古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.148春雪異変 下

雲に突入した瞬間体が大きく煽られる。同時に冷たい粒が身体中を叩き服を湿らせていく。文さんが着ている防寒着が大きくはためく。というより飛ばされそうになっている。私は羽衣の前を咄嗟に縛って止めたのでどうにかなりましたけれど…って文さんスカート吹き上がってますよ!

時折雷が鳴り機能しなくなった視界を白く染める。

 

「あやや!なんですかこの嵐は!」

流石に最速天狗もこの嵐の雲の中を通過するのは簡単ではないらしい。私よりも左右に吹き飛ばされそうになっている。

「しゃべっていると舌噛みますよ!」

そんな彼女が見ていられないから、その手を掴んで一気に加速する。

 

左右は分からなくても上下だけは感覚でわかる。ならば上に行けば良い。

だけれど強い風が吹きつけ体が反転する。一瞬目が回り、どっちが上なのかすらわからなくなる。どこを見ても暗く立ち込めた雲ばかり…

いつのまにか文さんが腕にしがみついていた。

ようやく体を水平に戻せたので再び上昇する。幸いにも高度は落ちていないようだ。よかった…

ピカッ……

急に目の前が明るくなり大太鼓を思いっきり叩いた時の革が震える音が響いた。

直ぐ近くで雷が発生したようだ。

「きゃああ‼︎」

 

今ものすごく可愛らしい悲鳴が起こったのですが…

まあ気にしないでおきましょう。

しばらくすぐ近くで鳴り響く雷を避けつつ上昇すれば、急に視界が開け雪だか雨だかで濡れた体を春の暖気が包み込んだ。

太陽の光が周囲を暖かく包み込む……

 

「雲の上に出たんですか?」

 

「そのようです…それにしても暖かいですね」

さっきまで防寒着を着ていたせいか春の陽気は冷たい雨と雪で濡れていても十分暑いものだった。

「本当ですよ。地上と上空じゃこんな違いがあったなんて…ますます面白くなってきました!」

 

雨風に濡れぬように懐に隠していたカメラを取り出し必死に撮影を始める文。折角なのだからさっきの嵐も撮っておけば良かったのに。

「少し服を乾かしましょうか…」

いつまでもビショビショだと示しがつかない。なので妖力で生み出した熱で乾かしていく。ついでに防寒着は回収する。そもそも暑苦しいですからね。

「そうですね…しかしあの嵐はなんだったのでしょうか?」

 

「気温差が原因の嵐よ」

そもそも地上方面は真冬の天候気温。上空は季節相応の春暖気。ここまで気温差があれば中間地点はもう大嵐が出来てもおかしくない。地上にその被害が及ばないのは不思議ですが常識的に考えられない事が起こっていたのだから常識で推し量ってはいけない。

しかし雲の中があれだけ荒れ放題では少し不安がありますね。

 

広がる青空と高層に広がる薄い雲のキャンパスを目を凝らして見つめる。どこかに入り口が開いている筈だ。春度を回収するために現世に直接接続されている。そのはずだから…

「さとりさん何を探しているんですか?」

周囲を見渡している私が気になったのか文さんが聞いてきた。

「異変の元凶です」

いつのまにか着替えたようで文さんの服装は先ほどまでの防寒用装備から春用の半袖黒スカートになっている。

「異変の元凶がこの辺りにあるんですか?」

 

「あるはずですけれど……」

 

見当たりませんね…もしかして光学迷彩のようなものを張っているのでしょうか?だとすれば近づくかしないといけないですね。

「飛び回って素直に探しましょうか」

 

「そうですねでももう直ぐ日が暮れますよ?」

 

もう既に日は傾いている。青空が広がっているのも時間の問題だろう。

「じゃ早めに行きましょうか!」

飛び回り始めた文さんが私の手を掴んで一気に空を駆ける。風の音に混じって聞こえる微かな音楽の音色を探しながら。

 

 

 

 

 

 

「ひいい…寒い」

木の陰から現れたのはこんな寒い日なのにニーソと長袖シャツに紫と黒のチェック柄スカートという見ているだけで寒そうな格好のはたてだった。今さっき私を撮った携帯型カメラを持つ手もなんだか震えている。

「はたては寒いのほんとだめだよねえ」

 

「仕方がないじゃないそもそも私は温暖な地域が好きなんだからね」

そう言いながら体を震わせている姿を見たら流石に可哀想になってきた。えっと…確か予備の外套が魔導書に入っていたはずなんだけれど…あった!これこれ。

「ありがと…はあ、寒いのはやっぱダメね」

 

「それってこの地域住んでたら誰でもそう思うんだけれど」

 

「細かいことはいいのよ」

いいんだ…

「じゃあ細かくないことを気にしよう!はたてはどうして普段着なの?防寒着は…」

すごく気になっていたことを聞いてみる。私だって結構厚着しているんだよ?寒いから。

だけれど全然答えてくれない。それどころか顔を伏せちゃった。おーい…どうかしたのー?

「無いわ」

無いってまさか……

「え……」

そんな事ってあるんだ…あ、でも家の中で使う上着くらいあるよね…あるよね!

