外の世界に何が起きようと、それは私達幻想の住民は知ったことではないしそれで不利益を被ることなんて起こるはずもない。
実際この幻想郷という外界から全てを遮断された世界では外で何が起きてようと干渉することは絶対にない。
だけれど一部だけ例外がある。まあそれも、厳密にいえば幻想郷という場所ではないところでなのですけれどね。
いや…実際には幻想郷側にも多少なりとも影響はあったのかもしれない。あくまで副次的なものであるしたいした害もないのだけれど。
まあこれが咲いたと言うことはきっと……そういうことなのだろう。
後々異変と認定されるそれは、異変らしくないと言えばらしくはなかった。
雪解けと共に現れた緑。だけれど現れたのはそれだけではなかった。
桜、向日葵、野菊、桔梗・・・
まだ春だというのに、一年中全ての花が同時に咲き出していた。
いやほんと…幽香さんの向日葵畑が満開になっていたのには驚いた。
というかこれ生態的に大丈夫なのだろうか…
目の前で咲いている彼岸花を見つめながらいらぬ心配をしてしまう。
気がつけば、妖精達が春を謳歌するかのように私の頭上を飛んでいく。
やれやれ、ここまで妖精が活発になると揉め事も増える。
巻き込まれないうちに逃げましょう。
彼女たちの悪戯は人間じゃ死に直結するものばかり。
感覚としては…まだ幼い子供が虫を殺して遊んでいるのと同じなんですけれどね。良くも悪くも、彼女達は無邪気な子供ですから。
「……早く終わらないでしょうか」
早々に解決して欲しいのですけれど…これは巫女が出てどうこうというわけにも行きません。
「……旧地獄の方はまだ大丈夫だったのが救いですね」
あっちの方は地下活動とかのせいであまり植物が育たない。それに怨霊の制御が間に合ったので霊が溢れ出る事態にもならなかった。
そのかわり地底の方の植物は軒並み満開なんですけれど。
むしろこっちの方が深刻。野菜や果物などの花も咲いてしまったのは少しまずい。
このままだと季節どおりに果実が実らない。というかもう手遅れかも…既に一部は受粉してしまっているし。
このままだと夏前に殆どの食物を収穫する事態に…いやこれも確定事項ですね。
しかも果物も野菜も長期保存なんてとてもじゃないけれど出来ませんよ。
愚痴はここら辺にしておきましょう。
でも…これがまた起こると考えると少し辛いというか…その原因を考えれば怒りも恨みも筋違いなんだと思わざるをえません。
思わず溜息が出てしまう。
その瞬間私の腕に何かが突き刺さる。
「……そういえばさっき何か踏みましたね」
そっとなにかを踏んだ足を退けてみるとそこには半分土に埋まる形で縄に結ばれた木の板があった。
「全く…悪戯するのは勝手ですけれど趣味が悪すぎるんですよ」
私の姿を見ようとして顔を覗かせた妖精に小石を投げつける。
たかが小石と侮ることなかれ。
銃弾と同じ速度で放たれればなんだって立派な凶器。勿論、目玉を貫通して脳を破壊するくらい造作もない。
人が倒れる音が鈍く森に響く。
全く…木の枝で剣なんて作るものじゃないですよ。強度は兎も角一回きりで突き刺すのに特化させれば相当な武器になるんですから。
突き刺さった木を引き抜き傷口を服の上から押さえつける。
後は自然回復に任せるとしましょうか。
気晴らしに散歩に出れば直ぐにこれだ……
妖精には呆れますよ。
「悪戯して遊びたいのは分かるんですけれど…少しは正面から正々堂々と戦ってくれる妖精とかいないんでしょうか?」
「そんな妖精いたら困りますよ」
私の独り言に答える別の声。
その声がした方向にからだを向ける。
「でも貴女はそんな妖精に入りそうよ?」
緑色の髪の毛をサイドテールでとめた少女が刀を抜く。
彼女とて妖精。自然の化身のような存在なのだからこうなるのは仕方がないのだろう。
「ええ、どうやら私もこの異変にやられてしまったようです」
自覚があるなら抑えたらどうなんでしょう。とは言うまい。
多少相手をするくらいいつものことだ。腕の傷ももう治っている。
準備は万全、後は大ちゃんの出方次第。
「異変に振り回されるのはいつだって第三者……」
「でしたら振り回されながらも…」
「「それを精一杯楽しまないと損」」
大ちゃんが地面を蹴り、次の動きで私の突き出した刀に弾かれた体を空中で止める。
視線が交差し、私とほぼ同時に体が動く。
大ちゃんの姿が視界から消える。
そして私の背後で風が舞う。
体を捻り前へ押し出すことで強引に回避。崩れたバランスのまま踵で肘を蹴り飛ばす。
再度テレポート。
今度は頭上。左手で突き出された刀の刃を掴む。
峰の方をうまく持てたから手を切らなくて済んだ。それでも力任せに押し込もうとする。
私の持つ短刀を振り回して少しだけ距離を開けさせる。
少し大きめに体を後ろに飛ばした大ちゃんが動きを止めた。
襲ってこない…どうしたのでしょう?
