寒い……
いやさ…冬だから寒いのはわかるんだけれどそれにしたって寒くない?
雪だっていつまでたっても溶ける気配ないし。
腰まで積もった雪をどうにか掻き分けながら家の前まで行く。昨日の朝に雪かきをしたはずなのにもうこんなに積もっている…
多分違うね。退かした直後から積もった雪が溶けずにそのまま残っているのね。
普通そんなことはあり得ないのだけれど…地面だっていくら真冬だとはいえある程度の熱を持っている。だから少量の雪なら地面に触れてすぐ水に変わってしまう。もちろん降り続ければ表面から熱が奪われるからいつまでも水に出来る訳ではない。
「えい!とう……うへ…寒い」
歩くのも億劫になってきたので障壁を展開し除雪もどきをやってみたら障壁の高さをあっさり超えた雪が頭に降りかかった。
おまけに前も見えない。
ダメだこりゃ……このままじゃ冷凍こいしになっちゃう。
素直に飛んで行ったほうがよかったかなあ?でも天気が悪い時に空を飛ぶと危ないからなあ。
一応玄関の前だけは雪が溶けていた。
お姉ちゃんが退かしておいてくれたのかなあ……
まあいいや寒いし入ろっと。
家の中に入れば寒さもかなりマシになった。それでも寒いことに変わりはないのだけれど…
「ただいまお姉ちゃん」
暖気が漏れている部屋に向かえば、そこには温まっているであろう掘り炬燵とその上に置かれた蜜柑。まるで天国であるかのような光景が一面に広がっていた。
勿論そんな光景を目に私がなにもしないわけがなく、外套を脱ぎ去りそのお布団の中に入り込んだ。
「あーあったかい…」
入った瞬間、体が縛りから解放されたかのように昇天を始めた。
「こいし溶けてるわよ」
「炬燵の魔性には逆らえんのですよう」
いつもの口調も全部持っていかれてしまう。ああやばい私という存在が炬燵に食われる…
「アホなこと考えてないで…甘酒飲む?」
「飲む!」
炬燵で甘酒かあ…このコンボは即死だよ…でもやめられない。
お姉ちゃんが甘酒を取りに台所に行っている合間にお空とお燐も戻ってきた。2人は家の中にいたらしくそこまで冷えてはいなかったようだけれどやっぱり炬燵に潜り込んでいた。
「……はい甘酒。お燐とお空も飲む?」
戻ってきたお姉ちゃんの手には甘酒が四つ乗ったお盆があった。途中で2人が来ることに気づいていたみたいだね。
「飲みます!」
「いただくよ」
ああ、やっぱり飲むんだ…予想はしていたけれど……
私の前に置かれた甘酒を少し口に含む。熱いけれど飲めなくはない。お燐は…案の定アチアチ言ってた。仕方ないね。
甘い……やっぱり寒い時は炬燵に甘酒だよねえ…温かくて美味しいし。
「それで、人里の様子はどうだったの?」
体も温まり気も落ち着いてきたところでお姉ちゃんが訪ねてきた。そうだったそうだったと必死に記憶を手繰り寄せる。
「やっぱり暖房用の燃料と確保していた食料の備蓄が限界だって」
「やっぱり……」
そうだよね。真冬並みの天気だけれど今は三月も終わる。雪が溶けてそろそろ春の天気になるはずの頃なのに未だに天気は1月あたりの状態のまま。その上豪雪だ。人里にも異変なんじゃないかって心配する声が相次いでいる。
「お姉ちゃん、異様に外寒い」
「もう三月なのにねえ……」
お燐途中の記憶が抜けてるよ。もう三月じゃなくて三月はもう終わるんだよ。普通ならとっくに花見だよ。
「寒波でもこんなことありませんよ」
お空の言いたいこともわかる。これはただの天候じゃない。多分異変だよ。
「そういえばこの前人里に支援物資送りませんでしたか?」
「あー確かに送っていたよね。こいしそれはどうなんだい?」
ああ、そういえばこの前送ったね。不足しがちな暖をとるための燃料と食料。そっちも数日前に尽きたって言っていたような…
「このままだと寒さで死者が出かねないわよ」
「実際狩に出て帰ってこなかった人が何人か出ているらしいよ」
普段慣れないことはしないほうがいい。特にその道のプロですら止めるような天候の時はさ…
「今頃は雪の中かあ…これじゃあ死体を探し出すのは雪解けになってからだねえ…」
お燐ですら諦めるのならもう見つからないね。
でも雪の中なら氷漬けになって保存状態は良さそう。少なくとも腐敗や破損が少ないから良いかも。
「やっぱりこれ異変だよね……」
「そう考えて間違いはないですよ」
ようやく冷めてきたのかお燐が甘酒を一気に飲み干す。豪快だなあ……
コーラ一気飲みみたい。コーラが何か知らないけれど。
「いずれにしても私たちが動く必要はないわよ」
きっぱりと言い切ったのはお姉ちゃんだった。
「異変だったとしたら解決は人間が原則ですからねえあたいらじゃどうしようもないですよ」
そうなるんだよねえ…参ったなあ…この様子じゃ巫女が異変解決に向かった様子はないし。
「人ならざる者だって解決に参加してもいいのよ」
え?そうだったの?てっきり妖怪は参加しちゃダメなのかと思った。ってそれを知っているならなんでお姉ちゃん動こうとしないのさ。
「じゃあ解決してこようかなあ……」
「弾幕ごっこのルール厳守よこいし」
「う…それは少し難しいかも」
勢い余って弾幕(ガチ)を撃ち出しちゃいそう。一応弾幕ごっこは地底のみんなやお姉ちゃんとやっているから自信はあるけれど…
「あ、そういえばさとり様、家の横にあったあの屋台はなんですか?」
屋台?そんなの家の横にあったかなあ…もしかして雪で埋まっちゃっているとか?
