「そういえば私の泊まる部屋ってどこですか?」
私は困惑していた。
白玉楼から紅魔館に戻ってきたは良いのだが居場所がない。
わたわたと動く妖精メイドに見たことない子が複数名…その中で私だけすごく浮いてしまっていた。
まあ部屋の中でもフードをかぶって顔を隠していたらそうなるだろう。
この世界で唯一頼れるのはレナータさんだけなのだと思い知らされる。
「私の部屋でもいいですし、無駄に広いので客室もありますよ。夕食も咲夜が作ってくれると思いますので気にしなくても大丈夫でしょう」
「そうですか…じゃあ折角ですしあなたの部屋に泊まります」
少し悩んだ末に彼女の部屋に泊まることにする。
何かあったらそっちの方が一番危険度が低い。これが異変だとすれば必ず私を狙って来る可能性もあるのだから…
「分かりました。枕をもう一つ用意しておきますね。あ、他に何かいるものとかあります?」
枕をもう一つ?布団ごと用意するのではないのですね…てことは1つのベットに2人で?いやいや、まさかレナータさんがそんなこと考えているわけないだろう。
それにお礼としては些細ですけど少し徹夜しないといけませんし……
「うーんそれじゃあ裁縫セットと布と糸…お願いできますか?後は空いた時間に厨房を貸していただけます?」
これだけあれば十分。
「大丈夫ですよ。咲夜に言っておきますね」
「ありがとうございます」
さてと…彼女のサイズは…だいたいこいしより少し大きいくらいですね。まあ余裕を……余裕を持って作れば隠れであっても大丈夫なはず…
「⋯⋯? どうしました?」
「いえ…なんでもないです」
あまりジロジロ見るものじゃないですね。
「そ、そうですか。では早速夕食に向かいます? お腹空きましたし」
そうしましょうか。お腹が空いたとかそういう感覚はあまり無いですけど食べられないわけではない。
「そういえば紅魔館って浴槽つきの風呂ありますか?」
レナータさんに続いて廊下を歩きながらふと思いついた事を聞く。
「大浴場ならありますよ。温泉みたいなお風呂場です。逆に1人でゆっくり入れるようなものはないですけど⋯⋯」
なるほど…大型のものが一つと…1人で入るものはないのか…風呂の利用には注意が必要ですね。
「大浴場はあるのですね……あ、そろそろ食堂じゃないですか?」
「あ、そうですね。そろそろ向かいましょうか」
何故か食事の時にレミリアさんに紹介されてレナータさんが焦ったり私が無表情で見つめていたらレミリアさんが困惑して妹2人が可愛いとにやけたりしていたけれどそこらへんは彼女達の威厳のためにあまり詳しくは言わないでおこう。
レナータさんの寝室に着いた後も色々とありましたが私はあまり覚えていない。きっと彼女も寝ぼけていたのだろう。
始終起きていた為害は無かったけれど…
気づけば日が昇りそうになっている。
吸血鬼が昼型っていうのも少し変な気がするけれど…まあ深くは気にしない方が良いのだろう。
それよりも朝食を作らないと…咲夜さん起きているかなあ…
「ふわっ、ふわぁぁぁぁ⋯⋯。あ、おはようございます⋯⋯」
咲夜さんと共同でご飯を作り終えて再び部屋に戻ってみれば丁度彼女が起きたところだった。
「おはようございます。あ、朝食ならもう出来ているようですよ」
そういえばエプロンつけっぱなしでしたね…外さないと……
「あ⋯⋯ありがとうございます。さとりさん、お料理や裁縫もできて凄いですね。なんというか⋯⋯良妻とかになれそうですね」
「良妻だなんて……妬み嫌われる能力を持つこの私なんか誰ももらってくれませんよ」
表に出てしまった眼を隠す。そもそも私は誰かに嫁ぐなんてことは出来ない。
「あ⋯⋯いえ。きっといつかは受け入れてくれる人ができますよ。
さて! 今日も異変探索ですかね。今日はどこへ行きましょうか」
地雷を踏んだと思ったのだろう。彼女はすぐに話題を変える。
「まずご飯を食べて身なりを整えてください」
せめて寝癖くらいは直して欲しい。後乱れてる服装も……
あ、面倒だったらこっちに着替えますか?