「部屋で着るのも含めて買ってないのよ!冬になったら外に出ないようにしているから!」

嘘でしょ⁉︎よくそれで冬場しのげたよね!まさかマフラーと手袋だけで過ごしてきたの?すごいや……それにしても…ニーソで脚が半分雪に埋まっているってなんだか背徳感がある…どうしてだろう?不思議…

「じゃあなんで今日出たの?」

思考を切り替えるべくもう一度質問。

「前々から雪景色が綺麗だよって文に言われていたし…ここまで冬が長引いたから溜めていた燃料と食料が尽きたのよ!」

なんで文のところで顔を赤くしてもじもじしたの?まさかトイレな訳はないよね…寒くてお腹冷えちゃった?脚冷やすとお腹も壊すからねえ…

「あーやっぱり燃料と食料かあ…」

天狗もこればかりは予想できないよねえ…

「まあ天狗の方はまだマシよ。人間の里はもっと酷いんでしょ」

 

「うーんそうでもないかな?地底の畑は普通に機能しているし燃料もなんとかなっているかなあ」

うん、逆に天狗とか山の方は食料の備蓄が多い分まだ大丈夫だよねって状態だったはず。詳しいところはお姉ちゃんに聞かないとわからないんだけれどそんなことを言っていたような気がする。

「そうなんだ……」

意外だったのかはたては面食らってた。

「そうなんだよねえ…」

まあそれでも緊急支援は一時的なものだし量も多くないから人里は大変らしいよ。

「さとりってどこまで見抜いているのかしら……」

 

「多分異変の原因もわかっているんじゃない?動く気配は無かったけれど」

お姉ちゃん異変解決は人間の仕事だって言って譲らないからなあ…参加しても途中までで帰って来ちゃうかも。うん…絶対黒幕は霊夢とかいう巫女に任せるね。

「そう……」

お姉ちゃんが動いていればこうはならなかったのかな?うーん難しいなあ。

「そうだ!家で温かい食事食べない?食料も燃料も切れているんでしょ!」

罪滅ぼし的なところもあるけれどなんだか困っているようだし放っておけない。後写真ならもっと綺麗に撮ってほしいからね。

「え?いいの?」

 

「全然構わないよ!困ったらお互い様だからさ!」

 

「じゃあ…お言葉に甘えて…」

でもどうしてあんなところで写真を撮ってたんだろう?まさか魔理沙を尾行して異変解決をスクープしたかったとかそういうところかなあ?まあ今となっては魔理沙もいないし仕方がないのだけれどね…

 

 

 

 

 

気がつけばあたりはすっかり暗くなっていた。まだ日はあるはずだけれど分厚い雲に空が覆われているせいで暗くなるのも早い。それに月明かりも星明かりもないから暗くなったらまずいわね…

「なあ霊夢、もうすぐ日が暮れるんだが…」

あんたに言われるまでもなくやばいとは思っているわよ。

「そうね…迷家で時間をかけ過ぎたわ…」

まったく…迷家で迷いすぎたしあそこから出るのも一苦労だったわ。迷惑だから迷ってどうしようもなくなってまたあそこにたどり着いたら焼き討ちしましょう。暖をとる為の良い燃料になるわ。

「夜になるとそれはそれで危険なのだけれど…異変解決を先延ばしにするのも癪だしこのまま行くわよ」

夜がまずいのは視界が利かなくなるから。だけれど視界に代わる他の感覚が鋭ければそれなりにどうにかなる。そもそも視界なんて五感の一つでしかないのだ。それが利かなくたってどうにかなる。

「おいおいまじか…さすが霊夢」

 

「あんたは無理に付き合わなくて良いのよ?」

 

「もちろん最後まで付き合うつもりだぜ?」

変にあんたは根性あるわよね。まあ…そういうところ嫌いじゃないわ。じゃあちょっとだけお願いしちゃおうかしら。

「そう…じゃあ灯りよろしく」

私が灯りを出して進んでも良いけれどせっかく魔理沙がいるのだから役割分担よ。あんたどうせ暗闇での戦闘なんて慣れてないでしょ。

「鬼巫女は人使いが荒いなあ」

そう小さくぼやきながら魔理沙が灯りをつけた。もちろんバッチリ聞こえているわよ。

「何か言った?」

 

「霊夢の鼻を赤く光らせれば万事解決かと」

喧嘩売っているのかしら?

「悪化してるじゃないの!」

 

「悪化しないで媚び売るのは飽きた!」

なんだその屁理屈!最悪すぎるわ!人間性どうなっているのよ!

「だからってそれはないわよ」

 

「赤く光るようになったら鹿の角の飾り物もつけるんだな」

 

「ぶっ飛ばすわよ」

それは子供にプレゼントを持ってくる人のところにいる護衛さんじゃない!

私は乙女よ⁈

「うーん…服も赤いしやっぱプレゼントを運ぶ方だったか?」

レミリアが言っていたサンタとかいう超人ね。世界中の子供にプレゼントを一夜で運ぶある種の神に近い人だとか。でも赤つながりでそれはないわ…

「それはないでしょう。お札売りの少女はやったけれど」

うん、あれは良い思い出だったわ。

「なんだそれ…」

あら言ってなかった?

