古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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OPをつけるとしたら
イメージは「ひぐらしの鳴くごろに祭」のOP



depth.155永夜異変 上

明けない夜はないと誰かは言った。

だけれど今この瞬間は、明けることのない永夜がただどこまでも続いていた。

「今宵の月は、形美しされどまがい物…」

 

「ねえ咲夜」

側にいる従者も薄々は気づいているのだろう。

「はいお嬢様」

 

「ちょっと出かけるからついて来なさい」

 

「既に準備はできています。後はお嬢様のみでございます」

それは私の持ち物の方よね。もちろん咲夜、用意してあるのでしょう。

何も言わずに目線を投げれば、彼女はどこからかスペルカードを持ってきた。

 

「こちら、お嬢様用のスペルカードです」

 

「パーフェクトよ」

ふふふ、夜の王に喧嘩を売ったこと後悔するが良い。

「茶番はもういいかい?」

部屋の入り口あたりにいた狐が呆れながらワゴンを押してきた。

「おい狐…せっかくの雰囲気が吹っ飛んだじゃないか」

 

「お茶冷めないうちにと思ったのですが…今から出かけるようでしたら要りませんよね」

 

「ちょっと待って。飲んでから行くわ」

 

「「かしこまりました」」

 

 

 

 

 

9月に入ってからすぐ、何かがおかしいと最初に理解したのは私だったのかもしれない。なにせ私はそれがくるということを理解していたから。

そしてそれについての対策は……全くやっていない。

正直言って興味ないですし。早めに解決してくれるのを促すために少し早めに連絡を入れるくらいですね。

 

「ということですので藍さん、紫に伝えておいてください」

 

「あ、ああ…しかし月はまだ普通…」

 

今はそう見ているし誰も月が出たばかりだから分からないでしょう。

「月の力は一部の妖怪や霊にとってその身に宿す力を左右する大事なものです。私が言いださなくても誰かが言い出しますよ」

藍さんはどちらかというと太陽の方が主軸な妖怪なため月光の持つ特有の力に鈍い。

「承知しました…」

 

展開されていた隙間に藍さんが入り込み、その直後そこにはなにもなかったかのように部屋が残されていた。

事の発端は5分前。まだ日が落ちたばかりの空を見上げれば月に違和感があった。

おそらくあの時点での違和感だけでは何が何だか分からないだろう。事前に来るとわかっていたからこそ気づけた部分が大きい。

 

異変にいちいち顔を突っ込むのは非常に面倒だしただの野次馬に近いから私は基本関係のない異変は無視するように心がけている。

それに、私が出るほどのことでもないでしょうし……

 

 

「…………」

 

散歩行こうかなあ……偶然巻き込まれたって言い訳つくならいくらでも異変見れますし…それに霊夢たちの成長が見たい。生みの親ではないけれど霊夢を育てたのは私。だから成長を見守っていたい……

そう思ったらもう止まらない。

変装をしている暇はなさそうですし遠くからこっそり見る分には別に変装ではなくても良いと思いすぐに外套を羽織る。

少し丈の長いそれは私の体をすっぽりと隠した。

 

家には今わたし以外いない。珍しくこいしとお空が温泉に浸かりに行き、お燐は地霊殿の方に行っている。鬼に呼び出されたのだろう。

 

戸締り確認…

 

飛び出した空には既に月が登っていた。その月はやはり違和感があり、その場から動きを止めていた。

止まった夜…すでに異変は動き出した。

時間自体が止まっていないということは紫が昼と夜の境界を弄って永遠に夜の状態にしているのだろう。時が止まるのとは違う…なんというか…日が昇らない。そんな感じだ。

永遠の夜…私は太陽がある方が好きですね。

 

 

視界が暗くなり、周囲の把握が少し難しくなる。

外套にもフードが付いているとはいえ顔を見られることはある。だからお燐のサングラスを拝借した。

ただ月夜でサングラスをすると光が入らないのでなにも見えない。まあ、視覚が機能しなくてもそのほかで補えるからいいんですけれどね。

 

「でもなんで赤みがかったサングラスなんでしょう……」

どこかの伯爵みたい。

 

まあいいや……顔が隠せるならなんでも……

 

 

 

 

部屋で就寝の支度をしていたらいきなり目の前にめんどくさい妖怪が現れた時の対処法を母は教えてくれなかった。こう言った場合どうすれば良いのかしら?