あー確かに何か膨らみのようなものがあった気がする。気にしてなかったから忘れてたよ。
「あれはミスティアのよ」
え?あれみすちーの屋台だったの?この前屋台作ったとか言っていたけれどまさかあれだったんだ…雪埋まってて見れなかったのが悔しいや。
「あれ?みすちー来てたんだ」
「雪で身動き取れないし寒かったらしいわよ」
そりゃこんな雪積もってたら誰も屋台に行けないよ。それに屋台自体が埋まっちゃいそうだし。
寒さしのぎでここに泊まる妖怪が増えているけれどまさかみすちーまで来てたんだね。
となると…もう宿泊用のお部屋は満杯かな?いやーまさかこんなことで満員になるなんてね。まあ部屋を無償で貸しているだけだからお金とかなんてとってないけれど。
あ、もちろん全員分の食事なんて1人2人で作れるようなものじゃないから何人かに手伝ってもらっているよ。
困ったらお互い様だからね。
「……少し様子見てくるね」
まだ食事の時間には早い。そうなってくるといくら暖かくてダメ人間を製造する炬燵であっても暇を消し去ることはできない。特に妖怪が暇と感じる時は相当なのだ。だからまた外に出る。寒いけれど少なくとも暇ではない。
「暗くならないうちに戻って来なさい」
お姉ちゃんが手袋と耳あてを引き出しから取り出してくれた。さっき忘れて行っちゃったんだよね。今回も忘れるところだった…
「わかってるよ。後耳あてと手袋ありがと!」
再び外に出るとさっきよりも降る雪が少なくなっていた。このまま止んでくれるのかなあなんてそんな希望を抱きつつ空に舞い上がる。人里とかの様子は見た。後は山と…色々と見てまわろっと…
ふらっと歩いているとどうやらここはあの魔法の森だったみたい。雪でいつも有毒胞子を出すキノコが軒並み雪の下か死滅しているのか毒がなくなっていて気づかなかった。
「やっぱり…温度が下がっているぜ」
地面を掘りながら何かをしている白黒魔法使いを見つけてこっそり後ろから近寄ってみる。なるべく音を立てないように慎重に……
「んーなにしているの?」
すぐ真後ろで声をかける。ついでだからか肩をポンポンと軽く叩いた。
「おわっ‼︎おどかすなよ」
あはは、綺麗にジャンプした!なんだか可愛い…
「えへへ、驚かすつもりはなかったんだけれどね」
というのは嘘です。もちろんバリバリ驚かすつもりでした。
「それでどうしたの?地面の温度なんか測ってさ」
もしかして異変のことでも調べていたのかな?確かに日照時間は季節に合わせて長くなっているはずなんだけれど…どうも曇り空のせいで日が遮られちゃっているからあまり恩恵を受けられていない。でも地中温度測ってどうするんだろう。
「なんでもねえよ。妖精だかなんだか知らないがあっちで遊んでな」
むう…ぶっきらぼうな言い方だなあ。あ、もしかして異変解決を巫女に持ちかけて断られたから不機嫌なのかなあ…
「そうするよ。異変捜査の邪魔しちゃ悪いからね」
まあここはおとなしく引くことにしよっと……イラついている相手ほど怖いものはないし。
「ふーん…結構知ってそうだな」
ありゃ?何か勘違いされたかなあ…
「そんなことないよ。知ってることしか知らないし私は異変とは関係ないよ」
急に強い風が吹いてまだ降ったばかりで固まっていない雪が舞い上がる。あ、外套外れちゃった。って粉雪寒い!
「だろうな…ってあんたあの屋敷のメイドか?」
「正確には違うけれどその認識で良いよ」
あの時は一応メイド服だったし認識としてそう思われても仕方がない。でも正体を明かすわけにもいかないからね。
「どっちなんだぜ」
「さあね。正体がわかるまではいくつもの可能性があるからそれはそれで面白いじゃん」
「シュレディンガーの猫みたいだな」
神妙な顔つきになった白黒魔法使いさんが笑った。
「あ、分かった?」
「これでも魔法使いだぜ」
魔法使いとシュレディンガーの猫ってなんの関係があるんだろう?