「金が欲しかったから魔除けの札を人里に直接売りに行ったのよ。結構儲かったわ」

私の人里までの往復分の苦労は報われたわ。まあその儲けも結局は年越しで使い潰しちゃったけれど。全く…なんで揃いも揃って私の神社で年越し宴会なんてするのよ。

「効力のほどは?」

 

「安心しなさい。問題ないわよ」

 

実際私が使っている結界を作るお札と同じだし。まあ一枚だけじゃ効力が薄いから複数枚合わせて使うのが良いわよ。

 

 

 

完全に日が暮れたわね。まさかここまで真っ暗だったとは…それに寒いわ。炬燵が恋しい。

ここまで暗くなるともうどうしようもないので勘に任せて歩みを進める。これが一番確実なのよねえ。

「やっぱ日が暮れると寒いな…」

 

魔理沙なんか寒さを緩和できる魔法ないの?

 

そんな便利な魔法はない。

 

じゃあ次の冬までに作っておきなさい。

 

 

「ずっと曇っているから大して変わらないかしら」

太陽の光が届かないから日中でもあまり気温は上がらない。いつも一桁台だ。

「確かに…晴れた日なんて全くなかったな」

そう思えば今年の冬はずっと曇っていたわね。去年はそうでもなかったのに…特に1月後半からは晴ればかりだったように思えるわ。

「変ね。いくら冬でもずっと曇りなんてことはあり得ないわ」

もしかして異変を起こしているやつと何か関係が?例えば空の上にいる天人とかとかは天気を操る能力を持っていてもおかしくない。じゃあ空の上…でもそれは軽率な判断よ。

「……なあ、あの雲の上はどうなっているんだぜ?」

魔理沙が不意にそんな事を言い出した。

「行ったことも考えたことも無かった…」

そうよどうして雲の上を見ていないの?もしかしたら上に何かあるかもしれないのに。

 

そこまで思考が働いたところで急に背中に電流が走った。気づけば反射的に袖から出した針を暗闇に向けて放り投げていた。

まっすぐ闇を突き進んだ針が闇の中で火花をあげ闇を切り開いた。やっぱり何かいる!

「そこっ!」

 

「敵襲か⁈」

魔理沙が素早く私が針を飛ばした方向に弾幕を展開した。爆発が上がり雪と土が跳ね上がる。

「わからないわ!周りに注意して!」

 

さっきの針の当たり具合からして多分人ではない。多分絡繰りの一種か表面が相当硬い何かで覆われている何かだ。

 

「随分と手荒い歓迎じゃないのべつに襲おうとしたわけじゃないのに」

暗闇の向こうから声がする。咄嗟にそっちに向けて針を出そうとしたけれど一瞬だけ思いとどまる。暗闇から姿を現したのは魔理沙と同じ金髪を肩あたりで短く切り、白い洋服に水色の吊りスカート腰にリボン、頭にリボン付きの青いカチューシャを付けてた人形のような少女だった。

「だれ…ってアリスじゃねえか」

 

「あら魔理沙知り合いだった?」

魔理沙の知り合いならまあ大丈夫ね。全く…気をつけなさいよ。

「まあ魔法仲間ってやつだな」

 

あー魔法仲間ねえ……

 

「初めてお目にかかるわ博麗の巫女さん。アリス・マーガトロイドよ」

 

「霊夢よ。下の名前わかりづらいからアリスで呼ばせてもらうわ」

 

「ええ、構わないわ」

 

「ここら辺ってまさかアリスの家の近くだったか?」

 

「ええ、迷い人でも来たのかと思ったのだけれど…違ったかしら?」

なんだか人形を相手にしているみたいで少し話しづらいわ。悪いやつではないはずなんだけれど……

 

「迷っていないといえば嘘になるわね」

 

「ああ…まあ迷っているっちゃ迷っているな」

 

「そう…もしかしてそれは異変の事で?」

 

「あんた異変のこと知っているの?」

アリスの口から異変の単語が出てきて少しだけ警戒をする。

 

「ああ、私が教えた。っていうか異変の調査で少しだけ手伝わせた」

 

「ああ…そういうことね」

 

「魔理沙はあの後進展あったの?」

 

「いや…見当はついてきたが全くだぜ」

 

「そう、あの後面白いものを見つけたのだけれど見る?」

あら、何か知っているの?ぜひ教えなさい。教えてくれたら後でお礼で何か送るわ。

そうね……イナゴの佃煮とか。

 

 

 

 

射命丸文がいくら幻想郷最速であっても実際横に誰かが並ぶことはある。

とは言ってもそれはその本人の実力ではなく、何かの力を借りたりしている一時的なものであって本人の実力ではない。

例えば霧雨魔理沙。彼女は普段攻撃に使うミニ八卦炉なるものを噴射装置に利用することで文と並走するところまでは可能だ。

ただし旋回や小回りが利くかといえばお世辞にも利くとは言い難い。

それに燃費も悪いので余程のことがない限り使用することはない。

だからこそ射命丸文は幻想郷最速だと言える。

だけれどこの瞬間から文の常識は塗り替えられる。

「あの…さとりさんなんで私に追いつけるのですか?」

 

なぜかいつもの速度で飛んでいるのに隣を飛ぶさとりさんに思わず訝しんでしまう。

 

「貴女を想起しているからです」

 

私を想起?確かにさとりは相手の記憶や思っていることを読み取る事ができるけれどそんなこともできるなんて…まさかたまに発揮するあの馬鹿力も?