「らちがあきませんね」
思わず本音が漏れてしまう。実際このままだと本当に決着がつかない。だって殺さないように手加減するのって大変なんですよ。
「そうですね…じゃあ短時間で決めちゃいましょうか」
大ちゃんの言葉に素直に頷く。仕掛けた相手からの仕切り直し…体力で不利な大ちゃんらしい行動といえばそうなのですけれども……
「それじゃあ一発だけで……」
刀で一撃…それで良いのだろうか。
「それで決まらなかったら?」
「決まるまでやりましょう」
清々しい笑顔。普段と変わらないですね。
「仕切り直した意味無いですね」
「あるかもしれませんしないかもしれませんよ」
少なくとも敗北条件が決まっただけありがたいか。
自然体で大ちゃんと向き直る。
距離は5メートルもない。ほぼ一歩で間合いに詰められる。
気がつけば私たちの立っているところは白い花が咲き乱れる場所であった。まるで決闘みたいですね。
大ちゃんの義手に収まる小さな刀が太陽の光で白く光る。
動くなら……今‼︎
私と大ちゃんがほぼ同時に地面を蹴った。
一瞬だけ火花が散り、鮮血が飛び散る。
地面に血溜まりが出来ている気がするけれど、決着がついたわけではない。
大ちゃんもこちらに向き直る。
その顔には斜めに切傷が刻まれていた。
私も首筋を軽く斬られてたらしい。幸いにも静脈や動脈は傷ついていないからそこまで出血は酷くない。
もう一度構える。
……今‼︎
「全く…2人とも阿呆なのですか?」
包帯を巻きながら博麗の巫女は大ちゃんを叩く。
意図してなのかしていないのかは分からないけれど傷口のあるところを直接叩いたからか大ちゃんの悲鳴が上がる。
結局、私も大ちゃんもほぼ同時に軽い傷を入れるだけになり、それでは決着がつかないと何度も仕切り直した結果、身体中切り傷や刺し傷で大変なことになってしまった。
それくらいならまだ良かったのですが偶然にも博麗の巫女に見つかってしまったのが運の尽きと言うべきかなんというべきか…
ボロボロだった大ちゃんにとどめを刺して気絶させた後私共々神社に連行されると言えば運がない。
まあ見方次第だろう。
「すいません。どうしても高ぶるこの気持ちが抑えきれなくてですね」
数分前に目を覚ました大ちゃんに巫女さんはまたも呆れる。
「妖精ってこんな脳筋だったかしら?」
大ちゃんが例外なだけですからね。それに異変で少し感情が昂ぶりやすくなってしまっているのだから少しくらい大目に見てほしい。
「あんたはまだ良い方だけれど妖精は全般的に面倒ね……どいつも殺しにくるようないたずらばかりするんだもの」
「無邪気と純粋が生み出す悪意ですね」
それが妖精なのだ。仕方がない。
「さとりも手当を受けたらどうなの?」
私?私の傷はもう治ってますよ。
まだ一部治りきっていないところもありますけれど。でも傷の手当てはもう必要ないですよ。
「それにしても…服のないところだけ狙うのが得意なのね2人とも……」
「服が破れるのは嫌なんですよ私もさとりさんも」
それは事実ですよ。ただ私の場合は、服のあるところは積極的に狙わないようにしています。
だって服の下にトラップのようなものを仕掛けていたりするとうっかり攻撃を与えて大惨事…なんて冗談にもなりませんからね。
うっかり攻撃を与えて大惨事…なんて冗談にもなりませんからね。
なかなかそんなことは無いと思っているのですけれど…
それに瀕死になりやすいところでもありますからね。
そんなことを考えていれば、大ちゃんの治療が終わったらしい。
「……ミイラができている」
息しているのだろうか…
「誰のせいよ」
根本的な原因は私でしたね。ですが反省はしていない。
包帯でぐるぐる巻きにされている大ちゃんを横目に桜の絨毯を作り出す木を見つめる。
「いつまで続くんでしょうね?」
この異変の解決手段はあの人たちなら分かっているはずだ。
