サトシのフシギダネを先頭に、サトシ、リーリエ、スイレンたちは開けた草原を歩いていた。雲の少ない晴れた空、時折吹き抜ける風が心地よく、木々のざわめきも心を落ち着かせてくれるようだった。
「スイレン、リーリエ。二人はどんなポケモンを見てみたい?」
「わたくしはサトシの今までに一緒に旅をしてきた仲間を見てみたいです」
「私はみずタイプのポケモンを見てみたいかな。他の地方のはあんまり知らないし」
「そっか。フシギダネ、案内頼めるか?」
「ダネダ!」
ついてこい、とつるの鞭で合図するフシギダネ。この研究所のポケモンたちをまとめているだけあって、さすがに詳しいようだ。しばらく歩いていると、きれいな湖の近くにたどり着いた。そこにはナゾノクサやヒトデマン、ヤドンなどの水辺でよくみられるポケモンたちもいた。フシギダネの姿を見かけると、ポケモンたちは友好的な鳴き声を上げ、挨拶をしていた。それに応えたフシギダネ、サトシたちを連れて近づいていく。フシギダネがいるからか、ポケモンたちはサトシたちに対してもあまり警戒心はなかった。
「こんにちは!俺サトシ。こっちは相棒のピカチュウ。俺たち、これからしばらくこの研究所でみんなのこと観察したり、お世話したりすることになったんだ。よろしくな」
「ナゾ」
「ヘァッ」
「ヤードン」
「私スイレン。この子はパートナーのアシマリ」
「アウアウッ!」
「初めまして。わたくし、リーリエと申します。この子はシロンです」
「コォン」
すぐに声をかけに言ったサトシに倣って、スイレンたちも挨拶をした。リーリエも、距離こそ二人ほど近づくことはできなかったが、それでもちゃんとポケモンたちにあいさつができているあたり、進歩しているのだろう。ポケモンたちも笑顔でサトシたちにあいさつを返した。
「フシギダネ、ここには誰がいるんだ?」
「ダネダネッ!ダネダネダ~!」
地面をしっかりと踏みしめたフシギダネの背中のつぼみから小さな光の玉が数メートル上がり、花火のように弾けた。
「今のって?」
「フシギダネのソーラービームだよ。俺のフシギダネはソーラービームの威力や色を変えることで、いろいろな合図を出すことができるんだ」
「ソーラービームで合図を?こんな風にソーラービームを使用するポケモン、わたくし見たことも聞いたこともありません。すごいポケモンなんですね」
「褒められてるな、フシギダネ」
「ダネ~」
しばらくすると、湖の中から何匹かのポケモンが飛び出してきた。
「ワニャワニャ!」
「ミィジュ?」
「ヘイヘ~イ!」
「ゲロッ」
「ブイ!」
踊るように飛び跳ねる水色のわにのようなポケモン、おなかにホタチがついているラッコのようなポケモン、陽気にはしゃぐ赤色のカニのようなポケモン、ゲッコウガとはまた違ったカエルのポケモン、そして不敵に腕を組んだオレンジ色のポケモン。何か用か?と言うようにフシギダネの方を向き、その隣にいるサトシに気づくと、一斉に飛びかかった。
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「ひゃあ!?」
「わわっ、サトシ!?」
近くにいたリーリエはおどろきのあまりに後ろに飛び下がり、スイレンは目の前の光景にあっけにとられていた。サトシはというと
「あはは、わかった。わかったから。みんな落ち着けって」
と、噛みつかれたりハサミで叩かれたりと散々な目にあっていながらも笑顔でそれぞれのポケモンを撫でていた。
「これって、ベトベトンと同じスキンシップ?」
「ということは、もしかして」
一通り挨拶が終わったようで、ポケモン達が落ち着くと、サトシは紹介をし始めた。
「みんな俺の旅の仲間達なんだ。踊ってるのはワニノコ、ホタチを持ってるのがミジュマル、陽気なのがヘイガニ、表情豊かなのがガマガル、腕を組んでるのがブイゼルだ。他にもいるんだけど、みんな俺がゲットしたポケモンだ。みんな、こっちはスイレンにリーリエ、アローラ地方での俺の仲間なんだ」
サトシのポケモン達が挨拶するように声を上げる。全員が幾戦もの経験者であることはリーリエ達にすぐにわかった。ナゾノクサやヒトデマン達とは纏う雰囲気が違ったからだ。どこかサトシのピカチュウやゲッコウガも纏っているのに近いものだ。
同じみずタイプのアシマリがスイレンの腕の中から飛び出し、彼らの前に進んだ。サトシもボールからゲッコウガを出してやると、みずポケモン達による交流会のようなものが始まった。と、フシギダネがキョロキョロとまるで誰かを探しているように辺りを見渡していた。
「どうした、フシギダネ?」
