水が結晶となり地上を白く染め上げる季節となった。
今年一年の時終焉ももうすぐになり、冷たく吹く風がそれを助長しているかのようだった。
この時期になると私の仕事は特になくなる。当然のんびりすることができる数少ない時間が出来ることになる。
年越しの時になればこいしかお空によって博麗神社に連行されるか、そうでなければ御節の準備だったりで忙しくなる。
私はこういう寒いのは苦手だから家にいたいのですけどね。
こいし以外にも最近は雪で遊ぼうだのなんだのと来る妖怪や、勝負をふっかけてくる氷の妖精がいたりと随分賑やかです。
まあそれもそれでいいのですが、やはりこうして静かに過ごしている方が私の体は好きらしい。
「それにしても静かです……」
少し冷めた葛湯を飲みながらふと外の音に耳を傾ける。
風が生み出す木のざわめきや、雪が舞う音が重なり合い、互いの音同士を綺麗に奏でなおす。
こいし達は博麗神社に遊びに行ってしまっているし明日まで戻っては来ない。
なんでも霊夢主体で催し物をやるらしい。私ももちろん誘われたのですが、家を留守にするわけにはいかないので残ることにした。
決して寒いからとかそういうわけではない。
それにしても暗くなって来ましたね流石、冬です。
まだ早い時間なのにもう暗くなる。
まあ電気が入る前の世界はだいたいこんなものだし私の感覚が外の世界になってしまっているだけだから仕方がないといえば仕方がない。
そう思っていると部屋に設けられた窓が不自然にガタガタと揺れ出す。
侵入者だろうか…だとすればご愁傷様です。
腰に携帯して置いた刀を抜刀し、こっそりと窓のそばによる。
窓が開いたのと同時に部屋に誰かが入ってくる。
「merry…」
「Hold up!release your weapon!」
相手が英語だったため思わずこちらも英語で警告してしまう。
赤色の帽子を被った侵入者は私の声に驚いて窓の外に消えていった。数秒遅れてなにかが地面に落ちる音。
「ちょっと!いきなり危ないじゃない!」
少女の甲高い声。
「レミリアさんでしたか…これは失礼」
英語だったから気づかなかったじゃないですか。せめてドイツ語にしてくださいよ。
「もう!せっかく来てあげたのに!」
「じゃあちゃんと玄関から入ってくださいよ…っていうかなんですかその服装」
窓から入ろうとしたこともそうですけど彼女の服装は、いつものドレスではなく先端に白いモコモコした球体のついた赤色の帽子に
同じく赤色の上下の服装だった。
前世記憶で言うサンタクロースだ。
「ふふ、サンタクロースよ。もちろんプレゼントもあるわよ」
「それ以前に今日って24日でしたっけ?」
「あなた…日付くらいちゃんと覚えなさいよ」
すいませんねえ…最近あまり日付を気にしたことないですから。
それにしてもなんでレミリアがサンタの格好してここに来たのでしょうか……
「それで、レミリアさんはどうしてここに来たんですか?あいにく西洋の文化は取り入れていませんので」
「せっかくの聖なる夜なのに貴方ときたら留守番するとか言って家に残ったそうじゃない」
なるほど……フランとこいしの会話を盗み聞きしたわけですね。それで私のところに来たと…まああなたも結構ぼっちしてたみたいですから良かったんじゃないのですか?
