古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.228 輝針城 (再会篇)

私は心が読める覚りではあるけれど人のことなんか何一つわからない。私を見てなんでもわかるなら相手に同情もするよねとかそういうことを言われても困るのだ。

私の能力を使えば、人間達を思いの儘に操ることができる。そうすればやりたい放題できると言われた。アホらしい。玉藻前じゃないのだからそんな器用なことできるはずがないだろう。心を読めても人間を統治するというのは一筋縄ではいかないのだ。高いカリスマ性と演説能力があれば別だけれど。

他にもその能力を使えば上の存在に取り繕う事だって出来るだろうと。

出来る出来ないで言えば出来ないです。無理です。

それなのにここにいる妖怪は私が覚りだと知るや否や勧誘をしてくる。

内心透けてるから無理に繕わなくて良いですよ。外と中が一致していない状態ってすごく気持ち悪いんですから。

 

まあお空がかたっぱしから倒してくれているのでどうと言うことはないのですけれど。

ただの敗者の戯言。或いは…願望というものでしょうかね。でもどうして皆自分たちは不幸だと叫ぶんですかね?正直不幸かどうかは主観の問題ですしそりゃある程度の周囲の環境というものもありますけれど気の持ちようですよ。それに不幸じゃない人なんて多分いないですし。

全くアホらしい事この上ない。

 

立体迷宮のように上下が入れ替わる特異点を進んでいくと、ようやく部屋のようなところに出た。そこも空間がねじれているのか正方形の部屋は途中で捻れるようにして上下が入れ替わり、照明も赤と青の二色と言う目に悪いものになっていた。

私を庇うようにして前に出ていたお空もこの空間に困惑してしまっている。

「お空、前に出過ぎよ」

 

嫌な予感がしたのですぐにお空を下がらせた。

 

その直後お空がさっきまでいたところに大量の棒が突き刺さった。

一本一本はそこまで太くないのだけれどこれほどの量となればそれなりに怪我をするだろう。本気で殺しに来ているわね。

 

「よお結構早かったじゃないか」

 

「あいつ‼︎」

 

お空落ち着きなさい。いくらなんでも早計すぎるわ。相手が何を隠しているのかわからない以上こちらから無策で仕掛けるのは危険よ。絶対違法アイテム持っているでしょうし。

肩を掴んで無理やりお空を後ろに押し留めた。正邪が出てくるって事は必ず勝てると踏んでいるからなのでしょう。

「おいおいいいのかな?大事な大事な家族はここにいるんだぜ?」

 

そこには手足を縛られたこいしとお燐が転がっていた。どちらも意識が無いらしい。

「貴様‼︎二人に何をした!」

 

「何をしたって薬で寝かせているだけだぜ?まあ寝ている合間に手を出したかもしれないけれどなあ。傷物になってなきゃいいな」

キレそうになる自分を制する。さっきから心が読めないせいで本当のことを言っているのかどうかが分からなくなってしまっているのが余計に拍車をかけている。だけれど流されるのは危ない。怒りは視界を狭める。

だけれど怒りに飲まれてしまったお空は私の手を振り解き前に飛び出した。

「まってお空‼︎」

叫んだけれどもう止められない。血の気が多いのは幻想郷の気質か地獄の気質か。

「…‼︎」

直感がヤバいと告げている。その場から真横にステップを踏んで飛び退いた。

刹那、私がいたところを何かが高速で通過し、お空に絡み付いた。

それは半透明の鎖だった。

 

「お空‼︎」

鎖が静電気のような帯電現象を発生させ、お空が顔をしかめた。

「ッチ…勘がいいやつだ」

咄嗟に腰から引き抜いた銃を構え発砲。だけれど弾丸は正邪に当たる前に見えない壁に弾かれた。

やはり対策していましたか。仕方がありません。

「すっげえ危ねえ…冷や汗でたじゃないか‼︎」

「知りませんよそんなこと」

 

怖かったのは事実みたいですけれど。足震えてますし…

 

「このっ‼︎ちぎれろ‼︎」

腕をからめとっていた鎖を焼き切ってしまおうとお空が発熱を始めた。空気が膨張し、陽炎が立ち上がる。

周囲に炎が発生し、室内温度が自然発火温度まで上がった。

 

「そんなことしたって千切れないっての!だからやめろって!城が燃えるだろうが!」

 

「もう燃えていますよね」

私は軽く結界を貼ったのでどうにかなったのですけれど。そうじゃなかったら今頃全身火傷しているところだった流石にこうなってはバリアの向こう側から出てきて攻撃をしようとは思わなかったようだ。

