幽香さんのところを出発し家に着く頃には再び日が傾いてしまっていた。
まあ仕方がないといえば仕方がないのですが…まあそのおかげで遅いだのなんだの凄い文句を言われました。
別に大丈夫なんですけどね…ああ、そういえば服の一部が弾幕の被弾で焦げてましたっけ。そのことで問いただされましたけど今度はお空がこいしのポカポカ攻撃の餌食になるわで大変だった。
そんないざこざも少しすれば何もなかったかのように消えていく。
家にはいつもの平穏が戻っていた。
ただ、昔と違うことといえば、周囲にあった人間の家は消え去り、ただ空き地が広がっているに過ぎない事だろうか。
人間の里は移転が完全に終了し、私の家の周りはなんだか寂しい。
それも十数年もしたら木々に囲まれるのでしょうけど。
「お姉ちゃん、お客さんだよ!」
庭で材木加工をしていた私のところにこいしが飛び込んでくる。
相変わらず元気なのはいいのですが、物に乗るのは危ないからやめなさい。
「お客さん?珍しいわね」
私の家をわざわざ訪ねてくるようなヒトは中々いない。基本的にくるとすれば勝手に室内に入り込むのが常だから…
「紅白の人だったよ」
紅白…なるほど、博麗ですか。
この時代紅白の服装をしている人なんて神社の巫女さんくらいだ。その中でもここら辺を収めているのは博麗だし私のところをわざわざ訪ねる人なんて博麗の巫女くらいしか思い浮かばない。
加工中だった木材をその場に下ろして家に戻る。
お燐とお空は二人揃って出かけているから家の中は静かでなんだか物足りない。
玄関まで行くと、丁度紅のリボンを頭に巻いた巫女服の女性が待ちわびたかのように家の中に足を進めていた。
「久しぶりですね」
「まだそんなに久しぶりってわけでもない気がするけど」
元博麗の巫女…藍璃がそう言って笑いながら私の肩を叩く。
「それにしても珍しいですね。あなた自身からここを訪ねてくるなんて。どう言う風の吹き回しですか?」
「ただの気まぐれよ。私だってたまには友人の家に行くくらい良いでしょ」
それもそうかと思うものの、友人の家の例えがよくわからなかった。つまり私は友人なのか。
博麗の巫女の妖怪の友人……それってどうなのだろうか…
「お姉ちゃんの交友関係って一体……」
「こいしちゃん……姉さんの交友関係なんて深く考えないほうがいいわ」
失礼ですね。私だってちゃんと付き合い方は考えてますよ?
そんな文句が出そうになったけど、こんなところで立ち話するのもあれですので、すぐに居間に通す。
お茶を持って来るためにしばらくこいしと巫女を部屋に残し台所に移動。
どこかの従者さんみたいに上手くは作れないですけど気にはしない。
まあそれは置いといてだ。部屋に戻ってみれば二人仲良く何か遊んでいたようですね。
家の中で暴れるのは感心しませんが、仲が悪くなるよりかはマシでしょう。それにしても少し服装が乱れすぎですよ二人とも。
「それで、今日はどのような用件で?」
お茶を差し出しながら彼女の目を覗き見る。
サードアイでさっさと確認しても良いのですが会話はなるべく楽しみたいです。
「そ…そうね。まあ私もたまには遊びに来たかったから…」
なるほど、特に用は無かったと。別に彼女はもう博麗の巫女ではありませんから別に何しようといいんですけど…
「そうですか…ですが私の家に来ても何もありませんよ?それに今私も忙しいですし…」
「忙しい?そういえば庭の方にいたみたいだけど何していたの?」
「ちょっと家を改築するための資材を…」
なぜそんなに呆れたような顔するんですか。
え?家の改築なんてするのかって?ふつうにしますよ。
ちなみに作業を始めたのは今日からですけどね。
「まあいいわ。家づくり…私も見ていっていいかしら?」
木材加工なんてべつに見ていっても面白くないのですがべつにいいですよ。私は構いません。
「私はべつに構いませんけど…」
「じゃあ私も見てていい?」
こいしですか……べつに邪魔しないのであれば構いませんけど…
肯定の意味を込めて頷く。
出来れば手伝って欲しいですけど、それはまた今度にしましょう。
「そういえば家ってどのくらい改装するの?」
「ちょっと部屋を増やすのと屋根をそろそろ…」
建てられてからだいぶ経ってますし耐震補強材も追加しておきたいですからね。結構な大改装ですよ。
「本当は鬼がいた時にやったほうがいいんだけど……」
「鬼に建築手伝って貰うって時点で凄いことかと思うんだけど…」
こいし、藍璃に余計なこと言わないの。
地上に鬼がまたやってきてなんだかんだなんて普通の人から見れば天変地異なんですからね。
まあ、今鬼に頼んだとしても向こうは向こうで地霊殿なるものを建築していますからしばらく時間がかかりそうですけど…
河童まで巻き込まれているようですし向こうの方が圧倒的に大変でしょうし…
もうそろそろ落ち着いた頃ですし私は作業に戻るとしますか。
きたかったらどうぞご自由に。私は止めませんよ。
「それで?どこから手をつけてるの?」
木材を妖術で加工している私の後ろで藍璃がそう呟くのが聞こえる。
「木材を切って加工するところからだよ」
でも私より先にこいしが答える。まあできればそうしていてほしい。話しかけられてもうまく返せる気は今はしないから…
「まさかそこから作るのね…」
なんですか?なんか呆れたようなため息が今聞こえた気がするのですが…え?
