XYサトシinアローラ物語   作:トマト嫌い8マン

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少し間空けちゃいましたね

でも仕方ないもの!時間が見つからなくて……

はい、今回は大試練バトルですよー、どうぞー


サトシ対ライチ!一番ハードなポケモンバトル!

その日は、朝からサトシたちの誰もが興奮気味だった。いよいよサトシとライチの大試練バトルが行われようとしているのだ。

 

「大試練、ドキドキする」

「あたしはライチさんとサトシのバトルがどんなものになるのか楽しみだなぁ」

「僕、大試練バトルなんて観るの初めてだよ。リーリエは?」

「わたくしはサトシがハラさんとバトルした時のが最初です。でも、やっぱりこの緊張感は凄いですね」

 

座りながら話す彼らの前では、サトシとカキが何やら話をしている。

 

「ブルームシャインエクストラのポーズ、しっかりと覚えたのか?」

「ああ。昨日マオにしっかりと教えてもらったからな。バッチリだ!」

「そうか。言っておくが、ライチさんのポケモンは強いぞ。並みの攻撃じゃ、ビクともしない。Z技は必ず切り札になる。うまく使えよ」

「ああ」

 

二人が頷きあったその時、ライチと先に試練の場に向かっていたククイ博士が戻って来た。

 

「おっ、サトシ。気合入ってるな」

「ククイ博士!ってことは、」

「ああ。これからみんなを、大試練のためのバトルフィールド、命の神殿に案内する」

 

ククイ博士に連れられ、サトシたちは森の奥へと進んでいく。楽しみや緊張が高まっていく中、誰も不思議に思うことがなかった。いつもはサトシのそばを歩くはずなのに、イワンコがその前を一人で歩いていることに……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

足元に古い模様が描かれている大きな石のバトルフィールド。ここが大試練の行われる場所。既にスタンバイOKなサトシたち。と、神殿へと続く道の奥から、ライチとルガルガンが現れる。サトシの足元のイワンコが低く唸る。

 

「お願いします、ライチさん!」

「ええ。これより、島巡りの儀式、大試練を行う!アーカラの島、命の源ヴェラ火山よ!そして命の守り神、カプ・テテフよ!我とこの挑戦者の上に、恵みと力を!」

 

祈るように目を閉じ、両の手を合わせて握るライチ。いつものドジっ子的な雰囲気は一切感じられない。これこそが、島クイーンとしての、彼女の本当の姿……なのかもしれない。

 

「まるで別人みたい……」

「うん。ライチさん、かっこいい」

 

ライチが目を開き、組んでいた手を解く。

 

「それじゃあサトシ、始めよう」

「はい!って、イワンコ!?」

 

突然、イワンコが駆け出し、ライチのルガルガンの前に立ち、大きな声で吠え始める。戸惑うルガルガン。サトシがイワンコを止めに抱え上げる。

 

「落ち着け、イワンコ。いっ!?」

 

なんとイワンコがサトシの腕に噛みついたのだ。いつもと明らかに様子が違うイワンコの様子に、マオたちも驚きを隠せない。

 

「どうしたのかな、イワンコ?」

「なんだか気が立っている、というのでしょうか。いつもより気性が荒くなっています」

「何かあったのかな?」

 

なおもルガルガンに吠えるイワンコ。その様子を見たサトシは、イワンコの側に屈み込む。

 

「気合入ってるな!でもちょっと待とうぜ。まだバトルは始まってないんだから、な」

 

吠えるのをやめるイワンコ。視線は相変わらずルガルガンを捉えているが、どうやらひとまずサトシの言うことを聞くことにしたらしい。フィールドの反対側に戻るサトシとイワンコ。

 

「ライチさん、改めてお願いします!」

「オッケー。」

 

「これより大試練のバトルを始める!」

 

審判を務めるククイ博士の号令に、ライチがモンスターボールを手に取る。

 

「私のポケモンたちは、ハードでタフな、いわタイプ!行くわよ、ダイノーズ!」

 

投げられたポールから現れたのは、いわ・はがねタイプのダイノーズ。そして、

 