私は魔術を使うから魔法のことは少ししかわからない。
「魔法っていうのは魔力の想像で現実世界に干渉する一種の装置に近いものなんだ。だから例えば…中に魔力を充填させた絶対に壊れない箱があったとしてそこに私が少しだけ何かの術を混ぜればなにが起こると思う?」
「その術が表す魔法現象が発生する?」
それ以外思いつかないんだけれど…
「魔術ならならそれで良いが私が入れたその術はあらゆる可能性を持つ初期動作。つまり魔法の方向性を決める手前の段階のものだったとしたらどうだ?」
えーっと…確か一番最初に術式に入れる大事なやつで全ての魔術と魔法に共通している一種の魔力入力口になる術を入れるってこと?
「その場合存在するしないに関わらずあらゆる魔法現象の可能性があるけれど基本は失敗しちゃうじゃん」
魔術でも魔法でも入口だけあってもそれ以外がないと反応なんてしないよ。まあ、まれに魔力が方向性を持って何かの式が偶然構築される可能性はあるけれどそれは魔術じゃなくて魔法の領域だからなあ…
「普通はな。だが失敗したのを確認するのはどうする?もしかしたら中で何かの魔法が作動しているかもしれないぜ?」
「だからシュレディンガーの猫なんだね」
ようやく納得したよ。
「そういうことだ。理論的にはこの方法が確実に新しい魔法を見つける手だてになるんだがなにせ理論だけだからな」
首元に巻いたマフラーを少しだけ口元からずらして彼女は得意げに言った。今まであまり話せる相手がいなかったんだろうね。すごく嬉しそう。
「私得意分野魔術だから詳しくはわからない」
「なんだ魔術は使えるのか」
意外そうに聞いてきた。パチュリーは魔法使いだしむしろ魔術を使うヒトって少ないのかなあ?
「まあね」
「魔術と魔法じゃ根本が変わってくるからなあ…」
それでも何か面白そうに私を見つめてくる。なんだろうね……
「魔術は数式とかで魔力を理論的かつ科学的に現実世界に干渉させるのであって基本は術式メイン。それに対して魔法は魔力を簡単な術式で方向性を決めさせるからあくまでも魔力がメイン。考え方が違うからなあ」
「だから魔術は確率論はあまりしないんだ。基本術式で導かれた答えだからね」
一応魔法も大雑把なことはわかるし最近では魔術師より魔法使いの方が増えている…というか魔術師滅びかけているというのが現状なんだよね。
言っちゃえば魔術ってある種の科学だし結果が決まっているから魔法より発展性に乏しいし。魔法の方がむしろ不確実性を利用して発展性に富んでいる上に実際高度に発展してきているし。
「ついつい話し込んじゃったな。どうだ?異変が解決したら家で談義でもしないか?」
ようやく我に返ったのか自分の目的を思い出したみたい。でも同時に家に誘うかあ…
「面白そうだからする!」
「そっか。私は霧雨魔理沙!あんたの名前は?」
「私はこいし。よろしくね」
「こいしか…分かった!春になったらまた話そうぜ!」
そういうと魔理沙は木に立てかけてあった箒を手元に手繰り寄せ空に舞い上がった。踏み固められていない雪が舞い上がりあたりに飛び散る。
それが僅かに煌めいて幻想的だなあって思っていると、それらがさらに光り輝く。そして遅れてやってきたパシャリというシャッターが切れる音。
「あれ?珍しいねえ」
「はくしゅっ‼︎」
隣でミスティアさんがくしゃみをした。やはり部屋の温度が低いだろうか?
一応これから竃の火をつけるので暖かくなるのですが、料理ができる数少ない人材なので風邪を引かれても困ります。
「部屋が暖かくなるまでこれ着ていてください」
とりあえず私が着ている半纏を貸す。だって普段の服だけじゃ寒いでしょ。いくら気温氷点下までいってないとはいえ一桁台ですからね?
私なんて半纏の内側に重ね着しているんですから。
「やっぱりこれ異変なんでしょうか?」
包丁を持つ手を止めて私に向き直ったミスティアさんが聞いてくる。その瞳がまるで私の中を覗き込むようで少しゾッとする。妖怪ってよくそんな目しますよね。ええ…特に戦う時とか。
「かもしれませんねえ」
まあ異変とわかったところでどうすることもしないですけれど。
「さとりさんはよく落ち着いていられますね」
「まあ…仮に異変だったとしたら終わらない異変はないですからね」
実際終わらない異変があるとすればそれは地球に生命と…生命に近い存在でありながら生命ではない妖が存在すると言うことでしょうか?
