空間の歪みが発生し、異空間から御柱が引き出される。巨大なそれらがまっすぐと私を見つめる。物言わぬただの棒。殺意も湧かず、使命を全うするためだけに存在する。
その数10本。1人を倒すにはかなりの数だと思うのですけれど。
でもまあ、逆に言えばそれだけの数で足りてしまうということです。それほどまでに今の私は弱いのだろう。
私は確かに妖力は使えない。それを見込んんでこの空間に閉じ込めたのだ。参りましたねえ。
「妖力の使えない妖怪なんてただの虫けら…ですか」
確かに違いないです。
それでも慢心は絶対にいけないことです。でもそれは2人には無縁なものだったかもしれない。2人とも慢心する様子ないですし。
解き放たれる御柱。いくつかは私の側面を取ろうとする。それに合わせて諏訪子さんが視界から消える。死角を突くつもりらしい。やっぱり連携が取れている。
体をランダムに動かして後退。それでも人の動きの何倍もの速さで迫ってくるそれを回避することはできない。
だから……
思いっきり地面を蹴り上げ、人ではない動きをする。
一瞬のことで追従しきれない御柱が真下を通過する。その上に体を無理やり落とす。
体が空気抵抗で吹き飛ばされそうになるのをどうにか抑え込む。
「どうして……」
なんか言っていますね。種を明かすつもりはありませんよ。そもそも考えれば分かることでしょう。
あ、そうか。同じ種族じゃ強いやつか純粋なものしか知らないからわからなかったのですね。これは失礼しました。
私が乗っている御柱に向けて別の御柱が突っ込んでくる。
タイミングを合わせて…もう一度ジャンプ。御柱同士がぶつかり木が砕け散る音が響き渡る。足場を失った体が自由落下。
一回だけ空中を蹴り飛ばす。落下していた体が反転し、上に跳ね上がる。足元を今度は鉄の輪っかが通過していった。
「どういうことだ?」
神奈子さん、それを素直に教えると思いますか?
「教えても良いですけれどちゃんと話聞けますか?」
「それは無理だな」
無理なのでは此方もダメですね。あきらめましょう。
地面を蹴り飛ばし一気に近づく。目標は神奈子さん。
諏訪子さんを相手するよりこっちを相手する方が良い。と判断したからだ。
近づかれまいと残っていた御柱をすべて私にぶつけてくる。
右手の拳銃を使い一個一個破壊していく。弾が切れるのと出現していた全ての御柱が破壊されるのはほぼ同時だった。
マガジンを銃から外し捨てる。本当は回収した方がいいのだけれど今は緊急事態だから仕方がない。新しいマガジンに切り替え再度……
後ろから飛びかかろうとしていた諏訪子さんにぶっ放す。素早く反対側の手で引き出した榴弾入りの銃を連射。迫っていた影に大穴がいくつも開く。
再度目標を捉える。
御柱を引き出している時間はもうない。発砲。スライドが引き下がり空薬莢が排出される。
それはまっすぐ神奈子さんに向かっていき、そして…弾き飛ばされた。
正確には叩き伏せられたと言ったところだろう。彼女の手に握られていた刀がそれを物語っている。
「流石ですね」
「では……」
足に力を入れる。一歩、一歩だけでこの距離を詰める。
そんなことができるのかって?妖力が使えないから完全再現はできないけれど、勇儀さんの三歩必殺をある程度再現すればいけます。
使うのは少しだけある神力。
確かに妖力は使えない。だけれど神力は別である。この力まで封じたら彼女たちまでその影響を強く受ける。そもそも妖怪に神力が宿っているということ自体が稀だしたとえ宿っているとしたら結局妖怪やめて神になっている。
私がただ異常なだけなのだ。
でも神力の全てを使うわけではない。妖力を外に向かって出力することができないというだけなのだ。妖力自体はまだ沢山あある。ではこれをどうやって使えばいいのか。それは……
神力に混ぜて一緒に使う。力を混ぜるなんてできるのか問われれば私はできると答える。実際できていますし。こいしなんて魔力と妖力を混ぜて使えるようになっていますからね。まあ、最近になってからですけれど。
それにこれをやるにはスペルカードを媒介として使わないといけない。実際今の私は宣言こそしていないけれどスペルカードをこっそり発動している。