それに彼女達にしか解決することもできない。
「さっき閻魔が来て言ってたわ。4日後には片付くって」
「そうですか」
死神達も大変ですね。こればかりは仕方がないと思いますけれど。
「それを里の人達に知らせに行くところだったのよ」
では邪魔してしまったと言ったところでしょうか。これは失礼失礼。
「では、これからいくのですか?」
「今からだと日が暮れちゃうから明日にするわ急ぐようなものでもないし」
では私もしばらくしたら帰りましょうか。日暮れの山は神隠しも起こると言いますから。
「どうしてとか気にならないのかしら?」
普通は気になるでしょうけれど…興味はあまりないです。知ったところでどうというようなものでもないですし。
知っているヒトが言える特権のようなものですけれど。
「大方見当はついています。今更聞く必要もありませんよ」
それに知りたかったら映姫さんに直接聞きに行きます。それに…ここ最近死神が色んな所で目撃されています。そっちに聞いても良いでしょう。
「そう……」
私が興味を示さないのを意外に思ったのか驚いた表情をしている。それがまた面白くて少しいじってみたくなる。
「外の世界ってのも大変なんでしょうね」
「一体どうなっているのやらよ」
「戦争でしょう…それも悲惨なまでの」
悲惨というか虫を踏み潰していくかのように人の命が消えていく戦争ですけれど。
地獄を地上に作り出すのが上手になったんですね人は。
「人間の業の深さって事ね」
「同族を効率よく殺す事だけは突出して優れていますから」
似たようなものを私も作っているし河童なんてもっと作っているだろう。ただし河童が作っているのはあくまでも副次的に生まれてしまったもので本来の目的は違う。
「それは嫌味?」
「事実です」
今なんの戦争をしているのか分かりません。
結界で閉じられてからの日数で考えてみると第一次大戦あたりだとは思うのですけれど、幻想郷の結界は閉じられてからというもの時間的にも空間的にも不安定になっている。
空間から「浮く」この結界は内部空間が独立して元あった空間から離れるため不安定になりやすい。それは空間だけにとどまらず時間的にもだ。だから外の世界と中の世界とでは時間の進み方などが少し違うし仮に幻想郷を外から観測可能だとすればそれは時空連続体の中で不安定であるがゆえ、蜃気楼のように消えたり現れたりしているだろう。
だからなのか少しばかり外の世界の方が時が進んでいる。
となれば第二次大戦だろうか…
まあそんなことはおいておこう。深く知ることでもないです。
「それより、お弟子さんはどうなんですか」
「もう私の後釜に収まるくらいにはなったわ」
じゃあもうすぐ引退ですかね。
このまま何事もなく終わってほしいのですけれど……
毎回巫女が変わるごとに妖怪による問題ごとが多発する。仕方がないといえば仕方がない。
それに巫女が力を示す良い機会になるから完全に否定できないというのもある。
「もうすぐ引退ですかい?」
「彼女はまだ10歳になったばかりなの。すぐに引退は無理ね」
なんだまだそんな年齢だったのですか。次の巫女の情報は基本的に秘密にされている。だけれどまだ10歳…まだまだかかりそうですね。
「もうしばらくは一緒にいた方が良いでしょう」
いくら筋が良くても、経験が圧倒的に足りないうちは無理をさせない方が良い。
「そうね。でも反抗期なのか過信しすぎてるのか…最近1人で突っ込むことが多いのよ」
子育ての悩みみたいですね。
まあ私も1人だけ巫女の教育はした事あるのですが反抗期も何も結構自由にさせていたからそこら辺の事情がよくわからない。
「ぐるじ……」
あ、大ちゃんのこと忘れてました!やばいです窒息しかけてます!
ミイラ状態にされてからずっと息していなかった⁈
「あ…やべ……」
ほら顔の包帯外しますからほらはやく!