「更にルガルガン!この大試練、ダブルバトルで行う!」

 

「ダブルバトル!?俺の時は一対一のシングルバトルだったぞ」

「ライチさん、どうして急に?」

 

「よぉし、受けて立ちます!イワンコ、まずはお前だ。続いてモクロー、君に決めた!」

 

闘志をみなぎらせるサトシ。先程から興奮しっぱなしのイワンコ。そして珍しく起きていてやる気十分のモクロー。それぞれ2体ずつポケモンが出揃った。

 

「それでは、試練開始!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先手必勝!モクロー、ルガルガンにこのは!イワンコ、岩落とし!」

 

同時に動くイワンコとモクロー。2体の技がルガルガンめがけて放たれる。

 

「2体同時に指示を出すのですか?」

「それがダブルバトルのルール。トレーナーの資質が問われるんだ」

「それに、ポケモン同士の相性や特徴、技構成も考えた上でコンビを組まなければ、力を十分に発揮できないしな」

 

技が迫る中、ライチたちには焦る様子が一切ない。むしろ余裕の笑みを浮かべている。

 

「ルガルガン、いわなだれ!」

 

空高く飛び上がったルガルガンが、イワンコのよりも一回りもふた回りも大きな岩を放つ。イワンコとモクロー、両方の攻撃をあっさりと打ち破り、いわなだれが決まる。

 

「えっ、2体同時にダメージを?」

「いわなだれの恐ろしいところは、その攻撃範囲の広さだ。これはかなり面倒だぞ」

 

「大丈夫か、イワンコ、モクロー!」

「クロ!」

「アン!」

 

しっかりと立ち上がり、闘志を見せる2体。ダメージはあっても、まだまだ余裕がありそうに見える。

 

「ステルスロック!」

 

ライチの指示で、イワンコたちの周囲に、ダイノーズが何かを仕掛ける。興奮状態のイワンコがルガルガンに飛びかかろうとするも、突如現れた巨大な岩に阻まれる。イワンコとモクローは、すっかり囲まれてしまい、身動きが取れない。

 

「流石ライチさんだな。アタッカーとサポーターをうまく使い分けている。それに、技の繋ぎが絶妙だ」

「ポケモン同士の連携でさらに戦術が広がるダブルバトル。普通のものよりも、ずっと難しそうです」

「どうするのかな、サトシ……」

 

島クイーンとして、ポケモンとの抜群の相性を見せるライチ。ゴクリと誰かの喉がなる。

 

「さて、どう出るかしら、サトシは……」

 

 

「足場がダメなら、使わなきゃ良い!モクロー、イワンコと空へ!イワンコ、いわおとし!」

 

両足でしっかりとイワンコを抱えたモクローが上昇し、ステルスロックによる檻から抜け出す。その状態からイワンコがルガルガン目掛けていわおとしを飛ばす。命中し後ずさるルガルガン。

 

「やるわね。なら、ダイノーズ!マグネットボム!」

 

ダイノーズ最大の特徴、遠隔操作のできるチビノーズ三体が、モクローたちを追って宙に飛び上がる。

 

「モクロー、かわせ!」

 

縦横無尽に飛んで、迫り来る三体のチビノーズをかわすモクロー。しかしイワンコを抱えていることもあって、思うように動けていなさそうだ。

 

「イワンコ、チビノーズを弾け!いわおとし!」

 

狙いを定めて、イワンコがチビノーズたちを撃ち墜とそうとするが、素早く動き回るチビノーズにはなかなか当たらない。

 

と、一体のチビノーズがモクローたちの背後を捉えた。瞳が輝くと、大きな爆発が起こり、イワンコとモクローが地面に叩きつけられる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガンにダイノーズ。そしてチビノーズが三体。これでは、実質5対2です」

「それに、またステルスロックに囲まれちゃった」

「まさに大試練って感じだな」

「サトシ、大丈夫かな」

 

不安げなクラスメートたちの視線を集めるサトシ。しかし当の本人は、ニッと笑みを浮かべている。

 

