「へえ…そうだったのね」
あたいの話を聞き終えた博麗の巫女は一言だけそう言った。
それ以外の感想なんて彼女にはないのだろう。それ自体は否定しないしあたいだって似たような状態だったらそういう言葉しか出てこない。別に同情してほしいってことでもないからいいんだけどさ。
「理解してくれたかな?」
一応はと2人とも首を縦に振った。
「まあ…だがそんな事で呼ぶか?」
魔理沙はまだピンときてないみたいだね。でもこれだって結構悩んだんだからね。うん、結構悩んだ。
「地上への影響も加味した結果だよ」
灼熱地獄が持つ役割を説明しないとダメかな?うん…なんかそうっぽいや。
「本当かしらねえ……」
博麗の巫女までそれを言うか。あたいはお空を助け出してくれるのならなんでもいいんだけれどさ。それだってこの2人で助け出せるのかって言われたらなんとも言えないところがあるんだけれど。
まあいいや。灼熱地獄はねえ……
「実感がないようだから言うけれど妖怪の山は活火山なんだよ」
「へえ?」
やっぱり実感なかったのかい。仕方がないことなのだけれど……
「でもそこにつながる溶岩は灼熱地獄で蓋をされているんだ。もしこれが壊れたり異様に熱を出したらどうなると思う?」
だから灼熱地獄の温度は意外と低めに作られている。上の方は人がギリギリ生きれる程度。下方はちょっと熱いけれど。
もしこれが熱暴走でも引き起こして自身が溶岩を作り始めたらもう蓋の意味がないし結構まずい。
「あ……」
ようやく深刻さを理解してくれたみたいだねえ。よかったよかった。
「既に外壁が溶解する温度になりかけているんだ。これ以上は本当にまずいんだよ」
それともう一つ。灼熱地獄は文字通りの地獄であり今でも悪霊や怨霊を燃やしている。
前の爆発では運よく飛び出さなかったけれど下手をすれば燃やし尽くされていない奴が出てきていた可能性がある。そういう点では早めに処理しないと地上への影響が出かねない。多分溶岩とかより先にそっちが問題だ。
「なあ、この縦穴いつまで続くんだ?」
「もうちょっとだよ」
外壁の色が黒く変色してきている。明かりはすでに壁に打ち込まれた白熱電球が放っている明かりだけだ。その電球も一部では切れたり、明かりが弱くなってきていて十分な明かりを得られていない。
「1時間くらい経ってるんじゃない?」
これでも結構飛ばしている方だと思うよ?
そもそもここを降りるのが長いだけで降り切ったら早いんだからね。
「なあこれ鉱石か?」
急に魔理沙が止まって壁をじっと見つめ始めた。鉱石なんてそんなところにあったかねえ……
遅れてあたいも壁を覗き込む。そこには白く濁った半透明の結晶がちらほら埋まっていた。
ああ、確かにこれは鉱石だね。
でもあたいはそこら辺詳しくないからわからない。そっちの人形に聞いてみたらどうだい。
「アリス、わかるか?」
『この子は音声だけしか拾えないのよ。実物を見れないんだからわかるはずないでしょ』
そりゃそうか。じゃあそっちのお連れさんは?
『残念だけれど私も鉱石は専門外なのよ」
そりゃそうか。
「なんだっていいわよ。それに地底で買えるでしょ」
「買えないよ」
「え?買えないの?」
買えるわけないじゃないか。鉱石の発掘なんて誰もやってないし。そもそも旧地獄含めた方は鉱石なんてない。あそこは元地獄。
「じゃあこっちで光ってるこれはなんだぜ?」
「それは苔の一種だよ。少しの光でも反射するんだ。似たようなのはそこの横穴に入ればいくらでも…っていうか結構いろんなものがいるよ。自分から光を放つ植物とか独自の進化をした虫とか」
「なあやっぱり私あっちい行きたい」
方向転換しないで⁈一応先にやってほしいことがあるんだけど……
「今度案内してあげるから今は我慢しておくれ」
『盟友の言うことも一理あるね』
人形を通してにとりが魔理沙に賛同している。そういやにとりもこういうのが好きなのかねえ。
「じゃあ全て終わったらツアーでもするかい?」
実はあたいもまだ横穴はちゃんと調査したことがなかったんだよねえ。
「はいはいあんたは案内に集中して」
首根っこを掴まれ強引に引き戻された。
それから十分くらいまた降っていけば、ようやく入口に到着した。少し広い穴の底は地底湖になっている。その畔にそれはある。
ただいまはその門は固く閉ざされている。
あたいらが近づけば、門の横であやとりをしていたヤマメがこっちに手を振った。
「あ、お燐じゃん」
「久しぶり」
前にあったのはいつだっけねえ…あたいがさっきここを通った時にはいなかったから1ヶ月ぶりってところかねえ。
「久しぶり。なに?お客さんでも連れてきたの?」
後ろにいる2人を目線が追いかける。まあお客さんだよ。
「まあそんなところかねえ……」
あたいが連れてきたって事でヤマメも察してくれたらしい。通せないよとは言わなかった。これがこの2人だけだったらどうなっただろうね?多分戦闘になってたんじゃないかな?2人とも血の気多いし…出会い頭に弾幕打ち込んでくる人たちだし。
「へえ…巫女かあ。そっちは魔法使い?」
「魔理沙だぜ」
「霊夢よ」
「門閉めちゃってるけど何かあったのかい?」
この門は普段開けっ放しになっているはずなんだけど…
「なんか灼熱地獄が爆発したとかなんかで一旦締めさせてもらってるよ。まあ何かあったらキスメが向こうから開けてくれるからいいんだけどさ」
爆発?灼熱地獄と旧地獄は結構距離が開いているはずだけれど…それでも爆発がわかるってことは相当なもんなんだね。確かに一時的に閉めるのも頷ける。あれ?そもそもなんかあった時は閉じるように言われてたんだっけ?