「服徹夜で作ったのですが……水着型普段着」
ビキニ水着のような露出の高い服ですが一応普段着で使うやつです。まあコスプレとかで良く見たことあるかもしれませんね。
「分かりました。⋯⋯お母様みたいです」
私が母親だなんてねえ……あれ、その服やはり変でした?
「って、もうそれ水着ですよね⁉︎でも夏に着たいと思いますので有り難く戴きますね。普段着としては申し訳ないですが着たくないです」
やはりそういう反応しますよね…でもそれ少し遊びすぎて壊れてるんですよ。
「弾水性ゼロですし冷水に浸かると溶けるんですけどね。まあそんな失敗作は置いておきまして、こっちが渡したいものです」
まあ本命はこっちですけど…あれはまあ…罰ゲームの時に着てもらえれば良いや。
近くの袋から取り出すのは、リボン型フリルをアクセントに取り付けた黒と、赤のラインが入ったスカートと同じく黒をベースにしたシャツただし単体で着れるようにデザインはシャツというよりドレスのような感じに仕上げている。それと赤いリボン
「え⋯⋯? あ、あの、本当に貰ってもいいのです? かなりの出来だと思いますけど」
「色々とお世話になっているお礼ですよ。受け取ってください」
「そ、そうですか⋯⋯。では、有り難く戴きますね。ありがとうございます、さとりさん」
やはりさん付けされると落ち着かない。
「普通にさとりって呼んでいただいて結構ですよ」
一瞬頰がつり上がった気がするけど気のせいだろう。
レナータさんの微笑みを見ているとなんだかこっちも嬉しくなって来る。
「⋯⋯はい、ありがとうございます。さとり。こうしてプレゼントを貰ったわけですし、元の世界までしっかりと案内しないといけませんね。では早速ご飯を食べ終えてから、向かいましょうか!」
「そうですね。行きましょうか」
咲夜さんと一緒に作った料理は好評だったらしい。ただし私が作ったとは公にはしていない。知っているのはレナータさんと咲夜さんくらいだ。
「さとりの料理も美味しかったです。また機会があれば作ってほしいくらい⋯⋯。あ、今日はどこへ向かいます? 正直これといったあてはありませんが⋯⋯」
正直、私が転移した以外で異変と思しきものが発生しているかどうかを調べたいので情報が集まりやすいところに行きたいですね。
「そうですね……行くとしたら人里ですかね。あそこなら情報もかなり集まっていそうですけれど」
妖怪も何人かいるわけだからそっち側の情報もある程度は入る筈だ。後観光したい。
「なるほど、情報収集ですね。苦手分野ですが、頑張ります!」
あの…レナータさん近いです。
「あんまり張り切らないでくださいね……私の存在が少しでも明るみになったらまずいですからね。後観光もできませんし……」
あまり私の存在を公にしてもらっては困る。私はこの世界では異分子ですし…最悪の場合私を狙う人も出てきてしまうかもしれない。
「あ、了解です。穏便に、慎重に、ですね。それなら得意分野ですよ」
少しだけ不安が残るけれど彼女なら大丈夫、そんな安心感があった。
「それでは……見せてもらおうか昨日言っていた転移魔法とやらの性能ってヤツを」
「ふふん、もちろんです。まあ、面白くもない地味な魔法ですけどね」
そう言うと彼女は小さく呪文を唱え、地面に手を触れる。触れたところに人一人が入れる程度の黒い穴が生まれる。なんだか紫の隙間みたいですね。
「この穴に落ちればすぐに人里ですよ。私は翼とか有耶無耶にしてから入るのでお先にどうぞ」
ああ…たしかにそのまま入ったら大変なことになりますからね。
「ではお先に失礼いたします」
穴を通過すると、景色が一転。赤色の部屋から人気のない細い路地に変わっていた。
少し不思議な感覚だ……でも隙間と思えばそうでもない。
やや遅れてレナータさんが降りてきた。背中に生えていた羽は消えていて、全体的な印象も人に似せているのだろう。実力者か顔を知っている者以外が見ても多分気づかれないはずだ。
「⋯⋯とまあ、移動は一瞬です。作るのは数秒ほどかかりますが」
それでも使い勝手は良いだろう。移動が格段に楽になるなんて…なんだか運動不足になりそうです。まあ妖怪だから大丈夫でしょうけれど。
「⋯⋯さて、聞き込みですね。人里で怪しい場所なんて限られていますが」
