……静寂が支配するとかよく聞きましたけど生き物がいる状態で静寂なんて絶対支配すること出来ないんですよ。
寝息と言い寝相といい。活発な子はこうも悪くなるのでしょうか…
ルーミアさんも相当寝相悪いんですよね。最終的に元の体勢に戻るからいいんですけど。
結局泊まっていくことになってしまった私は妹紅の隣に布団を用意された。
高待遇なのか親バカなのか…不用心なのには変わりない気がします。
妹紅は一緒に寝たがっていましたが、残念ながら私は寝ることができない。
体質的な意味ではなく、万が一に備えてのことである。
だって寝込みを襲われるとか嫌ですもん。
そんなわけで妹紅の寝息をBGMに数時間ほど待機しているのだ。
まあそれ以外にも外でなにやら騒ぎが起こっているみたいなんですよね。
結構遠いですけど妖力と陰陽道の力が入り混じって流れてきてます。
数時間前から一体誰が戦ってるのでしょう。
それにこんな時間まで戦うってことは相当なものだろう。
戦いの火がこっちに来ない事を切実に願うまでです。
「……」
こうして何をするまでもなく思考を弄んでいると色々と考えたくなってしまう。
ほとんどがロクでもない事ばかりなのだが、中には重要な事を考える。多分…
竹取はあの人が月の使者を皆殺しにし、輝夜と一緒に逃亡するって言うのが私の知るストーリーだ。
ただ、私と言う存在がいる為本当にそのような感じに事が進むかどうかはわからない。
輝夜は来るって言ってたけど…
来なかった時も想定して仕掛けは作っておくべきでしょう。
どこまで通用するかわかりませんがね。
うん、そろそろ屋敷の人も当直の見張り以外は全員寝たのかな。
いつの間にか人の生活する音が聞こえなくなり、屋敷全体が寝静まっている感覚になる。
それじゃあ一回抜け出しますか。
幸いにもここに陰陽師の類はいない。
さっきから戦闘してるであろう妖怪さんのところにでも行ってるのでしょうか。
部屋にあった窓から外へ抜け出る。
続いて妖怪ボディにものを言わせた超脚で塀を飛び越える。
一瞬だけ妖怪として察知されやすい状態になってしまったわけだが、別に近くに察知できる様なヒトたちはいない。
だからと言って出しっ放しっていうのはダメですよ。
ある程度のところまでは歩いて離れる。
どうせなら森の中に入れば色々楽なのだが、近くに森はない。
そろそろ良いだろうと後ろを振り返る。屋敷は手のひら大の大きさになっており新月から一晩くらいしか経ってない夜の月明かりじゃここまでは見通せないでしょう。
私は夜目が効きますから。
地面を軽くけるように一歩を踏み出す。第三者から見ればスキップに近いでしょう。
ふわりと浮き上がった体の向きを変え家の方に向かって飛んでいく。
遠くで何かが煌めいているがきっと誰かが戦っているのでしょう。
見に行ってもいいんですけど今は時間が惜しいので諦めます。
道を歩けは半刻かかってしまう道のりでも飛んでいけば結構早い。
十数分もすれば家の上空にたどり着くことができた。
灯りが灯っていないということは寝ているのか何かあったのか。まあ大体は前者だと思いますけどね。
「ただいま…お燐、起きてる?」
家に取り付けられた窓から中を覗き込む。
返事はない。どうやら寝てしまっているようだ。
暗いのでどこにいるか視力だけでは分かりづらい。
音を立てないように身体を家の中に入れる。
「えっと…あ、そこにいましたか」
お燐は何処からか引っ張り出したのであろう布団にくるまってスヤスヤと寝ていた。
起こしてしまうのも悪いのでメモを残して今日は帰りましょう。
墨と筆はどこでしたっけ…
だがいざ書こうと思うとなかなかものが揃わない。
あ、そう言えばこの前壊したのでした。
仕方がないので紙を焦がして文字を書き込んで行く事にする。
ビームの出力を最小限にし、紙が燃えないように慎重に文字を刻む。
かなり無駄な事をしているように思うけど…キニシナイキニシナイ。
まだ夜明けまでは時間があります。
メモ残した後なのですけど…朝ごはんくらいは作ってから戻りましょうか。お燐もお腹空いているでしょうし。
ルーミアさんが戻ってきたときのことも考えないといけないですしね。
あれ…本格的に私って何してるんでしょう。
母親になってるような…気のせいです。
再び戻る。
太陽が昇る一時間ほど前に戻った私は敷かれた布団をたたみ隅に置いておく。あまり長居するのも悪いですし、妹紅が起きる前に帰るとしましょうか。
きていた服も…昨日のうちに用意されていた変えの服に袖を通し準備。
この服は貰っちゃっていいとか言ってた気がする。気前よすぎでしょ。
さっきまで私が着ていた服は畳んで片手に抱える。
早めに着替えておかないと見られちゃ不味いものを見られてしまいますから。
未だに夢の中なのか妹紅は寝返りをうちながら幸せそうな顔をしている。
私もいつかこんな感じに寝る事が出来たのでしょうか。
この体となった今ではもうこんな感じに寝ることはもう無い…いや、今はまだ出来ないでしょう。
未練がある訳ではないが羨ましくないと言えば嘘になる。
ですが人の幸せを妬むほど私は落ちぶれてませんし、幸せとかそう言う類ってまだよくわからないんですよね。
わかる前に自然と受け入れてるのでしょうけど。
「うーん…?」
おっと、私がガサガサ動いていたせいで起きてしまいました。
「おはようございます」
「うーん…おはよう」
まだ眠りから覚めきってないのか目を開けずに返事をしてくる。
「それでは…私はそろそろ帰りますね」
「…うん」
生返事を適当に頂く。よし、これで帰れる。元から帰るつもりだったのですけど本人から許可を得れば楽です。
ささっと廊下でる。
女中や仕えている人達が忙しそうに働きはじめた。
朝早くからご苦労なことです。
声をかけられても困るので、あまりその人たちの視界に入らないよう立ち回る。
……くるりくるり
そうして誰の意識にも止まることなく私は玄関まで来ることができた。
扉を開けると待ち侘びたかのようなタイミングで朝日が顔を出した。
眩しい光が広がり思わず目を閉じてしまう。
開いていた瞳孔が閉じていったのが認識できた。
ゆっくりと目を開く。
「……眩しい」
視界が確保出来たら早々に屋敷を後にする。
そう言えば昨日の戦いはどうなったのでしょうか。
気になった私は家ではなく一回都の方に足を進めた。
食材もついでに買って行きましょうか。あー、でもまだ早いかなあ。
あと2ヶ月足らずで戦争が起ころうとしているのに全く危機感が起きないっているのは異常なのか無感情なのか…
別にどっちでもいいんですけどね。私は最善を尽くすまでです。
こうして何もない時間があるといろんなことを考えてしまう。
何もない時間ってのも変だけど実際何をしているわけでもなくただ帰路に帰ってるだけだから何もないのかね。
妹紅の屋敷や輝夜の屋敷に行ったり都で起業してみたりと色々とあったせいか気がつけば十数日が経っていた。
特に何もないようで何かがある日とでもいうのでしょうか。
無造作に布団が出され、グチャグチャと散乱している。
側には私が二人の為に買ってきた酒の壺が役目を終えた生物の体のように転がっていた。
ぐちゃぐちゃになった布団に二つの山が出来ていた。
一つは隙間から黒い霧みたいなのが漏れている。ルーミアさんでしょう。
「……あの…」
「……後数分…」
状況を簡単に言えば、さっきまで妹紅の家や都とかをウロウロしていろんな情報を集めたりして家に帰ってみれば布団で女のヒトが寝ていた。
誰でしょうか?私にこのような知り合いはいない気がするのですがね。不審者なら追い出すまでです。まあ冗談ですけどね。
黒いセミショート、と布団の合間から出ている髪の毛と同じ色の尻尾
先端が二股に割れていてその先がほんのり赤みがかった色に変わっている。
うん、お燐ですね。
この尻尾は間違えません。
肩を揺すって起こす。少しの間もぞもぞ動いていた頭がむくりと起き上がる。
「あ…おはよう…さとり」
寝ぼけているが故の無意識かただの天然なのか。寝癖でぺたんと折りたたまれた耳がぴょんと立つ。
「おはようございます。起きたところ悪いのですが…」
服を着ましょうか。
そう、お燐が体を起こしてから気づいた。この子、なにも着ていないのだ。
何も纏ってない生まれ直後の神秘的な姿ではあるがあいにく私に色仕掛けは無駄。と言うかなんの感情も湧き上がらない。
「え?あ…あれ?あたい、人の姿に…?」
どうやら本人の気づかない合間に人型になっていたみたいだ。
服が無いのもそのためなのだろう。そもそも猫に服を着るって言う習慣は無いですから。
「お燐…服、作りましょうか?」
私の服じゃサイズ的に合いません。それに都で服を買うのは高いです。
「……お願いします」
「…うーん、朝から何なのだー?」
お燐の隣の布団がモゾモゾと動き出す。
中から出て来た闇が晴れ、金髪の髪が姿をあらわすけど…
「貞○⁉︎」
「ルーミアなのだ!貞子って誰なのだ!」
だって髪の毛を前にたらしてたら完全に○子じゃないですか。
黒くしてテレビの枠持って来たら完全に一致ですよ!