サトシがフシギダネの様子を確認したその時、水面から一つの影が飛び出して来た。くるくると回転していたその影はスタッと着地をした。背中の甲羅に水色の体、キラリと光を反射するサングラス。
「ゼニガッ!」
ビシッとポーズを決めたのは、カントーが誇るみずポケモン、ゼニガメだった。
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「わたくし、本で読んだことがあります。この子はゼニガメですね!確か、カントー地方でトレーナーが旅をするときに渡される初心者用ポケモンの一体。ヒトカゲとここにいるフシギダネと同じ、通称御三家ポケモン」
「みずタイプのポケモン、アシマリと同じだね」
ゼニガメの登場に驚きながらも、早速初めて見るポケモンに二人は興味津々だった。と、ゼニガメはサングラスを外しながら、サトシの方へかけていくと、その腕の中に飛び込んだ。
「ゼニガメ!お前こっち来てたのか?」
「ゼニゼニ」
「ピィカァチュ!」
「ゼニガ!」
再会を喜びあうピカチュウとゼニガメ。そこへフシギダネや他のサトシのポケモン達も混ざり、仲睦まじい光景が広がった。
「サトシ、あのゼニガメもサトシのポケモン?」
「あぁ。今はゼニガメ消防団のリーダーをやっていて、普段はこっちにはいないんだけど。戻って来てたのかぁ」
「それにしても、なぜゼニガメも?初心者用のポケモンは確か一人につき一匹しか渡されないはずでは?」
「あぁ、旅の途中で会ったんだ。フシギダネも、ゼニガメも。また今度みんながいるときに話すよ」
視線を再びポケモン達に戻すと、初代サトシのみずタイプであるゼニガメと、サトシのみずタイプポケモンの中でも最強クラスの実力を誇るゲッコウガが握手をしていた。ゼニガメなりに、ゲッコウガを歓迎しようというのか、気づけばみずポケモンによる歓迎レースが始まろうとしていた。
「おぉっ、みんなやる気満々だな!」
「アシマリも参加する?」
「アウッ!」
「アシマリも頑張ってくださいね」
みずのレースは凄まじいものだった。驚異的なスピードで水面をかけるゲッコウガ、水中をものすごいスピードで進むアシマリ、アクアジェットで推進力をあげたミジュマルにブイゼル、さらには水上レース出場経験のあるワニノコに、元祖みずタイプの意地を見せるゼニガメ。白熱したレースに、サトシもスイレンもリーリエも応援し、笑い、楽しむことができた。
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サトシ達がみずタイプのポケモン達と遊んでいる頃、マオ達は身の前の光景にただただ度肝を抜かれていた。
目の前にあるのは森の中にある大きな広場。それを半分ずつ、ふた組みのポケモン達が使用していた。しかしそれはどう見ても穏やかな目的ではなかった。炎が燃え、木の葉が舞い、地面には穴が空き、鳴き声が轟き、激しい衝突音が何度も響いた。
片側では空を舞う大きなポケモンが炎を吐きながら地上にいる方を追い詰めようとする。それに対して、もう一匹は高速で移動しながら躱し、高い脚力で木々を蹴りながら、空にいる相手に接近した。振り下ろされた緑色の刃と長く伸びた鋭利な爪が激突し、両者が地上に降りると戦いの激しさも増し、巨大な炎と光の光線が中央で爆発を起こした。
もう一方では地上と地中の両方を駆使しながら激突する二匹。彼らの周囲は穴だらけで、まるで小さな隕石がいくつも降り注いだ後のようだ。吐き出される炎は岩の壁に阻まれ、エネルギーをまとった爪による一撃は音速の拳に阻まれる。一方が素早く地面に潜り、巨大な牙による一撃を躱したかと思えば、もう一方は地面からの攻撃をその爪で受け止める。
どちらを見ても、一歩も譲らない激しい激闘が繰り広げられている。一体ここは、なんだというのだろうか。
みんながそう思ったとき、後ろにいたケンジが
「ここはポケモン達のバトルフィールド。研究所のポケモン達が腕試しをするために使われるんだ。こうして修行するポケモンもいるってことだよ。まぁ、ここまでのは珍しいんだけどね」
と解説してくれた。その様子を見ていたのは自分たちだけではなかった。フィールドの外には何匹ものポケモン達の姿が見える。応援するように声をあげるもの、静かに鑑賞するもの、バトルしたさそうにうずうずしてるものと本当に様々だ。
「なんか、すっごいとこに来ちゃったね〜」
「僕もう何が何だか」
他二人が呆然とする中で、カキはそのポケモン達の様子を食い入るように眺めていた。
最後に出たポケモン、誰だかわかりましたか?
XY&Zでも出てましたよね