「うりゃあああ‼︎」

さらにエネルギー砲を放った。それも収束したレーザーのようなものだ。流石にそのようなものを使われたら鎖も保たないのか液体のように溶け始めた。

それと同時に反射したレーザーの一部が部屋中に飛び散り部屋を切り裂いた。

「お空周りちゃんとみて‼︎」

 

「え?あ、すいません!」

焼き切れた事でようやく我に返ったようだ。別にこんなところいくらでも壊して良いのですけれど味方撃ちにならないように気をつけてね。

 

「うへ…マジかあ。まいったなあ……対巫女戦用に取っておきたかったのになあ」

私の耳は正邪のその声を逃さなかった。その彼女が床の一部を何やら踏んでいた。

その瞬間私とお空の合間に壁のようなものが出現した。いや、部屋の中で私がいたところとそうじゃないところとで空間座標がズレたと言ったところだろうか。あの熱い熱風も、加熱された空気もなくなり、周りからまたひんやりとした感覚が流れてきた。

周囲が襖に閉ざされた部屋に変わってしまった。

気配を探ってみるけれど周囲どころか城の中には何もいないように感じてしまった。何ですかこれ……

いや似たようなものだったら何回か体験したことがある。確か……多重並列空間。

複数の次元層を有する空間特異点を利用した結界にようなものだ。

自然的に発生するものでは迷いの竹林などがそれに近い性質を持っている。

「まあ良いや。取り敢えずお前はこいつの相手をしておけ」

天井からそのような声がして、急に周囲の環境が騒がしくなった。

「なにこいつ…」

気配は気配でもおそれらの気配は通常にあらず。異様な視線を持っているものだった。

「天狗が持ってた妖具の中に入ってたやつ」

 

「それやばいやつじゃないですか‼︎素直に教えてくれるのですね」

 

「教えたところで何も得にならねえだろ?得になる情報だけは絶対に教えねえよ」

捻くれているのか捻くれている自らに捻くれようとしているのか分からないヒトだこと。だけれど今はあれを倒すことだけ考えないと…

 

正邪も内心は多分普通に幻想郷への反旗が目的でしょうし。それを邪魔する私に容赦なんてしないだろう。

 

 

 

「さとりさま⁈貴様さとりさまを…ってあれ?」

さっきまで目の前にいたはずなのにそこにはただ壁が広がっているだけだった。壁に隠れているなら壊すまで!

思いっきり制御棒で壁を殴りつけた。板のような感触ではなく土壁に穴が開くような感覚がした。

同時に壁が大きく崩壊。向こう側が見えるようになった。

「あれ?向こう側も部屋?」

変だなあ…向こうもただの和室になっちゃってる。もしかして…閉じ込められた?でもさっきまでのは?夢?じゃないよね。

うー…わからないよお。

 

でも確か結界の中には部屋をたくさん作り出したりするものもあるってさとり様言っていたしその類なのかなあ?

 

 

そのようだな若いの。

胸の瞳が少しだけ光った。

あ!八咫烏様。この状況わかりますか?

 

我に聞いたところで答えなど知らぬしか返ってこないのはお前が一番わかっているだろう。

 

う…そうだけどさ。そりゃ八咫烏様は普段寝ているからそうなっちゃう分かるよ。でももうちょっと一緒に考えてよ。

 

それよりも良いのか?喋っていると奴らが来るぞ。気を付けろ。

 

奴らって何?

 

奴らは奴らだ。人ならざるもの。

 

私達のこと?

 

違うに決まっているだろう。さあ遊びの時間だ。存分に暴れるが良い‼︎

 

いきなり後ろから衝撃波が来た。

 

 

 

 

「あ?なんだこれ」

隣を飛んでいる魔理沙が何かを見つけたらしい。声につられて私も下を覗いた。そこには引きずられた後のような…地面が捲れ上がった跡があった。

それだけではない。よく見れば木々に隠れるようにして弾幕が地面を吹き飛ばした後がついていた。それと同時に少しだけ焦げ臭さも漂ってきた。動いている状態ではなかなかわからなかったわ。

「誰かが戦った後ね。あまり時間も経っていないようね。珍しいものでもないわね」

 

「まあそうだが……」

それが一つならまあただの偶然の戦闘跡だと判断したのだけれど。それが城に近づくにつれて増えていった。それに伴い瀕死の妖怪達が転がっているのがちらほら見えて来る。

 

