いや、うんまぁ、一応次回の途中からロータを去る予定なんで、
完全に嘘ではないですが……
あと、特にバトルはないですが、本編にも繋げることにしたので、色々とオリジナル展開考えてます
舞踏会も終わり、後はみんなを見送ること、それが波導の勇者としての、サトシの役割だ。玉座の隣、壁画の下に立つサトシ。
「では、波導の勇者より、皆様を見送って頂きましょう。サトシ、お願いします」
「はい」
既に一度経験したことがあるため、特に指示がなくとも、サトシにはすべきことがわかっている。片手で杖を握り、頭上に掲げる。もう片方の手はてっぺんにある鉱石にかざすようにし、サトシが壁画のアーロンと同じポーズをとる。
それを合図に、オルドラン城の夜空に、大量の花火が打ち出され、この催しの終わりを彩る。綺麗なその光景に誰もが見とれるのを見て、サトシも夜空を見上げる。
思い出すのはあの時のこと。
あの時もこうして勇者のポーズをとり、みんなを見送った。でも、それはここで起きた出来事の、本の幕開けに過ぎなかった。
その直後に脳内に声が響いたかと思うと、杖が振動し始めて、付けられた鉱石が強く光って……そう、丁度今のように……って
「!?」
ハッとサトシが勇者の杖を見る。見覚えのある光景に、以前と同じ感覚。前の時もその様子を見ていたアイリーンと付き人の女性も目を見開いてサトシと杖を見つめる。
人々がざわつきだし、サトシに注目している。しかしそんなことをサトシは気にする余裕もなかった。まさか、そんなことが?疑問を抱えながらも、サトシは片手を杖の鉱石にかざす。手袋にはめ込まれている鉱石も、共鳴するかのように光りだしている。
「……ルカリオ……お前なのか?」
サトシがそう杖に話しかける。すると、鉱石の輝きがより一層眩しくなり、そこから一筋の光が飛び出し、サトシの前に降り立つ。
光が徐々に何かの形へと変化していく。尖った耳、頭部のふさ。青と黒の体に、トゲのように見える白い毛。
跪いているそのポケモンがゆっくりと瞳を開き、サトシを捉える。赤い瞳が見せるのは、喜びの感情。そのポケモンがサトシを見据えたまま立ち上がる。
『久しぶりだな、サトシ』
口は動いていない。それでもサトシには、はっきりとその声が聞こえた。それは彼だけではなく、彼らのことを見ている全ての人にも。
波導を使い、彼は人と同じ言葉で気持ちを伝達することができる。そんな個体は、あの頃から一度も出会ったことがなかった。それは壁画に描かれた、もう1人の波導の勇者。
「ルカリオ……本当に、お前なのか?」
『ああ。お前が再びこの地に来るのを、ずっと待っていた』
そう言ってルカリオの口元が笑みに変わる。
かつて何百年という間も閉じ込められ、現代にてサトシたちとともに世界の始まりの樹へと向かい、そこで別れたはずの彼が、今こうして、再びサトシの前に現れたのだった。
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突然のことに驚く人々に、アイリーンはこれを演出の一つとして伝え、騒ぎを起こすことなく、帰した。城に残っているのはサトシたち修学旅行組にキッド、そしてサトシの知り合いということで誘われたアラン、マノン、コルニだけ。
「みなさん混乱していると思いますが、まずは、ルカリオ。久しぶりですね」
『はい、アイリーン様』
「あの後、あなたは一体どこへ?」
『ミュウと始まりの樹の力によって、私とアーロン様は、元いた時代に飛ばされました。肉体も、完全な復活を遂げていて……それ以降、私たちはリーン様の元で、この町を守り続けておりました』
「ねぇコルニ……ルカリオって、テレパシーが使えるの?」
「少なくともあたしのルカリオはできないけど……」
「杖の中から出て来るなんて、一体どうなってるんだ?」
「それにさっきから時代とかはじまりのきとか、何のことだろう?」
「今、ミュウって名前が出たよな……ミュウってまさか、あのミュウのことか?」