元々妖力を使用するスペルカードに二つの力を混ぜ込む。そうすれば結界の中で片方の力が制限されていてももう片方の力が結界の効果を無効化する。
私が気づいたのは去年ですけれどね。うっかり博麗神社の中でやっちゃったのがきっかけです。
バレなくてよかったですよあの時は……
距離が一気に詰まる。刀とか拳には少し足りないそんな距離。でもそれが私の距離。
大型の拳銃を神奈子さんに向ける。当然刀で切り掛かって来ようとする。
「チェックメイト」
でも腕が振り下ろされる前に素早く引き金を引く。それとほぼ同時に私のお腹に鈍い衝撃が来る。なんの衝撃かは分かっている。蹴り飛ばされたのだろう。だけれど痛みなんて感じない。だから問題はない。
少しだけ上を向いた銃を間髪容れずに発砲。肉片が飛び散り、私の顔や服を汚す。
砕け散った頭と、丸くえぐられた肩。結構あっけなかったですね。
「あっけないのは君だよ」
不意に視界が回転する。お腹と背中になにかが突き刺さる鈍い痛みが一瞬だけした。
動こうにも体が自由に動けない。
振り回される。上下の感覚もわからない。
「あ……」
そういえば諏訪子さんいましたね。でも今までどうして攻撃してこなかったのですか…
「神奈子おつかれ。こいつを引き出すのに時間かけちゃってすまないね」
振り回されなくなった視界の端に回復している神奈子さんが映る。
不死身とかそういうレベルというか…ああ、レミリアさんみたいな回復してる。
ようやく私を捉えているものの正体を理解できた。それは巨大な白蛇だった。
少し違うのは蛇なのに牙があることだろうか。その牙が私の腹と背中を突き刺していた。
「気にするな。そいつは出すのもしまうのも時間がかかるだろう」
確かこの白蛇は……
「あ……あ……」
視界が揺らぐ。急に吐き気がこみ上げ、体のいたるところが痛み始めた。
それでもこのままでは終われない。振り回された時もずっと握っていた銃を白蛇の口の中に向けて発砲。重い振動で腕が痺れる。
同時に上下から押さえつけられていた力が抜け、地面に向かって真っ逆さま。
「おう、やるねえ」
面白いものが見れたと言わんばかりの表情の諏訪子が映る。
地面に叩きつけられた拍子に左手に持っていた拳銃を落としてしまう。
「でも一匹だけじゃないんだよね」
目の前に顔を現したのはまたもや白蛇。さっきのとは別個体のようだ。
咄嗟に銃を撃とうとするがそれより早く腕を喰われた。
持っていた銃ごと右腕が丸のみされる。
さっきから体から力が抜けるような感覚しかしない。動けない……逃げたいのに…
再び私の体が持ち上げられる。今度は下半身に噛み付かれた。さっきよりも下の位置に歯が突き刺さる。体が引きちぎれそう…なんか肉が千切れる音がしていますし…
「っ…」
鞘が壊れ腰にあった刀の刃が露出する。そのまま口の中で体をねじり斬りつける。だんだん意識が遠くなってきた。
「驚いたな。まだ動くのか」
「暴れないほうがいいよ。こいつは白蛇の中でも呪いを振りまき侵食するのに特化したやつだから」
その声すら途中で聞こえなくなる。ナニカが中に入り込む。内側から激痛が走る。
思わず咳き込む。込み上げてきたものが口から溢れ出る。鉄の味…
それは血だった。
「お空……」
「それじゃあトドメ」
蛇から黒い触手のような何かが飛び出す。粘液のように粘り気があり、しかし実態のないように見えるそれらが私を飲み込んでいく。途中で私の意識は途切れていた。
「ある程度調教する必要があるかなそれにしても手痛くやられたねえ神奈子」
「囮だったんだから仕方がないだろう」
そういえば神様は大事なことを言っていたような気がする。確かこれから与える神の力は使い方を誤ったらまずいから制御装置だけは外すなって。
私も制御装置は外そうとは思わない。でも右手が使えないのは少し痛いなあ。
本当はもう少し腕や力の制御を慣らしてかららしいのだけれどそうも言っていられない状況になっちゃった。
四日前さとり様は帰ってこなかった。それでもさとり様ならよくあることらしい。でも普段は行き先くらい伝える。つまり何かに巻き込まれた可能性がある。
