古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.211 星蓮船下

森の中を少しばかりうろついていると、UFOもどきが飛び出してきた。

ポケモンが飛び出してくるみたいでなんだか面白いのだけれど…流石に鬱陶しい。

だけれど無視するわけにもいかないので殴ったり蹴ったり踏み潰したりしてどうにか処理をしていた。

さっきまでは……

 

目の前に飛び出してきた赤みがかったUFOが串刺しにされ地面に落ちた。しばらくして光の粒となり、UFOの外装が溶けて消え去った。

「小傘さん大変じゃないんですか?」

木片と投げつけた針を回収したのは唐傘妖怪。ついさっきばったり出くわしたら何故かついてきたのだ。

多分渾身の「驚け」を棒読みで驚いたのが原因と思われます。あれをやったからかじゃあ何があったら私は驚くのだとキレられ、成り行きで今日一日観察するとなってしまった。意味がわからないよ……

「気にしなくていいよう!私は針の試射をしたいからさ」

それはついでの話でしょう。

「……その針霊夢用に作ったやつですよね」

先端部分に対妖霊術式を組み込んであるから当たれば確実に致命傷を生むと言っていましたよね。霊夢に金棒持たせようとしているのだろうか?だとしたら怖い……

「あーまあね。でも半分くらいは私用だよ」

護衛用にとんでもないもの持ちましたね。それはそれで怖いですよ。

「針なんて使えたんですね」

小傘って針とか使うより傘でぶん殴ったり傘に近い棒のようなものを鈍器にして襲いかかってくるイメージがあったのですけれど違ったようです。

「使える使える。自分で作るものくらい自分で使い方わかってなきゃダメでしょ」

 

「一理ありますね」

確かにその理屈なら彼女がいかなる武器を作っても一通り使いこなせる事になる。実際その道の達人というわけでは無くてもある程度使えるのであればそれ立派な戦力になる。

「それにこれくらいならすぐに回収できるから実戦耐久テストもできるってわけ」

さっきUFOに突き刺した針を私に見せながら彼女はそう言った。

正直言って同胞を殺っているのと変わらないのだが彼女にとってそれは些細なことだった。

実際妖怪同士でも意識の差が激しかったり同じ妖怪を退治する妖怪もいなくはない。だけれどそれらは気まぐれにやるかそれこそ大きな理由があってやるものなので小傘のようなタイプは結構珍しい。近いのは河童だろう。

 

 

「またナイフ作ってもらおうかな…」

そんな彼女ではあったけれど鍛治の腕が良いのは確かなのだ。

「ナイフ?ああ、短刀ね……3日あればできるけど……」

 

「じゃあお願いできますか?もちろんお代は出しますよ」

天魔さんから貰った刀も壊してしまったし今私が持てる武器はない。別に問題ないのだけれどちょっと不便なのだ。

 

「優先するから少し増しね」

その場で素早く算出された金額は割増になっているにもかかわらず少し少なかった。

彼女の中で私はお得意さんなのだろうか?なにかと彼女に頼みごとをすることは多いけれど……そこまで贔屓したことはなかった。

 

「はいはい、分かってますよ」

でもやってくれるのであればそれに甘える事にする。

「まいどあり」

 

 

 

 

魔法の森を抜けると、周囲の木々が少しだけ変化した。魔法の力の影響なのか木々の生態にもあの森は少しいびつだったのだ。

周囲の木々もだんだんと少なくなってきた。

やがて道無き道は小さな獣道に変化した。再思の道と巷では呼ばれている場所だ。

 

秋には彼岸花が咲くであろう再思の道を抜けた先に目的の場所はあった。森に囲まれているもののその場所だけがぽっかりと穴が空いたように小さな広場となっている。周囲には石のようなものが転がっていたり、獣が漁ったのか掘り起こされた土と骨や肉やらの残骸が時々散らばっていた。

「ところでさとりはこんな無縁塚に何の用なの?」

 

「用というより探し人がいる確率が最も高いのがここだったので」

それも確率論の話でしかないけれど確率が高いところを最初に当たるのはよくやる手なのだ。

「へえ……成り行きでついてきちゃったけどあまりこういう場所は好きじゃないなあ」

本当に好きではないのだろう嫌な顔をしながら小傘さんは周囲を一瞥した。

「唐傘として?」

 