「流石ライチさんだぜ。でも、これを打ち破るのがバトルの面白いところだ!」

 

やる気に満ちた眼差しで、バトルフィールド、その先に立つライチを見据えている。

 

「やっぱりすごいわね、サトシは。ヴェラの火山みたいに、とても熱い心。その炎、しっかりと見せてもらうわよ。ルガルガン、アクセルロック!ダイノーズ、でんじは!」

「モクロー飛べ!イワンコ、岩を使ってジャンプだ!」

 

迫り来るルガルガンに対し動じることなく、イワンコは素早い動きで自身を取り囲むステルスロックへと跳ぶ。三角蹴りの要領で見事に別の岩の上に着地する。

 

一方モクロー、イワンコを持ち上げる必要がないため、先ほどよりも素早い動きででんじはをかわしてみせる。

 

「チビノーズで追い込んで!」

 

再び飛び回るチビノーズたち。しかし今度はモクローもその動きをうまくかわしている。

 

「モクロー、このはで撹乱しろ!」

 

このはを使いモクローがその身を隠す。チビノーズたちの接近を防ぎ、ダイノーズたちの気をしっかりと引きつけることに成功した。

 

「今だ!イワンコ、ルガルガンにかみつく!」

 

チビノーズをモクローが引きつけている間に、イワンコが素早くルガルガンに飛びかかり噛み付く。振り払おうとするルガルガンだが、イワンコも意地でも離れまいとしがみつく。

 

「ダイノーズ、先にイワンコを!マグネットボム!」

 

モクローを追いかけていたチビノーズたちが、今度はイワンコめがけて三方向から飛んでくる。今の状態では、触れただけで大きな爆発を起こすことになる。

 

「イワンコ、飛び上がって回れ!いわおとし!」

 

ルガルガンから牙を放し、ジャンプする。迫り来るチビノーズに対し、イワンコが体を回転させながらいわおとしを発動する。周囲に展開された岩は、まるで盾のようにイワンコを守り、チビノーズを弾き飛ばした。

 

「やるね!でも、そこから動くことは無理ね」

 

フィールドの中央、ステルスロックの中心地の上空に、イワンコは飛び上がっている。空を飛ぶことができないイワンコに、そこから動くことはできない。

 

「決めるよ、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

ライチが腕を交差する。彼女の左腕に巻かれたZリングから、眩い光が発せられる。

 

「轟け、命の鼓動!天地を貫く、岩の響きよ!」

 

以前グラジオが見せたのと同じ動き。ルガルガンが大きく吠える。勢いよく飛び上がるルガルガンは、イワンコのさらに上まで上昇する。岩がどんどん集まり、巨大な岩石を形成していく。

 

「行け!ワールズエンドフォール!」

 

イワンコが地面に向かうスピードよりも速く、岩石がイワンコを狙って来ている。巻き込まれないように、ダイノーズもライチの側まで避難し終えている。

 

「イワンコ!」

「だめだ!イワンコには避けられない!」

 

自分を押しつぶさんとZ技が迫り来るものの、イワンコは怯えるどころか巨岩を睨み、唸っている。誰もがイワンコの脱落を想像する中、サトシ一人は口元に笑みを浮かべている。視線の先では、岩がイワンコに命中する直前、一つの小さな影が、音もなくその隣に現れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大きな爆発音とともに、フィールドが全く見えなくなるほどの土煙が立ち込める。顔を覆うライチ、ククイ博士にサトシ。カキたちの座っている席まで爆風が届き、みんな目を瞑っている。

 

爆風が止み、恐る恐る目を開けるカキたち。土煙が徐々に晴れていく。フィールドの様子がどんどん露わになっていく。しかしフィールドは一切壊れた様子がないのに、さすがに驚かされる。

 

「あれだけの威力のZ技を受けながらも、フィールドは全然壊れていませんね」

「うん。最初と同じ、真っ平ら」

「まぁ、どんな激しいバトルにも耐えられるように……って、ちょっと待てスイレン。真っ平ら?」

「えっ?」

「あぁ〜っ!?」

 

大きな声をあげ驚くマーマネ。

 