「そうやってずっしり構えている人がいると安心します」
ふーん……そうなんですか?まあ指導者はどんな時も狼狽えたりしてはならないとありますが…私は指導者なんて向いていませんし。
「まあこのままだとひまわり畑の主が来るかもしれないけれど」
このままだと向日葵の生育に影響が出ますしそれに向日葵や大事に育てている花が絡んだ時ほど恐ろしいことはないですし。
「それやばくないですか?」
幽香さんの恐ろしさを知っているミスティアさんが途端に顔を青くさせた。
「冬だから力がある程度落ちていると思いたいわ…でなければ巫女に退治される数が増える結果になるわ」
その巫女ですら苦戦するかもしれないときましたからね。おかしいですね。彼女弾幕ごっこ苦手とか言っていたのに…苦手だからという理由で幽香さんが手も足も出ないなんてことは想像できない。
まあ内心涙目で勘違いされっぱなしだとは思いますが…それはそれで面白いので黙っておきますよ?知ってしまった秘密はたとえどんなことでも極力秘密にするのがポリシーです。
「焦った方が良いですか?」
「巫女が焦るから平気よ」
何故か呆れるミスティアさん。
「さとり、お客さんだよ」
台所に入ってきたお燐が私の袖を掴んだ。
こんな時間にお客さん?一体誰かしら……
「お客さん?誰なの?」
「子供が1人だよ」
子供?どうして子供が1人でこんなところまで……絶対ただの子供じゃないわよね。
あとをミスティアさんに任せお燐と共に一度居間に向かう。
応接室を兼用している居間には確かに子供が1人炬燵に足を入れていた。
ややおかっぱ…というかおかっぱだったのが髪が伸びてしまったような髪に少し高そうな和服を着た女の子…どことなく出ている妖気から普通の子どもではないのがわかる。
「初めまして。座敷童と申します」
座敷童に座敷童だと名乗られた件について。
「なあ霊夢、流石に動かないとまずいだろ」
はいはい何回目よそれ。私は寒いのが大の苦手なの!だからコタツから外に出るのは寝るときを除いて必要最低限にしたいの!
「異変の確証があるのは分かったわ。だけれどね、いくら確証があっても場所も目的もわからないようじゃ無駄足を踏むだけよ。ただでさえ寒いのにやってられないわ」
「ああそうかい!異変解決の意思がないってことがよく分かったぜ!」
なんで怒るのよ。怒ったらシワが増えるわよ。
「異変解決の意思がないとは言っていないわ。でも黒幕が分からないのにこんな雪の中を動き回るのが嫌なだけよ」
「分かったぜ…じゃあ、ある程度私が原因と黒幕の見当をつけているって言ったらどうだ?」
黙って出て行く気は無いのね。
はあ…仕方ないわ。話だけは聞くからコタツに入りなさい。そこにいたら寒いでしょ。
少しだけ横にずれスペースを開ければ、滑り込むように魔理沙が入ってきた。
もうちょっと近づいてほしいわ。その距離じゃ教えづらいでしょう。
「霊夢はこっちで温まっているだけだったかもしれないがこっちは色々と調べているんだよ」
「そう、なら貴方なりの原因究明を聞かせてもらえないかしら?」
「まず冬が終わらない理由!」
めっちゃ乗り気ね。狙っていたでしょ。
「気象現象なんじゃ……」
「甘いな霊夢は。最初は天候だけかと思ったが日照時間自体は通常の季節と変わらないぜ。いつも雪雲がかかっているから分かりづらいけれどな」
「なら冬妖精が力をつけすぎて四季のバランスが乱れているとか?でもそれはあり得ないわ」
私もその線を疑ったけれど全然そんなことはなかったわ。むしろ冬の力が勝手に増大して少し暴走しかかっていただけだったわよ。
「ああ、いくら考えても調べても季節の力が増大している証拠は無かったぜ。だからパチュリーに聞いたんだ」
「あんたも思いきったわねえ…出禁にされたんじゃなかったの?」
「ちゃんと本は返したぜ?全部じゃないけれどな」
だめだこりゃ…死んだら返す気でいるわね…まあ魔法使いの研究なんて一生かかるものもあるから仕方ないでしょうけれど。
「結論として季節の力は下がることはあっても増大することはないんだぜ」
「ああ…じゃあ誰かが春の季節の力を奪っているから……」
「その線が濃厚だったから観測地点の地表温度とパチュリーから直接借りた季節の力を測る術の入った魔導書で調べたらドンピシャだぜ」
「つまり誰かが春の力を奪っていると言うことね……魔理沙にしては上出来じゃないの」
「言い方があれだな。もっと褒めるとかしないのか?魔理沙サマーとか」
不満そうね…
「様付けとか似合わないわよ。それに黒幕が誰か分からないじゃないの」
一通り喋ったんだから蜜柑食べて少し気分を落ち着かせなさい。ハイになったままだと色々と面倒だからね。
え?筋が残っているって?普通筋は残したままよ。
「黒幕ぐらいさっさと探せばいいだろう?季節の力を奪うんだ。それなりに準備や方法があるしここまで大掛かりなものとなればそれなりにボロが出てもおかしくない」
「そうね……じゃあ蜜柑食べたら解決に行くわ…面倒ね」
折角魔理沙がある程度調べたんだし流石にここで動かないと人として最低よね。まあ人としての道を踏み外していないから別に動かなくても良いよなあと思ったりしてしまう私がいるのも事実だけれど。
「そういや紅魔館のメイド長知っているか?」
「咲夜のこと?」
「ああ、そいつも異変解決に出たって話だぜ」
「あっちは黒幕を知っているのかしら?」
「おそらく知っているんじゃないかな…」
あの吸血鬼の入れ知恵ね。ならば一緒にくっついていけば自ずとたどり着けるはず……
「じゃあ仕事がとられないように最低限の動きだけはしますか……」
あ、その前にお茶飲んでいくわ。先に行っていていいわよ。
「寒いと人はここまでだらけるのか」
「温暖な地域の生き物は寒くなると活動が極端に弱まるのよ」
「屁理屈ってやつか?ならこの部屋を暖かくしていいんだぜ?」
「あいにく炬燵で間に合っているわ」
普段はしまっている来客用のお茶を出しつつ、炬燵で温まっている小さな少女を見つめる。見た目に騙されることなかれ…確か彼女は、彼女達は紫が重宝する手駒だったはず…まあこれを知っているのは紫か僅かなヒトだけですから言わなくても良いか。正直な話人里での諜報活動など私には興味ない。
「座敷童さんがわざわざ何用でこちらに?」
そもそも表向き人里で家に飼われている存在がどうして来たのだろうか?