お燐もそう言っていたしこいし様は独自に捜索を始めている。
でもまだ一日って言われた。でも地底の当主がいつまでも行方不明だと大変なことになるってこいし様言っていた。結局秘密裏に探すことになったんだけれどさとり様に何か出来るレベルの相手だよね。私たちでどうにかできるレベルなのかな…
その疑問が浮かんで、私は神様の力を降ろしてもらうのを早めることにした。
でもいざとなると緊張する。うう…ちょっとだけ怖い。お腹がきゅーってなる。
「それじゃあ行くよ。ちょっと熱いかもしれないけれど耐えてね」
諏訪子様が私の肩を強めに揉んできた。電撃のようなちょっと不思議な感じがして力が抜ける。やっぱりこの神様すごいなあ……
「う、うん!」
「それじゃあ始めるぞ」
目の前に座っている神奈子様が私の胸の合間に手を合わせる。
体が軽くなる。内側が熱い……
周囲が真っ白になる。
強烈な眠気が襲いかかって瞼を閉じてしまう。
一瞬だけ意識が途切れた。
すぐに目を開ければ、そこはさっきまでと変わらない部屋の景色。だけどなんだか違和感がある。でもよくわからない。見え方が違う?なんかそうっぽい。
それに…なんか肩が重い?いや、全体的にきついんだけれど…なんなのこれ?昔こいし様にふた回りサイズの小さい服を着せられた時の感覚なんだけど。
「どうやら成功したみたいだな」
神奈子様が姿見を持ってきてくれた。いまだに私の体がどうなっているのか理解できない。
「えっと……」
「ほら、今のあんたの姿さ」
目の前に姿見が置かれる。
そこには私が…成長した姿が映っていた。
「嘘⁈」
思わず立ち上がってしまう。前の私より10センチ以上も伸びている。それに伴って体もおっきくなったみたい。スカートとパンツがきついし、服も丈が足りないからお腹見えちゃってる。
って…なんか胸元に引っかかるものがあるんだけど…
「ほへえ…ずいぶん胸が大きくなったねえ」
結構ぎゅうぎゅうなんだけど…きつい…
襟のボタンを外す。
ん?なんか胸の合間に挟まってない?
第二ボタンも外してそれを確認する。
胸の合間より少し上のところに、それはあった。
真っ赤な瞳を縦に押しつぶしたかのような形をしたそれは、触ってみると、ふんわりとした暖かさを持っていた。
「これ何?」
「それが八咫烏本体。体を失ってからずっとそれが入れ物になっているのさ」
ふーん…これからよろしくね‼︎
ーー気に入った。
「ん?何か言った?」
「どうした?」
今誰か何か言ったみたいなんだけれど…でもここには2人しかいないからなあ。
「……なんでもない」
気のせいみたいだね。
「今日はもう帰ったほうがいい。ゆっくり休むんだ」
「神様を降ろすって事は知らぬうちに体力奪われちゃったりすることがあるからね気をつけてね」
わかった!じゃあ今日はもう帰るね!
明日もまたくるから‼︎
その日はそのまま部屋を出て、家に一直線に戻った。
この姿を見せてあげたいなあって思ってたんだけど家に帰っても誰もいなかった。こいし様もお燐も地霊殿にいるみたい。
そこに行こうかなあって思ったけど、折角だし神様の力がどれほどのものか気になってきた。
どうしようかなあ……でもいきなり使うのはまずいし…
やっぱり気になる。
「……少しだけなら灼熱地獄で試してもいいよね?」
なぜか私の部屋にあった今の私にぴったりの服一式に着替えて灼熱地獄に行く。多分これさとり様が置いていったものだね。だって……私の部屋に服を置いていくのってさとり様くらいだもん。だとしたらどうして私がこの姿になるって知っていたのかなあ?まあいいや!
この力を使えばさとり様を攫った犯人をぶちのめせる。今度は私もさとり様を守れる。
門を使って地霊殿に移動。灼熱地獄自体はここから少し離れているんだよね。でもそこに行くまで結局誰ともすれ違わなかった。うーん…珍しいなあ。
せっかく成長できたのに……
そっか緊急事態だからか。さとり様いないと地底のお仕事誰がやるのって話かな。だとしたら誰も見かけないのも納得。
取り敢えず始めよっと‼︎