「ん?その素っ裸の人は誰なのだー?お燐っぽいけど」
お燐の事に気付いたルーミアさんが首をかしげる。
ですが食べようと思うのはやめてください。その人は食べちゃいけない部類の子です。
「お燐みたいです。寝てる合間にいつの間にか人型を取ったみたいです」
私がそう説明すると合点がいったのか、納得した表情になった。
「なるほどーー」
でも同時に食べれなくて残念って考えている。いやいや、家の中で食べないでください。
「あの…あたいはどうしたら…」
蚊帳の外にされていたお燐が布団を巻きつけながら聞いてくる。
その姿はなんですか?誘ってるんですか?
「元の猫の姿に戻れないですか?」
絶対出来るはずなのでやってください。あまりその姿のままだと目に悪いです。少しは恥じらいとか無いんですか?ねえ……
「そんなこと急に言われてもねえ…やってみるよ」
そういってお燐は猫の姿をイメージし始める。
なんか普段より美化されてますけど…
一瞬だけ視界がぶれた。時間にしてコンマ数秒レベルでしょうか。
気づいたら目の前に黒猫が座っていてこちらをじーっと見つめていた。
(案外簡単だったね)
「へえー!そういう感じに変幻するのかー!」
ルーミアさんは変幻とか見た事なかったんですね。不思議です。あそこまで強いなら闘った事でもあるのかと思いましたよ。
ああ、闇の中にいることが多いから気づかないのですね。
「今日はちょっと豪華な料理でも作りましょうかね」
「んー?祝いなのか?」
「なんでもない日……嘘です嘘です。引っ掻かないでください」
無言で引っ掻いてくるお燐を引き離し台所に向かう。
まあそんな感じの日があったり珍しく台風が直撃したりだったり、妹紅の遊び相手をやってたり輝夜の相談相手になったり月のことで色々と話し合ったり妖怪として暴れたり暴れなかったり色々とやっていた気がする。
そんなこんなで輝夜が言っていた使者が来る日まで残すところ4日となった。
既に人間も妖怪も大騒ぎです。
都なんてもはや業務がしっかり行われてすらいないんですから。
あまり都で何かしていると怪しまれてしまうので最近はお燐達の家にこもっている。
ついでだからと庭を作ったり建物を増改築したりと色々とやっていました。もちろん、お燐達も手伝ってですよ。
ただ、私が輝夜に協力しているということは伏せていた。
不用意に巻き込んでしまうのを恐れていたっていうのがあるんですけど…言い訳でしかないです。
「二人とも…ちょっといいですか?」
けれどここで二人を巻き込まないと直前になって私の知らないうちに巻き込まれてしまう可能性が出てきてしまった。
原因はルーミアさん。
月の人達って美味しいのかななんて考え出すものだから焦る。
絶対来ちゃいますよね。
その上お燐に関しては…
(死体手に入るかなー)
……目的が違えど巻き込まれるのは確実です。
なら最初からみんなで協力していこうと言う事にした。
私に出来る事は限られていますしルーミアさんみたいに強いわけでもない。
そんな私が自身よりこの子達のことを心配してしまうっていうのも変な話なんですけどね。
普通の妖怪なら行わないような行動ですが、私は人…
知り合いが私の近くで殺されるなんて御免被りたいです。
「……と言うわけで、ルーミアさん、お燐。手伝ってください」
そんなわけで全力で二人に土下座していた。
昨日の段階で踏ん切りはついてたのですが言い出そうとしてもなかなか言い出せず、そんなこんなでズルズル引きずってこんな時に話すことになっちゃったんです。
まあ私が悪いんですよ。自分の勝手なエゴが招いた事ですから。
「と言うわけでって…急すぎるでしょーがー‼︎」
「へー、面白そうなのだー」
真っ二つに分かれましたね。
「あの…お燐?怒ってますよね」
「怒ってますよ!なんで早く言わなかったんですか!」
……ですよね。返す言葉も無いです。
「もっと早く言ってくれれば、輝夜姫のお家で料理食べ放題出来たのにいい!」
「本当に…ごめん」
お燐はお燐で結構食べる。特に人型になってからは消費量が二倍近くまで跳ね上がった。
そんなお燐だから、姫の屋敷に行けば腹一杯食べ物が食べられると思っていたのだろう。
まさか私がそこに通じているなんて…とね。
本人にしてみればショックでしょう。
「まあいいです……手伝いますから、終わったら毛繕いとかいろいろお願いしますよ」
「わかってます」
そして死体を漁る野望が物凄いです。
「どうせなら月の人食べていいー?」
死体なら好きに食べていいんですよ。その時はお燐と喧嘩にならないように気をつけてくださいね。
私が集められる戦力はなんだかんだ揃った。
人間たちは勝手に兵を集めて防衛をしようとしているけど…私の知るものだったら無駄なのでしょう。
一週間前に姫がカミングアウトしたおかげで屋敷の周りはもうすごいことになっていた。
上からチラッと見たところアリの巣状態って言っても過言じゃないくらいでした。いやあ人間って凄いです。
まあそれとは別に妖怪も妖怪で十数人ほど集まって近くに隠れてたりするんですけどね。
「ところで、最近妖怪の合間に広がってる噂なんだけど…輝夜姫を月の迎えから奪った奴は輝夜姫の全てが貰えるって…」
「ああそれ私が流しました」
「やっぱり……」
落胆したようにお燐がうなだれる。
だってなるべく戦力は多い方が良いじゃないですか。でも人間じゃ太刀打ちどころか足止めすら無理ですよ。
少しでも妖怪とか神とかが来てくれないと輝夜の生存率が低いままですから。
「それでー?私はどうするの?適当に殺戮をすればいいの?」
何物騒なこと言ってるんですか。そんな危なっかしいことするわけないじゃないですか。
「そうですね…暴れてくれるのはありがたいのですが…出来れば陽動してください」
途端に不満を漏らす。
「なんでー?殺したっていいじゃん!」
そうですけど、なんか殺しちゃうと面倒というかなんと言うか…まあ殺した方がいいのは分かるんですよ。
「相手は月の人達です。貴方が太刀打ちできないくらい強いかもなんです。だから無理をしないで欲しいんですけど」
「私より強い奴しかいないならさとりとかお燐じゃまず無理じゃん」
そうなんですけどね…真っ正面から戦うってなったらそうなんですよ。
「うーん…なんていえばいいんでしょう…」
「あたい…ちょっと怖くなってきたんだけど」
私たちの話を聞いていたお燐が青ざめる。
あまり強い敵と戦ったことがないお燐を巻き込むのは正直嫌なのだ。
それでも、協力して欲しかったんです。
「……無理ならいいんです」
「大丈夫、ちょっと臆病風に吹かれただけ!」
……お燐の意思を尊重しましょう。
