基本的に私の脳というのは時間感覚が常人よりもおかしくなっている。
それ以外にもおかしいと感じることはあるのだが…どうもそこらへんは分からない。
と言うより私は別に違和感も何も感じない。周囲が少しおかしいんじゃ無いかと思う。
実際今だってそうだ。
気づいたら幽香さんがこちらに遊び?に来てから数十年の月日が流れていた。
間に何があったとか色々言いたいですけれど私の時間感覚はまだ数週間と言ったところ。
その上最近になって私の家に天狗とか山の妖怪からなんか色んなものが送られてきている。
私何かしましたっけ?
「ねえお燐、心当たりない?」
(あたいに聞かれても知りませんよ)
炬燵の上で丸まっていたお燐に聞いてみるが軽くあしらわれてしまう。
思い当たる節……何かありましたっけ?
(そもそも贈り物が送られてきてるってことはそういうことじゃないのかい?)
「言いたいことは分かりますけれど…」
考えられる節は私の機嫌取り。
いや機嫌悪くしているわけじゃないんですけれどと言ってもやはりこの無表情では誤解されるらしい。
後は冬ということくらいだろうか。
この時期は皆眠りにつくことが多い時期。
例外は地底だろうか。あそこは年中春先から夏場の気温だ。地表に近い農業用の方も春先程度の気温に落ち着いている。
冬の寒さを凌ぎたい妖怪などがよく地底に行くことがあるのですがそれ関係でしょうか。
取り敢えず貢いでおけば平気とか?今までそのようなことほとんど無かったのですけれど…
感性が分からない。
寒いから炬燵に潜って温まっている状態じゃまともな答えなど出るはずもなく、
溶けた氷のように体を畳に投げ出す。
「……お燐みかん取ってください」
(自分で取りなよ…)
ダメだったようです。体を伸ばしたら完全に気力が削がれてしまったためお燐にお願いしたのですがあっちは既に気力が削がれちゃっている状態でした。
仕方なく自分でみかんを取る。
「……冷たい」
「雪の中に埋まってたんだから仕方がないよ」
これじゃあ冷凍ミカンですね。
炬燵に入っているのにこれを食べるって何か違う気がします。
凍りついてしまったみかんを食べようか食べまいか考える人のごとく悩んでいると玄関の方が賑やかになり始めた。
それとともに冷気が部屋の隙間から飛び込みお燐が直撃を受ける。
それが余程嫌だったのか数秒後には私の膝の上に黒い毛玉になった彼女が乗っかっていた。
「寒い寒い!なんか今年は大寒波襲来らしいよ」
部屋の扉が開け放たれ、雪を肩と頭に乗せたこいしが飛び込んでくるないなやお燐顔負けの動きで炬燵に潜り込んだ。
少し遅れてお空が入ってくる。灼熱地獄出身の彼女にはある意味地獄だろう。
散歩なんてやめておけばよかったのに。
人型のままお空もこいしの反対側に腰を落ち着けた。
3人も入ると少し狭いですね。
お燐が猫のままなのでまだマシですけれど。
(こいし、外そんなに寒いのかい?)
お燐が私の膝からこいしの方に移動する。
「慧音さんも言っていたけど今年は相当だって」
そのおかげで今年は妙に越冬目的で地底にくる妖怪が多い。
別に私はそれについてはどうとも言いませんが、部外からの妖怪が増えればその分揉め事や事件が増える。
まあ…勇儀さんとか萃香さんとか鬼がいるから表立ったものは少ないんですけれどね。
うん、こうして私が休めているからなんとかなっているんでしょう。
「幽香さん大丈夫かなあ」
お空がポツンと呟く。そう言えばお空はだいぶ幽香さんに懐いていましたね。
「彼女なら今栽培施設にいるから大丈夫だと思いますよ?花畑も結界か何かをかけてきたと言っていましたし」
幻想郷の地下深くにある大型の天然空洞部分、栽培施設はそのごく一部でありそれでもかなりの広さを誇る。
最初に幽香さんに見せたら私が手直しすると言われて気がつけば今や幽香さんの独壇場。食材だけじゃなくて花も増えてしまって色々と賑やかになっている。
それでも少し手直しに来る程度といった感覚なのだろう。彼女にとっては……
「そうだったっけ?じゃあ大丈夫だね!」
お空…忘れちゃダメよ。
「そう言えばさあ…また物置いてあったんだけど」
「そう…どうしたかしらね?」
「絶対お姉ちゃん原因だよ」
いや…そんなことした記憶ないんですけれど。
でも昔から疎まれたり恐れられたりしていましたからね。私は祟り神かなにかかな?