 

「そうですよ。あれは萃香さんか勇儀さんを想起しています」

 

「本人がいないのに出来るんですね」

 

「私自身の記憶を想起で読み取って具現化していますから。もちろん今は文さんが隣にいますからそのような回りくどい方式は取っていません」

 

なるほど…となるとそれはそれで最強なのでは?なんて思ってしまうけれどそう都合の良いものでもないのだろう。

「もちろんですよ。ただ純粋にこの速度で飛ぶと色々大変ですし想起しても理解できなければそれを執行することは不可能です」

 

「へ?じゃあその状態で飛んでいるのは…」

 

「正面に障壁をショックコーンのように展開していますし体全体にも薄く結界を展開しています。この状態だと使える攻撃手段も限られます」

 

どうやら前方方向にしか弾幕を展開できないみたい。これで私のように全周囲攻撃可能とか言われたらどうしようかと思ったわ。

 

「大丈夫ですよ。文さんは幻想郷最速ですから」

 

「ありがと」

 

そう言い合っていると、目の前に何かの反応があった。

視界が急にブレ出す。

思わず目眩かと思ったもののそういうわけではないらしい。

 

「ああ…どうやらこの辺りのようですね」

 

ぞわぞわとした寒気が背中を走る。まるで見えない何かに見つめられている?いや…これはもしや霊気…

気づけば肌が鳥肌状になっていた。

妖怪であっても霊体が放つ特殊な現象には晒される。一説によると怨霊や悪霊が妖怪の天敵であるためだと言われている。

まあそんなことは良いのだ。問題はその鳥肌と冷たい霊気が背中を撫でる感覚がしたということはかなり近くにいるはずなのだ。

 

「どこ?」

 

「上ですよ」

 

私のつぶやきに真っ先に反応したのはさとりさん。つられて上を見上げた瞬間、体が何かを通過した。その瞬間夕闇の空がその姿を豹変させた。

まるでガラス面にこぼされた水が広がっていくかのように空が黒と星色に塗り替えられる。

そして、見上げていた視界にポッカリと黒い口が開いた。

その口は地上から何かを吸い上げている。

目を凝らしてみればそれらは花びらだった。

鮮やかな薄ピンクの花びらが無数に吸い込まれていく。先ほどまで夕闇が広がっていたはずの空は花びらの色と黒くなった空色で印象が変わってしまった。

 

「あれは……」

 

「冥界の入り口よ」

さとりさんはどうしてあれがわかるのだろう?確かに言われてみればこの霊気のこともあって成る程と思いますけれどそうでなければ分かりませんよ。

速度を上げたままその周囲を旋回。一度穴のそばを通過する。

勿論写真を撮っておくのを忘れない。撮り忘れたらまずいですからねえ。

 

「…右から来ます!ブレイク!」

 

「ぶれいく?」

 

「こっちです!」

急に態度を豹変したさとりさんが私の手を引っ張り急旋回を始めた。

あの…いきなり手を掴むのは…嫌ではないんですけれど…そもそも、右から来るって何が?

とかなんとか思っていると私達が先ほどまで飛んでいた進路をいくつもの霊弾が通過していった。

 

一発一発が殺意の塊になっているであろうそれらが私達のすぐそばをも通過する。

「……っ⁉︎」

 

「どうやら簡単に通してはくれないようですね」

 

攻撃の発信源を探るとそこには楽器が空に浮いていた。

「楽器……」

 

「騒霊ですね。ヴァイオリンだけじゃないはずです」

なるほどあれは騒霊と…後で取材してみましょう。何か記事のネタになりそうな事がありそう。

その為にも一度腹を割って話そうじゃないの!

「ちょっとそこの騒霊さん!話を聞くくらいいいんじゃないの?」

私の呼びかけに反応したのか、今まで楽器しか見えていなかったところに一人の少女の姿が現れた。

「あら?てっきり侵入者と思ったけど…まさか私達の演奏を聞きにきてくれたのかな?」

髪はほぼストレートな、金髪のショートボブヘア。前髪は少し真ん中分け気味。 髪の毛と同じ金色の瞳で少しツリ目気味のキリッとしつつ結構ぱっちり。ツンツンしていて可愛い。

さらに白のシャツの上から黒いベストのようなものを着用し下は膝くらいまでの黒の巻きスカート。

また、ベストやスカートの裾には円や半円を棒で繋いだような赤い模様があしらってある。

そして円錐状で返しのある黒い帽子。

見た目としては悪くないですね。よければ今度天狗の山に来ませんか?歓迎しますよ。

流石に黙ってジロジロ見ていたら変な奴と思われてしまったのか少し警戒された。

「演奏を聴きに来たというより冥界に用事がありまして」

私に代わってさとりさんが前に出た。

 

「へえ…丁度私達もそこで演奏会があってさ。聞いていく?」

 

「そうしたいのですが多分その演奏会潰しちゃうかも…」

さとりさんがそう言った瞬間態度が豹変した。何か急に焦ったような…止めなきゃというようなそんな感じだ。

「それって止めないと演奏会が無しになっちゃう?」

 

「そうなります。あ、そういえば他の方は」

 

「もう先に行っちゃったわよ。だからここで2人を止めないと…」

 

何か話が飛躍していません?それに殺気が溢れているのですけれど…まさかね…さとりさんこれどうするんですか!せっかく仲良くなれるかなあと思ったのに…

「しかたありません。戦いましょう」

 

「妖怪にとって霊は天敵なのに…」

 

「攻撃が当たらなければどうという事ないわ」

そうですけど……ええいうじうじしている暇はありません!