しかもなにやら尋常じゃない様子。これはあれね…面倒ごとね。寝たいわ…

「霊夢、これは異変なのよ」

異変が起こっているのならなんらかの影響がこちら側にも発生している可能性がある。だけれど今のところそう言った様子はない。

「異変?どこが異変なの?」

そう聞き返せばやはりと言った表情で紫はため息をついた。

「言われた通りね…人間には感知できないようね」

誰かの入れ知恵?今の言葉がなんだか引っかかる。だけれど、それよりも私が感知できないところで異変が起こっていたということ自体が驚きだった。

「なに?私に感知できない異変?」

 

「仕方がないわ。月がすり替えられたなんて人間にわかるはずがないものね」

月がすり替えられた?訳がわからない。

月はいつも通りよ。ほらしっかりと今も出ているわよ満月。普段の月も今の月も違いなんてないじゃないの。

 

「月の光は妖怪や霊の力を高める。わかるでしょう」

 

そういうことね…確かにそれなら私達人間がわかるはずないわ。でもそれだけじゃ異変としては認められない。それに異変だと言っているのは妖怪だけなのだ。まあ…それでも異変であることは変わらないのだろうけれど。

 

「信じていないようね。良いわ。証拠を見せてあげる。といっても些細な変化だけれど…」

 

「まあそれで確証になるのなら…」

 

「占い用の天文観測装置があったわよね。あれを使えばわかるわ」

 

ああ、確かあったわね。暦とか収穫期とか季節に関するあれこれを測るための…確かあれは月の満ち欠けと光の差し具合を調べたはず。なるほどね…

「いいわ。それに賢者が私的な理由で動くとは思えないし…異変と認めてあげるそれで、どうしたら良いのかしら」

異変と言うのなら私はさっさと解決しないといけない。だけれど今は眠いのだ。明日からというのでは駄目だろうか。正直人間に認知できない異変とかばれなくね?って思っちゃう。

「今回は私も手伝ってあげるわ。事が事だからね」

 

「何か企んでそうで信用ならないわ」

 

「ひどいわ霊夢。昔はあんなに素直だったのに…」

おい、どうして子供の頃の写真を持っているのよ。それ渡しなさい。こら逃げるな!

「そんなに信用できない?」

 

だって腹の底が知れないのだもの。

それに妖怪の賢者がただで手伝ってくれるほど安くなんてない。絶対に後で見返りを要求してくる筈だ。正直面倒だし賢者に貸しを作ったらいざという時に困る可能性がある。こう見えても強力な妖怪だし…

それでも紫のような強力な助けがあったら異変解決も楽。うまくいけば全て紫に任せられる。

その分後が面倒なんだけれど。

ただこの場においては紫の提案は魅力的なのよね……打算で考えるとろくなことにならないって母も言っていたけれど……まあいいか。

「仕方ないわ……あんたに協力してあげる」

 

「逆よ。私が協力するのよ」

 

「じゃあそれでいいわ」

正直どっちも変わらないと思うのだけれど。

それとも…あくまでも異変解決は巫女の仕事ということかしら。

 

 

 

 

 

 

「「……こっくりさんこっくりさんどうぞおいでください」」

……こいし達が温泉の方にいると聞いたから帰りがてらに寄ってみたら部屋を一室貸し切ってなんかやっていた。ほんとなにやっているんだろう…

「なにをしているんですか2人とも」

机の上に敷かれた紙と硬貨。硬貨を2人が指で押さえつけているというなんとも言えない状態だ。

「あ、お燐じゃん!こっち来てたの?」

指をそこから離すことなくこいしがこっちに顔を向けた。

「ええ、鬼に呼び出されて身体中触られました」

正直酔った勢いというやつだろう。いい迷惑だよ。まあお酒臭い所を除けば気持ちいいのだけれどねえ…

「それは御愁傷様」

 

「それで2人はなにをしていたんだい?」

 

「こっくりさん!」

こっくりさん?うーん…前にさとりに教えてもらったことがあるような……あ!あのこっくりさんか!