「そうですね…検討はある程度つけていますよ。まずは妖魔本を扱う鈴奈庵に行ってその後に茶屋で一服。その後今日行われるこころの能劇を見ましょう。ああそうだ。リボンとかがあればそれも」
目的が少しずれている気がするのですがまあ気にしない。
「⋯⋯ふふ、楽しそうで何よりです。⋯⋯少し無表情なことが多いみたいですし」
それを言われてしまうとなんとも言えないけれどこれは無表情なだけであって無感情というわけではない。
「無表情なのは仕方ないですよ。表情筋が仕事しないらしいので基本的に表情を作ることができないんです」
「そ、そうなのですか⋯⋯。あ、いえ。鈴奈庵へ行きましょうか。私も初めて行くので楽しみです」
なるほど…レナータさんも初めてなのですか…
「ええ、もやしにいきましょうか」
「も、もやし? わ、分かりました」
「燃やすのは冗談ですよ。取り敢えずいきましょうか」
場所がわからないのでぶらり寄り道しながらのんびりと…
だけど結構簡単に鈴奈庵は見つかった。結構目立つ建物でしたね…
「お邪魔します」
扉を開けると上についている鈴が景気の良い軽い音を放つ。
その音色に混ざって女の子の声が店の奥から聞こえる。
「いらっしゃいませー。今日はどうされましたか?」
明治初期っぽい少し洋風っぽさが入った独特の服装を纏った女の子がカウンターに立っている。どうやら彼女が小鈴なのだろう。
「本を見に来ました。なるべく空間に関する書物をお願いできますか?」
「空間に関するですか?分かりました。ちょっと待っててくださいねすぐ見つけますので」
パタパタと小鈴さんはカウンターの奥に駆けていった。
「⋯⋯見つけてきた本が妖魔本だった、なんて展開がありそうで怖いです⋯⋯」
不吉なことを言いますねえ…まあ多分大丈夫ですよ……多分。
「その時は燃やすだけですから大丈夫ですよ」
妖魔本に襲われたら問答無用です。
「なるほど、その手がありましたか。⋯⋯いやこの流れは全焼確実ですからやめましょう」
半焼で済ませますけど…ダメですかね?
「こちらが空間に関する書物です」
大量の本の山がゆっくりと移動してくる正直これほどの本があるなんて思ってもいませんでした。
「どっさり持ってきましたね…一部巻物もあるのですが…」
本ではなく巻物…なんだか内容を判別できるか怪しいのですけれど…
「流石にこれを全て調べるのは⋯⋯大変そうです⋯⋯」
レナータさんもげんなりしてしまっている。仕方がないだろう…
「あ…後そこの恋愛小説とQって言う作家のものも…」
「け…結構ありますけど…よければ読書用の部屋貸しますよ?」
部屋ですか。ありがたいです。
「さとり、本来の目的からズレてます。まあ、ゆっくり読みたいですし、お借りしましょうか。⋯⋯これだけの本、読み切れるか分かりませんが」
「大丈夫気合いで読むんです」
根拠はありませんけれど……
「心配しかありません」
大丈夫ですよ。こころさんの能劇までには終わりますから。というか終わらせますから…
「いやー沢山買っちゃいました」
結局いくつか本を買って出てきた。
本だけで既にかなりの重量ですけれどまあ良いでしょう。
それにレナータさんもかなりの量を買っていますからね。ええ…
「⋯⋯今月のお小遣い、もう無くなりそうです。って、そんなことは置いといて。ここでもめぼしい情報はありませんでしたね。これからどうしましょうか⋯⋯」
そう、めぼしい情報は見つからなかった。それが残念でもあるけれどまあ半分あきらめていたからそれほど苦でもない。
「こころさんの能劇見て……どこかでご飯にしましょうか」
少し気分転換しましょうか。本を読みあさっていて疲れましたし。
「あっはい。
⋯⋯まあ、たまにはこういうこともいいですね。でもこころさんですか⋯⋯。異変もまだ起きてませんし、初めて会いますねー」
異変がないから…ですか。普段から人里に来ているのなら普通に会えると思うのですけれどね。
「あまり人里には来ないんですか?」
「私はなかなか来ませんね。食料品などのおつかいや、妹達と買い物に来る時くらいです。まあ、たまに一人で来る時もありますが⋯⋯本当に稀にしか来ません」
「やはり……妖怪ってそんな感じなのですね……人間とはなんだか価値観が違いますね」
人と仲良くしたいと思う私とはなんだか行動が対照的だ。