あ、名前聞くの忘れていました…あの子誰なんでしょう…まあいいや後で聞きましょう。

霊弾が一斉に私達に向かって…あれ?私の方には来ない…

 

 

 

 

 

 

 

いくつもの霊弾が私の近くに着弾し爆風が吹き荒れる。

「どうやら私狙いのようですので文さんは退避していてください」

さっきからずっと私しか見ていませんし…何か変なこと言いましたかね?

「嫌ですよ。戦いはしませんけれど近くで写真を撮らせてもらいます」

文さんはいつも通りですねえ。まあ断る理由はないのですけれど。

「エンゲージ!」

 

加速…側にいた文さんもやや遅れてだけれどついてきた。それらを追いかけるようにヴァイオリンだけが追いかけてくる。あれじゃあどこに本体があるのかわからないのですけれど……

 

左右に急旋回を繰り返し追いかけるヴァイオリンの射線を外す。それでも真横への攻撃が出来るからか結構攻撃が飛んでくる。でも偏差射撃とかではないのでまだなんとかなっている。

やっぱり文さん並みの速度で飛んでいると旋回がすごく難しいですね。

無理に曲がろうとすれば体が地面に押し付けられているんじゃないかってほど強く押しつぶされる。

それでも何回かの急旋回をしてルナサの背後を取った。妖弾を連続的に撃ち込むけれど速度差があり過ぎるのでそのままオーバーシュート。前に飛び出してしまう。

 

すぐに上昇、反転する。

 

向こうもそれを予測していたからか体が反転して降下に移ったところで霊弾が吹き荒れる。いくつかがショックコーン状に展開した障壁に当たり火花を散らす。

多少の被弾ではこちらはやられない。急に向こうの動きが焦り出した。追尾弾を投下しつつ彼女の真横を高速で通過。やや遅れてやってきた追尾弾がヴァイオリンめがけて飛んでいく。それらを回避するのに必死になっている合間にこちらはもう一度仕掛ける。

「確かスペルカードがあったはず…これで足止めを…」

あ…何かやばそう。

「神弦『ストラディヴァリウス』これで…!」

 

解き放たれたスペルカードが空中に大きな音符をいくつも出す。それらに吸い込まれるように誘導弾が取り込まれ爆発する。

青色のものと赤色の二連八分音符と九連三十二分音符の赤と青の音符弾が周囲を埋め尽くす。

それらの合間を高速で切り抜ける。僅かな隙間を縫うように音符弾の中を逃げる。左右に体をかたむけさらには一回転。もう体が悲鳴をあげそうですよ。ほら羽衣焦げちゃうじゃないですか。

体が音符弾の森から抜けた瞬間、後ろで全ての音符が霊弾に変わり周囲に飛び出した。

 

「まだ来ますか」

だけれどそれだけで終わりではない。

見失いかけていたルナサさんから同時に弾幕が展開される。音符から出た分で動きを封じられつつの攻撃だ。

なかなかかわすのは難しい。

 

普通ならだけれど……

 

前と後ろから挟み撃ちに迫る弾幕。その合間に取り残される。

前から迫る弾幕が目の前に迫ったところで急加速。一気に文さんの最大速度に乗せ後ろの弾幕を突き放す。

体を横に回転させ目の前から迫る霊弾の隙間に入り込む。

目の前に来た霊弾をこちらも妖弾で弾き飛ばす。

熱い爆風が体を撫でる。

多少の炎が手や足元にくっつきながら帯のように流れる。

 

次の弾幕を撃破し強引に道を作る。迎撃に回していた妖力を推進力に切り替えさらに加速。体が上下左右に揺られる。急加速でかかる重圧で視界がレッドアウト。すぐに戻る。

 

「そんなっ…‼︎」

 

どうやら驚いているようですけれど…それ自体隙になってますよ。

 

まっすぐ相手の懐に飛び込む。音速を超えてルナサに向かう。やはり反射的に目を閉じてしまっているのが確認できた。

 

そのまま少しだけ体をひねって相手の横を通過する。すれ違う直前そのお腹に一発だけ拳を叩き込むのを忘れずに……

カエルが潰れるような音がして横に出した腕が引っ張られる。一応幽霊ですから大丈夫だとは思いたいです。人間なら確実に死んでいますね。

片腕に抵抗がかかり体がスピンする。それを利用して減速、空中で停止する。伸ばした腕に力尽きたルナサさんが乗っかる。

「うわ…大丈夫ですか?」

すぐそばで写真を連写で撮影していた文さんが近づいてくる。

「私ですか?彼女ですか?」

 

「騒霊の方ですよ!」

 

大丈夫ではないだろうか?腕によだれべっとりかかりましたけれど。まあこれは仕方がない。胃液が出なかっただけ良い方です。

 