「ど、どうしたのマーマネ?」

「ない!」

「何が?」

「ライチさんのダイノーズが作り出してた、ステルスロックの岩が無くなってる!」

 

それだけではなく、フィールドの上に、イワンコの影はどこにもなかった。

 

「一体、どこに?」

 

ライチとポケモンたちもフィールドの上見渡すが、イワンコのいる気配が全くない。

 

「へへっ、イワンコ、モクロー、たいあたりだ!」

「っ、まさか!」

 

慌ててライチが上を見る。頭上高い場所から、一つの影が急降下して来ている。イワンコを両足で抱えたモクローが、落下の速度を利用し加速して来ている。

 

「今だ!行っけぇ!」

 

狙いを定め、モクローがイワンコを放す。イワンコとモクローがそれぞれルガルガンとダイノーズに強烈なたいあたりを叩き込む。

 

「ルガルガン、ダイノーズ!大丈夫?」

「ルガゥ」

「ノーズ」

「ほっ。さっきの、モクローの仕業ね」

 

「えっ、何?どういうこと?」

「そうか!あの時のZ技、イワンコが無事だったのはモクローが助けに入って、かわしたからか!」

「その結果としてい、ステルスロックまで壊したのですね」

「偶然?」

「いや、おそらくサトシのことだ。全て考えた上でのことだろう」

 

カキの言葉を裏付けるかのように、サトシがモクローによくやったと声をかける。あの絶体絶命の危機的状況を、こうもあっさりと回避し、更には自分の有利な展開にまで持ち込むとは。

 

「あいつ。ダブルバトルも相当慣れているな」

 

 

「クロッ、クロー」

 

モクローがやったぜと、ハイタッチを求めるかのようにイワンコに話しかける。が、

 

「アン!アンアン!ガウッ!」

 

イワンコの様子がおかしい。今もルガルガンをじっと見つめて気が立っている。今までにないほど攻撃的で好戦的、仲間に対しての冷たくも見える態度。モクローもだが、マオたちも戸惑いを隠せない。

 

「どうしちゃったのかな、イワンコ」

「いつもと違う」

「なんだか、ずっと怒っているようにも見えます」

「何も起こらないといいんだけど……」

 

 

 

 

「やるわね、サトシ。でも、かなりリスキーなことをしたわね」

「モクローなら絶対やってくれるって、信じてましたから」

「ふふっ。そうこなくっちゃ!まだまだ行くわよ!ダイノーズ、マグネットボム!!」

「イワンコ、いわおとし!モクローはこのは!チビノーズを撃ち落とせ!」

 

素早く弾幕を張るイワンコとモクロー。チビノーズたちも接近を試みるが、弾き飛ばされてしまう。

 

「よぉし、イワンコ!ダイノーズにって、イワンコ!?」

 

突然イワンコが、サトシの指示を待たずに飛び出した。目指す先はダイノーズ、ではなくルガルガン。突然の行動にカキたちも驚きを隠せない。

 

「ダイノーズ、ギガインパクト!」

 

内心驚きながらも流石は島クイーン。あくまで冷静にポケモンへの指示を出す。飛び上がったダイノーズが、ルガルガン目掛けて走るイワンコの背後から迫る。

 

「モクロー!」

 

咄嗟のサトシの呼び掛けにモクローが反応する。素早く飛び、イワンコを掴みダイノーズの攻撃をかわす。地面に激突するダイノーズの動きが止まる。

 

「今だ!行くぞモクロー!」

 

モクローが地面にイワンコを下ろした直後、サトシの身につけたZリングが眩い光を放ち始める。リングに付いているのは緑色のクリスタル。

 

「させないわよ!ダイノーズ、ギガインパクト!」

 

その場で力を溜めるモクローに向かって、ダイノーズが猛スピードで突っ込んで行く。ダイノーズが着くのが先か、モクローの技が先か。ギリギリの勝負を制したのは……

 

 

 

 

 

「これが俺たちの全力だ!ブルームシャインエクストラ!」

 

モクローを中心に、花畑が広がり、樹木が生えるかのように、巨大なエネルギーがダイノーズに襲いかかる。

 