だって仕方ないじゃないですか。資材があっても組み立てまで持っていくのが大変なんですからね。
「そうですね…本当は瓦を焼く竃を作りたいので日干しレンガを作るとこから始めたかったのですが……」
「「え……」」
なんか空気が凍った気がする。もちろん私じゃなくて後ろの二人の…気のせいですよね。
うん、気のせい気のせい…
「お、お空とお燐呼ばないと!お姉ちゃんが暴走しちゃう!」
「あわわ…早く里に連絡して竃を用意させないと!」
待って待って!なにがあったのですか⁉︎なんでそんなに深刻な顔して慌てるんです!
「冗談ですよ。竃は里にあったものを流用しますから」
うん、まだ残ってるはずですからね。火を入れればまだ使えるはずですからそれを使いますよ?流石に私だって竃から作ることはしませんよ…竃がなければ仕方ないですけど…
「あ…あれ?そういえば瓦って…」
「手作りですよ?そもそも瓦なんていちいち生産現場まで行って買い取って持って帰るの時間かかるじゃないですか」
重たいですしそれこそ鬼に頼みたい事ですよ。
後、瓦高いですし…
「まさか瓦は粘土から作るつもりだったの⁉︎」
藍璃さんどうしたのです?もちろん粘土から作るんですよ?だってそうじゃないですか。瓦の材質って粘土ですよね。
「ええ、土もちょうどいい感じの粘土質のものを見つけてきましたから…どうかしました?」
「諦めて、お姉ちゃんだいたいこうだから」
なんか妹に変な目で見られたのですが…
なんででしょうか。
「あなた…大工にでも転職したら?」
「嫌ですよ、私は妖怪。妖怪が大工の真似事なんてしたところで誰も頼みになんて来ませんよ」
妖怪の根底にあるのは人間の恐怖、畏れだ。そんなものにわざわざなにかを頼みに行くなど普通の人間の感性ならしないだろう。
べつに私も家の保全程度くらいしかする気は無いですから…
「そう…」
「それに一人で全部やるわけじゃないですよ。ちゃんとお空たちにも手伝ってもらいます」
他にも何人か手伝って欲しいですけど…無理に頼んでも悪いですし…
それからは二人とも無言になってしまい私も特に話すことも無かった為私の作業音だけが響いていた。
「それじゃあそろそろ休憩しますか…」
一旦体を休める。
べつにこの体ならずっと作業していても問題はないのですが所々で休憩を挟んでおいた方がなんだかスッキリします。
そんなことを思っていると、私の視線の先に空間の亀裂ができる。
私が休むタイミングを見計らっていたかのように開いた異空間への入り口から、紫が出てくる。
いつもの服装ではなく少しリボンの装飾が多い……また新しい服を作ったのだろうか。
「頑張っているようね」
「ええまあ…」
急に来られてもどう返していいかわからない。
まあ紫のことだから私のところに来るということは何かあると言うことなのでしょうけど。
「あら?妖怪の賢者様がどうしてここに?」
「そう言うあなたはどうしてここにいるのかしら?元博麗の巫女」
「べつに…友人の家に居たっていいじゃない」
べつに悪いことではないでしょう。それに、妖怪と人間が共存している世界になればもっと増えますよ。
「人間が妖怪と友達…ねえ……やっぱりあなたを見てると飽きないわ」
いつも見ているのですか流石、隙間妖怪…でもそんなことやっているとそのうち変態とか変質者とか言われちゃいますよ。
「それで、今回はどうしたの?」
こいしが紫の周囲をくるくる回り始める。
どうして周囲をくるくる回るのかよくわかりませんが、あの子なりの何かなのでしょうね。
そういえば紫の服装はあまり見ないですよね…欧州方面でもなかなか見かけないタイプですし…どちらかといえば道教の服装も一部入っているような…
今はどうでもいいことですね。
「用があるのはさとり、鬼の四天王からの伝言を預かっているわ『地底に来てくれ』だって」
伝言?それもあの二人がわざわざ紫に?一体どう言う風の吹き回しなのでしょうか。
あの二人の性格からして紫に何か頼むなんて緊急時でもありえないようなものです。それが今回紫に頼んでまで私を呼びに来るなんて…
もしかして相当まずいことでもあったのだろうか。