「ルーミアさん、無理しないで陽動レベルでいいんです。それに他の妖怪もいるでしょうからそっちと戦うのは避けてください」
「わかってるのだー!」
そういってくるくる回り出すルーミアさん。
本当にわかってるのか心配でならないのですが…まあいいです。
最悪の場合にならないように私が頑張ればいいんです。
ええ……二人の命、預からせていただきますよ。
昨日雨が降ったというのに朝からこんなに暑い。
雨が降って涼しくなるわけでは無いが余計に暑くなってもらっても困るんですけどね。
そんな愚痴りは知らぬと言わんばかりに太陽は頭上近くまで上がっており周囲を明るく照らす。
そんな周りとは対照的に直ぐ真横には真っ暗な闇が固まりになって浮いていた。
「……前、見えますか?」
「真っ暗で見えない」
じゃあ闇から出ましょうよ。と言うか白昼堂々そんな闇が浮いてたら大変な騒ぎなんですけど…
「だって暑いんだもん。それに認識阻害の術をかけてもらったから大丈夫なのだー」
そういう問題でも無いのですが…ねえ。
他人事のようにお燐が腕の中であくびをする。
猫にはくだらない…退屈な話だったのでしょう。
昼間からなんという面子でしょう。百鬼夜行にでも参加出来そうな人たちですよ。
この時代に百鬼夜行があったかどうかわかりませんが…
月のお迎えが来る当日にして何をする訳でも無くこうやってみんなで都をぶらぶらしている訳です。
まあ私自身、不安で落ち着かないですし二人が一緒に散歩しようと誘ってきたので乗ったまでです。
だから私がお燐の服を買いたかったとか料理店に行ってみたかったとかそういう事では無いですよ。あくまで実行中ではありますけどね。
「ねえ、そろそろ姫のところに行かないのかい?」
いつの間にか人型に戻ったお燐が訪ねてくる。
人の行き交うところでよくそんなことできますね。バレてないからいいんですけど。
「まだ時間あるじゃないですか」
月が上るまでまだ時間はありますしどうせ行ってもろくなことないでしょうし…
それに貴方はこれ以上着せ替え人形みたいにされるのが嫌なだけでしょう?拗ねて猫に戻られても困るんです。誰も見てないから良かったですけど。
「それよりもなんかお腹空いたなあ」
お燐が露骨に話題を変えてきた。たかだか数着なのですがね…まあ高かったですし買いはしませんでしたけど。
「あ、あの子とか美味しそう!」
物騒すぎるのでやめてください。そんなことしたら認識阻害が解けちゃいますよ。
二人も妖力を極限まで低く抑えて隠蔽してる。ですが、かなり強い人達にはバレてしまう。
丁度輝夜の護衛に駆り出されて都にそういう人がいないからバレてないのであって普通ならアウトである。特にお燐は耳と尻尾を無理無理隠しているが何かの拍子に出てきたりでもしたら大変だ。
二人を連れて近くの店に入る。ちゃんと店の表示は見てなかったが料理店っぽい感じだった。あのまま放置してたら襲いかねないです。もうちょっと抑えてくださいよ。
「じゃあ簡単に人を倒せる方法でも教えましょうか?」
空腹を紛らわす為にちょっと小話でもしてましょうか。この店の主人には悪いですが少し寝ていてもらいたいです。それかどっか消えて。
とは言ってもそう簡単に消えてはくれないし注文を入れれば多分奥の方に行ってくれると思いますね…
「なんか…物騒だねえ…あ、あたいはおまかせで」
「私も店主に任せます…ルーミアさんは?」
人通りを行き交う人達の方に視線を向け続けるルーミアさん。意識があっちの方に向いてるみたいなので戻しましょう。
「いらないのだー」
やっぱりあっちの方が良かったのですか…好みは人それぞれですから何も言いませんけど…
「生物の弱点は大体体の真ん中辺り…後は太ももの裏側とか首筋、刀ならそこらへんを狙った方がいいですね」
「うへ…地味に生々しいね」
「後は…一発で楽にするなら目を爪とか刀で刺すのが効果的ですね。頭蓋骨に無理やり刺すより柔らかくて脳に直結している目は楽ですよ」
「なるほど…あまり参考にしたくなかった知識ばかりありがとね」
皮肉ですか…この時代に必要な知識だとは思うんですけどね。
「そーなのかー?私は直接首を跳ねることが多いけど」
それは貴方達大妖怪クラスなものです。
普通の妖怪はそこまでのことは出来ません。精々一瞬で楽にすることくらいです。
二人とは一旦別れ、護衛のために集まった人達のところに歩いて行く。
屋敷の周りが完全に要塞状態になっている。うん、人間達凄い必死なんですね。
少女が一人こんなところに来るものだから周りの目線が集まる。そんなに見たって何も出ませんよ。
私の目的は、会った時には何回も警告をかけたのですが、おそらくきているのでしょう人に会うこと。
出来れば最後に思い直して欲しいと思ってしまうのはこの先の結末を大なり小なり知ってる私の勝手な考え。ですけどそれを自覚しながらやはり実行してしまう私の意思。
兵団の中を探すこと十数分。本当は見つけたく無い…でもあの人なら来るだろうと確信していた人を見つけた。
「やっぱり来てたんですか…不比等さん」
私の声に周りが変な反応を見せる。中には敵対心むき出しのものまでだ。
「おお!さとりか!」
だがこの人と親しい人だとわかった瞬間それらの反応が消える。
「姫の護衛ですか…ご苦労なことです」
「はは!愛すべき者を守るのも男の役目だ」
やはりというべきか不比等らしいと言うべきか…家族よりも姫を取ったのですね。
「……やっぱり思い直しはしないんですね」
「まあな。妹紅には悪い事をしたと思ってはおる。だが、私が決めた事なのだ」
別に私は何も言いませんよ。不比等さん、あなたがそれを決めたのであればそれを最後まで全うしてください。
私には、貴方になにか物言えるような立場ですらないし言う資格すら無いです。
精々、応援するくらいです。
例えその先が破滅であっても…どうせ貴方はそれも考えての事でしょう。
「まあいいです。ですけど、私に妹紅さんを頼ませるような事はしないでください。お願いです」
ですがその考えに妹紅さんは含まれていないのでしょう。彼女がどんな人生を送るのか…不自由なく暮らせるように手配はしてるのでしょうけどね。
「ほほう、お主のことだから妹紅のそばに居てやれと言うかと思ったが…」
普通ならそう言うでしょうね。私だってそう言いたいです。
「言っても貴方はここで姫を守るのでしょう?なら私はその意思を尊重するまでです」
「ははは!年頃の娘には思えん!」
ヒトは見かけによらないですからね。
少し目を細める。
不比等さんも何やら私の事を不思議そうに見てる。探ってるのでしょうか。
詮索されても何も起きませんよ?それとも何か気になることでも?