「それもあるけどここら辺は空間が歪められているからね。場合によっては自分を自分と認識できなくなる可能性もあるんだよ」

 

「空間の歪みでですか?」

確かにここはその性質上どうしても外の世界、冥界が入り混じり本来ありえない接続の仕方をしてしまった場所だ。

そもその原因はこの場所に無縁の者…つまり外の世界から食料として引っ張られてきた人間や自殺、幻想になりかけてしまったが故に来てしまった者どもの墓場なのだ。大概の場合再思の道まで行ってしまいそこで戻ろうとして妖怪に食われるなんとも哀れな者である。

それらを全てこの地に埋めたせいで地中に眠る外の人間の比率が土の比率を超えてしまい外の世界と繋がりやすくなってしまったのだとか。今ではそれがさらに人を呼ぶ悪循環である。さらにたちが悪いのはここは墓であり空間の認識と接続が入り混じって困難になっているせいで冥界とも繋がってしまっている。

なんとも酷いところである。紫もさっさとこういうところを直せば良いのに。

 

「空間の歪みでも妖怪は精神に影響出やすいからさ」

そっか…忘れてました。妖怪は精神的に弱い存在でしたね。人間とは比べものにならない強力な力の代償がこんなところに影響するとは。

 

「それにしても随分と寂れた所だよねえ……無縁さんもこれじゃあ悲しいんじゃないかな?」

無縁塚と言っても荒れた獣道の左右に無造作に名前の掘られた石やそうじゃない石のようなものが乱雑し、一部は墓というより岩と石の塊といったほうが良い風貌である。

さらにそれらの岩や石も手入れもされていないからか一部は完全に崩れるか自然に帰り草木の中に埋もれていた。

そこに外の世界からのガラクタが流れ着き、無造作に放置されるから余計に混沌としてしまっている。

「無縁さんだからこそなのでしょう。お墓なんて実のところ遺されたもののためにあるんです。遺されたものが存在しない無縁さんであればこれは何も珍しい事ではないですよ」

それでもこの惨状で誰も文句を言わないのは無縁さんだからだろう。半分くらいは外来から流れ着く人間の墓だとも言われている。あ、テレビお絵描きがある。こんなのも流れ着くんですね……

 

「こんな所に来る人なんて香霖堂の店主かそれこそ物好きくらいじゃないの?」

確かに言えているかもしれない。こんなところ人間も妖怪も…はたまた亡霊だって好き好んで来たり住み着いたりする場所ではない。餌場としては最適だろうけれど所詮餌場だ。ルーミアさんなら喜んで来そうですけれど多分帰る。来るけど帰るそんな場所だ。

「その物好きに会いにきたんですよ」

 

「なんだい私が偏屈で奇妙な物が好きなやつみたいな言いようじゃないか」

 

噂をすればなんとやら…いびつに歪んで形が捩れた木の陰から少女が出てきた。

小傘よりひとまわりほど小さい体に、人ではないという証としてネズミの耳と尻尾が生えたその少女は遠慮もなしに私に近寄ってきた。まあ遠慮されても困るのでむしろ好都合なのですが…それでもちゃんと間合いは空けているあたり場慣れしているようです。

「こいつなんなの?ネズミ?」

無知って恐ろしい…小傘、いくらなんでもネズミはダメですよ。だからといってテーマパークにいそうだなあとか呟くのはもっとダメだ。どこのことを言っているわけではないけれど……

「侮らない方がいいですよ。彼女はあれでも神の使いですから」

そう、彼女は毘沙門天の直属の部下なのだ。下手に出過ぎて助長されるのもあれですが最初から侮っていったら逆にこちらが喰われる。いや本当に喰われる。

 

神の使いだという事に小傘は心底驚いたようだった。正確には部下だし本人は神ではないから神力があるわけでもない。神力があるのは毘沙門天代理をやっている星の方だろう。

私の陰に一歩下がって隠れられた。

 

「へえ…あんたさとりかい?にしては思ってもない事を言うものだね」

思ってもないこと…この場合は彼女が端的に思考したこと以外のことを読み当てたと勘違いしているからそう言ったのだろう。正直勘違いもいいところですが偏見入りで見られたらそうなるだろう。

「そりゃ心なんて読んでませんから。ただ知っていただけですよ」

うんただ知っていただけなのだ。

「それで、唐傘妖怪を引き連れてさとり妖怪が何の用かな?」

ちょっとだけこちらを試しているような……いや、偏見が混ざってますね。覚り妖怪に昔ひどいことでもされたのでしょうか?

