まぁ、書いて見たけど、何だかマオのあの可愛さは表現できなさそうだったので、ちょっと違う視点から書いてみました、はい
その日は目に見えてマオがそわそわしていることに、クラスのみんなが気づいていた。何かいいことがあったのだろうか、なんて気にしているものの、何やら自身の料理ノートとにらめっこしているマオの邪魔をしようとも思えず、結果、その話は流れてしまった……
が、
「先生、もうそろそろ時間なので、早退しますね」
「ああ。しっかりやれよ」
と、授業中にマオが突然立ち上がり、荷物をまとめて帰ってしまった。博士も何か事情を知っているのか、特に咎めることもなく、声をかけるだけだ。
「博士!マオ、何かあるんですか?」
こういう時に真っ先に疑問を口にするのは、やはりサトシ。クラスメイトたちも同じく気になっていたようで、うんうんと頷いている。
「今日はマオの家、アイナ食堂がテレビで特集されるんだ。お父さんと一緒に、しっかりと宣伝したいって、今日はお店の手伝いをするんだそうだ」
「へぇ、テレビに」
すげ〜と驚いているサトシではあるが、よくよく考えるとアローラに来てからだけでも、ラッタ退治にポケモンパンケーキレースと、既に何度かテレビに映っている。おかげでかなりの有名人ではあるが、本人にその自覚が全くない。
「いいなぁ、テレビかぁ」
「学校が終わったら、みんなで行ってみたらどうだ?もしかしたら映れるかもしれないぞ」
「「「「行きます!」」」」
元気のいい声で返事が飛ぶ。サトシ以外のみんなも、やっぱりそういうことに興味があるらしい。
余談だが、その後の授業におけるみんなの集中力は、いつも以上のものだったとか。
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放課後、スクールの授業を終えたサトシたちは、アイナ食堂へと向かっていた。
「それにしても凄いな。メレメレ島でも有名なテレビ番組だろ?」
「そういうカキのとこの牧場だって、アーカラ島名所って紹介されてたよね」
「でも、これでもっとたくさんの人が、マオ達の料理を知ることができますね」
「お客さん、いっぱい来るかな?」
みんなで歓談しながらアイナ食堂の近くにたどり着くと、店の中からスタッフらしき人たちが出て来ている。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。今度は、客として来てください」
マオの父親が挨拶をしているところから見て、どうやら既に取材は終わってしまったらしい。せっかく来たのに、ちょっぴり残念な気持ちになる。
笑顔でスタッフを見送っていたマオの父親だったが、急に心配そうな顔になり、辺りを見渡している。何かを探しているみたいだ。
「どうしたのでしょう?」
「そういえば、マオは一緒じゃないのかな?」
顔を見合わせるサトシ達。
「あの、どうかしたんですか?」
「ん?ああ、君達か」
「何か探しているみたいでしたが」
「それが、マオが家を飛び出しちゃったんだ」
「「「「「えええええっ!?」」」」」
「それって」
「まさか」
『家出ロト!?』
「何があったんですか?」
「うん……それが、僕が怒らせちゃったみたいでね……」
話を聞いてみると、どうやら店長がお店の宣伝をしている間、自分一人でキッチンをやりくりさせられていたことに不満があったらしい。とはいえ、マオ本人は日頃から料理や家事は割と好きと言っていたことから、恐らくそれだけではない気もするが。
「取り敢えず探さないと!ルガルガン、君に決めた!」
現れた見たことない姿のルガルガンにマオの父が驚いていたが、マオの捜索に力を貸してくれることを知ると、すぐにマオの着ていたエプロンを持って来てくれた。
「これでいいのかい?」
「はい。ルガルガンはイワンコと同じように、嗅覚が優れています。きっと探し出せるはずです」
「ルガルガン、マオの匂いを追ってくれ!」
エプロンに鼻を近づけ、匂いを覚えるルガルガン。辺りの空気を嗅ぎ、匂いの道を探る。ある一点を見て、ルガルガンが一度吠える。そのままその方向に向けて走り出すルガルガンを、サトシ達は追いかける。
「森の方に行ったみたい」
「早くしないと、暗くなっちまうぞ」
「ルガルガン、頼んだぜ!」
「ガウッ!」
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目を覚ますと、知らない天井だった。
何やら物語の主人公とかが経験するような体験を今まさにしたマオ。体を起こしてあたりを見ると、天然の資源ばかりが使われているのがわかる。なんて観察してる場合ではなく、
「あたし確か、森で転んで……」