「ああ…降霊術の一種かい…いやあんたら全員人ならざる者なんだから降霊もなにもないじゃないか」

妖怪がこっくりさんとか完全に遊んでいるようにしか見えないしこんなところにこっくりさんだって来たくないだろう…

「でも聞いた話だとお狐さんが来るらしいよ」

おきつねさんねえ…眉唾というか…なんというか。

「へえ……」

 

「なんだ呼んだか?」

背後に気配が現れとっさに体をひねった。

「藍さん⁈」

そこにはなぜか藍が完全武装状態で立っていた。

パッと見ただけではわからないけれど力の流し方や構え方。武器を隠しているからか少しだけバランスが崩れた尻尾を見れば分かる。

「え…こっくりさんって……」

いやこいし。これは違うと思うよ。

「こっくりさん?ああ、古い呪術がこじれてて生まれた占いだな…まあ元の呪術と比べたらただの遊びだ」

そうだったっけ?そういえばさとりも似たようなことを言っていたような…覚えてないや。

「そっかー」

 

「残念」

お空もどうしてこんなことに付き合ったのやら…

「まあ、ごく稀に呼び寄せてしまうことはあるらしいがな」

あ、あるんだ…

「おきつねさんを⁈」

 

「いや、悪霊の一種だな」

悪霊かい!

「怨霊の住む地獄に悪霊ですかい…笑えない冗談だねえ」

まあ1匹増えたくらいでどうということはないけれど…

「あれ?でもコックリさんやってたらお狐さん来てるじゃん」

そう言いながらこいしが藍を指差す。

確かに!あながち間違っていないんじゃないのかなあ…

「私か?お狐さんというより九尾と呼んでほしいのだが」

 

「そうかねえ……」

 

「それで今日はどうしたの?」

そうそう。普段は紫様のところにいるはずだろう?お使いごとでも頼まれたのかねえ…

 

「地上で異変が起こっていてな。一応注意喚起ということだ」

 

「異変?」

こいしの雰囲気が変わった。確か今さとりが1人地上に……巻き込まれた可能性が否定できない。というより絶対巻き込まれに行った筈だ……

 

「どんな異変なの?」

 

「月が偽物にすり替えられた。今紫様が永夜の術を使って夜そのものを止めている。こんな異変は夜を止めてでも終わらせないといけないからな」

ということはかなりの激戦になる気がしてきた…

「ちょっと出てくる」

藍の話を聞いていたこいしが急に立ち上がった。

「私も行く!」

お空もつられて立ち上がるけれどこいしに制された。

「お空はお燐と待機」

あたいまでお留守番ですか?

「地底で何かあったらお燐とお空で対応してね」

そんな殺生な!あたいらだけで地底運営の一端とか無理ですよ!事務処理能力ないんですよ!ゴミ処理能力はありますけれど。

 

「おいおい…まださとり様が巻き込まれたとは…」

 

藍はわかっていないねえ…異変だけじゃなくて厄介ごとは大体さとり首突っ込むしそうじゃなかったらこいしが首を突っ込んでいるよう。

「私はそこまで首は突っ込まないよ。あくまで野次馬根性」

それはそれでだめなんじゃ…

「うにゅ……」

 

「お空落ち込まないで…あたいもお留守番だから」

 

「そうだよね…」

こりゃ美味しいものを食べさせて機嫌を直さないと拗ねたままだ。ちょっと甘味所に行ってこよう。

 

「あれ?こいし様は…」

 

お空に言われて周囲を見れば、いつのまにかこいしと藍はこの場から姿を消していた。どうやら行ってしまったらしい。

「ねえお空、2人が帰ってきたら美味しいものお願いしようか」

 

「それと…一緒に遊ぶ事も!」

 

そうだね…そうしよっか。

 

ともかく一度家に帰ろうと席を立った瞬間、背中に冷たいものが当てられたような感触がした。一気に鳥肌が身体中に浮き出る。

お空も同じだったらしい。少しだけ遅れてその場から飛び退いた。

 

「今のは……」

周囲を見渡すが姿は見えない。だけれど確かにいる。

退路を確保しようと部屋の引き戸を開けようとしたが襖は1ミリたりとも動かない。

あたいの腕の力で開かないってことは…これは……

さっきまであの2人はこっくりさんをやっていた……

「お燐、これって……」

 

「どうやら…呼び寄せてしまったみたいだねえ…」

 

参ったなあ…武器は持ってきてないんだよなあ…重量もあるしかさばるから。

まあ…悪霊相手に翻弄されているようじゃ火車の名が廃れる。

「お空、怨霊くらい喰らえるだろう」

あたいも喰えるけれどあまり喰えない。

「え?うん…でも悪霊は食ったことない」

 

「どっちも喰ってしまえば同じもんよ」

それにしても…一体だけじゃないねえ…それほどの数が集まったのやら…

見えないように隠れているけれど…少し視界を変えれば奴らは姿をあらわす。

あたいらに喧嘩を売ったこと。後悔させてやろうじゃないか。それにさっさと倒して甘いものを食べに行きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらりふらりとその足は動く。