どっちでもいいですけど……
「それでは、私はこれで…」
そう言い残して私は立ち去る。
不比等も私に対しては深く言及せずに見送ってくれていたようだ。
と言うか薄々察していたのだろう。それでいて見逃しているのだからかなり大胆な人だったのでしょう。
一回だけ振り返ってみれば不比等と目があった。
ーーすまない。
そう訴える目線をしっかりと受け止める。
ーーその謝罪は、妹紅さんにしてください。
全く……妹紅が輝夜と仲が悪くなるのも頷けます。
しばらく草原のようなところを歩く。不思議とこの辺りに人はいない。何も無い…でも落ち着くところだ。ここら辺に月の民が降りてくるのだろうか…
それとも別のところだろうか…
「あ!さとりちゃん!」
前から走ってきた人影が私の名を叫ぶ。
「あら、妹紅さん。どうしたのですか?」
「お父さんに会いに来たの!」
屋敷から抜け出してきたのだろう。いたるところに葉っぱとか土とかが付いている。
お節介ではあるけど服を叩いて綺麗にしていく。
「お父さんに会いに行くなら…ちゃんと別れの挨拶はしてくださいね」
髪の毛を整えてあげながらそう囁く。
「……?わかった」
いまいちわかっていないようでしたが、そのうちわかるかもしれません。
わかった頃には手遅れになってるなんて事もありそうですけど…
それは私には関係ない。あとは妹紅次第。
このまま蓬莱人になるのかそれとも人として一生を終えるのか…
「ありがとね、さとりちゃん!それじゃ!また今度!」
そう言って走り出す妹紅さん。どこまでもあの子は純粋なのでしょうか。羨ましいです。
「話し合いは済んだみたいだね」
「ええ、話し合いってほどでもないんですけど」
妹紅が走り去っていった直後、後ろから声が聞こえる。
お燐だ。
なんだか私何も出来ていない気がしますが…仕方ないでしょう。
今の私に出来ることといえばこのくらいですし…後悔は後でたっぷりしますから今は勘弁してくださいね。
日が暮れはじめ辺りに松明の光がともり始める。
都の外で隠れていたルーミアさんと合流し、屋敷の近くに身をひそめる。
「わくわくしてきたー」
呑気ですねえ…その気構え分けて欲しいです。
(ねえねえ、なんか変なのが来たよ)
上空をずっと見ていたお燐が異変に気付いたみたいだ。
月を背にして白い物体が点のように見え隠れする。人間達の方もそれに気づいた人たちが騒ぎ出した。
だんだんと大きくなってくるそれは三角形のような形をした平べったい何かだった。
牛車とかなんだとか言われてるけどあれは牛車じゃない。
(ほへ〜?なんだいあの牛車)
艦橋が二つ、全長は600メートル前後だろう、相当でかい。
「スター……デスト○イヤー」
よくよく見れば細部は全然違うしかなり小柄ではある。でもあれはどう見てもあれである。星の戦争で目にしたあれだ。
あれあれ言うのも面倒なので宇宙船って略でいいでしょう。
どんどん迫ってきたそれはものすごいブラストを地面に当てながらホバリングを行う。
春一番とか比べ物にならない突風が吹き荒れる。
(ひゃー!飛ばされる!)
猫化しているお燐が飛ばされそうになるのを辛うじて止める。正直私も飛ばされそうですけど…
あ、兵の先頭集団が転んだ。
ゆっくりと着陸してきた宇宙船の底部ハッチが開き、そこから戦車やらバイクやらなんやらが一斉に出てくる。
突風から立ち直った頃には既に戦闘配備が整っていた。
すごい速さです。あれはもう…なんというかねえ。
しかも戦車は多脚歩行戦車…蜘蛛みたいです。
しばらくは様子を見ることにしましょう。
人間達も何かの術のようなもので身動きが取れなくなっているみたいですし…
「早く行かないのかー?」
「まだです…頃合いを見ます」
おーあれが薬の壺なのか。って羽衣着ないんですか?まあ着たら色々とまずいみたいなので放っておきますが…
そのまま式みたいなものはどんどん進んでいく。
こっちでもルーミアさんが今にも飛び出しそうになってます。
「あれ?」
ふと、輝夜の目線に違和感を覚える。
普通なら宇宙船の搭乗口の方を見るはずなのですがそことは別、お迎えの人達の方に視線を向けている?
その視線を追ってみる。男性ばかりでむさ苦しい中に一人だけ女性がいるのにようやく気がついた。意識阻害の術式でも組んでいたのでしょうか?
(まだいっちゃダメなのかい?)
「まだダメです」
先陣切って動いたところであそこにいる戦車の主砲でズドンですよ。
そうじゃなくてもあそこに置かれてる対空車両とか迫撃砲、更には携帯火器で穴だらけです。
意識をもう一度さっきの女性に戻す。おそらくあの人が例の…あのお方と言う訳でしょうか。
ってなんかこっちを見ている気がするんですけどどう考えてもあれは探しているって目つき…
「……⁉︎」
視線がぴったり合った⁉︎まさかこっちに気づかれた?いや、うん…多分気づかれたみたいですね。ですが何もしてこないという時とは、見逃してくれているのでしょうか?
と思ったら突然その女性が動いた。
背中に背負っていた弓を素早く取り出し、真上に向ける。
突然のことで月の兵も反応できてない。と言うかコンマ数秒の早さで背中に背負ってた弓を構えるって凄すぎるんじゃないですか?あんな人相手にしたく無いですよ。
矢があろうところはまるでレーザー砲の様に淡い黄色に光っている。なにやらやばそうな雰囲気を放って……あ、発射した。
手が少しだけ動き光が弓から消える。少し遅れて空気を切り裂く音が聞こえた。
直ぐに飛ばされた矢を目で追う。
真上に打ち上げられたそれは数秒ほど飛び続けた後に…
「伏せて!」
咄嗟にルーミアの頭を叩きつけるように下げさせて隠れている茂みの中に隠す。
直後、物凄い閃光と轟音が辺りに響く。聴力が失われ無音状態になる。
少し遅れて地上でいくつもの爆発が起こる。当然私達の近くにも数発落っこちたみたいだ。
「MIRVみたいな攻撃ですね」
(呑気にいってる場合かー!ってかMIRVってなに⁉︎呪文⁉︎)
爆音が止んだので頭をあげる。
すごい穴ぼこだらけな上さっきまでいた月の兵の半数の姿が見当たらない。戦車も二台程破壊されたのか。黒煙を吹き上げて活動を停止している。
「ルーミアさん!行きますよ!」
「うえ⁉︎あ、ちょっと!」
未だに混乱しているルーミアさんを引っ張り空に上がる。なにやら文句言いたげですがこの際無視します。
ここからなら戦場がよく見渡せる。それに月の兵のほとんどは上空まで意識が及んでいない。
どうやら人間を止めていた術式も解けたみたいだ。多くが混乱しながらもなんとか月の兵へ攻撃を始めている。
やや遅れて妖怪の軍団が動き出した。
三つ巴の戦いになってますね。えっと…輝夜はどこでしょうか?