「あーこりゃ避難させたほうがいいかねえ?」
旧地獄には温泉に浸かりに地上から来ている妖怪とか人間とかもいる。彼らの安全確保も地底を管理する者の仕事だからねえ。
「大丈夫なんじゃない?必要になったら鬼がやってくれるでしょ」
それもそうか。
でもさとりがいないからなあ……あたいらだけじゃ厳しいところもあるかもしれない。
「それよりお二人さん。お近づきの印と言ってはなんだけど飴食べる?」
あたいの心配をよそにヤマメは2人に絡んでいた。悪絡みってわけではないから別に止めはしないんだけれど……
「「飴⁇」」
飴…イントネーションが雨なんだけど…まあこの際どっちでもいいか。
「うん、この前もらったやつなんだけどさ。美味しいよ」
あ、それさとりが作りすぎたとか言って配ってたやつだ。
「じゃあ一個もらおうかな」
先に手を出したのは魔理沙だった。巫女は…まあ渋るよね。
「巫女さん巫女さん警戒しなくても大丈夫だよ。毒なんて入ってないから」
うん、毒はないんだよ。でもあんたの種族考えたら躊躇するんでしょ。一応妖怪退治のプロだから。魔理沙は多分知らなかったんだろうね。
「でもあんた土蜘蛛でしょ」
「むしろ土蜘蛛だからこそ毒も病原菌も全く無いって言えるのさ」
それ前提としてあんたが嘘を言っていないってのがくっつくけれど…こんな事で嘘つくような子じゃないからまあ信じて良いかなあ。
「そうね……でも何かあったら容赦しないからね」
大丈夫だとは思うよ。人を襲うことは少ないしむしろ友好的。力が制御できないって事もないから悪意あって近づく輩以外で深刻な病気になったやつなんて聞いた事ないし。
あ、でもキスメが一回お腹壊したっけ?でもあれは腐ったものを食べたからだし関係ないか。
「あまり時間がないから早く門を開けてくれないかな」
「じゃあ今開けるからちょっと待っててね」
ヤマメが扉の隣にある制御盤のところへ駆けていく。
「キスメ。ちょっとお客さんが来たから門開けるよ」
一言だけそう言って返事を待たずに開閉レバーを操作。
ちょっとだけ間が空いて、扉が開いた。
ちょっと音がうるさくなってきているけれど普通にまだ動くらしい。でもずいぶん古びたねえ…あまりこれが動いているところ見た事ないからかなあ。
『私が設計した開閉装置はまだちゃんと機能しているみたいだね』
「なんだあれにとりが作ったのか?」
そういやそんな事さとりが言っていたね。あたい興味ないから忘れていたよ。
『空間接続は私じゃないけど門の自動開閉は私さ』
そんな言葉が飛び交い2人が困惑する。あ、そうか…この扉の向こう側がこの地底部分の延長線にあると考えていたのか。常識と照らし合わせればそうかもしれないね。
『そもそもの空間跳躍については私の知り合いに頼んだわ』
へえ…紫様の知り合い……全然想像できないや。うん似た者同士って感じでしか。
「跳躍ってことはここにあるわけじゃないの?」
旧地獄後はここにはないよ。あれとこことじゃ違うからね。ここにあるのは畑と自然だけ。
「ここからさらに下。マントルのところだよ。残念だけど縦穴を作ることができないからねえ」
作ろうと思えば作れるだろうけれどそれが引き起こす自然への影響がよくわからないからやってないんじゃないかな?それか純粋にやる必要がないか…実際これを見たらやらなくてもいいよなってなるからねえ。
「なんだか壮大だな」
魔理沙にとっては壮大だろうねえ。なにせとんでもない深いところに街といろんな付属品を移転させちゃうんだから。
「地獄をここに置こうとした当時の閻魔に聞いてくれるかい」
「その閻魔ってあの閻魔?」
と巫女。