「気を失っているだけのようですね…」

様子を見ていた文さんがホッと一息ついた。なんで私よりそっちの心配するんですか…まあ確かに私は平気ですけれど。

「まあ幽霊ですし死ぬことはないですよ」

もう既に死んでいる存在かあの世の存在ですからね。

「そうですけれどあれは見ていて痛かったです」

そうですか?腹パンしただけでしょ。音速で……

って文さんなに気絶しているからってスカートめくろうとしているんですか。

ダメですよいくらなんでもそんなことしちゃ…

「されたいですか?」

空いているもう片方の腕で拳を作ると素早く私から距離をとった。

「私はマゾじゃありませんよ」

 

「知ってますだから言っているんです」

マゾ相手に痛いことなんてしませんよ。え?でもされてみたい感情もあるようですね。まあ潜在意識なのでこれは無視しましょう。

 

「とにかく邪魔はいなくなったので先に行きますよ」

 

「やっぱりあそこに突入するんですね…」

やっぱり嫌ですか?確かに冥界の霊は悪霊や怨霊程ではないですが基本的に妖怪にとっては苦手な部類ですけれど。

 

「まあいいじゃないですか。折角のスクープですよ」

 

「うまくはめられたような…」

 

嫌だなあ…そんなことあるはずないじゃないですか。まあつぎは戦ってもらいますけれど……

 

片手にルナサさんを抱えて飛び上がる。さっきより速度は出ないけれどそれでもかなりの速度を出しているはずだ。

少し後ろからやれやれと文さんが追いかけてくる。

 

穴に近づくにつれて周囲に花びらが寄ってくる。それらはあっという間に私達を飲み込み、視界を利かなくした。

触れても殆ど感触がない。それどころか雪のように小さくなって消えていく。

 

「あやや…不思議な花弁ですね」

黒い翼が薄いピンクの海をかき分けて寄ってきた。

「花弁じゃないですよ。花弁のような形をしていますがそれは季節が持つエネルギーの結晶体です」

 

「それがこんなに……」

 

文さんがそう言いかけた瞬間、私達の身体は現世を通過した。

花びらが拡散し周囲の視界が開ける。

「きゃっ‼︎」

文さんの身体が地面と接触し地面を転がった。

咄嗟に制動をかけて身体を上に持ち上げる。危ない危ない……

「なんで急に地面なんですか!」

 

「冥界ですから…」

 

 

 

 

 

 

腕の中で伸びていたルナサさんを近くの木の側に寝かしつける。

体勢を整えさせていると地面を転がっていた文さんも戻ってきた。多少服が汚れているけれど目立たない程度にまでどうにかできたようだ。

 

「冥界だって言ったんですけれど…」

 

「冥界に地面があるなんて知りませんでした。それにしても春日和ですね」

 

「幻想郷中の春がここに集まっていますからね」

 

一周回って夏に近いかも。なんて言葉がでかかったけれどそれを飲み込んで歩き出す。

地面があるのならもう空を飛ぶ必要はない。

夜空の下に広がるのは森のような景色と私達がいる石畳の道だけ。灯りは道の横に設けられたいくつもの石灯篭だけ。それでもかなり明るい。

そんな道を、はいている下駄でカタンカタンと音を鳴らす文さんを先頭に歩いていく。

「冥界なんて初めてですから少しワクワクします!」

 

「幻想郷と比べて何もないですよ」

 

「それでも見所はあるじゃないですか」

言いたいことはわかります。ですけれど本来ここは生者が来てはいけないところ。あまり長居すると向こう側の世界に取り込まれてしまいます。

 

実際妖怪であっても生者であるわたし達はあちら側の人間ですから。

 

少しだけ煙が上がっている場所を見つける。一体何があったのか。そんなことはお互いに聞きはしない。そこであったことがなんであるかなどもうわかりきっているのだから。

少しづつ進んでいけば様相を露わにする惨状。

深くえぐられた石畳と真っ二つに切られた石灯籠。そしてそれら生々しい戦闘の後の真ん中に倒れている2人の少女。ついさっきまで戦っていたのかまだ戦いの余韻が色濃く残っている。

1人は二本の剣を握りしめたままその場に倒れている少女。短い銀色の髪は血と土で汚れ、黒いリボンは斬られたからかそこにはなかった。

白いシャツも。青緑色のスカートも斬り裂かれ肌の至るところから出血している。

 

もう1人は見た目こそ問題はなさそうだけれどすぐそばで完全に気を失っている。おそらく…魂自体を斬られたのだろう。

片方は咲夜さんもう片方は妖夢さん…どちらも死にはしないけれどかなりのダメージね。

 

「あやや、相討ちですか?」

状況から見てきっとそうでしょう。ですがかなり派手にやったようですね。まあ2人とも刃物使いであって弾幕ごっこをまともにする性格とは思えません。

「おそらく…状況を見るにそうなるようですね」

 

 

奥の方ではまだ爆発音がしている。どうやら先に巫女が到着していたようですね。

木々の隙間から見える弾幕は…幽々子のものだろうか?それすらも一瞬ですぐに見えなくなってしまう。

 

強い風が吹き荒れる。その瞬間身体を押し付けようとする強い妖気が降り注ぐ。

どうやら…封印が解けかかっているようです。

「今のは…」

 