下を探すが、わけがわからないほど入り乱れてしまっていて分からない。
時折生き残った戦車が発砲。その度に人間がまとめて吹き飛ぶ。
直撃を受けて粉々になった人体や爆風で飛ばされる人間。月に兵が持つ銃から曳光弾が飛び出し妖怪や人間を容赦なく肉片に変えて行く。
「うわ…荒っぽいねえ」
(ほんとだよ。あんなことしたら綺麗な死体が残らないじゃ無いか)
二人は置いといて…輝夜が見当たりませんね。
さっきの攻撃による混乱で逃げるというならまだ遠くまで行ってないし追いかけている人たちもいるはず…えっと…
お燐も腕の中から下を見て探し始める。
(あ!いた!)
お燐が叫ぶ。
直ぐにお燐の思考を読み場所を特定。
「森に逃げ込んで撒くつもりですか。確かにバイクとか車に襲われるよりはマシですね」
「ねえねえさとり、あれ壊していいのかー?」
輝夜のところに向かおうとした途端にルーミアさんが肩を引っ張って止める。
振り返ると母船から複数の何かが飛び出していた。
縦に異様に細い胴体に左右に小さく飛び出た長方形のような翼。昆虫の触覚を思わせる先端…頭の上で大きく回転する大きな羽…そして尻尾のように後ろに伸びた胴体の一部。
前世知識が形の似ているものを思い出させ警告する。
「せ、戦闘ヘリ⁉︎」
それもただの戦闘ヘリではない。メインローターの上に搭載されたお皿のようなもの…AH-64D アパッチ・ロングボウだ。
想定外だ。輝夜だってヘリがいるなんて言ってない。向こうが万が一のために用意しておいた物なのでしょうか。
「く…ルーミアさん!壊しちゃっていいです!」
「わかったのだー!」
私が言い終わる前にルーミアさんは闇をまといながら突っ込んでいった。
だが向かってくるルーミアさんに気づいたのか3機のアパッチが高度を上げて、胴体の下につけられた機関砲が旋回し容赦無く弾丸を打ち込み始めた。
「ちょ!やっぱ無理なのだー!」
慌てて逃げる。ヘリの方も地上の支援に回りたいのか深追いはして来なかった。
「あんなのどう倒すのだー!」
弾丸が掠ったのか右足から血を流している。
うん、あれはちょっと危険すぎますね。私が一回弱点を教えないとだめでしたか。
「あの、弱点はあの上で回ってる羽か後ろの方の小さいやつです」
「わはー」
人の話を聞いてない…元からでしたっけ。まあいいです。
実際にやってみてなんぼですから。
一番近くにいるヘリを探す。こっちを警戒する1機のアパッチが視界に入る。丁度いいです。それにこの距離ならAAMでもない限り向こうの攻撃は当たらない…と思いたい。
メインローターに向かって弾幕を発射。当然アパッチは回避しようと旋回する。ですけど甘いです。
サードアイで先読みしたルートにも弾幕を放つ。一発がテイルローターに命中。小さく爆発しローターが吹き飛んだ。
「まあ、あんな感じに簡単に落とせます」
テイルローターを失った機体はメインローターのトルクを相殺出来ずくるくると回りながら地面に叩きつけられた。触覚のような機首が潰れ胴体がひしゃげる。
「すごいのだー!」
「では私達は輝夜の援護に向かいます」
はーいという気の抜けたような返事を背中に聞きながら戦闘空域を離脱する。途中で機銃の弾が私めがけて飛んできたがあの程度の攻撃当たるわけがない。
森の中だと上空からでは見つけづらい。
少し危険ですけど森の中まで降りましょう。
私のしていることを察したのかお燐は私の腕をがっちり掴む。爪たてられると痛いんですけど…
そうこういってる暇もないので急降下。速度が一気に上がり風切り音が鋭くなる。
そのまま速度を落とさず木々の合間に潜り込む。
記憶とサードアイがキャッチする思考を頼りに姫の元へ飛んでいく。
どうやらバイクが追っかけているみたいだ。そのほかにも10…いや12人が追っかけている。時々爆竹の破裂音のようなものが聞こえてくる。
木々をギリギリのところで避けながら最短ルートを飛行する。
(木が目の前にい!少しはスピード落としてええ)
「ーー!見つけた!」
視界に発砲する兵が見える。
即座に弾幕を展開し発射。紫と赤が混ざったような色をした弾幕がばら撒かれる。
突然の事で避けきれなかった兵士が吹き飛ぶ。
「お燐!任せました!」
「はいさー!」
複数の兵士たちの上空でお燐を投下。
即座に人型になり着地したお燐が近くの兵の首筋に爪を刺す。
あの距離なら銃火器は使えない。更にいえばお燐の得意な距離だ。相手が接近戦に強くてもそう簡単にはいかないだろう。
血しぶきが上がるのを横目に私は直ぐに前の方にいる輝夜たちのところに降りる。
「遅れました」
近くに来たバイクのヘッドライトが私を照らす。スポットライトはいらないです。
瞳孔が直ぐに絞られて目に入る光量を調整。同時に一瞬だけ
「あ、あなたまさか⁉︎」
「説明は後です!」
最初こそ奇襲で優勢だったお燐ですが向こうもアホでは無い。直ぐに体勢を立て直して小型結界などを張ったりしながらお燐の攻撃を防いている。
その上数が揃ってきた。これ以上はお燐が危ないわ。
「お燐退きなさい!」
「え⁉︎わ、わかった」
お燐が一回転し猫の姿に戻る。そのまま森の中に逃げ込み視界から消えた。残っていた兵が一斉にこっちに意識を向ける。
めちゃくちゃ睨んできてるんですけど大丈夫なんでしょうか。
突然降りてきた私に警戒しているのか迂闊に攻撃はしてこない。攻撃してきた方が楽なんですけどね。
ちょっと煽っておいた方がいいかしら?