はてさて、それは私の意思か誰かの意図……いずれにせよ止めることはできない。

歩いていけばわかることだと思い、しばらくそのままでいればいつのまにか竹林の方まで歩いていた。

 

迷いの竹林…一度足を踏み入れれば出ることはできないと言われるそんな場所である。

一応存在だけは知っていたものの基本は空を飛んで越えていたから本格的に中に入るのは初めてだ。

専門の案内人が必要だとまで言われるその場所は、一見ただの竹林。だけれどどこまでも続いていそうな…奈落の底のような感じがする。

 

恐ろしいという感情が生まれる一方なんだか安心してしまう。

この感覚は……自殺者が多い場所に似ています。

ああいったところもこのような感覚に陥る。仕方がないというより…結局引っ張られやすい場所ということだ。

 

さて、霊夢達はどこにいるのでしょうか…

このまま入っても良いのですが一応空から探してみることにしましょう。

かなりの高さまで上昇し、周囲を見渡す。

すぐ近くにはやはりいない。少し遠くを見渡しますか…

視力補助も妖力を使えばできる。ただ私はそのやり方を知らないから椛さんの千里眼を想起させてもらう。オリジナルより見える距離と精度は劣化する。だけれどそれでも遠くが見渡せる。から索敵には使える。

 

えっと…霊夢達は……

 

「ああ……見つけた」

 

ちょうどこちらに向かって飛んできていた。途中で合流したのか魔理沙もいる。それと……

「紫も一緒ですか…やっぱり見守ることに徹底しましょう」

あの様子ならすぐ竹林だ。

なら先回りして待っていることにしましょう。とは言っても見つからないようにですけれど……

千里眼を終わらせようとして、一瞬だけ別の存在が竹林に向かってきているのが視界に入った。

あれは……

「レミリアさんと咲夜さんまで……」

 

夜は私のものだと言わんばかりに巨大な羽を広げ無駄に上下に揺らしながら飛ぶレミリアさんとその少し後ろをぴったりとくっついて飛ぶ咲夜さん。なんでしょう…派手すぎて逆に痛々しい。いやインパクトはあるんだけれど……

 

途中で鉢合わせになって同士討ちとかやめてくださいよ。

あの人達だとやりかねないから怖い。

紫がストッパーになってくれれば良いけれど……

むしろ火にナパームを投入しそう

竹林に一歩足を踏み入れれば涼しい秋の風が途絶え、月明かりも遮られ始める。

 

 

 

 

 

「うーん…お姉ちゃんはどこに行ったのかなあ……」

家に戻ったらやっぱりお姉ちゃんの姿はなかった。

月の様子も確かにおかしいしこれは確定だね。

 

「えっと…お姉ちゃんならまずはどこに行くかな?」

 

思考実験。とは言っても簡単なものだよ。

月の異変…異変って言ったら絶対巫女が出るはずだしそっちの方が黒幕にたどり着ける確率は高い。

そうでない場合もあるけれどあの巫女さんが絶対に黒幕を特定するかもだとすればお姉ちゃんも同じことを考えて巫女を追尾または合流する。そうでなくても近くにはいる。

じゃあここからは巫女の動き。この異変はどう考えても人間には感知できない。

なら巫女が出るのは遅いはずだけれどお姉ちゃんはもういないし藍に伝えているということは紫さん経由で巫女に話は伝わる。

それに夜を止めてでも解決しないといけないって紫さん焦ってたぽいし巫女と一緒に異変解決に乗り出しているはず。

ならどうする?黒幕の位置を掴むには巫女さんを見つけた方が良い。

 

目標決定!巫女を見つける。

赤い服を着て特徴的な霊圧を出す巫女は見つけやすい。実際彼女は隠れる必要がないから出しっぱなしなんだけれど私は結構敏感だから遠く離れていても時々感じることがある。

お姉ちゃんは近づかないとダメっぽいけれど…

 

窓から雨樋を伝って屋根に登る。

えっと…霊圧はどこかなあ……

 

「あ、結構近くだね」

かなり特徴のある霊圧がトゲトゲとしている方向を見つけた。なんでこんな尖っているの?不思議だなあ…

 

ここの近くをうろついているということはまだ黒幕を見つけてないのかあるいは見つけた上でそのあたりなのか…どっちでもいいや!