大きな爆発が起き、イワンコとルガルガンはなんとかその場で踏ん張っている。爆風がカキたちにも届き、フィールドを覆う。その中心ではダイノーズが目を回し、倒れている。

 

「ダイノーズ、戦闘不能!」

 

「やったね、モクロー!」

「これでダイノーズがいなくなり、二対一だ」

「先程までいたチビノーズももういません。サトシたちの圧倒的有利です!」

 

 

「よくやったぞ、モクロー。あとはルガルガンだけだ!」

 

ライチがダイノーズをボールに戻している。この圧倒的不利な状況でなお、動揺も焦りも見せないルガルガンは、流石島クイーンのパートナーの貫禄を見せつける。そのルガルガンを見、イワンコが激しく興奮している。

 

「よしっ、モクロー!イワンコをつかんで飛べ!」

 

ルガルガンは高いジャンプ力があるとはいえ、モクローほど空中を自在には動けない。そう思ったサトシは、そのアドバンテージを活用しようとした。そう、したのだ。

 

「!?」

 

誰もが驚愕の声をあげていた。イワンコが仲間であるはずのモクローに、攻撃したのだった。それも、本気の一撃で。

 

倒れるモクロー。ここまでのバトルでのダメージ、Z技を使ったことによる疲労。そして不意打ちの攻撃だったこともあり、モクローは目を回してしまう。その場を、似つかわしくない程の静寂が覆った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……っ!モクロー!」

 

ハッと目を見開くイワンコ。その瞳は揺れている。自分のしてしまったことを、信じられずにいるような表情で、サトシに抱き上げられるモクローを見ている。

 

審判のククイ博士も、サトシの声にハッとする。

 

「モクロー、戦闘不能!」

 

「イワンコが、モクローに攻撃……」

「これは予想外のハプニングだよ」

「これは、不味いな……」

 

互いのポケモンは一体。これで条件はおあいこ……という風にはならない。今は、サトシの方が追い詰められている。相手に味方を倒されるのと、自分で仲間を倒してしまうのでは、わけが違う。今のイワンコは尻尾も垂れ下がり、シュンとしている。心が、完全に戦闘から離れてしまっているのだ。

 

今のサトシたちでは勝ち目はほとんどない。しかしライチは、じっとイワンコの前にかがみ込んだサトシのことを見ている。

 

 

 

「なぁ、イワンコ」

「クゥーン」

 

サトシの顔を見ることができず、イワンコは俯いてしまっている。仲間に攻撃してしまったのだ。どれ程怒られるのだろうか。嫌われてしまうのだろうか。イワンコの頭の中は不安でぐちゃぐちゃだった。

 

そんなイワンコの頭に、温かいものが優しく触れる。思わず顔を上げるイワンコ。

 

イワンコが見たのは優しい表情の主人だった。怒っている様子は一切なく、優しく頭を撫でてくれている。

 

「イワンコ。一緒に特訓した時のこと、覚えてるか?」

「クゥン?」

「技を出す時もだけど、バトルするときも、心がガーッと燃える感じ。お前にもわかるだろ?」

「アン」

「なら、一緒にもっと燃やそうぜ。俺たち二人で、ルガルガンに勝とう!信じてる」

 

そう言ってサトシはニカッと笑う。信じてる、その言葉がイワンコの心を燃え上がらせる。自分がしてしまったことは、取り返しのつかないことだ。でも今は、自分を信じてくれるトレーナーのためにも、勝ちたい!