「単刀直入に言った方が良いですか?」
できればそうしてください。後少し不機嫌なのはこの大雪の中を歩かされたからですか?
んーなんだか違うようですね。あ!もしかして覚り妖怪だと知っているからですか?まあ仕方がないです。種族は変えられませんからねえ。
「どちらでも構いませんよ」
「異変の黒幕を知っていながら動こうとしない人がいるとある情報筋から」
つまりいい加減異変解決に動けやと言うことだろうか?確かにこの前紫と話す機会があったのですが…それだけで?特に異変のことなんて話した記憶ないのですが……
「ということは子供を使って抗議ですか……」
「どうやらそのようです…前の住んでいた家の方からはかなり引き止められたのですけれど…」
そりゃ一時的とはいえ家を離れるわけですからねえ。誰だって引き止めますよ。
私だって座敷童は引き止めます。だって可愛いですし。
「そう言えば座敷童ってなんなんだい?」
場違いな発言が周囲の空気を凍らせて止めた。お燐…いくら猫で気まぐれだからってそれはないわよ……
「お燐……」
私がため息をつくと何故か知らなくて当たり前やみたいな表情をされた。なんでですか?知らないのが普通なんですか?
「良いですよ。妖怪相手だと知名度が低いですから」
あ、そうなんですか…てっきり人間にも妖怪にもある程度知れ渡っているのかと思いました。ごめんなさいねお燐。
「ふーん……」
あ、完全に猫モードね…これじゃ何言っても聞き流しているのか聞いているのか分からないわ。
「で、座敷童ってなんなのだい?」
「一般的には座敷童は本来岩手県周辺で伝えられている妖精のようなものです。蔵や母屋に出現し座敷童が住んでいる家は繁栄するとか、悪戯が好きで色々とやっているとかそう言われています」
勘違いされやすいですけれど妖怪というより妖精とかに近い存在なんですよね。
「おおーよく分かりますね。幻想郷縁記にもそこまで書いていないですよ」
え…そこまで書いていないのですか?まあ…いいです。
「家に住み着く存在ねえ…」
ええ、でも大元になった存在は確か子供の霊だったような…そもそも悪戯好きなところもありますし。
「元を辿れば口減らしで殺された子供の霊だったりが集まって出来た概念なんですよ。だから悪戯をしたり子供にだけ見えたりといろいろです。そこは同胞に聞いてみないとなんとも」
まあ群生単一個体だとどうしてもその辺分かれますよね。
「でも幸福を呼ぶ存在って本当なのかい?」
子供の…しかも口減らしで殺された霊が幸福を運ぶなんて流石に馬鹿げていると思いますよね。
「正確には未来を予知する能力があるのよ。いつも家の様子を観察しているから些細な災害を予知し家人に伝える…それが曲がり曲がって幸福を呼ぶとか豊かになれるとかそういった伝承になったのよ」
「あら、もう知っていらしたのですか」
これは意外だと思ったらしい。結構驚いていた。はて…これくらいは常識かと思いますが……実際霊夢も私がいた頃に尋ねてきたから教えましたし。
秘密でもなんでもないですし。
「なんとなくだけれどね…」
「さて、本題に戻りましょう。異変の原因を知っているなら対処しても良いというのはちゃんと定めに記されていますよ」
「だからと言って行くも行かないも自由でしょう?」
子供の見た目なのに流れ出る妖気は相当なもの。どうやら本気で私と対話をしたいようですね。仕方がないです。少し付き合ってあげましょう。
「折角ですから異変解決に行ってみたらどうですか?別に妖怪が異変解決をしてはいけないという定めはないはずですよ」
提案のようだけれど結局それ断る選択肢をとったらなんとしてでも異変解決に向かわせようとしますよね。
でもそんな手には乗らない。
「私に異変解決をさせたい…それが紫の本意ですか…」
「誰の本意かはさておき、想像していることは近いですよ」
顔色ひとつ変えない…か。まあそうですよね。
「なら本人が直接言えば良いことを…いえ、それだと異変の相談に乗った意味がなくなるからでしょうか?変わらないと思いますけれどねえ」
「詳しいことは知らされていませんからなんとも」
涼しい顔で受け流しますか…まあ実際に知らされていないのでしょうから仕方がないか。それに、そろそろ巫女が動いている頃でしょうし行く意味ないんですけれど…不本意ですが、様子だけ見に行きましょうか。
「仕方ないわ…ちょっと出かけてくることにするわ」
すぐに立ち上がり身支度を始める。