「妖怪風情が邪魔だ死ね…ですか。物騒なものですね」
「な⁉︎」
考えていた事を言い当てられたのか一人の兵が驚愕する。
「狼狽えるな!」
「そういう貴方は地上にいるのが嫌だからさっさと帰りたいと…なら帰ってください。地上に迷惑です」
「このっ‼︎生意気な!」
一人がそう叫んだ瞬間、私とその後ろにいる輝夜たちに向かって鉛弾が飛んできた。
少しくらい話聞こうとか思わないんですかね。
煽った私が言うのも変な話ですけど。
「な、なんで効かない!」
私の周りの木々や地面が銃弾により抉れ破片が飛び散る。当然そこには私や輝夜の身体も含まれていなければならないのだが、そんなものはない。
「何でって言われましても効かないんですから効かないんです」
まあいくらでも撃てばよいです。
私はゆったりと反撃しましょうか。
先ずは、面倒なバイクを破壊。燃料タンクは大体座席付近…まとめて吹っ飛ばしちゃえ。
こちらを照らすバイクに弾幕を撃ち込み吹き飛ばす。
破損したタンクから漏れた燃料に引火し空中で火花を作る。綺麗なものでは無いですね。
さてお次は…
「うわあああ!来るなああ!」
適当に狙いをつけた兵の元に歩いて行く。貴方に逃げるという選択肢は無い。あってもそれは叶わない。
あーあーそんな乱射しちゃダメですよ。弾が無駄になるだけですからね。
「やめろお!目が、目が潰れる!」
だから煩いんですよ。
首をへし折って放り投げる。
叫んだり逃げまとう兵達を一人一人捕まえる。
一人の口から私が飛び出す。ありえない光景に周りがパニックになる。
這い出てきた私に銃撃とナイフが容赦無く襲う。だが、いくら銃撃しようとナイフで斬ろうと全くダメージを受けた雰囲気が無い。
「まだまだ遊びましょ?月の民さん」
勝手に跳弾やフレンドリーファイアで自滅が始まる。そろそろ姫達を連れて離れましょう。
「なんか…貴方って相当エグくないかしら?」
「そうでしょうか?私としては精神が再起不能になるくらいで生命活動に支障はきたさない程度に留めてるんですが」
《十分えぐいよ》ですか?はて?訳がわからないです。彼らに一応選択肢は与えてますよ?まともな思考はさせませんけど。
何も難しい事はしていない。ただ全員と目が合った一瞬を使って全員にトラウマを植え付けていっただけだ。
それだってリアルタイムで見れるように五感からの感覚が脳に伝わる僅かな遅延時間の合間に記憶に直接投影しているだけです。
ただ私の処理する情報が多くなって面倒になるだけで大して効果ないですし。
「で?貴方は何者?万が一姫に危害を加えるようなら…」
「《その場で消滅させますよ》ですか。あ、すいません勝手に心を読んでしまって」
ずっと黙ってこっちを睨んでいた女性が話しかけてくるが、それをつい遮ってしまう。
いけないいけない。妖怪としての癖が出てしまった。かなり気がおかしくなって来てるのでしょう。
「……さとり妖怪ね」
完全に警戒されましたね。背を向ける私に矢を構えているみたいですが…
「やめなさい永琳。さとりは私の親友よ」
「……失礼しました」
「こちらこそ無駄に警戒心を抱かせてしまってすいません」
素直に謝っておく。この人を敵に回すようなことだけは避けたいです。
「ではお燐。この二人を連れて直ぐにこの場を離れてください」
「さとりはどうするんだい?」
人型になったお燐が不思議そうに尋ねる。
「私はルーミアさんを迎えにいきます」
状況のよくわからない二人は何を話しているのかいまいち分かってない。だがお燐にはこれで十分。
「わかった。それじゃああそこで待ってればいいんだね」
「ちょっと待って!まさかあそこに戻る気なの⁉︎」
正気の沙汰じゃ無い。ですか…まあ普通に考えればそうですよね。ですけどあそこにはまだ知り合いがいるんです。
「知り合いが戦ってるのに逃げるのは嫌なんで」
これ以上何かを言われるのは御免なのでお燐に後を任せ戦場となっているであろうところに向かう。
小さく聞こえる炸裂音が不思議と懐かしさを感じる。
後ろで輝夜が何か言ってる気がしますが聞こえないことにしましょう。
「さて、お二人さん。あたいについてきて」
さとりが飛んでいってしまい途端に姫が騒ぎ出す。
「ちょっと!大丈夫なの⁉︎」
「さとりなら大丈夫だよ。確証はないけど、そう言い切れる自信はある」
こういう時の勘はよく当たる。無傷というわけにはいかないだろうけど必ず帰ってくる。そう感じたらそれを信じるのがあたいだからね。
だから帰ってきたら思いっきり甘えられるようにしておかないとね。
未だに戦闘は行われている。だが地上はバラバラになった人間の死骸や槍などが刺さった月の民のものなどであふれかえっている。
戦車も全車が破壊されたのか脚のようなパーツや砲台が転がっている。
戦っている妖怪も1、2体くらいしか見当たらない。
まさに地獄絵図と言うか…泥沼の戦場というか…そんな感じのものです。初めてみますね。
流石に半数の兵力ではいくら兵器が優れていようと優勢にならなかったみたいですね。
ルーミアさんを探すと、宇宙船の上部で寝っ転がっていた。
闇にすっぽりと覆われていて何が何だか分からないが、寝ていることだけはわかった。
おいておくわけにもいかないので回収しに行く。
凹凸も接合後もない滑らかな船体の上に降り立つ。
「ルーミアさん?起きてください」
妙に血なまぐさい。負傷しているのだろう。なおさらここにおいておくわけにはいかない。
「……」
返事がない。取り敢えず闇の中に手を入れてルーミアさんの身体を担ぎ上げる。その直後、身体を激しい振動が襲う。
「きゃ!」
バランスを崩してそのまま船体から落下。空中に投げ飛ばされる。
「な…なにが?」
爆発でも起こったのかと思ったが違うみたいだ。宇宙船が浮き上がっていた。
浮上自体は珍しい事では無いかもしれない。
だが、異常なのはまだ地上には月の兵がいるにも関わらず逃げ出そうといった格好で浮上している事だ。
人を抱えて飛ぶのは困難なので一旦地上に降下する。
生き残っている人達が何かを叫んでいる。
それに答えるかのように宇宙船の下部ハッチが開く。そこから筒状の何かが切り離される。
「逃げろ‼︎」
誰かがそう叫んだ気がした。
その声で生き残っていた月の兵が一斉に逃げ出す。
全長12メートルほどあろうかと思われる巨大な爆弾が迫ってくる。
「ここを…吹き飛ばすつもりですか⁉︎」
飛んで逃げても巻き込まれるのは目に見えている。
とっさにルーミアさんを地面に開いた窪みに押し込み上から覆いかぶさる様に伏せる。
戦車の砲撃か永琳の攻撃で開いたものなのかよくわからない穴ではあったがそんな事は関係ない。
効果があるかどうか分からないが結界のような感じに残っている妖力で壁のようなものを作る。
生き残れるかどうかはわからない。でも何もしないよりかはマシでしょう。
そう思った直後、世界が真っ白になり音が、空気が消えた。
「………あ、久しぶり」
また声が聞こえる。相変わらず視界は仕事しない。感覚も無い。
「いやー派手にやったね。周辺に何も無くなっちゃったよ」
なんでそんな事がわかるのか…不思議です。
予想としては私の体を乗っ取って歩いているのかはたまた別の理由でか…
「あ、気にしなくていいよ。私が適当に予測してるだけだから」
事実じゃないじゃ無いですか。何、不安にさせてるんですか。えーっと…なんて言えばいいんですっけ?
「そうだねー?呼びやすい名前でいいよ。お姉ちゃん」
あーはいはい。そうでしたねー最近会ってないから忘れてました。
というか考えてることが共有してるんじゃ色々面倒いですね。嫌ではないですけど…
「さとり妖怪なのにそんなこと考えるんだね」
私は人間ですよ?さとり妖怪やってますけど。矛盾かな?
「矛盾どころか凄いぐちゃぐちゃだよそれ。無意識の私がいうのもなんだけどさ……お姉ちゃんって色々おかしいよね」
それは『私』自身がですか?それとも、今ここにいる『ワタシ』がですか?