「そうですか…それでどうしてサンタの格好なんて…」
別に分かってはいますけど心を読んでハイ終わりじゃ何も楽しくないし会話なんて成立しないからここはあえて聞く。
「そうね、せっかくだったし咲夜が用意してくれていたのを着ていっても良いかなと思ったまでよ」
私の家に行くならこの格好して行ったらどうですかと咲夜さんに勧められて…来たといえばいいのに…変にプライド張ってどうするんですか。
「……そうですか。あ、今なにか飲み物出しますね。葛湯飲みます?」
「葛湯?聞いたことないけど…いただくわ」
サンタの格好をしたレミリアを部屋に残し台所から葛粉とお湯を持ってくる。
別に台所で用意しても良かったのですが、レミリアの事だから少しパフォーマンスをした方が喜んでくれるでしょう。
大したことはしませんけど。
「お待たせしました……ってなんですかそのずた袋」
「あら、早かったじゃない。これ?ただのプレゼントを運ぶための袋よ」
「そんなもの使うより木箱を使ったりもうちょっと運搬性に優れた手提げ付きのものを使用したりしないのですか?」
「夢がないこと言っちゃダメよ」
夢がないと言われましても…そもそもサンタクロースに夢も何もない気がするのですが…そう思いながらマグカップに葛粉と砂糖を入れてお湯で溶かす。
「どうぞ…」
「あら、随分と簡単なものなのね」
初めての葛湯に興味津々ですね…緑茶はふつうに飲んでいるのにこういうのは躊躇するとは…なんだかんだ言って可愛いんですね。
「温かい……」
「喜んでいただけで何よりです」
一口飲んだ瞬間から彼女の心が嬉しさでいっぱいになる。
こういう感情を向けられると、心を読むのも悪くないと思える。
「それじゃあ改めましてメリークリスマス」
一息ついて気が落ち着いたのだろう。そんな言葉をかけてくる。
「Merry Christmas」
「流暢ね」
そうでしょうか?私にとってはあなたがカタコトになった方がちょっと意外でした。
というか悪魔がmerry Christmasはいいのだろうか…なんかもう完全にキリスト教への反逆となっている気がするのですが…
「それにしてもあったまるわね」
でも目の前でふんわりしている少女を見ると、そんなことどうでもよく思えてくる。普段のカリスマはどこへ行ったのやら、見た目相応のほんわか度でくつろいでいるところをみるとお疲れのようですね。
「そうそう、あなたにプレゼントよ」
「プレゼント?」
今のレミリアはレミィ・サンタだから確かにプレゼントかもしれませんけど……私頼んだ記憶ないですし。
ズタ袋の中をガサガサと探りだしたレミリア。
再び取り出された手には、小さな箱が握られていた。ご丁寧にリボンと、クリスマスツリーをデフォルメしたと思われる小さな飾りがつけられている。
「……なんですかこれ」
「開けてからのお楽しみよ」
明けてから…と言われてもこれを開けるのは明日の朝になってから。それまで楽しみしておけということだろう。
面白いですね……
「後、ちょっと来てくれないかしら?」
貰ったプレゼントを片手に思考を巡らせている私の肩をレミリアの腕が掴む。
思考が現実に引き戻され状況理解に努める。
来てくれ……それと同時に浮かび上がる光景。どうして博麗神社なんかに…?
「私がですか?」
「こいしのプレゼントのためよ」
全くあの子は……私をプレゼントだなんて…
そこまでして私と一緒に居たかったのね…気づいてあげられなくてごめんね。
「嫌がるようならこちらも手は打ってあるぞ」
「いやいや、流石に素直に従いますよ」
「む……案外あっさりしているな…もう少し抵抗するかと思ったのだが…」
私だって道理はわきまえてますしこいしがレミィ・サンタにまでお願いしているのですからその願いを卑下にすることなんてできませんよ。
それに…抵抗した時の弊害が少し強すぎます…
何ですか裸にひん剥いてリボンで装飾して箱詰めするって…完全に博麗神社を白けさせる気満々じゃないですか。
「……もし抵抗に抵抗を重ねたらどうなるのですか?」
「そうだな…裸リボンがダメとなれば裸の状態にして生クリームを……」
「あ、もういいです。十分わかりました」
絶対レミリアの考えじゃない。多分神社に集まっている面々の中の誰かが面白半分で言った事を本気で実行しようとしているだけだ。
少しだけ心を除いて記憶を探る。
言ったのは……ああ、彼女でしたか。
「多分、レミリアさんも同じ目にあいますよ。姉詰とかなんとか言われて」
「それは困る」
でしょうね。
さて支度してと……寒いですから寒冷地仕様の服装に切り替えないと…
「それじゃあ外で待っているわ、ちゃんとソリも作ってるからちゃんと来なさいよね」
え…ソリまであるんですか。トナカイが引っ張っているあんな感じのですか?
逆にそれ移動速度遅くないですか…
「………」
「どう?立派なソリでしょ」
家の前に停止していたそれを見て何も言葉を言えなくなった。
レミリアは勘違いしている。これは赤い服のサンタが乗るようなものではない。
そもそもこれがプレゼントするものは大量の爆弾であってもはやプレゼントではない。
「立派な双発航空機ですね」
両方の翼に付けられたプロペラ付きエンジンと、大型の胴体。カラーリングは無地なのかアルミの色をそのまま雪の中に反射させている。
コクピットはダンデム複座で前後がそれぞれ独立したタイプの風防だ。
「河童の発明も時に面白いものよ」
否定はしませんけど……
「そもそもこれ…どうやって飛ばすんですか?」
滑走路なんてここにはないですし1000メートル近く真っ直ぐに続く場所なんてまず無いですから。
「大丈夫よ。これは河童の発明だから」
そう言って何やらラジコンのコントローラーのようなものをガチャガチャといじりだす。
航空機ですよね?なんでそんなコントローラーで遠隔操作できるんですか……
そしているうちに航空機はエンジンがかかったのか……プロペラが付いているにもかかわらずエンジン後ろからブラストを吐き出した。
ターボプロップエンジンかと思いきやブラストの量が多い…それに音からしてこれはターボファンエンジン…プロペラは飾りですか!