その時のショックで気を失ってしまったのだろうことは、容易に想像できた。しかしその後、誰かが自分をここに連れて来てくれたことになる。
「ここって……何だろう?あれっ、足まで」
葉っぱを使った簡易的な包帯のようなものが、自分の足に巻いてある。葉っぱ自体に治療効果があるのか、少し染みる程度で傷の痛みはほとんどない。
「誰がこれを?」
首をかしげると、大きめの木でできた暖簾を誰かが潜ってくる。
「……ポケモン?」
入って来たのは葉っぱでできたうちわのようなものを持った、大きなポケモン。自分と同じくらいの体格に、どっしりとした落ち着きある雰囲気。
「もしかして、あなたが助けてくれたの?」
小さく頷くポケモン。こっちにくるように手招きする。後を追って暖簾をくぐると、そこはまるでどこかのバーのような造りになっていた。明かり役にはマシェードとネマシュがいて、優しく部屋を照らしている。
「ユーヤレ」
腰掛けろ、と言っているのだろうか、カウンターの後ろに回ったポケモンが席を指す。断る理由もなく、マオが席に着く。
「あの、あなたは?」
「ヤレユータン」
「ヤレユータン?それが名前なの?」
ポケモンがコクリと頷く。マオが店内をキョロキョロ見渡していると、ヤレユータンがパイルの実を絞り、何やら飲み物を作っている。
「ユーヤレ」
差し出された硬いきのみで作られたグラス。中の飲み物を一口試したマオは、ハッと目を開いた。
「これ、お父さんのパイルジュースにすごく似てる……」
「ヤレ、ユーヤレ」
ヤレユータンがじっとマオを見ている。何だかその視線が、
『話してみなさい』
と言っているような気がして、気がつけばマオは、自分の不満や悩みを話し出していた。
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森の中をかけながら、あちこちを見渡すサトシ達。中でも特に心配そうにしていたマオの父は、何やら首を傾げている。近くにいたサトシが声をかける。
「何か心配事があるんですか?」
「いや、今までこんな風にマオが飛び出していくことなんてなかったから……一体どうしたのかと思って」
「マオ、どんな様子でした?」
「なんだかとても怒ってたような……でも、今日だっていつもより少し忙しいだけだったし、それくらいなら何度か経験したこともあったし。でも、もう嫌って言ってたし……」
「マオ、今日1日、すっごく楽しそうにしてました。きっと、アイナ食堂をもっとたくさんの人に知って欲しいって思ってたと思います。看板メニュー作るんだってずっと頑張ってるマオだから、急に投げ出すようなことなんて、俺には考えられないです」
だっていつでもマオは一生懸命、いや、一所懸命だった。自慢の店、アイナ食堂のために家事も、手伝いも、そして料理を考えることも、やって来てた。
『あたし、アイナ食堂が大好きなんだ。だから、お父さんが沢山の人達に料理を作ってあげられるように、あたしのできることはなんでもして、支えたいの』
父親のために、あんなに楽しそうに、嬉しそうにアイナ食堂の仕事のことを話すマオが、投げ出すことなんて……
「あっ」
「?サトシくん?」
何かに気づいたようなサトシのつぶやきを、マオの父が拾う。立ち止まった二人を見て、他のみんなも足を止める。
「あの、いつもマオがお店の手伝いをしてることって、どう思ってますか?」
「えっ、何だい急に?」
「いや、変な意味じゃなくて……」
「そりゃ勿論感謝してるよ。情けない話、僕は料理以外がからっきしでね。いつもマオに助けてもらってばかりで。本当に、あの子はいい子だよ」
「あの……その気持ち、マオに伝えたことって、ありますか?」
「へ?」
キョトンとした表情になるマオの父。
「俺、今まで全然身の回りのこととかできなくて。でも、こっちに来てから、少しずつ手伝うようになったんです。大変なこともあったし、難しいこともあったけど、いつも博士が言ってくれる言葉があるんです。それが、『ありがとう』と『よくやった』です。なんか、それがすごく嬉しくて、何度でもやろうって思えて……そういうことをしっかりと伝えることって、やっぱり大切なんだなって」
『ありがとう』と『よくやった』。どんな時でも、サトシがそう自分のポケモンに伝えないことはなかった。バトルに勝った時は勿論、負けた時でも、必ず彼はその気持ちを伝えてきた。
だからなのかもしれない。彼のポケモン達が、彼のために頑張り続けるのは。
「そういえば……ちゃんと伝えてはいなかったかも、しれないなぁ」
「なら、早くマオを探して伝えましょう。きっとマオも、喜びますから」
「うん、そうだね!」
気合いを入れ直すマオの父。いざ再び探しに行こう、と思ったその時。
