XYサトシinアローラ物語   作:トマト嫌い8マン

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今度は公式によるスイレンプッシュですなぁ

というかサトシとデートと聞かれて顔真っ赤にするスイレン……まさか公式でフラグ立ってるのか?

今回も変えてますけど、まぁ気にせずにね笑


あと、どうでもいいことですけど、アニポケの英語版の初代opって結構かっこよくないですか?


スイレンとアシマリ、二人の試練

今日も快晴、アーカラ島。本日の課外授業はお休みのため、サトシたちは自由行動をどう過ごすか、各々好きに決めてもいいとのことだった。ポケモンセンターのロビーで一人釣竿の調子を確かめるスイレン。そこに、サトシとピカチュウが合流した。

 

「スイレン、何してるんだ?」

「釣竿の確認。今日の自由時間、釣りに行くの。大物釣るの、メガギャラドスの天然物」

「メガギャラドス!?」

 

真っ先に頭の中に赤い体のメガギャラドスが浮かび上がったのは、完全にあの時のフレア団との決戦が原因だろう。あの男の語った理想とはわかり合うことができなかったものの、そのポケモンとの間には、確かな絆があったのだろう。でなければ、あれほどまでの力を出すことなんて、出来るはずもない。

 

「って、あれ?天然物……いるのか?」

「嘘です」

「って、なんだ、嘘かぁ」

 

くすくす笑うスイレン。初めて会った時は、どちらかというと大人しそうな印象だったが、実在はかなりアクティブで、時々こうしたお茶目な行動をしてみんなを楽しませる。

 

こういった嘘を言われても、スイレンを嫌いになる人が誰もいないのは、彼女の邪気の無さや、優しさなどが、みんなにもちゃんと伝わっているからなのかもしれない。

 

「でも、釣りに行くのは本当。せっかくアーカラ島に来たから、こっちの大物も釣りたい」

「釣りかぁ。みんなでやったよな?スイレンが特別講師でさ」

「うん。楽しかった。サトシも、いっぱい好かれてた」

「スイレンほどじゃなかったさ。けど、楽しかったなぁ」

「だったら、その……一緒に来る?」

 

少し頬を赤らめ、モジモジするスイレン。サトシよりも背が低いため、見上げる形になるのだが、完全に天然物の上目遣いである。こんな風に聞かれたら、どんな男でも、

 

「え、いいのか?あ、でも俺釣竿持って来てなかったしなぁ」

 

……断ってはいないから、誘うこと自体には成功している、が。対してドギマギする様子がないのはもう流石サトシとしか言いようがない。フラグに気づくことができないのだから、女の子の方が大変である。

 

が、まぁ概ね乗り気なサトシを見て、内心「やった」とガッツポーズのスイレン。鞄の中から予備の釣竿を取り出して、サトシに手渡した。

 

「はいこれ。我が家の家訓。転ばぬ先の釣竿、貸してあげる」

「サンキュー。流石スイレン、用意がいいな」

「一人より二人。一緒にできるかなって、思ってたから」

 

と、二人が大物を釣ることに士気を高めていると、カキを先頭に、他のみんなもやって来た。

 

「おっ、サトシ、スイレン」

「カキ、って、みんなでどこか行くのか?」

「俺ん家に行きたいんだとさ」

「だって牧場だよ!新鮮なモーモーミルクを使ったチーズやバター、ヨーグルト」

「ソフトクリームも忘れちゃいけないね!」

「わたくしはモーモーミルクをベースとした、新しいポケモンフーズを作って見たいと思ったので」

「てなわけだ。二人も来るか?」

「それも楽しそうだな。でも、今回は遠慮するよ。俺、これからスイレンと二人で釣りに行くからさ」

「「……二人で?」」

「そ、そうか。頑張れよ!」

「大物釣ってね!」

 

何か一瞬聞こえたような気がしたが、カキとマーマネが慌てたように挨拶をして、マオとリーリエの背中を押して行く。

 

「何だったんだ?」

「さ、さぁ?」

 

内心カキとマーマネに感謝し、マオとリーリエにはごめんねと謝っておくスイレン。折角サトシと二人きりで何かをするチャンスなのだから、目一杯楽しみたいのだ。

 

「行こう、サトシ」

「オッケー。大物釣ろうぜ、スイレン!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモンセンターから出る二人。と、丁度ここでライチが、ケンタロスに乗って通りかかった。

 

「あら、お二人さんんっ!?」

 

降りるのに失敗するライチ。見事に地面に顔が付いている。本当にドジっ子ここに極まれりである。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫大丈夫。それより、二人は釣りデートかな?」

 

ポンッ、と効果音が聞こえて来るんじゃないかと思うくらいに、顔が一瞬で真っ赤になるスイレン。

 