 

「ワォン!」

「行くぜ、イワンコ!」

「ワン!」

 

 

「期待通り……ううん。期待以上ね」

 

イワンコとサトシを見つめながら、ライチがポツリと呟く。あんなことがあったのだ、イワンコがもうバトルできなくなっても、サトシがイワンコのことを叱ってもおかしくはない。でも、サトシは叱るどころが、一度は完全にバトルする意欲をなくしたイワンコを、すぐに立ち直らせた。

 

「最後まで、見極めさせてもらうわよ、サトシ!ルガルガン、GO!」

「望むところです!イワンコ、走れ!」

 

トレーナーたちの声を聞き、ルガルガンとイワンコも、最後の勝負に臨むべく、駆け出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガン、いわなだれ!」

 

ジャンプするルガルガン。その高さはとてもイワンコには届かない。打ち出された大きな岩はイワンコのいわおとしでは迎撃不可能。かなりのピンチに対しサトシは、

 

「イワンコ、あれを足場にするぞ!飛べ!」

 

唐突なその指示、しかしイワンコは躊躇うことなく飛び上がる。信じてる、そうサトシは言った。イワンコならできる、そう思ったからこその指示。応えないわけにはいかない。次々に降り注ぐ岩を蹴り、イワンコはどんどん高く登る。そしてついにルガルガンより高くまで飛び上がった。

 

「今だイワンコ!全力全開、いわおとし!」

 

勢いよく腕を振り下ろすサトシ。それに合わせて、イワンコも今までのよりもわずかに大きいいわおとしを発動させる。宙にいたルガルガンにはそれをかわすことができず、技が見事に命中する。いわおとしに押されるように、ルガルガンがフィールドに叩きつけられる。

 

着地し、肩で息をするイワンコ。背後を振り返ると、ルガルガンが倒れたまま、動かなかった。

 

「ルガルガン、戦闘不能!イワンコの勝ち!よってこの大試練バトルの勝者は、挑戦者のサトシ!」

 

ククイ博士の声がフィールドに響く。勝利を勝ち取ったイワンコが、ふらつく。その体をサトシが優しく抱きかかえる。

 

「勝ったぜ、イワンコ。ありがとな」

「アン」

 

「やった!大試練突破だ!」

「すごかった、大試練!」

「なんだかすっごくハラハラしちゃったよ」

「ああ。だが、流石はサトシだな」

「トレーナーとポケモン。本当に強い信頼関係で結ばれているのが、大きな力になる。とても勉強になりました」

 

「サトシ、大試練突破おめでとう」

「ライチさん、ありがとうございます」

 

フィールドの中央で握手を交わす二人。

 

「これが私とアーカラ島からの贈り物。イワZよ。これからイワンコと一緒に、ガンガン使ってぇぇえ!?」

 

Zクリスタルを取り出すだけの間に、何もないところで転ぶライチ。バトルの時とのギャップに、サトシたちも苦笑してしまう。

 

「忙しい人……踊って、こけて、バトルして……」

 

「き、気を取り直して。改めてイワZよ、サトシ」

「ありがとうございます。ほら、イワンコ。イワZゲットだぜ」

「クゥーン」

 

バトルが終わって気が緩んだのか、イワンコがまたシュンとしている。疲れもあるだろうが、やっぱり先程のことを気にしているのだろうか。

 

「ねぇサトシ。さっきのバトルで思ったことなんだけど、もしかしたらイワンコ、進化が近いのかもしれないわ」

「えっ、進化?」

『データによると、イワンコは進化が近くなると、攻撃的になったり、単独行動が増えたりするらしいロト』

「そうなのか……」

 

イワンコを見るサトシ。当のイワンコ本人はよくわかっていないのか首をかしげるだけだった。

 

「真昼の姿と真夜中の姿、一体どっちになるのか、楽しみね。サトシはどっちがいいの?」

「俺はどっちでも。決めるのはやっぱりイワンコだと思うので。だからイワンコ、なりたい方にな〜れ」

 

そう言ってサトシは優しくイワンコの頭を撫でる。イワンコの進化を楽しみにしながら。

 

その様子を近くの木に隠れ、ピンクの体を持つポケモンが、ずっと見ていたのを、誰も知らなかった。

 

 

 

その晩、サトシたちの眠る部屋から、イワンコが消えた。

 

 

…………… To Be Continued




突然いなくなったイワンコ。

必死に探し回るサトシたちが見たのは2体のルガルガンと、カプ・テテフ!?

勝負を挑んでくるカプ・テテフに対し、サトシたちは……

次回、
黄昏のバトル!命と恵みの守り神!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!

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