あの閻魔がなにを示しているかはわからないけれど霊夢が想像しているものだと思うよ。たまにあたいにも説教してくるあの人でしょ。説教はもう聞き飽きたから他のことを喋ろうやと言ったら今度は愚痴だった閻魔様。まあいつかあたいらも世話になるんだろうけれどね。
「そうじゃないかなあ?あたいは詳しくないからね」
そういえば霊夢は口を閉ざした。察しがいいっていうのは良い事だねえ。
「じゃあ誰なら詳しいんだ?」
門をくぐり、ありがとねとヤマメに手を振っていたあたいの背中に魔法使いが声をかける。どうやら研究畑の本性が出ちゃっているようだ。でもあたいに聞かないでくれ。ただの火車。あるいは化け猫さ。
「こいしじゃないかな?」
今すぐに聞くのであればそこらへんしか思い浮かばない。そもそもお空のことで頭がいっぱいで基本的に他の考え事なんて大してしていないんだけどさ。
「そ、そうか。こいしってあのこいしか?」
おやこいしと知り合いだったかい。そういえばそうだったねえ…すっかり忘れていたよ。
「どのこいしかは知らないけれど多分魔理沙が想像しているのだと思うよ」
「なんだ地底の主だったのか」
ああ、違う違う。
「いんや」
「違うのか?」
「地底の主はこいしの姉さ」
霊夢もいるしこれ以上は言わないでおこう。こういう時だけさとりが不在で良かったと思えるなんてねえ。
「ふーん…」
本当は言ってしまいたいんだ。ずっとこのままなんて酷すぎるし可哀想だ。
でもそういえばさとりは人間と妖怪は本来相入れない。それに彼女は博麗の巫女だからもっと相入れてはいけないって言い出す。
もうちょっと素直になったらいいのに……
あたいはネコだからそこらへんのややこしいことなんてめんどくさいとしか思えないんだけれど。実際さとりも面倒だって思ってるだろうけれど。
それでもこうも面倒なことになるものかねえ。
「へえ!あれが地底か!」
「正確には旧都さ」
「旧都?」
「一千年も前に作られた地獄の都。ここに送られてきた時には既に旧都って呼ばれていたっけねえ」
それ以外は知らない。
「あっそう…それで、私たちの後ろにいるあれはなに?」
巫女があたいらの後ろを指差す。確か後ろってあの世とこの世の架け橋があったはずじゃ……
「あれ呼ばわりはないんじゃないの?」
そこには緑色の宝石のようなものが暗闇を照らしていた。それが彼女の目だというのに気づくのはちょっと後。
「あー水橋だっけ…」
七つの大罪だったら確実に嫉妬ってなるほど嫉妬深いからあたい苦手なんだよなあ。
そう考えていたら向こうはとんでもない爆弾発言をしてきた。
「そう言うあんたは確かさとりの飼い猫ね」
ここで言うか⁈一応あんたにも伝わっていたはずでしょ‼︎巫女にさとりのことは教えるなって‼︎理由は伏せられてたからなんでそんなことしなきゃいけないって気持ちもわかるけどさ‼︎
「さとり⁇」
あ、まず…霊夢が気づいたかも…
「覚り妖怪だからだよ!だよね!」
ここは誤魔化す!無理にでも誤魔化す。嘘はついていないから。
「え?あ…まあそうね」
あたいが睨んだらめんどくせえなあって顔された。めんどいのはそっちだよ!
「ってか火ない?あんたら見てると妬ましくなってきた」
葉巻を取り出した彼女が先端をあたいに近づけてくる。
「またマッチ買い忘れたのかい」
「仕方ないでしょ。マッチが燃えるのってなんだかイライラするのよ」
「それ八つ当たりじゃないの。で?私達急いでるんだけど」
「火なら弾幕ごっこでいくらでもつけられるがどうする?」
そう言う2人の目にはうっすら緑色の光が見えた。
「イライラしたから睨んだだけなんだけど」
絶対嘘だああ!こんなところで時間をかけている暇ないのに‼︎