「どっちもかなあ?まあそんなこと言ったら私もその『おかしい』部類に入るけど」
なかなか難しいものです。私自身常識の範囲で動いているつもりなのですがね?それとも私の常識がずれていると…それはそれで厄介極まりない。
「そういえば私達、何を話そうとしてたんだっけ?」
一瞬だけ視界が緑色になる。完全に緑というか…波のように薄いところと濃いところが入り混じっては消えて行く。海面を海中から見上げた感じでしょうか。不思議と暖かくて…落ち着きます。
「ああ、そうだそうだ。体の状況についてだった」
なんだそんな事ですか。どうせ酷い状態なんでしょう?
「まあまあそう言わずに、話だけでも聞いていきなさいなー」
はいはい、聞くだけ聞いておきますよ。
「それじゃあ…何処から話そうかなー。酷い傷のところから話そうか」
そうですね。なるべく重症なところを簡単に伝えてください。
「まずは背中かな。肩から腰にかけて深さ数センチほどが焼け焦げて炭化しちゃってるよ。あと左腕もかなり損傷してるから使い物にならないかもね」
え?何それ大丈夫なんですか?どう考えてもダメそうな感じなんだけど。
「全然大丈夫じゃないよ。幸い回復が始まってるから気にしなくていいかもね。ただ、右側の肺が潰れてるから気をつけてね。そっちは治りが遅いからさ」
なるほど、右側の肺が……って、おい!
そっちの方が重症じゃないですか!しかも治りが遅いところって言いましたよね⁉︎
「ちょ!怒鳴らないで!響いちゃって痛いから!」
おっとすいません。取り乱しました。
「むしろそれほどの傷でよく助かったものだよ。流石は私だね。頑丈さでは定評がある」
気のせいでしょうか?だんだんと視界が明るくなってきたのですが…
「ありゃりゃ、もう時間みたいだね」
目の前で少女がくるくる回り出す。
実際には幻覚の類なのかもしれない。
そんな事を考えていたら声は聞こえなくなり、体に感覚が戻ってくる。
「う…背中があ⁉︎」
焼け付くような痛みが身体中に走る。息を吸おうとするが今度は空気がうまく吸い込めず逆に気管から血が逆流する。
「さとり!大丈夫⁉︎」
すぐ真横でルーミアさんの声が聞こえる。だが痛みで思うように体が動かない。
目も開けているのだが全く情報が入ってきてない。網膜が焼けてしまったのか、眼球が壊れているのか…はたまた神経回路が遮断されているのか。
それを考える思考すら痛みはさせてくれない。
「どうしたら…えっと…えっと」
悶えている私を治癒しようとしているのか隣でガサガサと動く音がする。
再生が追いつかないのかなんなのか。未だに痛みが引く気配はない。
「ええい!どうでもなるのだー!」
やけくそになったようなセリフを吐いてルーミアさんが何かの術をかけてきた。
一瞬体が温かくなりよくわからないが痛みが緩和される。同時に視界が少しづつ戻ってきた。
「あ…ありがとうございます…だいぶ楽になりました」
最初に見えたのは心配そうにこちらを覗き込むルーミアさんの顔だった。多少煤などで汚れてはいるが…目立った怪我はないようだ。
「気にしなくていいのだ。さとりが助けてくれなかったらこっちがやばかったのだ」
どうやら私はずっとルーミアさんの上で背中を炭化させながら覆いかぶさっていたようだ。
ほぼ死にかけてる私をどうにか安全なところまで運んでくれたのも彼女なのだとか。
なんか、すいません。
やっと周りが良く見えるようになる。仰向けになっていた上半身を起こして周りを確認する。
「まだ動いちゃだめなのだー!」
「大丈夫です…痛みは引いてますから…」
身体を動かすたびに背中からパラパラと何かが崩れ落ちる。
あまり気持ちのいい感覚ではありませんし落ちたものが何なのかなんて考えたく無いです。
しかしそんなことも吹き飛んでしまうような光景を目の当たりにする。
「うわ……終末戦争ですか…」
私の目の前には一面の焼け野原が広がっていた。
草木やそこにいる生物は燃え、灰となって舞っている。未だに燃えている地面。その上にあるぐちゃぐちゃの塊。それも一つや二つでは無い。百単位であたりに散らばっている。
そして微かに臭ってくる燃料の燃える独特の匂い。
「……燃料気化爆弾、でしょうか?」
だとすれば周りが燃えて灰になっているのはちょっとおかしいかもしれない。
燃料気化爆弾の破壊力の要諦は爆速でも猛度でも高熱でもなく、爆轟圧力の正圧保持時間の長さ…つまり、TNTなどの固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が長い間に連続し全方位から襲ってくるところである。
だがこの破壊規模は爆風だけではなく高温で焼けたものも含まれている。
「まさか火炎爆弾と複合仕様だったのでしょうか」
「難しい話はわからないのだー」
おっとすいません。そうでもいいことを考えてしまいました。
体力もある程度回復したので、生存者を助けに行きましょうか。
「さとり?またあそこに行く気なのかー?」
「生存者を助けるくらいいいでしょ?」
ゆっくりと立ち上がる。身体の動きが重たい。服も背中の部分が無くなっているのかかなり風通しが良い。と言うか腕の部分が支えになっているに過ぎない布切れになっていた。
「今の体じゃ無理よ!それに、あれじゃ誰も生き残ってないってば!」
「それでも…行かないと…」
ゆっくりと歩き出す。幸い足は被害が無かったのか普通に動けるようだ。
「これ以上はさとりの体が持たないわ!やめて!」
右腕をルーミアに掴まれる。その気持ちも痛いほどわかる。
「人には…無理と分かっていてもやらなければならないことがあるんです…」
我ながら凄い頑固だなと思う。誰に似たのでしょうかね。
「仕方ないのだー私も手伝うわ」
そう言ってルーミアさんは腕を掴んでいた手を離す。
そしてふらふらの私に黙って肩を貸してきた。
私の勝手に付き合わなくてもいいのに…
肉や何かが焼ける臭気が立ち込める中をサードアイに反応する声を頼りに歩いて行く。
ボロボロだった体がある程度回復してきたところで不比等さんを見つけた。
「……」
まあ…予想はしてた。
都合よく私の親しい知人が生きているなんて事あるわけないと…
「ごほ…さ…さとりか…」
先ほどの爆弾でやられたのだろう。不比等さんは見るも無残な姿になっていた。もう長くは持たない。治療も無駄…
ほんと…部下を逃がすために殿を務めるなんて…アホですよ。
「喋らなくていいです」
「そういえば……そうだっ……な…」
隣にいたルーミアさんが黙ってその場を離れる。私に配慮してのことだろう。
今の私はサードアイを出したままにしている。
だからもう喋るのはやめてください。苦しいだけですから…え?
「《楽にしてくれ》ですか…」
意外です。妖怪と…それも妬み嫌われるさとり妖怪を前にしても罵倒も軽蔑もしないなんて…
どう言う神経をしているのでしょうか。それどころか私がさとり妖怪であってもやはり妹紅を頼むですか…
もう不比等さんは喋らない。いや、喋れないのだろう。
「《早くしてくれ》ですか…最後まで頑固な人です」
「まさかこの刀がこんな形で使われるなんて…」
一応持ってきておいた刀を懐から出す。
ーーーやめて
ゆっくりと刀を抜き、構える。あの爆撃でも傷付かずに保っていたみたいだ。月明かりで鈍い光を放つ。
ーーーやめて
胸の場所に刃の先を当てる。狙いは首
ーーーそれをしたらもう戻れない…やめて…
勢いをつけるために軽く持ち上げる。
不比等さんの感情と記憶が全て私の脳内に入ってくる。
ーーお願いだからやめて!