見つけたなら合流しよう!そうしないと見つけるものも見つけられないから。

 

飛び上がってみればそんなに時間はかからず彼女達を見つけることができた。

ただ向こうもこっちに気づいているらしい。なんか臨戦態勢になっちゃっている。もしかしてもう一戦交えた後なのかなあ。

だとすればあんなに霊力が漏れていることも予想がつく。

 

 

「あ!やっぱりいた!」

彼女達が視界でも捉えられるようになれば、巫女と魔理沙の2人の大火力攻撃がこちらを襲う。咄嗟に体を捻って射線を外し回避を行う。空気が乱れ大きく波打つ。

「今日は出会いが多いわね。ってあんた…」

巫女が私の顔を見て何かに気づいたのかへんな声を上げかけた。もしかして紅魔館の事を言っているのかなあ?

「わたしはこいし。あんたじゃないよう」

あの時名乗っていなかったね!ごめんごめん。

「へえ、こいしっていうのか。ってことは紅魔館の奴らも来ているのか?」

うーん…魔理沙がそう考えるのも無理はないか。でも私は紅魔館ではないんだよねえ……

「勘違いしていない?私は紅魔館のメイドじゃないよ」

 

なぜか2人はびっくりしていた。紫さん笑っちゃダメだよ。ここは堪えてこらえて!

「紫、なんで笑っているのよ」

 

「あのね霊夢、いくらなんでもメイドはダメよ」

どこがツボにはまったのか全くわからないけれどお腹を抱えて笑いだした。

え?そんなに私のメイド服ダメだった?

「あなたがメイド服なんて着ても趣味の悪い戦闘メイドよ」

 

「言ったなーー!いくら私でも怒るよ!」

そりゃ自衛用に空間収納の出入り口を服の各所につけて武器を取り出しやすいようにしたこともあったけれどそれとこれとは違うでしょ!

「そもそも、地底のナンバー2がメイドって…」

それ笑えるのかなあ?正直萃香さんが燕尾服着た時の方が衝撃的だったよ。あれを思い出すと本人激おこだから言わないけれど…

「あんた…そんな大物だったの?」

 

「ほへえ…おっぱげたぜ」

なんで2人はそんな驚いているの?霊夢に至っては顔が青くなっているし…まさかさっき攻撃しちゃったことで報復があると思っている?大丈夫そんなことはしないからさ。

「うん?言ってなかったっけ」

 

「「言ってない」」

そっか…

 

「それで、貴女もこの異変を解決するのかしら?」

2人に代わって今度は笑いから立ち直った紫さんが私の目を見つめる。

なんだか距離が近いなあなんて思っていたら実際距離が近かった。なんでこんな近いんだろう。

 

「んー?人を探しているんだけれど…多分巫女達と一緒にいれば見つけられるから一緒にいる」

 

「何よそれ」

巫女さんの言いたいこともわかるけれど実際そうなのだからそうとしか言えない。

「それで探しているやつって誰なのだぜ」

 

「お姉ちゃんだけれど?」

 

「お姉ちゃんねえ……」

 

少しばかり悩んでいた巫女さんだったけれど邪魔しないのならついてくるなり遠くから見るなり好きにしろと言われた。

興味なさそうな感じだったけれど結構気にしているよね。

これってもしかしてツンデレってやつ?

 

 

 

 

竹林の中は思ったほど歩きづらくもなく、結構奥まで歩くことができた。

ただ…案の定方向感覚は失われ完全にどこに行けばいいかわからなくなった。

羅針盤を持ってきてはいるのですけれど…これ使い物にならないんですよね。

だって……さっきから針がぐるぐる回っているんですよ。

磁場まで乱れているなんて……いや、乱されていると言ったほうが確実かもしれない。

 

「……」

 

足に一瞬何かが触れた。

咄嗟に足元を見れば、地面に張られた糸に足が触れていた。これをこのまま引っ張っていれば何かしらの罠が作動していたのだろうか?

姿勢を低くしてそこらへんにあった竹の枝で糸を引っ張る。その瞬間、仕掛けが作動したのか、頭上を空気が切る音がした。視線を上げてみれば、真上を先の尖った丸太が通過して行った。

人を殺しにくるいたずら…いやこれブービートラップですよ。

紐に引っ張られて振り子の様に揺れるその丸太を妖弾で破壊する。

 

さて、いたずらを仕掛けているであろう本人はそう遠くにはいないはずだ。多分なんらかの方法で仕掛けた罠が作動したということを確認するはずだから罠の様子を見にこちらにやってくる。

 