「今からですか?夜になってしまいますよ」
ずっと側で寝っ転がって喉を鳴らしたりして呑気にしていたお燐が起き出した。
「妖怪が逢魔時に出るなら幽霊は丑三つ時よ」
夜だから良いのよ。
「では私も帰りましょうか」
私と同じく立ち上がった座敷童が部屋の襖を開けて廊下に出る。
「送り迎えくらいはしますよ?」
「ご心配なく。それでは…」
そう言い残して座敷童の姿は霧になって消えてしまった。まるで萃香さんのような消え方ね。
「それじゃあ私も支度してくるわ」
このままでは霊夢達と鉢合わせてしまった時に正体がバレてしまう。少し手の込んだ変装をしなくては……
「あんた誰だい?」
「え…さとりよ」
「嘘だ!」
なら変装は完璧ね。
「さとり様」
私とお燐が少し揉めていると、そこにお空が入ってきた。
「あれ?さとり様は……」
やっぱり変装が上手くいったのかお空が気づく様子はない。
まあ気づかれるような変装はしていないから分からなくても仕方がない。
「お空…目の前にいるのがさとりだよ」
お燐が苦笑いしながらも教えるがそれを信じる気は無いみたいね。
「やだなあお燐、流石に冗談すぎるよ」
それもそうよね。
紫がかった紅い薄桃色の髪はコバルトブルーが少し混ざった黒色になり癖っ毛故の毛先の跳ねもストレートにしている。さらにバレないように赤色のメガネをかけて普段は使わない化粧道具を使って少しだけ肌のトーンを落としている。挙句身長も普段より20センチ増しにしたのだ。まず同一人物だとは思えまい。
いやあ……関節を外したりずらしたりして無理に身長を高くしたせいで少し辛いです。まあこれくらいなら支障はないのですけれど。
ちなみにサードアイは羽衣で隠している。
「いえ、私よ」
流石に声まではまだ切り替えていないからこれでお空も気づくだろう。
「え…見知らぬ女の子がさとり様の声で話している…」
まさかまだバレないなんて……お空鈍臭いを通り過ぎてあれね…少し思考をどうにかしないといけないわね。
「変装しているだけよ」
サードアイを見せたらようやく信用してくれた。やっとですか……
「なんだそうだったんですかー。お燐もちゃんとそう言ってよ」
「あはは…悪いねえ…」
「あ…やっぱり目の周りとかさとり様だ」
「そこで気づく?」
髪留めを使って少し髪をまとめているせいか印象がずいぶん違うのだろう。
ついでに…
「これでどうかしら」
少しだけ妖力を使いお燐の耳と尻尾を再現する。
とは言っても飾りだから意味はないけれど。
なんとなくつけておけば変装の足しになるかな程度だ。
「あれ……同族に見えてきた…」
あらお燐、仲間として見てくれるの?なんだか嬉しいのやら悲しいのやら…
「あらそう?なら成功ね」
ここまですれば誰も私がさとりだとは気づかないだろう。だけれど霊夢の勘だけは気をつけなければいけないわね。
あれは本当未来予知とか心読とかそんなんじゃない。本当にやばいやつだから。
「それじゃあ行ってくるわ。一応ご飯はミスティアに任せるけれど大変かもしれないから手伝ってあげて」
「今度何かお礼くださいね」
お燐、そんなこと言うなら貴女には唐辛子エキス入りの目薬をあげるわ。もちろん冗談だけれど……でも護身用に凝縮唐辛子エキスのスプレーならあるから作ろうと思えば作れてしまうのが怖い。
「私台所見てくるね!」
部屋を出たお空に続く形で私も部屋を後にする。
ひんやりとした空気が露出した僅かな肌を刺す。針で刺されたような痛みが全体に広がりやがて消えた。
確かにこの寒さでは霊夢も動きたくなくなりますね。
それに…生命力が全体的に落ちているように見えます。このままだと少しまずいかも。
さて、一応誰が黒幕かは知っているわけだから寄り道する必要はない…だけれどやはり寄り道というかなんというか…ちょっとした様子見をしたいと思うのは悪いことではない。
実際あまり気を張らなくても良いのだし。ただあの妖怪桜は少し危ないかなあ…「浮ける」霊夢は問題ないけれど咲夜と魔理沙は対抗策がないとかなり危ないだろう。まあ仕方がないのかもしれないけれど。
向かうは妖怪の山。雪に半分埋もれかけた地面を下に悠々と空を飛ぶ。
ここまで銀景色になってしまうと晴れた時に地面からの照り返しがきつく飛ぶのは難しいけれどあいにく曇っているおかげでそこまで照り返しは酷くない。
それよりも哨戒している白狼天狗は銀髪か白髪な上に普段から白を基調にした服を着ているせいで雪景色では自然と迷彩になってしまっている。