やはり元人間であったとしてもそう思うのですね。なんだか人間と妖怪ってくっきり線分けされていますね。
「そうですね。私もこの人間の姿でないと怖がられますからね。特に吸血鬼は悪評高いみたいですから⋯⋯」
「さとり妖怪よりかはまだ良い方ですよ……世界を敵に回してますから。まあそれでも人里には結構長い合間住んでいましたけれどね」
人間側が怖がるといってもまあそれは仕方がない。だけどそれを理由に歩み寄ろうとしなければずっとそのままだろう。別に彼女がそれで良いと思うのなら別にそれでも全然良いのですが…
「せ、世界を⋯⋯?あ、あの、気を悪くさせてしまったらすいません。貴方達のことを考えていない発言でした⋯⋯」
「あ、お気になさらず。基本的にさとり妖怪とばれなければ何ら問題もないですから。ばれたら居場所消えるんですけどね」
バレた時は本当にやばかったですよ。特に逃げるのとか。後負の感情を読まないようにするのもすごく大変です。
「は、はあ⋯⋯。あ、なんだか賑わってきましたね。そろそろでしょうか?」
あからさまに話題を変えて来ましたね。まあ賑わって来たのは事実です。
「そのようですね……そういえばさっき屋台で買った団子食べます?」
買っていた団子を渡す。珍しく串刺し型ではないやつだったから衝動買いしてしまったものだ。
「戴きます。私、甘いのは好きですから」
へえ…甘党ですか…
「一個だけ激辛にしてますので」
もちろん嘘です。でもなんだか面白そうですからね。
「え、まさかのロシアンルーレットです!? い、一体どれが激辛⋯⋯」
あっさり騙されてますね。私に団子をすり替える時間なんてないのに。
「食べればわかりますよ〜まあ…わさび入れたくらいですから多分大丈夫ですよ」
「わさびもダメなのですよね、私。どういうわけか、味覚は見た目相応なのです⋯⋯。まあ、運試しに一つ⋯⋯」
見た目相応か……じゃあ帰ったらエクレアでも作っておきましょうかね。
「⋯⋯ん、あ。美味しいです! 良かった、当たりだったみたいですね!」
嬉しそうに微笑んでいる姿がなんだか面白い。それに…可愛い。
「……なかなか可愛いところがあるんですね」
思わず口に出てしまう。
「え? ど、どういうことです?」
「なんだか可愛いのでつい……あ、頬にあんこ付いてますよ」
餡子が頬についていたので舐めとる。
そのとたんなぜか顔を赤くされた。どうして赤くしているのでしょうかね。
「え、あ⋯⋯ありがとうございます。⋯⋯誰かに舐められたの、フラン以来です」
ふうん…恥ずかしいんですね。
「そうなんですか。あ、始まったみたいですよ」
そのようですね。
「⋯⋯能劇というものは初めて見ましたが、意外と面白かったですね」
私も初めて見ましたけれど動きの美しさときめ細やかさに見とれてしまっていた。
流石元能面です。動きだけで観客を魅了するなんて……
「ですね〜あ、だんご一個だけ残ってますけどどうするのです?」
能劇の中でも食べ続けていたらしい団子が一つだけ残っている。
食べないのでしょうかね。
「あ、食べてもいいです? いいのならもらいますね」
……もしかして私がさっき言ったこと忘れているのだろうか。別に思い起こさなくても良いのですが…それはなんだか面白くないですね。
「良いですよ。ロシアンルーレット……ですけど」
たった一言で思い起こさせる。思い出してくれたのかハッとして団子に視線を落とす。これが最後ということはこれが当たりと思っているのだろう。ものすごく葛藤しているのがわかる。
「⋯⋯あ。す、すいません。やっぱり止めておきます。なるほど、これが想起⋯⋯」
「私は何にも能力を使っていませんよ。そもそもサードアイは服の中ですし」
最後の一つを口に入れる。別にわさびなんて入っていないのだから辛くなんてない。ふむ、美味しい団子ですね。
「⋯⋯さとりって、辛いのも食べれるのですね。なんだか意外です」相変わらず疎い……というかまだ嘘だと気付かないのですか…そろそろネタバラシしましょうか。
「辛くはないですよだって辛いやつなんて入ってませんから」
「⋯⋯え? それってもしかして⋯⋯えー!? てっきり本当のことだと思ってました⋯⋯」
表情がコロコロ変わってなんだか面白い。絶対いじられ体質ですよね。
