古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.215 星蓮船 鬼

目の前に見えてきた星蓮船は船本体は無事だったようだ。だけれど増設した部分は左半分が大きくえぐれ、裂け目を作っていた。そこからいくつものパイプや鉄の板がひしゃげ折れ曲がっているのが良く見えた。

 

大破している方に寄せ付けるらしくにとりさんは機体を少しづつ減速させて真横につけた。

「ほらこれでいいんだろう?」

機内が減圧され、キャノピーがゆっくりと開かれた。

「ありがと。そんじゃ行ってくるわ」

霊夢が装着していたベルトを外そうとした時、にとりさんが慌ててキャノピーを閉じ始めた。

「どうしたのよ?」

「様子がおかしい」

外を見るとまだ壊れていないところの外殻が動き出し、下から半球体のなにかがせり上がってきた。それらの先端には棒のようなものがくくりつけられていて、それらが一斉にこちらをにらんだ。

「不味いですよ」

 

「分かってるさ!」

 

急に機体がひっくり返り、雲が真上に広がった。

その直後機体の下を赤と青のレーザーが通り過ぎた。

だけれど安心している暇はない。すぐに次が放たれた。僅かに二つだけ。それでも当たればこの機体を破壊する程度の威力はあった。

すぐに真下に向かって機体が旋回。体が霊夢に押し付けられ、息苦しくなる。

 

それが収まったと思ったら今度はマイナスGが体にかかりレッドアウト。目の前が血の池に落ちたかのように真っ赤になった。

僅かに見える視界から弾幕が機体をかすめていくのが見えた。

「うわあああ‼︎」

後ろで悲鳴が上がり、振り返ってみれば魔理沙の頭の上あたりを弾幕が通過したのかキャノピーの一部が溶けて無くなっていた。殺意ありありじゃないですか。

「後ろ煩いぞ。叫ぶ余裕があるなら外見張ってろ」

それはあまりにも鬼畜なのですけれどね。そもそも視界が安定しないから見張るのも難しい。訓練していればそこそこいけますけれど対Gスーツを着ているわけでもないのだ。急な機動をすれば人間じゃ耐えきれない。

胴体の下に潜った弾幕が花火のように炸裂し機体を前後に吹き飛ばす。翼が悲鳴をあげ床下から嫌な音が響き渡った。

 

船の下を高速で通過し反対側に出るものの、こちら側の方がむしろ生きている兵器が多く余計に上に上がれなくなった。慌てて距離をとって様子見に走る。

 

「武器とかないの⁈反撃しないと」

霊夢、これはただの飛行機であって戦闘機じゃないんですよ。元戦闘機ではあるんですけれどね。特にエンジンが。

「武器なんかないよ!」

星蓮船の下に取り付けられた三連装砲が火を噴いた。爆煙が立ち上り空気を切り裂いて飛び出した実体弾が近くで炸裂。色取り取りの光弾を撒き散らす。

「それじゃあ近づけないじゃない!」

そもそもあんな重武装が相手じゃこっちがどんな武装していても焼け石に水ですよ。それこそ対艦ミサイルとか無いと。至る所で弾幕が爆発し、動きを制限されてしまう。

「下からならいけるんじゃないのか?」

 

「魔理沙それはナンセンスだよ。あれの下にだって武装はたんまりあるんだ。むしろ下はキルゾーンだよ」

確かに誘導兵器がたくさんあるとは言っていましたね。なんでそんな設計にしちゃったんだか。

「魔理沙、横にレバーがあるだろ」

そういえば魔理沙の座る席の隣何か置かれていましたね。一体なんでしょうか?

「あ、ああこれか」

後ろで魔理沙がそれを見つけたらしい。

「合図で思いっきり引っ張れ」

嫌な予感がするのですけれど大丈夫ですよね?え、大丈夫じゃないですか?それは困りましたね。

「わ、わかった‼︎」

その返事を待たずに機体が星蓮船の真横に照準を合わせた。生きている火砲は二つ。反対側よりかは攻撃が飛んでこない。

それでも機体の周りはいくつもの火線が埋め尽くし、こちらを近づけまいとシャワーを浴びせてくる。

「今だ‼︎」

レバーが引っ張られる音がして、なにかが開いた衝撃が響いた。

 

それは機体に水平にして伸びたクレーンアームだった。その先端にはワイヤーで巻上げ機に繋がれたフックがついていて、ほぼ横倒しになって振り回されていた。

目の前に迫るレーザーをエルロンロールで避ければ、既に目の前には星蓮船がいっぱいに広がっていて、巻上げ機が回転しフックを機体より下に持っていった。

それが星蓮船の甲板に向かって突き刺さろうとして、見えない何かに弾かれた。

その反動で発生した過剰な応力がアームの基部にかかり、耐えきれなくなったアームが鋭い金属音を立ててへし折れた。そのフレームを稼働させていた油圧ダンパーが裂け、黒い油が周囲に飛び散り、機体側面に黒い傷跡を作っていった。