「急ぎましょう」

手遅れになる前に…

 

少し走ると階段が見えた。ここを一気に駆け上がる。というより飛んでいく。こんなもの飛んでいくほうが良いに決まっている。

 

だんだんと屋敷が見えてくる。その屋敷の奥に巨大な桜が花を咲かせているのが見える。不味いですね封印が解けかかっている。

すぐそばに寄っていくとだんだんあの桜に引っ張られそうになる。辛うじてそれを自覚すればようやく桜の引き寄せに対抗できた。まあ妖怪ですから人間より引っ張られないのでしょうね。

 

 

 

「不味いですね…」

 

「不味いって?どうかしたのですか?」

文さんはどうやら引っ張られていないらしい。どうしてだろう?まさか私が人間だと思っているから?だとしたら嬉しいやら悲しいやら。

「あの桜何に見えます?」

 

「え…ただの妖気を孕んだ桜じゃないんですか?」

あ…妖気を孕んでいるというのはわかるのですね。ならその先もわかると思ったのですけれど…

「妖怪にはそうであってもあれは普通の桜じゃないのよ」

 

「あれは妖怪桜。生きている者の魂を喰らいその身に花を宿す人喰い桜。その美しさから人を死へと誘い再び養分にする。あれの封印が解かれれば再び桜による人喰いが始まるわ」

実際どこまで真実なのかは分からないけれど紫から聞いた限りではそんな感じだし強い力を持っていることから紫ですらどうしようもなかったらしい。

「それってどれほどなんですか?」

 

詳しくはわからないけれどあれが喰らった人間の魂は多い時で数百だったけ?幽々子さん本人から聞いたわけではなけれど紫はそう言っていた。だから封印しないといけない云々。

「そうね…あの様子なら毎年春に数百人ってところかしら?」

それを聞いて文さんの顔が青ざめた。流石に自体の重大さを思い知ったのだろう。

「それまずいじゃないですか!」

 

「今は春度でごまかせていますけれど…そもそも春度で満開にさせようとしている行為自体が封印を解く方法ですし」

 

その証拠に魔理沙は思いっきりあっちに引っ張られている。

それをどうにかしようと霊夢も必死になっているけれど彼女だってかなり危ない。巫女といえど所詮は人間なのだから。

やはりあれは正気に戻さないといけませんね。

「援護しますよ!」

霊夢達の上をフライパスし桜に向かう。

「仕方ないですね。巫女に手を貸すのは不本意ですが……」

文句を言う割に文さんも来るんですね。

追尾弾を三発発射する。誘導するまでもなくほぼ真っ直ぐに向かっていった弾幕が炸裂し太めの枝がへし折れ地面に落下していく。

桜が咆哮し、余波で魔理沙と霊夢が吹き飛ばされる。

あ、魔理沙正気に戻ったみたいですね。よかったよかった。あれで正気に戻ってくれなかったら強硬手段に出るところでしたよ。

 

「誰⁈」

霊夢が私達にお祓い棒を構えて威嚇。どうやら新手だと思っているらしい。確かに天狗ですし妖怪ですし。

「名乗るほどでもありませんよ」

 

「お前は新聞記者!とそっちは初対面だな」

魔理沙の言葉になんて返せば良いか文さんが迷う。私のことは口外しないでと言っていたからまあそうだろう。取り敢えず名無しの妖怪ということにしますか。実際名前のある妖怪の方が少ないですから。

「ただのしがない妖怪ですよ。それより援護しますからさっさと倒すなり封印するなりしてください」

名前なんてない。そんな感じの言い方だけれどべつに嘘なんてついていない。実際今の私は名前なんてないですし。

「言われなくても分かっているわよ!」

 

ただ、夢想封印といえどあれほどの巨大かつ強力な妖怪桜を封印することはそのままではできない。

溜まりに溜まったあの力を発散させなければならない。幸いにももともと封印されていた関係で保有している力は全盛期の半分ほどだ。全盛期だったら…それこそ人柱を使って封印する方法しか無かっただろう。

 

「文、陽動行くわ。なるべくあれの力を使わせるのよ」

 

「私もですかあ?折角ですし写真を撮らせてくださいよ」

そうぼやきつつ私に追従しているあたり陽動はやってくれるみたい。

「あとで撮りなさい」

亜音速まで加速。体にかかる負担を軽減するために薄い結界を張る。

接近してきた私達を敵とみなしたのか桜が弾幕を展開する。

ブレイク!左旋回。逆に文さんは右旋回で躱す。

 

私達を追いかけるように幾つもの弾幕が花のように美しく咲き蝶のように舞う。強引な制動でそれらを避けていく。文さんは……大丈夫そうですね。

体をひねりレーザーの周りを回るように回避。陽動は成功しているようだ。

霊夢さんの方には目もくれずこちらにばかり攻撃をしてくる。それでもまだ全然だ。って霊夢、なに魔理沙と話しているのよ。いまはそんなことしている暇はないでしょう。

「……!」

体が警告。目の前に意識を集中する。

目の前に現れたのは木の枝。それが硬い触手のように私に向かってくる。

咄嗟に手から出したのは炎の弾。それが枝を焼き払う。だけれど全体へ延焼することはない。

植物は自生している状態では水分が多いのでなかなか燃え広がらないし表面が燃えても内部は無事ということが多い。

今回もそれだったようで末端は燃え尽きたもののそれ以外は無事だった。

 