「私何かしましたっけ?」
「妖怪の反乱収めたじゃん。って言うか反乱が発生した直後から私とお姉ちゃんで押さえちゃったじゃん」
そういえばそんなことありましたっけ?
どうにもそこら辺記憶が曖昧です。なんだろう…私としての記憶がそこだけ霧がかかったようにひどくおぼろげ…
事前に情報は入っていたから早く動けただけですし。実際面倒な手続きがあって身動きが取れない天狗の方が…後手に回らなければ強いですし皆殺しにしてますよ。まあそれでもここに住まわせてもらっている分の仕事はするつもりです。
「それくらい天狗が治めている山に家建てて過ごしているのだから普通だと……」
「いやいや普通じゃ無いよ。あれはどうみてもやりすぎだと思うよ」
こいしに言われると少し心外ですね。
でもあれくらい普通だと思いますよ?全力で命を狩りに来る敵ですから全力で叩かないと意味がないし失礼です。
(あの時に再起不能にした妖怪の数数えたことありますか?)
急にお燐が口を挟んでくる。そんなもの…
「……10を超えてから数えてないわ」
「それ最初から数える気ないじゃん」
「うにゅ?でも私もよくいくつまで数えたっけってなって最初からやり直すことあるよ」
お空、それはそれで深刻な事態を招きかねないからやめなさい。
数えるなら紙か何かに正の字を書いていくのよ。
それができない状況なら数えなくて良いわ。数えても無駄ですから。
(お空…あんたは論外だよ)
普通敵を何人倒したとか数えないと思うんですけれど。全部天狗の手柄になっているからそっちで確認すればいいかなと思っていました。
それに私は能力を使用していると結局数えている暇も気力も無いですからね。
「じゃあこいしは覚えているの?」
私ばかり言われるのはなんだか嫌だったのでこいしも巻き込むことにした。
「えっと…切り刻んだ回数なら」
目線を逸らしてそう答えるこいしに冷凍されたみかんを投げる。
片手で軽く受け止められた…
(それもそれでまずいと思いますよ!)
うんうん、見た目なら絶対こいしの方が恐ろしいわよ。笑顔で笑いながら周囲を血の海にしていくんですからね。正直インパクトだけならそっちの方が大きい気がする。
だから私は悪くない。それに成果だって天狗に全部渡したのだ。だからここに贈り物を置くな。
確かに一部の天狗の新聞は私がやったことだと書いていますけれど…それでも私は知らぬ存ぜぬの一点張りです。周囲に何人か見ている妖怪もいましたし敵だって何人か生きていますけれど私の知ったことでは無い。
そんな事を考えていたら玄関で雪の上に物が置かれる音がした。
「……また来たんじゃない?」
「追い返してきますか」
「折角だしもらったどうなの?」
「貰うためにやったわけじゃないんで」
「それもそうか」
素早く玄関に向かうと、扉に僅かながら人影が写っている。雪が降っていますし日も暮れてきているので周囲はまだ夕方前だと言うのに異常に暗い。
荷物があるというのにまた荷物を置く…正直辞めてもらうように頼みましょう。
うん、それか天魔さんのところに引き取ってもらうとか。
正直貢物まがいなことされても困る。出来ればひっそりと過ごしたいですからね。
ということもあり素早く玄関を開ければ、2人分の人影が目に入る。
「……あ」
「……なによ」
少しして目が銀色の世界に慣れ始めると、そこにいる人物の姿を克明に映し出してくれた。
そこにいたのはなんと秋姉妹だった。藁で作った雪よけの傘を被っていますが間違いなく2人ですね。
珍しいこともあるんですね。冬の時期は機嫌が悪くて無愛想だと聞いたんですが…
実際鬱そうですし無愛想ですけれど。
その2人がなんでそんな荷物を……
「……その荷物は?」
「お腹すいた」
静葉さんが雪の唸る声に負けそうなほどの声で呟いた。
「ああ…そういうことでしたか」
保存食だと飽きるのだろう。それに今年は大寒波ですから温かいものを食べたいと。
鍋でも作りますか。
あ、こいしも来たようですね。2人の案内をお願いね。私はこの荷物を部屋に入れるわ。
「お姉ちゃん玄関からものすごい濃いコーヒーを飲んだ勇儀さんみたいな気配が流れてくるんだけど」
分からなさそうで分かる例えをありがとう。だけどそれを鬱な雰囲気の例えにしちゃダメよ。
せめて藍さんに夕食は自分で作ってと言われた紫にしなさい。
「穣子ちゃん、静葉ちゃん早く上がって。ここ開けたままだと寒いからさ」
はいはいと上がる2人。
その瞬間空気が重くなる。流石神様、鬱も凄いです。
というかいつもの冬より鬱が悪化してませんか?これってまさか寒波の影響…寒波おそるべし。
「あんたも一応神様なんだけどね」
「どこで誰が信仰しているのか知りませんが神さまじゃないですよ」
うんうん仮に私が神なら人の願いを叶える神ではなくクトゥルー系の邪神になりますね。それか汚染された聖杯か…
まあそんなことは置いていきましょう。
ってこの箱2つ分ですか?