だから接近に気づけないことが多い。特に私が指導してからは迷彩服を着る子が増えたのか年中見つけづらくなってきているのですけれど。
「止まりなさい!これ以上先は天狗の要域です!許可のない侵入は許しませんよ」
ありゃ…やっぱりきた。しかも今変装していますからこれはまずい……
どうしたことか…
数は2人。だけれどバックアップが近くにいて何かあればすっ飛んでくることを考えれば攻撃して強行突破とかはしたくない。
一応柳君がくれた通行証代わりになるやつは持っているのですけれど。
これ通用するかなあ?少し前に古くなったのと交換してもらったのですが真新しいと偽物と疑われる場合があるとかなんとか言っていたような。まあいいや。
「これ一応あるのですが…」
私が懐から引き出したそれを見て2人の白狼天狗が仰天した。というより驚愕してしまったが故にしばらく静かになってしまった。
「あ…はっ!失礼しました!どうぞお通りください!」
あら…随分あっさり通すのね。もしかしてこれそこまでやばいやつなのだろうか?確かに前に交換したものと紋章や繊細度が違いますが……
まあ通れるのであればなんでもいいや。
おっとそうだった…折角白狼天狗に会えたのだから聞いておかなければ。
「あの…お尋ねしたいのですが射命丸文はどちらに?」
「射命丸さんですか?すいませんわかりません」
やはりダメでしたか…まあ哨戒任務中のヒトに聞くことでもなかったわね。
「いえ、お気になさらず」
地道に探していきましょうかねえ……もしかしたらもう異変の黒幕のところに行っているのかもしれない。
少し探していないようであればさっさと行きましょうか。
「あややー見ない顔が山に来たと椛が伝えてきたから何かと思えば…」
一陣の風が吹き、背中に声がかけられる。それと同時に舞い上がる黒い羽。振り返ればそこには探そうとしていた人物が音も立てずに浮いていた。
「あら、文さんいたんですか」
普段と同じような仕草をするのもアレだったので少しお嬢様風の身なりで動いてみる。まあ着ているのは羽衣と浴衣に近い服なのでお嬢様風にはなりませんけれど。
「ええ、さとりさん久しぶりですね。見ない合間に随分と変わったようですが…」
あら、まさか私の正体を一瞬で看破するとは…誰の入れ知恵でしょうか?
「ただの変装ですよ。それにしてもよくわかりましたね」
どのようにして見破ったのか…気になるところです。
「匂いでわかりますよ」
匂い?ああ…そういえば風呂入って匂い落としてくるの忘れました。なるほど…そこからバレてしまったのですね。
「では……香水つけてきた方がよかったでしょうか?」
「いえ、そういうことではなく…雰囲気というものでしょうか?なんとなくわかるんですよ」
……どこかで気配遮断の能力があるお面を買った方が良いかしら?霊夢に見つかったら即バレねこれじゃあ。
「それで今日はどうしました?変装までして出てきたということはきっと何かありますよね!」
急に嬉々として私に抱きついてきた。一応関節をずらして身長を誤魔化しているから同い年に見えなくもないですが普段の姿でそれをやったら完全に犯罪ですからね?後急に抱きついたら危ないですって……
「ちょっと異変解決のお手伝いに…正体がバレるとまずいので私の名前は隠しておいてください」
「おお!バレずにこっそり…密かに解決のお手伝いですか!かっこいいですねえ……お伴しますよ」
まるでスパイ映画見たいとか言いそうな表情だ。まあ映画なんて幻想郷に来ないのですけれど。でも一緒に来てくれるのはありがたい。交渉の手間が省けました。
「もとよりそのつもりです」
行きましょうかと再び空に上がる。確かあの雪雲の上に冥界への入り口が口を開けているはずだ。まあわざわざそこから行かずとも、旧地獄を経由して三途の川まで行けば自ずと冥界には行けるのだけれど。
「黒幕について知っているようですが…」
「まあ知っていますけれど…ところで雲の上はちゃんと見たことありますか?」
「いえ…見てはいません…まさか黒幕は上にいたんですか?」
あら、貴女が見ていないなんて珍しいわね。
まああんな雪降らしている雲の中に突入するのは気が引けますけれど。
「当たらずとも遠からず……」
真実は目で見て確かめなさい。
速度を上げて空を飛ぶ。文も私に続いて上昇を始めた。とはいえ普段の速度よりもかなり遅いですけれど。私に合わせてくれているのだというのは直ぐにわかった。