「これどうにかなるんですか⁈」

 

文さんが数本の根っこに追われながらこちらに突っ込んでくる。咄嗟に左にブレイクするけれど目標を変えた一本が私の後ろに迫る。前に推し進める力はそのままに垂直な障壁を展開。空気抵抗で強引に速度を落とし旋回する。

オーバーシュートした根っこが再び戻ってくるものの、その根っこの前を文さんが通り過ぎる。

半テンポ遅れて文さんを追っていた根っこと反転しきった根っこ同士がぶつかり木片を散らす。

「よし!」

 

「それじゃあ第二波です」

今度はいくつもの根っこと枝が一斉に襲いかかった。流石にここまで近づけばそうなりますよね。

枝から放たれたレーザーが私の足元を掠めて小さな爆発を生む。冷や汗が出ますよ。危ないですねえ…

 

 

「まだなんですか!」

 

「もっとこの桜を消耗させなさい!」

文さんの叫びに霊夢が反応する。

「仕方ねえ私もいくぜ‼︎」

 

「あ‼︎待ちなさいっ!」

 

魔理沙までこっちにきたんですか⁈あなたさっきまで桜に引っ張られていましたよね!あ…どうやら霊夢がお札を貼ってくれたようですけれど長くは持ちそうにない。もうすでに三分の一が黒く炭化してしまっているのだ。

 

早めに決着をつけないと……

 

「火力アップです。こちらも…想起『キャッツウォーク』!」

 

お燐のスペルですが借りさせてもらいます。私が使うスペルは霊夢の前で散々使ってしまったのでそれを使うことはできない。まあ想起と言ってしまっているので気休め程度にしかならないでしょうけれど。

 

わたしから放たれたいくつもの妖弾が妖怪桜の手前で誘爆していく。

結界を張られましたか。想定内です。

「えーっと私もスペルカードを使った方がよろしくて?」

文さん?貴女の場合スペルカードを使ったら弱体化するじゃないですか。

「どちらかというと大火力で消耗させたいのですが…」

 

「じゃあ私の出番か‼︎」

魔理沙⁈突っ込みすぎです!

咄嗟に魔理沙の前に出て結界を展開する。結界にいくつもの妖弾と枝が当たりヒビがいくつも走る。

「恋符『マスタースパーク』‼︎」

まさか後ろで⁉︎咄嗟に体を下に飛ばし結界をずらす。

コンマ数秒の差で真上を魔力の本流が流れていく。

かなりの近くで発生した魔力の砲撃は枝や根っこを巻き込み消失させながら巨大な幹に向かっていく。当然それも結界によって防がれるもののかなりの力をそれに回してしまったのだろう。桜の花びらが気付けば3割あたりにまで減っていた。

「危ないじゃないですか」

 

「あんたなら避けてくれると思ったからな」

買いかぶりすぎですよ。

 

「さて霊夢、あそこまで減らしたんだからもういいだろう」

 

「ええ、ここまでやれれば十分よ」

魔理沙に代わって今度は霊夢が…何故か文さんに引っ張られて飛んで行った。確かにあの速度で飛んでいければ攻撃を命中させられる確率も低くなりますけれど…

「霊符『夢想封印』‼︎」

放たれたスペルカードから七色の巨大な光弾が現れる。

それらがマスタースパークで疲弊した桜の木を飲み込んだ。

溢れ出る光を利用して私はその場から離れる。全員の注意は向こうに向いているし引くのは今だろう。文さん?どうせ2人に取材するつもりでしょうから私はいない方が良いですね。

 

 

ある程度の高度で飛んでいれば、やがて景色が変わる。同じ夜空でもこちらの方がまだ生き生きしている。あちらとはなんだか違う空だ。

……さて、春支度をしなければ…急に季節が変わるから体調を崩すヒトが増える。それにもある程度対処しないと。

 

 

 

「あの水色の子どこかで会ったことあるような…」

異変が解決し集まっていた春度が幻想郷に拡散していくのを見ながら私は記憶を手繰り寄せる。

いや水色の髪のあんな子初対面なのだけれどどうしても初対面だとは思えない。なんだか懐かしいようなそんな感じがした。

 

「どうしたんだ霊夢、異変は終わっただろ」

 

「魔理沙、あの水色の妖怪は?」

 

「へ?あーどこに行ったんだあいつ」

 

「彼女の方でしたら帰りましたよ」

私と魔理沙の合間に割って入ってきたのは途中から来た天狗だった。そういやこいつとあの妖怪いっしょに来ていたわね。

「ああ、文あんたなら知っているのよね。あの妖怪のこと」

私の質問に嘘がつけない記者は思いっきりたじろいた。何か知っているわね。

「えっと……口止めされていまして」

 

「ふうん…あんたに口止めできるってことはかなり上の人物ね」

 

「ノーコメントで」

 

ってなるとあいつは山の妖怪の中でそこそこ優位な地位に立つ天狗にさえ顔が利く…それだけあれば調べはつくはずよ。

 

「霊夢本当にどうしたんだぜ?」


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