「……秋の食材の保存食…」
でも一食分にしては量が多い…これ一ヶ月分とかそれくらいの量ありますよ。
「ああ…実はね」
部屋の空気が静葉さんの周囲だけ黒く染まってずっしりと肩を重くしてくる。具現化されている……
「今年の寒波のせいでちょっと根城にしていた小山がさ……」
なるほど、雪と吹雪と老朽化でついに倒壊してしまったと。ほかに丁度良い場所が見つからないから仕方なくこちらに……天魔さんのところにってそういうわけにも行きませんよね。
「しばらく厄介になってもいいかしら?」
「私は構いませんよ。一応旅館運用していますし」
部屋と布団の用意は常にできている。問題は特に無いだろう。
さて、突然ですが鍋を作るのであれば少し早めに準備を始めちゃいましょう。
荷物を台所に運びどうするか考える。
保存用のもの故に鍋にするには少し下処理をしないといけない。
乾燥させただけのものであればお湯か何かである程度は戻りますが塩漬けにしたものや漬物になっているのは…今回は見送りましょう。
となると…少し物足りないですね。安直に肉を入れても良いのですが味とか臭みとかを消すのを考えると大量に入れるものでも無いですし…なかなか難しいですね。
あとは…鍋用の加熱装置。
河童が作ってくれた物を買っておいたのですが…あ、ありました。
鬱な時は美味しいものを食べて気を楽にしてほしい。
「あ、お姉ちゃん幽香さんも連れてくるね!」
……え?ちょ、こいし⁈待って!勝手に…
まあ仕方がないか。うう…こうなってしまっては少し量を増やさないといけない。味のバランス考えたら少し厳しいです。
はあ…なんとか出来ました。
ほんと…どうにかって感じですけれど。
後はこれを火にかけて煮込みますか。うん、鍋ですからね。一応しめとしてのものも少し用意しておきましょう。
お米かうどんか…うどん…うどんげ…何を考えているんだ私は。
では居間に戻りましょうか。
少し息を整え、居間に戻ってみればやはりヒトが増えていた。
緑色に赤いチェックのスカートといつもの服装の幽香さんと…完全に服が黒い神様2人…
いつものあの服装はどこに行ったんですか…完全に気持ちに服が影響されているんですけれど喪服じゃ無いんですから。
「陰気臭い神様がいるけれど大丈夫なの?」
幽香さんがそんな事を言い出す。悪気があったわけでは無いけれど確かに食卓には似合わない神様です。
「疫病神でも貧乏神でも無いですから問題ありませんよ」
冬の合間だけですし普段はもっと明るいですよ。今ちょっと鬱なだけです。後精神的に追いやられているだけです。
「ふうん……」
幽香さんそんな目線で見つめたら2人とも怖がりますよ。
ってほら怖がってるじゃないですか。もう……いくらなんでもやりすぎです。
「兎も角、用意ができたのでもう直ぐです」
あとは温めれば良いだけです。うん、それだけ……
これ以上人数が増えることはないと願いたいです。特にこいし…余計に人数を増やしたりはしないでくださいね。
私の目線に気づいたのかこいしが「にぱー☆」をしてきた。
可愛いけれどそれを求めていたわけじゃ無い。別に謝罪を求めてもいない。せめて理解したが実行する気は無い程度はして欲しかった。
理解する気すらないとは……
妹だから仕方がないか。
おまけを書きたい人生。
(書けよとか言わないでください。全くもってその通りなんで……
と意味のわからない供述をしております。