「地底ですか?何かあったのでしょうか…」
私が地上にいることは向こうだって知っている。それなら普通に伝令を出すか、自らこっちに来て連れてくれば良い。それをしないと言うことは…やっぱり…
「さあ?私は基本不干渉だから分からないわ。でもかなり緊迫していたように見えたけど」
そうですよね。紫がそんなことまで知っているはずないですよね。うん、知ってました。それにしても緊迫してる…ですか。あの二人が緊迫するなんてよほどのことが起こっているのでしょうね。
でも、不穏な動きのようなものは前までは無かったわけだし、だとしたら人為的なものではなく自然的な物でしょうか…それとも私の知らないところでまた何かトラブルが?
思考をフル回転させて考えてみるが、思ったほど良い答えは出ない。
「何かあったのお姉ちゃん?」
「分からないわ。一応これから行ってみるけど…」
考えても想定できないものは無理。一旦地底に降りて二人と合流したほうがいいですね。
「ふうん……じゃあ私もついて言ってみようかしら」
「貴方はダメよ。元博麗の巫女が必要以上に妖怪に手を貸すなんて知れたら大変なことになるわ」
まあそうだろう。本来の博麗はあくまでも人間と妖怪の合間に位置し、両者のバランスを取る存在。どちらに肩入れするわけにもいかない。
基本的に妖怪側が暴れることが多く、またそれを退治したり追っ払ったり時に異変を解決したりする事が多いから勘違いされやすいですけど…
「私はもう引退した身だしそれに妖怪とか人間そう言うのじゃないわ。私とさとりの問題よ」
そう言ってリボンを取る藍璃。リボンにより固定されていた黒色の髪の毛がふわりと中に舞う。そのまま巫女服すら脱ごうとしたので慌てて止める。
やりたいことはわかるのですがここ一応外ですし、今服取って来ますからちょっとまってて!
「私服取ってくるね」
こいしが家の方に駆け出して行って、ようやく周りが落ち着く。
あ、でも藍璃の体格に合う大きさの服あっただろうか…
私やこいしやお空の服じゃ小さすぎますし、お燐の服でも足りるかどうか怪しい。
着れない事はないですけど正直小さい服だとなんだか色々とまずい気がするのですが…特に藍璃は体型が良いですし…
「仕方ないわね…でも無茶はできないわよ。貴方もう年なんだし」
「わかってるわよ。ちょっと付いて行ってなにもなきゃ帰ってくるわよ」
それでも地底の鬼は厄介ですよ?基本人間不信拗らせてますし…
……一応お空とお燐を呼び戻した方が良いだろうか…でもあの二人は少し離れすぎていますしすぐに戻ってくることはできそうもない。
つまり私の純戦力は、私自身とこいしだけ。正直状況によってはすぐに逃げることも視野に入れておいたほうが良いでしょう。
そうだ、そういえば10年前あたりににとりさんがくれた武器がありましたね。使い道ないからお燐に預かってて貰ってますけど…確か家に置いていってたはず…
ちょうどいいですし持っていきましょう。
一人で色々と決めたり納得したりしていると、肩に誰かの手が置かれた。
振り返ってみると、紫がいつのまにか私の後ろに転移していた。思考にのめり込みすぎていて気づきませんでした。
「何かあったら私を呼びなさい。藍を貸してあげるわ」
「ありがとうございます…でも藍さんも忙しいんじゃ…」
「あの子、基本的に家の外に出ようとしないのよ…だから連れ出してくれない?」
藍さん…家に引きこもるのはどうかと思うますよ?まさか私のところにくる以外ほとんど自分で家の外に出ないのですか?それ…やばくないですか?どう考えても原作の私みたいになってませんか。
「わかりました…じゃあ、今お願いできますか」
「いいわよ。聞いていたでしょ藍、出て来なさい」
紫が開けっ放しにしている異空間への入り口にそう声をかけると、少しして見覚えのある帽子と黄金色の尻尾が生えた女性が出てくる。
なんだか前にあった時より髪の毛が伸びたような…ショートだったはずがセミロングになっている。
「話は聞いていたでしょ?お願いね」
「承知いたしました」
「それじゃあ、早速だけど行きましょうか!」
どうして藍璃が場を仕切っているのですか。というかいつの間に着替えたんですか?