「全然効いてないぜ!」

お返しと言わんばかりにフライパスした星蓮船から弾幕が解き放たれ、機体を爆発で振り回す。キャノピーに頭をぶつけて霊夢が痛がっているけれどそんなこと気にしていられない。まだ機体に目立った被害は出ていないけれどそれも時間の問題だった。

「流石だね‼︎やっぱクレーンだけじゃダメか」

そもそもあれの設計は貴方も関わっていましたよね!ですが今のは硬いというより…術のようなものがかかっているような。

 

「霊夢は夢想封印使えないのか?」

 

「母さんが膝の上にいるのに身動きなんて取れるわけないでしょ!」

ですよね……しかも私は私でベルト非着用ですから霊夢が抑えていてくれないと振り回された時に吹っ飛びます。

 

「もう一度だにとり!」

急に後方で減圧操作が行われた。

突風が室内に流れ込み、轟音が機内を満たした。風で色んなものがはためいている。

「何をする気なのさ!」

 

「やっぱ弾幕はパワーって言うだろ!」

 

シートベルトを外して魔理沙が上半身を機外に出した。突風で体が吹っ飛ばされそうになっているのがよく見える。

体をキャノピーに押し付け、ミニ八卦炉を構えている。

「三人とも目を瞑ってろ!」

ミニ八卦炉を中心に魔力の本流が渦巻き始める。あまりに濃い力の流れだからか、僅かながら光を反射して黄色味かかった色を発色していた。

「ファイナルスパーク‼︎」

機体が反動で後ろに下がった。そう感じるほど、その力は強大だった。

 

 

 

 

 

「高エネルギー反応…不味い‼︎レーザー砲だ!」

飛行物体を監視していた一輪が叫んだ。

見ればこちらに鼻先を向けた飛行物体の上で何かが光り輝いていた。

さっきから鬱陶しく飛び回っていた奴がついに反撃に出た。

 

 

「バリアーを張る!」

エンジンの出力を上げ余剰エネルギーを大量に送り出す。

「待って!前に使った反動でまだバリアーは……」

洞窟から離脱するときに使用したバリアーは長時間の使用と主エンジン脱落の影響で完全の使用する事はできない状態だった。さっきクレーンフックを弾いた時に一度稼働させてしまっていてせっかく溜めた分のエネルギーも足りなくなってしまった。

「いいから‼︎張らなかったらやられるだけだ‼︎」

張らないよりはマシ。一輪の反対を押し切って素早くバリアーを展開。

無理やりだから穴だらけの透明な殻のような状態になる。そこに向こうからの特大ビーム攻撃がバリアーに命中する。真っ赤な雷のようなものが立て続けに発生し。バリアーが砕け魔法のエネルギーが内部に侵入してきた。いくつもの場所で爆発が起こり、一部は爆発する前に溶けたようだ。

不完全なバリアーはファイナルスパークを完全に防ぎきることはできなかった。ガラスが砕ける音がしてバリアーが完全に破られた。

爆発が船体を大きく揺さぶり、私は操舵室の壁に叩きつけられた。

 

 

 

 

ファイナルスパークは直前に展開された防壁を破壊し、こちらに攻撃を加えていた大砲をひん曲げ、溶かし破壊した。

少し遅れて発生した爆発で船全体が煙の中に消えた。

「やったか‼︎」

 

「それフラグです」

その姿を見ていた魔理沙がそう喜んだ。だけれどあれがそう簡単にやられるはずがない。

煙を突っ切り出てきたその船は、増設された金属部分が大きく大破していたけれど本体の宝船の部分は無傷だったようだ。

「だめだ!対空砲火は全滅したらしいけど全然ダメージ負ってないよ」

双眼鏡で細かく確認していたにとりさんがそう叫んだ。

「ですね…あ、パージしました」

目の前でカッパが作り上げた科学の結晶は切り離され、夜の闇に消えていった。あれ下に落ちた時大丈夫なのだろうか?あ、パラシュート開いているから大丈夫かな?正直あれほどの質量があればパラシュートくらいじゃ気休めにしかならないと思うけれど!

 

「魔理沙もう一回いける?」

霊夢が後ろの魔理沙に問いかける。

「無茶言うな。あれは一回きりだよ」

体を戻しキャノピーを閉じた魔理沙が霊夢にぼやいた。確かに魔理沙の手に収まるミニ八卦炉は黒煙を上げて時々ショートしているかのような漏電を発生させていた。中の回路が焼け付いてしまっているのだろう。

 

「でももう大丈夫なんじゃない?」

 

「そうだといいんだけど……」

まさかにとりさん他にも何か載せていたとか言うんじゃないですよね?