「ピチュ?」
「なら、どうしてまた杖の中に?」
『約束したからだ。アーロン様と』
「アーロンと?」
『そうだ。アーロン様は確かにまた共に生きた。しかし、ある時、見たこともない謎のポケモン……いや、ポケモンと呼んでいいかもわからない。謎の生物が、空を割り現れた。その強大な力を抑え、元来た場所に帰すために、アーロン様は持てる全ての力を使ってしまった。私も共にあろうと思った。けれども、』
『アーロン様、しっかり!』
『……ルカリオ、お前はこの杖の中で眠れ』
『何故です!?私は、あなたと共に!』
『恐らく、これが最後ではあるまい。きっとまたいつか、同じようなことが起こる。悪い予感がする。君の話してくれた少年が、いつか出会うことになるのかもしれない』
『サトシが!?』
『ルカリオ……彼は私と同じ波導を持っているのだろう?きっと波導使いとしては未熟な彼を、君が導いてあげてくれ。私が君に教えたように……頼めるか?』
『っ……この身に変えても!』
『頼んだぞ……ルカリオ』
『そして私は、またお前と出会うその時を、ずっと待ち続けていたのだ』
「そんな大昔から、ずっと……」
静かに頷くルカリオ。何百年もの間、杖の中で過ごすのは、どれ程窮屈で苦しいことだっただろうか。サトシたちには、とてもではないが想像できなかった。
「……また会えて嬉しいよ」
『私もだ。サトシ……私をお前と共に連れて行ってくれないか?』
「ルカリオ……」
まっすぐ自分に向けられる視線を、サトシは正面から受け止める。小さく頷くルカリオ。サトシの口元に笑みが浮かぶ。
「もちろん、歓迎するぜ」
ボールを手に、ルカリオに差し出すサトシ。ルカリオは拳を合わせるかのようにし、ボールのスイッチに触れる。赤い光に包まれ、ルカリオがボールの中に吸い込まれる。ポォン、と小さく音がなり、ボールのボタンのランプが消える。
「ルカリオ、ゲットだぜ。出てこい、ルカリオ!」
ボールを軽く投げると、中からルカリオが飛び出してくる。
「改めてよろしくな、ルカリオ」
『ああ。お前の友として、お前の側にいよう』
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「取り敢えずサトシ、説明!」
用意された男子部屋に集まったサトシたち。ちゃっかりアランたち三人も加わり、興味深そうにサトシとルカリオを見ている。
「えーと、このルカリオなんだけど、波導の勇者アーロンの壁画があっただろ?そこに一緒に描かれているルカリオなんだ」
「ってことは、アーロンのポケモン?」
『その時代にはモンスターボールは存在していなかったが、そうだな。サトシとピカチュウの関係に近いものだった』
「じゃあ相棒って感じかな?」
「ですが、お二人とも、前に会ったことあるような話をしていましたよね?」
「会ったことあるからなぁ」
「詳しく聞かせて!」
「えっ?えーとな、」
サトシは語り始めた。ホウエンの旅の後に、バトルフロンティアに挑戦していたこと。その途中にロータに立ち寄ったこと。
二年前、サトシと当時の旅仲間は、この祭りに参加したのだった。波導の勇者を決めるためのバトル大会にも参加したサトシは、ピカチュウとともに、見事にその座を勝ち取ったのだった。
そして舞踏会が終わった後、サトシが杖を掲げると、ついさっきと同じように、中からルカリオが現れたのだ。波導の勇者、アーロンに仕えたポケモンのルカリオは、長い間、アーロンが城を捨てたと言っていたこと、突然封印されたことに戸惑い、人間を信用しようとしなかった。特にサトシに関しては、アーロンと同じ波導を持っていることからか、強めの態度になってしまった。
しかし、一つの事件が起こった。ピカチュウが世界の始まりの樹に住むと言われているミュウに連れ去られてしまったのだ。ピカチュウを探すために、サトシたちはキッドとルカリオの協力を得て、始まりの樹を目指した。その中で、サトシとルカリオは反発し、理解し、そして絆を深めた。