着替えたなら着替えたって一言いってくださいよ…
それにしてもやっぱりお燐のでも小さかったですね…服に余裕がほとんどないじゃないですか。
腰回りに無理無理帯止めしてるせいで胸の強調がひどいのですけど…普段よりも胸がおっきく見えるとか流石に嫉妬ですよ?
水橋のところ行かせたら絶対戦いが起こりますよ。
「ええ、いってらっしゃい」
そう言い残して紫は帰ってしまう。すごいマイペースですよね…
というか私の心境知ってて今「いってらっしゃい」言いましたよね⁉︎
「うん…まあよろしくお願いします」
「他人行事みたいなことしないで。私とあんたの仲でしょ」
そうですね…
それじゃあ行きましょうか。
もしもの世界
もしさとり様が聖杯戦争に召喚されたら
その1
第四次聖杯戦争
召喚の光が収まった時から切嗣は何かがおかしいと感じた。
それは光が収まりそこにいた彼女を見て確信に変わる。
「なあアイリ……たしかにあれはエクスカリバーの鞘だったんだよな」
「ええそうよ…そのはずなんだけど」
たしかにエクスカリバーの鞘を媒体に召喚したはずなのだ。
だが目の前にいる少女からは英霊特有の覇気は感じられない。それどころかその見た目と相まってもはやあの有名な騎士王には到底見えなかった。
「なぜ型月……いえ失礼。召喚に応じ参上しました。クラスセイバー…古明地さとりです」
「日本の英霊…にしては聞いたことない名前だ」
「あはは……ですよね」
(今回の聖杯戦争…大丈夫だろうか)
そんな不安が切嗣を内部から喰らい尽くす。
「でも安心してください!なんとかしますから」
結局彼女の言う通り、聖杯は汚染されていた。
彼女はそれを教えようと必死だったのだろう。だが僕は耳を貸さなかった。その結果がこれだ。
目の前で元々遠坂のサーバントであった英雄と対峙する彼女を見る。
令呪を使わずとも、彼女には言いたいことがわかっているのだろう。同時に僕のこの後悔も全て…
「わかりました…ではお元気で!」
そう言って彼女は聖杯を破壊した。
その2
第五次聖杯戦争セイバー
蔵の中に満ち溢れていた光が拡散した時、目の前にあった魔術陣の真上には一人の少女が立っていた。
「えっと…士郎さんですよね?初めまして…古明地さとりです」
「想起…『ゲートオブバビロン!』」
どこからか聞こえたその声とともに、イリヤたちの周りに展開されていた宝具が弾かれるように消え去る。
「貴様!王の財を模倣するだと⁉︎その行為、万死に値する!」
「そんなこと知ったこっちゃ無いですよ。私は私のしたいようにするだけです!」
その3
第五次聖杯戦争バーサーカー
部屋に満ちていた光が収まり、なにかが蠢く。未だに発生した煙のせいで正体はわからない。だけどなんだか違う気がする。
「……成功した…の?」
成功すればバーサーカークラスのヘラクレスのはずなんだけど…
でも目の前にいる子は英霊の持つ特有の気はしないし、それに小さい。せいぜい私と同じくらいだ。
ヘラクレスってこんなんだったっけ?私はもうちょっと強そうなイメージだったんだけど
「どうも、今回はバーサーカーですか…都合がいいです」
「意思疎通が…出来るの?」
目の前に現れた少女はたしかに私に話しかけていた。それも流暢な日本語…まさか日本のサーバントが?
それ以前にバーサーカーは意思疎通できないはずじゃ…
「初めまして、古明地さとりと申します。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
どうして私の名前を⁉︎まだ名乗った覚えはないのに!
「ふふ、全てこれからお話しします」
私の人格と小聖杯を分離し私を普通の人として生かしてくれた彼女は、もうこの世界にはいない。
元々幻想なんてものはこの世にはいてはならないらしい。よくわからなかったけど…彼女自身は幻想って言ってたけど…それでも私の中では彼女はそこにいたし今も生きている。
だってそうでしょ?