まあ今は関係ないか。

「うーん用というより……ちょっとお願いなんですけれど…空に浮かぶ船に速度を落とすように言ってくれません?」

言うだけで良いんです。それで従ってくれなかったらまた別の方法探すまでですからね。ただいまのままだと霊夢達じゃアレに飛び乗ったり追いついたりは無理です。

「あんたどこまで知っているのさ」

だけれど警戒されてしまった。

なんでしょうね…動物ってみんな警戒心高いからやっぱ正攻法で行ってもダメなんですかね?

 

話についていけない小傘の頭にははてなマークが乱立していた。

 

「どこまで知っているかは今は問題ではありませんよ。取り敢えず速度を落としてお迎えの準備をしてくださいな。巫女が行きますから」

 

「あの赤い通り魔が船に?だったら余計速度なんて落とせないよ」

悪評が祟った!

なんてことだ……まさか悪評のせいでこうなるなんて……

 

 

 

「やっぱダメですか?実力行使に出ますけど…」

本当はしたくないけれどこちらの意思を伝えるにはこれしかないから。ナズーリンに罪はありませんが大人しく従ってくれないからです!ついでに言えば宝塔もここにはありません!

「神の使いと知っていながらよくそんなことが言えたもんだ。まあいい、だったら戦って雌雄を決めるに限るな。昔からの方法だ」

ナズーリンが片足で地面を軽く蹴った。その瞬間灰色のなにかが墓の陰、草木の中、ありとあらゆるところから出現した。

それは目が赤いネズミだった。それも千単位でだ。正直あれにとらわれたら結構やばそう。

「ね、ねえ…あの大量のねずみってわきちを食べたりしないよね?」

え?そこですか小傘さん。

「そりゃ私にはわからないさ。なにせネズミ一匹が1日に日必要とする食事の量とこの数なんだ。多分全員空腹だよ」

いやらしい笑みを浮かべている。正直神様の部下なのかすっごく怪しくなってきた。まだ悪魔の部下と言われた方が納得できますよ。

「最悪だあああ‼︎」

野生に生きる者が空腹じゃない時なんて存在しないんですよ。

 

「まあ君らが万が一死んでしまったらこいつらに食べさせてあげるよ。骨が残れば良いだろう?火葬の手間が省けて」

骨が残るかどうかすら怪しいこと言わないでください。髑髏だけ返しましたじゃダメなんですからね!

 

 

「ちなみにそれペスト持ちってことはないですよね?」

睨みつけてくるナズーリンの足元を走り回るネズミを見ていたらふとそんな考えが頭をよぎった。

その瞬間ナズーリンの目からハイライトが消えた。

あ、なんかキレた?完全に怒らせちゃいました?ええ…どうしましょう火に油じゃなくて火に爆弾でも投げ入れちゃった感じですかね?

「そりゃないよ。君はそこらへんのドブネズミと勘違いしているのかな?」

はいそうです。勘違いしていました。でもどこにペストとか潜んでいるかわからないじゃないですか。ほら……幻想郷の上下水道なんて衛生上大丈夫なのかってこと多いですし。

一応旧都は上下水道の整備を無理にでも推し進めたから経口感染による大流行は起こってない。地上はともかく……

「やっぱり2人ともここで倒して餌にしたほうがいいかもしれないな」

 

「わきちも戦うの⁈」

多分、こいつって言った事根に持っているんでしょうね。

「そりゃそうでしょうよ。私の同伴者なんですから」

それに同一で敵とみなされてもおかしくはないですから。

「かえる‼︎」

 

「蛙?」

カエルの神様に神頼みですか?

「帰る!帰宅します!」

 

「させないよ」

駆け出した小傘の進路を塞ぐように新たなネズミが現れた。一匹一匹が危険な邪気をはらんでいる。どうやら背後のこいつらはナズーリンのお気に入りのようだ。ほかのネズミとは格が違う。所詮ネズミなのだけれど……

大丈夫かな……

 

「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」

 

「そうでしたね。では改めまして……古明地さとり。ただのしがない妖怪です」

 

 


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