「ごめんなさいね。なんだか反応が可愛いからちょっといじりたくなっちゃって」
「う、うー⋯⋯。色々と悲しいというか、恥ずかしいです⋯⋯」
ふふふ…本当にごめんなさいね。
「許してヒヤシンス」
「むぅ、まあいいですよ。今回だけですからね」
では次は一個だけあたりということで…これならすぐ分かりますよね。
「そろそろ…日が暮れそうですけれど…一度戻りましょうか」
気がつけばもう太陽は建物の陰に隠れてしまい姿を見ることはできなかった。
「おっと、気付けばもうこんな時間ですか⋯⋯。そうですね。戻りましょうか」
再び転移魔法を使用し紅魔館に戻ってみるとレミリアさんが目の前に立っていた。
「ちょっとレナ。帰りが遅いわよ」
なんだかご立腹ですね…確かに朝出かけてから少し遅くなってると思いますけれど…
「あ、お姉さま⋯⋯。すいません、心配をかけてしまいました⋯⋯。次からは心配をかけないようにもう少し早く帰ってきます。⋯⋯心配をかけてごめんなさいです」
「気をつけなさいよ。物騒なんだから」
あらら…怒られてしまいましたね…うーん、お詫びでちょっと作りますかね…甘いもの。
「あ…じゃあ私はキッチン借りますね」
「待ちなさいよ。これから夕食よ?」
「エクレア作るんですからレミレミは黙っててください」
レミリアさんに止められそうになるけれど振り切る。
「レミレミ⋯⋯。あ、さとり。私も手伝いましょうか?」
「いえいえ、レナさんはまってて大丈夫ですよ」
あなたの手を煩わせるわけにはいきませんから。でもその前に…少しいたずらを…気配を薄くし二人の死角となるところをこっそり進んで後ろに回る。
「気配が消え⋯⋯まさかさとりってJapaneseNinja?」
面白いですね…でも忍者いませんよねここ…
「ドーモ…って私はニンジャじゃないですよ?」
気配を戻し相手に認識されるようにする。
何もないところから急に現れたように見えるだろう。
「ふぁいわ!? き、急に驚かせないでください。心臓が止まるかと思いました⋯⋯」
「まあ遊びはここまでにして…ではまた後で!」
「行ってらっしゃいです。⋯⋯気長に待つとしましょうか。
さて、夕食ですねー」
さて私もさっさと料理をしましょうか。
完成したエクレアを持ってレナータさんの部屋に行く。いやあ…腕一本持っていかれるとは…流石メイド長です。
扉を蹴破り転がりながら入室。
「ただいま戻りました」
「凄いダイナミックに⋯⋯。おかえりなさい。要らぬ心配だと思いますが、大丈夫でした?」
心配症ですね。料理くらいでは大丈夫ですよ。
「大丈夫でしたよ。咲夜さんに不審者と勘違いされて腕切り落とされましたけど」
でもすでに生えている。服が一緒に破れてしまったのは痛いですけどまた直せば良いのだから平気だろう。
「怖っ。というかそれ大丈夫ではないですよね? 見た目は大丈夫みたいですけど」
「だって再生させましたから」
そんなことよりエクレア食べましょうよ。作って来たんですからね。
「吸血鬼以上の再生能力ってヤバいですね。それにしても美味しそうですね。⋯⋯食べてもいいです?」
「もちろんですよあなた達のために作って来たんですから
「え? あ、ありがとうございます!ではお一つ⋯⋯とても美味しいですね。こんなに美味しい物をありがとうございますね、さとり」
食べ始めたレナータさんの表情が喜びに溢れる。作った甲斐がありますね。
「甘いものが好きって言ってたんで作ってみたのですが良かったです。記憶にもある味だとは思いますよ。好きかどうかはわかりませんけど」
「いえいえ。私は甘いものが大好きですから。⋯⋯うん。やっぱりとても美味しいですよ」
もう二つ目ですか。少し食べるペースが早い気がするのですけれど…
「レミリア達の分も残してくださいよ。ってか残してくださいね。ロシアンルーレットにしてるんですから」
これは本当のこと。普通の味のものと美味しく食べられるギリギリまで甘さを上げた外れ入りです。
「え…あ、はい」
なんだか…勘違いしてますね…流石にエクレアで辛いものは作りませんよ。
「……一個だけ激甘なんですよね。もちろん美味しく食べられる程度の激甘ですけど」
「激甘? ⋯⋯あ、ええ⋯⋯。なんだか怖いです」
深読みしすぎですよね?絶対変な意味に捉えてますよね!
