない。

そんな本とか紙から顔を出して彼女はいた。

 

三日月の飾りがついた帽子に薄紫の縦じまが入ったゆったりとした服と薄紫の上着。気分が優れないのか外に出ていないからなのか少しだけ顔が青白い。

 

「初めまして、パチュリー・ノーレッジよ」

 

むすっとしているけど別に怒っているわけでは無い。ただ単純に他にどんな表情してれば良いか分からないだけ…

無表情の私が言うのもなんですけど…印象がどことなく悪くなってしまっている。

 

「さとりです。しばらく紅魔館でお世話になります」

 

「知っているわ。全部見ていたから」

 

見ていた……ふうん。水晶で監視していたのですね。まあ…やましいことなんてしていないし別にどうでも良いのですけどね。

 

「それはそれは…またつまらないものを」

 

「そうでもないわよ。ちょっとした暇つぶしにはなったわ」

 

そういうものだろうか…

そう思っていると、パチュリーが噎せた。

 

「喘息が酷いのよ…もともと病弱な体だったから」

 

「まあ、不安かもしれないがこれでもパチュは七曜の魔法使い…相当強いからな」

 

レミリアが威張る事じゃないと思うのですが…まあ本人が気にしていないから別にいいかな。

それにしても胸を張ってるポーズじゃ…無い乳が目立って仕方ないんですけど。ここまで平らだとなんだか哀れみの目線を向けざるおえない。

「なんだその目は?」

 

「なんでもないです」

 

 

 

直ぐに目線を泳がせて誤魔化す。誤魔化しきれていないと思うが言わなければバレない。

 

「お茶お持ちしました」

 

短髪で赤い髪の毛と頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒のベストとロングスカート。やや活発な印象を受ける女性がお茶を運んできた。

 

「ありがと…こぁ」

 

……使い魔の小悪魔ですか…いや『小悪魔』ではないですね。

彼女の正体をサードアイがすぐに想起してしまう。まあ正体が分かったところで私は何もしませんけど。

でも勘の良い人にはバレてしまうかもしれないから早いうちに外套を返してもらおう。

 

「そういえばノーレッジって……」

 

小悪魔に睨まれたため話題を出して意識を逸らす。危ない危ない……私の正体を見破られるところでした。いや、見破られたかもしれませんけど……それでも確証には至ってないようですからセーフ。

 

「知っているの?」

 

まあ、有名な家系でしょうしね。でもレミリアの思っている通りではありませんよ。

 

「クレセクト・A・ノーレッジ……」

 

かなり昔の記憶にその名が残っている。すっかり忘れてしまっていたものの、彼女の名前を聞いた瞬間から思い出していた。

 

「誰かしら?パチュリーの知り合い?」

 

「曾お婆様の名前だけれど……まさか」

 

やはり家族でしたか。

 

「ずっと昔に妹が魔術云々でお世話になってます」

 

思い返せば何年前になるのだろう……こいしの魔術や私の魔術式、それらを1から教えてくれた師匠こそ、彼女の祖先だ。

 

「まさか……あのさとりとこいし⁉︎」

 

おやおや?語り継がれていたのですか……一応結婚する前のことですけど子にも伝えていたようですね。

 

「パチェ?知り合いなの?」

 

「曾お婆様が唯一、魔術を教わりに来た人外だって話していたわ」

 

他にも色々言っていたようですけど…言及しないでおきましょうか。あまり話して欲しくないこともありますからね。魔術の暴発で服が弾けたり…触手とか……

「そうですか…それで、彼女は」

 

「残念だけれど…」

 

まあ……仕方がない。出来ればもう一度会いたかったですけど……別れた時にもう会うことはないとか言っていたし。言葉通りになってしまったと気持ちを切り替えますか。

 

「そうですか」

 

「まさかあのさとりとは……ちょうど良いわこれも何かの縁よ」

 

急に目がキラキラし始めましたね…嬉しいのはわかりますけどまだ仕事残ってますし。語り合うのは明日にしてほしいですね。

 

「…やっぱり偶然ってわけではないようね」

 

「どういうことです?レミリアさん」

 

「なんでもないわ。ただの独り言よ」

 

 

 

それにしてもいつ話すのだろう…私をここにとどめておくその目的。もちろん私は心が読める所為でもうレミリアの考えはほとんど分かっている。だから話さないその理由もわかる。だけど……いつまでもそうして秘密にしておくことなど出来ない。辛いからといって言わないのではいけない。私から切り出すのも…それは良くない。あくまでも彼女自身が自ら決めることだ。

 

パチュリーもそれを待っているのだろう。私の顔に何度も目線をやったと思えばレミリアに向き直る。

だが相手はまだ少女だ。いくら年齢を重ねていようと少女の心には負担が大きい。

もう少し待つことにしましょう。

 

「あの…本を見てきても良いですか?」

 

「ええ、構わないわよ。こあ、案内してあげて」

 

「かしこまりました」

 

一度席を外した方が良い。2人とも話したいことがあるものの私という存在のせいでなかなか話し出すことができない。まあその話題も私の事…いや私ともう1人の事についてなのだろう。

これで決心がついてくれるとは限らないが、これ以上レミリアの苦しい顔を見なくて済むというのなら……

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったわね」

 

彼女の姿が見えなくなり、私は口を開く。

 

「全くレミィは」

 

分かってはいる。だがいざとなるとどうしても言い出せない。そもそも私達でどうにかしなければいけないことなのに結局誰かに頼らなければいけないなんてね。

 

「まあいいわ。それにしても…」

 

「2人目だと言いたいのだろう。まあ…手駒は多い方が良い。それにさとりは…運命が見えた」

 

さっき彼女の手を掴んでいる合間、僅かにだが運命が描く未来を見ることができた。

私とフランが仲良くテーブルを囲む未来……あの子ではあそこまではっきりとは見えなかったものだ。

 

「そう、あなたがそう決めたのならそうしなさい。私は全力でサポートしてあげるから」

 

軽く微笑む友人は、私の手を優しく握る。そうだ。あの運命を必ずこの手の中に類寄せるのだ。

 

「ありがとう」

 

ならばこんなところで迷っている暇は無いだろう。

明日……ちゃんと打ち明けることにしよう。




もう1人いるようですがそれは誰でしょうね
ちなみにその子はとあるシリーズの子がモデル…(と言うかゲスト出演)


おまけ

お空「藍さんの九尾が8つに分裂した⁈」

尻尾達「私達はただの尻尾であることをやめるぞ!藍‼︎」

藍「やめんか!自我を持つな自我を!戻れ!」


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