持ち上げた手を思いっきり振り下ろした。
「やめてえええ!」
骨が砕け散る感触が刀を持った手に響く。
深々と刺さった刀を抜く。
もう、この人は動かない。
そこらへんの死体と同じ状態になってしまった……いえ、してしまった。後に残ったのは、私が読み取った不比等さんの記憶…忘れてはいけない大事なものだ。
不比等を挟んだ反対側にはいつの間にか妹紅さんが立っていた。
ああ…どれほど私が不注意をしていたのでしょうか。
「なんで……」
何かをつぶやく妹紅さんにサードアイの視線を合わせる。
悲しみ、後悔。そしてそれらを全て飲み込むような激しい憎悪。誰に向けてのもでもなくただ自分に向かってのもだ。
それらが一気に私の方に流れ込んでくる。
一瞬目眩がして倒れそうになる。それほどまでに物凄い。こんなものを抱えていては心が壊れてしまう。なんとかしないととは思うのだが…
この状態で何か言うのは逆効果。しかも私は彼女の父にとどめを刺した妖怪なのだ。
悩んでいても始まらない。
「……恨むなら…私を恨んでください」
その途端、怒りの矛先は一気に私の方に向いた。
脳裏に激しい憎悪の感情が入り込み、私自身を燃やしていく。
「……っ‼︎」
妹紅さんの姿がぶれる。
瞬間、私は右腕を顔の前に動かし向かってくる拳を掴む。だいぶ弱ってるとは言え子供の攻撃くらいならどうにでもなる。
「……無駄です」
体術の一つや二つ、かけておこうかと思ったものの、それより先に妹紅さんの体から力が抜ける。抵抗する気が無くなったようなので拳を離してあげる。
「……」
そして何かを察したのか妹紅は走って私の前から消えて言った。終始黙りっぱなし…いえ、ショックが大きすぎて色々と思考停止していたみたいだ。
最後まで私に向かって罵倒し続けていた辺りまだ正常何でしょう。
妹紅さんを止めることすら出来なかった私はのろのろと歩き出す。
なんでこうなるんでしょうね?
理不尽だとかなんだとか叫んでもいいかもしれませんが元を辿ると私が原因だったりするのでなんとも言えない。
こんなんなら最初から誰とも関わらなければいいと思ってしまう。
やめましょう。こんなこと考えても何にもなりません。
この惨状から離れたくて歩き出す。空を飛べばどうってこないがまだそこまで回復はしていない。
焼け焦げた草やボロボロになった地面を踏みしめる。
他に生存者がいないかどうか確かめるが、ほとんどがもう死に絶えているか逃げてしまったかで誰もいない。
「……?」
破壊の後が目立たなくなったところでふと人間の気配を感じる。
まだ生きている人でもいるのかと思いそっちの方に歩いて行く。思えばなんでそうしようと思ったのかはわからない。
一人の少女が倒れていた。黒い短髪、きている服からして平民でしょう。私とほぼ同い年と言ったところです。
お腹に刺さった金属の棒のようなもの。
サードアイを使って何があったのかを調べる。どうやらこっそりと見に来た子らしい。こっそりと隠れていたが戦いが始まって逃げ遅れたみたようで、爆発で吹っ飛んできた破片をもろに食らったようだ。
「あ…え…だれ?」
少女が私に気付いたみたいだ。
「ただのどうしようもない妖怪風情です」
そう言うと少女の思考が大きく変わった。
それは生への異常なまでの欲求。どんな手段をとってでも生き残りたいという生命が元から…この世に誕生した時から持っているであろう根本的なものだ。
「そこまでしてまで生き延びたいですか?」
問いかける。方法はいくつかあるが…今この場で出来るのはたった一つ。それも、特大クラスとの禁忌とでも言うべきものだ。
「う……ん…」
即答が帰ってくる。不思議な子です…弱ってるので全ての記憶は見ることができません。いえ、この際見なくてもいいでしょう。
「なら…人間やめますか?」
本当はしてはならない。このまま自然の定理に任せて最後を見届けるのが最善だ。
特に私はさとり妖怪…もし私がこの子を助けたらこの子もさとり妖怪になってしまう。それはこの子に死んだ方がマシと言えるほどの苦痛を与えてしまうかもしれない。
「やめ…る…」
即答だった。本当にこの子は過去に何があったのでしょうか。人間をやめてまで生き延びたい理由でも…
色々と考えてみるが何も思い浮かばない。別に知る必要も無いですね。
さて、本人は妖怪になってもいいと言いましたが私自身はまだ迷ってしまっています。
他に方法はないのか…出来れば私みたいな存在になって欲しく無い。
色々とあって麻痺した思考ではあまり最善の手を打つと言うことはできないようだ。
私自身がどうしてもこの子を助けたいと思ってしまうお花畑な思考を持っていることも合わさってますね。
変な思考に流されているので一旦リセット。リセットついでに折れていた片腕を刀で切断する。
刃物が食い込む鈍い痛みが走る。
やや重いものが落ちる音がして辺りが真っ赤に染まる。
切り落とされた腕をさらに小さく刻む。
人間を妖怪にする方法は二つ。一つは、赤ん坊の時から強力な妖怪の元に一緒にいさせて妖力をその身に纏わせる。ただしこれには相当な時間がかかる。もう一つは、直接妖怪の肉を食べる事だ。
刻んで適当な大きさにした腕の残骸を彼女の口に押し込む。
少しくらい躊躇してもよかったのですが…躊躇する必要があったのかと一思いに楽にさせる。
「う⁉︎ぐ…」
口に押し込んだ肉を飲み込んだ直後、体に変化が現れ始める。
髪の毛の色が少しづつ変化し、刺さっていた棒が逆再生のようにゆっくりと肉体から抜けて行く。足首と変色した髪の毛のところから青い管がそれぞれ生えてくる。
それらが胸の真上まで来て丸く大きな塊を作る。
ちなみに妖怪の肉を食べたからと言って完全に妖怪になるわけでは無い。
半人半妖となった少女はその反動からか気を失ってしまっていた。
「あー…同族作りですか?」
そばにフワフワと黒い塊が浮いてくる。もうそこまで回復しているとは…流石です。
「結局、ただの自己満足というわけです。無責任だなんだって言うのはこの子が回復してからいくらでも聞きます。だから…今は胸の内に秘めておいてください」
闇が少しづつなくなっていき、その場に金髪の女性が現れる。
「別に…文句も何も無いのだーさとりは何も間違ってないのだ」
何も間違ってない…ですか。
まあこの世界に何が正しくて何が悪いかなんて明確な定義存在するはずないですからね…
ああ…憂鬱だ。
気絶している少女を肩に担ごうと左腕を差し出そうとするが、その手は虚しくも空を切る。
そうだった…自分で切り落としたんでした。
「すいません…ルーミアさん。この子を運んでくれませんか?」
「わかったわ」
どうもこの世界は残酷らしい。
おまけ
さとり「えーっと…今開示可能な月の勢力はどのくらいなのですか?」
輝夜「そうね。だいたい…戦車4両とAPC3両…IFVが1両くらいかしら…他にもバイクとか迫撃砲…兵員は一個連隊規模よ」
さとり「え…無理ゲーですよねそれ」
輝夜「気にしない気にしない」
お燐「戦車?えーぴーしー?なんのこっちゃい?」
ルーミア「美味しそうなのだー。それどんななのだー?」