後方のノズルが動きブラストを真下に向けて吹き出すようになる。
真上への推進力が機体重量を上回ったのか、機体がゆっくりと浮上し始めた。
「ほらね!凄いでしょ」
「すごいというか……さすが河童と呆れます」
というかもうこれソリじゃないですよね?それにレミリアなら飛んだ方が早いと思うのですが…
「ふふふ、河童からのプレゼントでもらったからには使ってあげないと、貰った側の立場がないであろう?」
そうですけど……
「ちなみにサンタはこんな感じので世界を飛び回るらしいからな。今の私にぴったりだと思わんかね?」
それ絶対騙されてますよね。サンタがこんなので飛び回るはずないじゃないですか。あるとしたらトナカイが引っ張る赤色のソリでレーダーにアンノウンって表示が出ないようにしっかりIFFの欺瞞する超音速ソリですよ。
「話はあとだ。早速行こうじゃないか。今日は聖なる夜だ」
こんな航空機で聖なる夜を飛ぶとかロマンなさすぎです。
そもそも聖なるってつくのに悪魔と妖ってもはや聖じゃない。
まあ移動手段があるのは楽ですね。
「そうだ。せっかくだしさとりのこれを着たらどうだ?」
そう言ってクリスマスのイメージカラーを纏った外套を渡して来た。
着ろと……まあいいですけど…
乗り心地が悪いというわけではないがあまり乗るのはオススメできそうになかった。
シートベルトをしているにもかかわらずコクピットで何回も頭を打つ羽目になるとはレミリアの操縦…恐れ入りました。
と、そんな冗談はさておいて、博麗神社まで到着したのですがどうも風が強いらしくさっきから着陸できないだなんだレミリアは文句を垂れてる。
「あの……そろそろおりたいのですが…」
「仕方ないわね…今風防を開けるからさっさと降りなさい」
前後で独立した構造のコクピットのためレミリアの声は機内無線を伝わって聞こえてくる。
それと同時に風防が上に開き、冷たい外気が流れ込む。
全く…なんだか変なスカイダイビングですね。
コクピットから飛び降りてゆっくりと博麗神社の縁側に降り立つ。
言葉では簡単だけど妖力が使えない状態では相当大変である。
落下速度の軽減は五点着地を行わなければならないしなるべく静かにしないといけない。
上手くいってくれたのはいいのですけどとんだ夜になりました。
さてと…お酒くさいですけどやっぱり皆さん飲んでるのですね……クリスマスってのは結局お酒を飲むための理由……結局クリスマスを楽しめてるのはお酒のみがメインじゃない子達だけですね。
こっそりと縁側の襖を開けて中を覗き見る。
一応クリスマスっぽい飾りつけはしてるのですね……
「お姉ちゃん!」
縁側から顔を覗かせた私の存在に気づいたこいしが駆け寄ってくる。
ちゃっかり頭にかぶったサンタの帽子が妙に似合ってしまっている。
「さとり様!」
こいしに続いてお空が私を部屋に引き入れる。
集まっている全員の目線がこちらに集中する。あまり見ないで欲しいのですが……
「なんだやっぱり来たんじゃない」
霊夢が素っ気なく呟く。
素っ気無さすぎて、逆に安心してしまう。ああ、いつもの霊夢だと…
「来たというより…妹たちへのサンタからのプレゼントですね」
サンタ本人は外で航空機を着陸させようと必死ですけど。
「お姉ちゃん、ケーキとか色々あるよ!一緒に食べよう!」
……まあ今はこの子達との時間を過ごすとしますか。
「メリークリスマス」
来年もまたやるのだろうか…だとしたら今度はみんなで最初から行ってみよっと!
パルパル「汚物は消毒だああああ!」
パルスィはその頃UH-1で孤独な戦いをしていたとかなんだとか。