まあ焦っても仕方がないのだからこのままのんびり行こう。
「うーん…参ったわね」
「だなあ…」
気がつけば魔理沙とともに同じところを何度も回っていた。まるで広範囲に結界がかけられておりそこから抜け出せないかのようなそんな感じだった。
無人の村を見つけて降りてみたは良いけれど入ってからどうも前に進んでいる気がしない。いや実際には前に進んでいるのだけれど結局同じところに戻されてしまう。さらに空に上がろうとしても気がつけば一定以上の高さから移動していないなど空間が繰り返しを起こしている。
その上人がいない…建物だけの村だ。気色悪い。なんだかうごめいているようにも見える…そんなことあるはずないのに。
雪を踏みしめる私と魔理沙の音以外、自然がおりなす音しか聞こえない。
どうにかしなければいけないけれど解決策がなかなか浮かばない。参ったわね…
「魔理沙何かいい案ある?」
「なにかの術でここに閉じ込めようとしているなら村を吹き飛ばせばどうにかなるかもしれないな」
「ただ精神攻撃の一種だったらそれすら通用しないわよ。むしろ体力の消耗につながる分危ないわね」
だよなあと腕を組んで考え始める魔理沙。このように迷わせる妖怪はいくつかいる。だけれどいつまでたっても襲ってこないのはなんだか不自然だ。足止めでもしている?
気がつけば目の前には茶色の猫が1匹だけ。それ以外はさっきと変わらない光景だった。
それにしても小動物は普通にいるのね。この子達についていけばもしかしたら出られるかしら?
ついそんな気がして歩き出した猫を追いかけた。二本に分かれた尻尾を見るにどうやら妖怪らしい。だけれど猫の妖怪は猫だった時と大して変わらない事が多い。無暗に退治するものでもない。
魔理沙も私の意図に気づいたのか黙って猫を追いかけることにして。
だけれど私達の予想を裏切るかのように目を細めた猫は、その場から煙のように姿を消した。
「迷い人かなあ?」
直後真後ろで声がする。
振り返ればまだ寺子屋で習い事をしていそうな年齢の少女が私達を見つめていた。その目がさっきの猫そっくりで、頭にある耳や尻尾を見るより先にそいつがさっきの猫なのだと理解した。
「…流石猫又だな」
魔理沙が素早く戦闘態勢に移る。そんなに身構えたら不意打ちができないわよ。
「猫又ね。倒せば何がゲロってくれるかしら」
まあ猫だから期待はしていないけれど。
「なんか物騒すぎない?」
知らないわよ。そもそも物騒なのはそっちでしょ。私は異変を解決する目的で合法的に妖怪をボコボコにすることができる存在よ。それに喧嘩を売ってくるということはそういうことなのよ。
だからさっさと退治されなさい。素早く針を袖から出し投げつけるが、見切られていたのか素早く回避されてしまう。その動き…確かに猫ね。
「まともに退治しようとするならやめておけ霊夢、私に秘策がある。どうにかしてあいつの動きを一時的に封じてくれればなんとかしてみせるぜ」
魔理沙が追撃しようとした私を止める。秘策ねえ…まあ面白そうだから乗ってあげるわ。
「じゃあ動きを封じ込めるからよろしく」
「うにゃああ‼︎やばいやばい!迷家だから出られないの!ここは迷家‼︎」
流石にこれには焦ったのか慌てて土下座し始めた。最初からやるなよとか思うけれどどうも妖怪は戦闘狂の気質が多いやつばかりみたい。今度似たような奴見つけたら許す許さない関係なく〆ましょう。
「あっそう…じゃあここから抜け出すために案内してちょうだい」
「それは断りたいのですが…」
なんでそれを断るかなあ?そもそもあんたに拒否権ないから。
「えっと…えっと……」
じゃあ大人しく動けなくされなさい。お札を投げつけ結界を展開する。猫又の後ろに結界の壁ができ退路を塞いだ。さて逃げられないわよ。どうするのかしらあ?
「霊夢流石にそれは鬼だぜ…」
「失礼ね私は巫女よ」
「そうじゃなくてだなあ…」
「わ、わかりました…」
あら根負けしてくれたのね。それじゃ案内お願いね。
「ここは迷家…入り込んだら普通じゃ帰ることはできない場所だよ」
「なあ、迷家って村だったか?」
そうね。名前的に家を想像するのだけれど。……
「迷家自体は妖のようなものなんです。意思はないのですけれど自己増殖を繰り返していまして…一つの家からようやく村まで成長したんですよ!」
「へえ…増殖する建物かあ…」
「さながら決戦増殖村ね」
「変な名前」
おい今変な名前って言ったな?ちょいとツラ貸しなさい。
炬燵の季節