「深読みしすぎですよ。美味しく食べられるレベルですからね」
「ロシアンルーレットカッコガチはたこ焼きでさっき作りました。小悪魔さんに毒味させたら……お察しください」
流石にパチェの魔法の副産物で作ったなんて言えませんね。小悪魔さんが半泣きでしたけど…
「こあ、ヤムチャしてしまいましたか⋯⋯。まあそれはそれとして。
みんなで食べる物ほど美味しい物はないですよね。⋯⋯ですからさとりも食べません? もちろん強要はしませんが」
「そうしますね……あ、やっぱりあまい」
自分で作ってるから分かってはいますけれど…うん、美味しいです。
「ふふふ。良かったです」
「自分で作っていてあれですが……そうだレミレミも呼んで来ましょう」
と言うかこれからレミリアさんの部屋に行くつもりでしたからね。
「ええ、そうしましょう。お姉さまもきっと喜んでくれると思いますしね」
ですね。じゃあ早速行きましょうか。レミリアさんの部屋…
「というわけで……マイクテストの時間だオラァ」
やはり入るときにインパクトは必要だと思うんですよ。だからこうやって突撃しても許されますよね。
「ひゃ!? しゃ、さとり!?急に入って大声出したらビックリしゅるじゃない!」
レミリアさん…落ち着いて喋りましょうよ。
「⋯⋯お姉さまも稀にしますけどね。ええ、稀に⋯⋯」
なんだ稀にするんですか。
「じゃあ静かに入り直しますね」
静かに入れと言われればそうするしかない。と言うわけで一度部屋を出る…ように見せかけた幻影で意識を引っ張る。
その隙に意識していない視界を通りレミリアさんの後ろに回る。
手で肩を軽く掴んで気づいてもらう。
「なっ⋯⋯」
絶句してしまったのか言葉が続かない。
「そ、そそれも怖いから!」
ええ…怖いですか?そもそも妖怪って怖いものですよね。
「え⋯⋯。今目の前にいたはずなのに、いつの間にかお姉さまの背後にいた⋯⋯何を言っているのか以下略。というか本当に凄いですね。主に怖さが⋯⋯」
怖いって…あなた達だって恐怖の対象でしょうに…
「……まあ良いです。とりあえすエクレア作ったのですがレミレミも一緒にどうですか?後フランさんも」
「エクレア⋯⋯? ふーん、さとりが作ったの?ああ、フランのところには後で持っていくから大丈夫よ。多分」
なんだか怖そうです…今渡しに行かないとなんだか……いえ忘れましょう。
「⋯⋯後で怒られそうですけどね。あの人達には」
そういえばフランさん以外にもいるようなこと言ってましたね。
「後これ……たこ焼きです。良ければフランさんと二人で(強調)食べてくださいね」
ちなみにこれ…さっき作るのに半分失敗したやつです。
「なになに?私の知らないところでおやつ?」
私の背後で声がする。このトーンは…フランさんですね。部屋にいるはずではと思うもののまあこんなこともあるのだろう。