予想が正しければ彼女だと思いますけれど…

しかし確証はない。ならば……騙して仕舞えば良い。

少しだけ周囲の光の屈折をいじり自身のをしっかりと認識できなくする。

「あれえ?引っかかったと思ったんだけれど」

その直後すぐ真横の茂みで子供の様な幼い声がした。この距離になるまで全く気配を出さないなんて…それに今も声が聞こえているのに気配どころかそこに誰かいるのかすらわからない。

 

そういえば因幡の白兎は150万年以上前から……

少しだけ血の気が引く。ただのウサギなはずはない。

「……」

 

「あ、あれ?鈴仙じゃない?」

私が焦っていると向こうがこちらの様子に気づく。

もうバレましたか…でもこの距離なら…

「ドーモ因幡の白兎サン」

光の屈折を解きしっかりと視認できるようにさせる。

「ごめんなさいいい!」

急に目の前に人が現れたら誰だって驚く。だけれど…そのまま逃げようとした彼女の腕を素早く掴み関節技を決める。

 

やっぱり関節技は妖怪だろうと人間だろうと年齢体格体力差関係なく痛覚を持っている者には有効である。

「イダダダダッ‼︎離して!離してええ!」

 

「人間が引っかかった時のことも考えた罠を今後導入していくのであれば許します」

まあ彼女は彼女なりの考えであそこを選んだのでしょうけれど。

多分私というイレギュラーがなければ鈴仙が引っかかっていたのでしょうね。

「そうしますからあああ‼︎いでええ‼︎」

流石にこれ以上はまずいので一旦関節技を解く。

「落ち着きました?」

 

「腕がもげるかと思った…」

もげませんよ。それにもげても死にはしません痛いだけです。

涙目になりながら腕を抑えている彼女にそう教えればそれもそうかと納得した様子。

「もう少しマシな罠を考えたらどうです?」

 

「マシな罠を作るくらいなら騙す方が楽しい」

歌劇を通り越しているのですが……さすがいたずら好きな妖怪。

「ところであんたは何者?」

 

「さあ?今起きていることを考えれば大体見当はつくでしょう」

 

「まあそうだけれど…でも私の予想じゃこっちにはこないと思ったんだよ。それに普通にしても目的の場所にはたどり着けないからね」

 

「あらそうなの」

 

「そうそう。私が案内する以外に道はないもん」

そっか…では折角ですし案内を頼みましょうか。

「お屋敷までの案内はできますか?」

 

「見たところ巫女でもないし…月をどうにかしようとしにきた連中には見えないけれど」

 

「色々と事情がありましてね。それに姫の古い知り合いといえば理解できますか?」

 

彼女ならこれくらいで立場や意図を完全に理解したのだろう。私が嘘を言っている可能性も否定できないようですが…真偽を確かめるには姫のところに連れていくしかないしそれを断れば……

その先を想像できない様な兎ではない。

「一応聞くけれど拒否したら?」

 

「兎鍋って美味しいんでしょうか」

 

「わかった。案内するけれど…屋敷までだよ」

 

ありがとうございます。今後も何かあれば頼ると思うのでよろしくお願いしますね。

 

「やれやれこれで三人目だよ」

 

へえ……

既に先客がいるのですか。確かに結構迷っていたのですけれどそれでも追い越されるとは…でも巫女ではなさそうですからレミリアさん達かしら。

 

 

 

兎の案内を受けて屋敷にきてみれば今度は兎に足止めなんて。兎小屋でも近くにあるのかしら。それともこの屋敷はラビットハウス?

「残念ですけれど…ここから先は立ち入り禁止です」

前を塞いでいるのは一匹のうさぎ。

「あら、夜の王が通るのよ。立ち入り禁止なんてないわ」

通常時なら不敬だからその場で断罪するけれど。折角だしここは咲夜に任せましょう。

目線で合図をすれば咲夜が前に出た。

「どうしてもダメでしょうか?折角ですし人参で手を打ちますよ」

 

「舐めているの?」

 

「お嬢様、交渉決裂です」

最初から煽ってどうするのよ!私は何も戦えとは言ってない!交渉して通して欲しかったの!いちいち戦ってたら時間もかかるし面倒じゃないの。

「そうですか…では…」

 

「貴女の相手は私です」

咲夜が両手にナイフを構える。臨戦態勢に入った様だ。私も参加しましょうかしら。でもせっかくだし見守ることにしましょう。

「ええ、咲夜お願いね」

 

「sic domina mea」

 

ウサギの瞳が赤く光った。

その瞬間世界が歪んだ。




自機組の一部リストラ宣言仕方がないね

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