 

「まだ撃ってきた!」

撃ってきたのは船体上部に乗っけられた小さな砲塔だった。だけれどそれ一つでも脅威に変わりはなかった。

「まだ戦えるの⁈」

 

「仕方がないねえ……ちょっと荒っぽいけど」

残っていた翼下と上のすべてのロケットエンジンが点火。機体を再び加速させる。速度計が何度も針を回転させ、周囲の景色が後ろに飛び始めた。さっきまでの戦闘機動を殴り捨てた高速飛行だ。

 

途中で燃料が尽きたロケットは機体から切り離され後ろに飛んで行った。重りがなくなってむしろ加速が早まる。

速度計は再び振り切れ、完全に真っ白なところを指していた。

 

「何する気⁈」

 

「あの船に送り届けるのさ!ついでだからこいつの限界も試してみたいし!」

 

「流石……発明家だ」

にとりさんは何だかんだ笑いながらそれを楽しんでいた。

まるで子供が生まれた時みたいな…そんな表情だった。

 

 

 

 

「イタタ……被害は」

すぐに船を自分の管理下に戻す。

右舷の対空砲は完全に全滅。増設したバルジは溶け落ちてしまっていて原型をとどめていなかった。

補助動力も損傷したらしくもうすでに重しでしかなかった。すぐにパージ。軽い揺れとともに切り離された。

でも本体は無事。であるのなら問題はない。

 

「一輪、星大丈夫?」

 

「大丈夫よ」

雲山が一輪を守っていたらしい。薄桃色の雲山がサムズアップ。こちらもそれに答える。

「こっちも大丈夫!」

甲板に出ていた星は少しだけ服が焦げているみたいだけど大丈夫そうだった。

 

自動砲が相手を追尾していまだに攻撃を続けている。つまり相手はまだ近くにいるという事だ。

 

「飛行物体直上‼︎」

一輪の叫び声。釣られて外を見れば船のはるか上空に、あの飛行物体がいた。その鋭い先端がこちらを睨みつける。

「不味い‼︎」

 

咄嗟に星が誘導弾幕を解き放った。

いくつもの弾幕が機体をえぐり取り、部品をばら撒き銀色の胴体を焦がしていく。それでも直上から真っ逆さまに落ちてくる機体は止まらない。いくら破片をばら撒こうとも、胴体から火が発生しようともそれがこちらへの軌道からずれる事はなかった。

「まさか突っ込むつもり⁈」

もうバリアーは使えない。こちらが回避する時間もない。星がハッチの中に逃げ込んだ。

慌てて操舵に一輪を連れ込み床に伏せさせる。その直後機体が再び大きく揺れた。

 

 

 

 

片方のエンジンが吹っ飛び、搭載していた残りの燃料の大半をばら撒き今まで飛び続けた天馬は先端を甲板に突き立てた状態で止まっていた。

衝撃でガラスが砕け散ったらしく、キャノピーは骨だけとなっていた。

「死んだんじゃない?」

 

「生きているわよ」

前席と後席でそんなやりとりが広げられ、ベルトを外した霊夢が私と一緒に外に降りた。

「いやあ……危なかった」

咄嗟に私と霊夢が機体の前に七重結界を貼り、コクピットへの衝撃を最小限に抑えるべく蜘蛛巣状の妖力の糸を展開してなんとか生還できた。

それでも思いっきり体を打ち付けたし首が痛い。首回りを痛めたらしい。それもすぐに収まるけれど。

「あははは!いやあ最高速度が出たよ!」

未だに操縦席に座るにとりがケラケラ笑う。

「笑い事じゃないわよ!」

 

「もうこんなの勘弁だぜ……」

垂直に突き立った状態の飛行機から魔理沙が転がり落ちてきた。

 

「へえ……そうまでしてここに乗り込むとは……」

船の奥から声がした。咄嗟に霊夢と魔理沙が戦闘態勢に入る。私は戦う理由がないので翼に腰掛けて様子を見ることにした。

「誰?」

 

「この船の船長だよ。ムラサって呼んでほしいな」

彼女は私を見つめる。少しばかり非難する目線。

「お久しぶりですムラサさん」

前にあったのは……去年の8月でしたっけ?丁度夏祭りを地底でも行った時でしたね。

「知り合いなの?」

 

「ええ、色々と……」

 

さて、貴女達が求めているものはコレでしょうか?正直に言いますと魔理沙に渡し損ねた分です。私自身最初に少しだけ拾ったものを別の作りに入れていたのを忘れていましてね……

思い出したのも実を言うとついさっきポケットになにかが入っている感触がした時ですから。

いやあすいませんね。足りなくてずっと船を異界に送ることができなかったのでしょう?

まあこれで全てのピースは揃ったみたいですから。私は大人しくしておきましょう。


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