「「「何この感じ〜」」」
という声が聞こえたかと思うと、一体のキテルグマが小脇に何かを抱えながら森の奥から歩いてくる。そのままサトシ達には目もくれず去っていくキテルグマ。
「あ、そうだ!あっちには確か、先生がいた!」
「「「「「先生?」」」」ですか?」
「この森のことならなんでも知ってる人、森の賢者のことだよ」
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森の中で気絶した自分を助けてくれたヤレユータン。彼の作るパイルジュースは、自分の父が作るものと、とてもよく似ていた。
自分を探しにきてくれたアママイコをロケット団が奪おうとした時に、力を貸してくれたその背中は、まるでこの森の主と言わんばかりの貫禄に満ちている。
「すごい……」
「ヤレヤレ。ユー?」
「あれ?」
何かの声が聞こえたような気がする。それも複数。なんだかどんどん近づいてきているような……
「「「「「どわぁぁぁあっ!?」」」」」
大きな音とともに、何かが自分の降りてきた坂を同じように転がり落ちてきたようだ。煙が晴れるとそこには、
「いてててっ!マーマネ、降りてくれ」
「わぁっ!カキ、ごめんね」
「サトシ、大丈夫ですか?」
「平気平気、リーリエは?」
「あ、はい。問題ありません。ありがとうございます」
「みんな、ドンマイ」
「あたたた……相変わらずスイレンちゃんは運動神経いいね」
「お父さん!みんなまで!」
マオに気づくサトシたち。すぐさま立ち上がりマオの元へと駆け寄る。
「マオちゃん、大丈夫だった?」
「心配していたんですよ」
「ごめんね」
と、マオの父親がヤレユータンへと歩み寄る。
「あなたが、私の娘を?」
「ヤレヤレ」
「ありがとうございます、先生」
「へっ、先生?」
「それってさっき話してた?」
「あぁ。昔、アイナ食堂を始めたばかりの頃に、このヤレユータンと出会ったんだ。その時にいろんな話を聞いてもらって……その時飲んだパイルジュースがすごく美味しくて、以来うちのメニューに加えさせてもらったんだ」
「そうだったんだ……」
だから二人の出してくれるジュースは、あんなにも似ていたのだろう。まさかアイナ食堂の人気メニューのきっかけが、このヤレユータンだったなんて。その偶然に何故だか心が温かくなる。でも、肝心の問題は解決していない。
「ヤレ、ユータン」
「……ええ。わかっています」
なにやら真剣そうな表情で自分を見る父親から、思わずマオは顔を背けてしまう。本当はもうそんなに怒ってなんていない。お父さんがどれだけアイナ食堂のために頑張っているかを、自分だって知っているから。でも、自分の中の小さな意地が、体を動かしてしまう。
「ごめんな、マオ」
「……何が?」
「いつも手伝ってもらってたのに、大事なこと、ちゃんと伝えられてなかったよ……ごめん。いつもいつも、掃除に洗濯、食堂のお手伝い。マオは、本当によくやってくれてるよ。だから、改めて、本当にありがとう」
頬を温かいものが伝う。涙が、なんだか止まらなかった。
ずっと言って欲しかった。
ただそれだけだった。
それだけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。
涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまったけれども、マオは父親の方を向いた。
「あたし、も!ごめんなさい!」
父親の腕の中に飛び込み、大きな声でなくマオ。頭を優しい手が撫でてくれて、それがとても落ち着く。
親子の仲直りの様子を見て、クラスメイトたちも笑みを交わし合う。カキに至っては泣き出しそうだ。
「よかったね、マオちゃん」
「無事に仲直りできましたね」
「家族の愛。素晴らしい!」
「いや、カキが泣くことじゃないでしょ」
「お父さん、か。なんか、いいな」
「ヤレヤレ」
テレビには映ることができなかったけど、なんだかもっといいものを見ることができた、そんな気がするサトシたち。
アローラの冒険は、まだまだ続く。
…………… To be continued
アシマリのZ技の特訓を見学しようと思って海に向かった俺たち。
そしたら近くに人がいっぱい集まってる。
あれってバルーン?それにみずタイプのZ技まで!?
海の民のトレジャーハンター?どんな宝が待ってるんだろうなぁ。ってスイレンが弟子入りしたいって……よぉし、なら俺も手伝うぜ!
行くぜ、ピカチュウ。
久々に魅せてやろうぜ!
次回、
『スイレンの弟子入り、海の民と沈没船』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!