途中、始まりの樹を守護するレジロックたちに妨害されながらも、サトシはピカチュウと再会することができた。喜べたのもホンの一瞬。始まりの樹の防衛システムらしいものによって、人間、つまりサトシたちが排除されてしまった。悲しみにくれるポケモンたち。それを見たミュウが、始まりの樹に働きかけ、サトシたちを救ってくれた。
しかし、そのために大きく樹に無理をさせてしまったのか、始まりの樹が崩れ始めてしまう。力を使いすぎたのか、ミュウもグッタリしてしまう。そんなミュウに連れられ、サトシたちは世界の始まりの樹の心臓部にたどり着く。そこにはなんと、結晶化してしまったアーロンがいたのだ。
かつて大きな戦争が起ころうとした時、アーロンは持てる全ての波導を使い、始まりの樹の力を使って、その戦争を止め、ロータを守ったのだった。そして今、この樹とそこに住む全てのポケモンを助けるために、ミュウは波導の力を使って欲しいと頼んだのだ。
波導を使い切れば、アーロンと同じ運命を辿る。それを理解しながらも、ルカリオは迷わず自分の波導を渡そうとした。けれども、彼一人の波導では足りない。それを見たサトシもまた、ポケモンたちを救うために、自らの波導を渡す決意をする。
二人の波導がミュウに注ぎ込まれていく中、体に変化が起こり始めてしまう。ルカリオはサトシを突き飛ばし、最後は一人でミュウへ波導を届け切った。その力でミュウと始まりの樹は回復したものの、ルカリオの体が徐々に結晶化していく。
最後の最後で、ルカリオはアーロンの真実を、その想いを知った。サトシたちの見守る中、ルカリオは笑いながら消えていく。結晶状のアーロンも消えて、残ったのは彼の手袋だけだった。
『その後、私とアーロン様は気づいたら元の時代に戻っていたのだ。恐らく、ミュウのおかげで』
話を聞き終えたみんなの様子は様々だった。涙するもの、開いた口の塞がらないもの、笑顔でサトシたちを見るもの。それでもみんな、その話に引き込まれていた。
「時を超えた絆だね」
「わたくし、とても感動しました」
「ミュウって確かカントーで有名な幻のポケモンでしょ?よく会えたね」
『?ミュウなら「ピチュ!」いや、なんでもない』
「どうしたの?」
「ピチュ?」
みんなが口々に感想を言い合う中、コルニだけはじっとサトシの隣に立つルカリオを見ている。
『何か用か?』
視線に気づいたルカリオがコルニに顔を向ける。つられるようにサトシもコルニを向くと、コルニが何やらワクワクした顔をしている。
「ねぇサトシ。せっかくルカリオが仲間になったんだからさ、バトルして見ない?」
『バトルだと?』
「そう!あたしのルカリオとサトシのルカリオで」
「おおっ、面白そうだな!よぉし、じゃ早速」
「待ってサトシ!」
「?どうしたんだ、セレナ?」
「今何時かわかってるの?」
「へっ?」
みんなが時計を見ると、既に長針と短針がてっぺんを超えている。真夜中も真夜中だ。さすがにこの時間にバトルなんてすれば、流石にアイリーンに迷惑をかけることになるかもしれない。
「だから、バトルは明日までお預け。ね?」
「そうだな。コルニ、それでいいか?」
「おっけー。今から楽しみだね」
「アランはバトルしないの?」
「本音を言うと戦って見たいとは思うが、流石に二戦連続は厳しいだろうからな。今回は見物させてもらうさ」
「そっかぁ」
結局その後すぐ、明日のバトルに備えるということで、サトシたちは解散し、眠りにつくのだった。
ちゃっかり眠るサトシの腕の中に、白い体のポケモンが潜り込んでいたことには、ルカリオとゲッコウガ以外は気づいていなかった。
ルカリオ同士によるバトルが始まる。
波動と波導がぶつかり合う。
進化を超えたメガ進化、その力の前に、勇者のルカリオは……
そして一方オーキド研究所の方にも誰かが来たようで……
次回
『さらばロータ!懐かしき仲間たち!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!