「一体誰だろうな。正直こんなところまで来てこんな派手な弾幕ごっこやるなんて……」

ここまで派手にやれるやつなんてそう居ないわよ。それこそ…レミリアとかあのあたりじゃないかしら?どうせこの異変に面白そうねとか言って参戦しているだろうし。あの吸血鬼何かあるとだいたいやってくるからなあ。でもそれ以外って可能性もあるし誰が先に行っているのか断言できそうにないわ。残っている妖力跡もほとんど消えちゃっているし。

「そうね。どうやら私達以外にも誰か異変解決に向かっている者がいるわね」

 

「先こされてるじゃねえか」

別に異変が勝手に解決してくれるならそれでいいわよ私は。無駄な手間が省けるからね。でも何かあったときのために行くだけ行ってみるわ。

「まあそういうこともあるわよ。いくだけ行ってみましょう」

 

「なんだよ連れないなあ…」

 

「あそこにいる生首でも腹いせに殴ってきたらどう?少しはスッキリするわよ」

なんか狼抱きかかえているし隙だらけだから倒しやすいと思うけれど。

「やめろやめろ。私は弱いものいじめは嫌いなんだ」

彼女は心底嫌そうに首を振った。まあそりゃそうだろう。

 

「あら霊夢じゃないの」

後ろで声がした。同時にその声に乗せられた威圧が体を支配する。こんな陰険な事をしてくる奴はそんなに多くない。ましてや幼い声のやつなんて三人くらいしか思い浮かばなかった。

「レミリア?」

薄紫色の日傘をさして優雅に宙に停滞している姿はまあまあ様になっていた。

でもその後ろで魔法瓶から紅茶を出している玉藻のせいで威圧がなかったら確かにただの子供にしか見えないわ。

じゃあ先に行っているのはあんたじゃないのね。まあ考えるだけ無駄か。

「げ、吸血鬼」

心底あいたくなかったみたいね魔理沙。あんたもの盗むのも程々にしたらどうなのよ。ほら狐が睨んでるじゃないの。やめときなさいよ。私までとバッチリ受ける羽目になるんだから。

「そんで何しに来たのよ」

 

「なんだか面白い異変が起こっているようだから私もちょっと遊びに来たのよ」

あーやっぱりか。どうせそんな理由だと思った。

「妹は一緒じゃないのね」

あいつもこういう時は遊びに出るような性格だと思ったんだけど。

「フランはフランで天狗にカチコミに行ってるわよ」

呆れた。事態収束を図っているであろうところに殴り込んで行ったらバトルロワイヤルじゃないの。

「敵なんだか味方なんだかはっきりしなさいよ」

 

「戦えるときに戦いたいだけ戦って楽しむのがモットーよ」

天狗に同情するわ。少しだけど。

「……でそこの狐は付き添いか」

魔理沙がそう言ってレミリアの後ろに控えていた玉藻に突っ掛かった。

なにかと紅魔館侵入で邪魔されているからこの二人仲悪いのよねえ。まあ咲夜とはそんなでもなさそうだし気が合わないというのもあるようだけれど。

「煩いぞこの泥棒。レミリア様の前で醜態を晒すな」

うわあ、こっちも喧嘩腰か。

「喧嘩なら他所でやって頂戴」

 

「そうね。玉藻ハウス」

ペットの犬か何かかそのメイドは。

しかもそれで従っちゃうあんたもあんたよ。狐ならプライドもてや。

睨み合っていた2人はすぐに我に返ったのか目線を逸らせた。そうそう。なるべく関わらないようにしなさい。あんたらろくなことしないだろうからね。

 

「そんじゃ一緒に行く?どうせ目的地は一緒でしょ」

 

「面倒ごとを私に押し付ける気ね。まあいいわ乗ってあげる。面倒ごとも見方を変えれば楽しいかもしれないからね」

余裕の笑みでそう答えるレミリア。相変わらず貴賓あるわねえちっこいけど。

「そんなつもりはなかったんだけどね。そういやあんた能力で解決まで導けないの?」

運命を操れば最終的に異変解決の運命も持ってこれるでしょ。

「そんな都合のいい能力じゃないわよこれ」

あっそう。まあそうじゃなかったら私達今頃こいつに負けているだろうからね。

「確かに能力上可能だけれどあなたがサボれるかどうかは別よ」

 

「ちぇ…やっぱダメか」

 

「諦めなさい。運命は気まぐれなのよ」


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