「そそそそ、そんなのじゃないです」

「えっ、そうなの?私てっきりスイレンは、」

「えっ、あっ、そのっ」

 

顔を真っ赤にしたままアタフタとするスイレン。その様子を見て、サトシを見て、何やら納得するライチ。スイレンの肩に手を置いて、何やらウンウンと頷いている。

 

「そっかそっか。頑張ってね」

「へ?」

「ライチさん、俺たち大物を釣りたいんですけど、どこかいい場所知ってます?」

 

今の会話の流れを完全にスルーしたサトシ。といっても、デートの意味くらいはわかる。わかるのだが、スイレンの「そんなのじゃない」という発言を聞いて、デートじゃないとサトシの中では結論づけられてしまっているだけなのだ。

 

「そうね〜。そういえばせせらぎの丘の近くにある池に、主と呼ばれるポケモンがいるわ。行ってみたら?」

「「主?」」

 

二人の頭の中では別々の思考が展開される。スイレンは完全に超大物との釣りバトルが出来ると気合が入っている。一方サトシは、かつてバトルした主と呼ばれるデカグースのことが思い出されていた。

 

(もしかして、デカグースと同じぬしポケモン?)

 

「行ってみようぜ、スイレン!」

「うん。ライチさん、また後で!」

「行ってらっしゃい!帰る頃には、スイレンのZリング、仕上げておくから、楽しみにしててね」

「は、はい!」

 

手を振って見送ってくれるライチ。サトシとスイレンもしっかりと手を振ってから、改めてせせらぎの丘を目指す。

 

「楽しみだな、スイレンのZリング」

「う、うん」

「?どうかした?」

「ううん。ただ、なんだかあんまり実感なくて……」

 

カキやサトシも持っているZリング。それは、試練に打ち勝ち、ポケモンと一緒の強さを示したものが与えられるもの。自分は、そのリングに相応しいのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。

 

なんだか落ち込んでいるようにも見えるスイレンを励ますため、サトシはアローラ地方に来る前の釣り経験についても色々と話してみた。すぐに笑顔が戻るスイレン。中でもスイレンが一番興味を持ったのは、黄金のコイキングの話だった。

 

「本当にいたの、黄金のコイキング?」

「ああ。釣れたわけじゃなかったんだけど、最後に姿を現してくれたんだ」

「すごい!やっぱり大きかった?」

「普通のよりも一回りもふた回りもな」

「じゃあ私たちは池の主、絶対釣るよ!」

「ああ。そのいきだぜ、スイレン!」

 

二人は意気揚々と、ライチの言っていた池を目指した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

辿り着いた池は、それなりの広さではあるが、決して広大というわけではない。本当に主がいるのだろうか。いるとしたら、どんなポケモンなのだろうか。

 

「まぁ、釣ればわかるか」

「うん。釣ればわかる!」

 

早速釣りを開始しようとする二人。しかし、彼らを呼び止める声がした。自称、釣り名人歴40年にして池の主の宿命のライバル。そのおじさんは、主と戦ってみたいなら、まずヒンバスを釣って、実力を示すように話し始める。一般的に、ヒンバスとは釣り上げることが非常に難しいポケモンである。事実ロトムの説明でもわかり、名人も何やら自分の過去や、難しさについて語っていた。が、

 

「おっ、釣れた」

「私も」

「うっそぉぉぉぉお!?」

 

それをあっさりやってのけるサトシとスイレン。海のスイレンとポケモンホイホイは伊達ではない。それも、ぴったり異なる性別を釣り上げるあたり、示し合わせたのではないかと思うくらいだ。何やらおじさんが泣いているがら、気にしない。

 

「あ、あれ!」

「ん?」

 

池の淵にある小さな水たまりで、一体のポケモンが跳ねている。白い身体に、泣いているように見える瞳。

 

「ヨワシ?」

「こいつ、怪我してる!手当てしないと」

「うん」

 

サトシの持ち歩いていたキズ薬を、額にかけたあと、そこにスイレンの持っていた大きめの絆創膏を貼ってあげる二人。スイレンが池に戻してあげると、ヨワシはお礼を言うように鳴いて、潜っていった。

 

 

何はともあれ、最初の試験をクリアした二人は、自称釣り名人歴50年(何故か増えているが二人はツッコまない)からボートを借りて、中央部分に向けて漕ぎ出した。

 

しかしサトシとスイレンが向かい合うように座り、サトシが一人で漕いでいる姿は……はたから見たらどうみても釣りデートにしか見えない。ピカチュウとアシマリも、船の先端部分で何やらタイ◯ニックごっこをしている……なんて不吉なフラグを立てるのだろうか、この子たちは……

 

「この辺りでいいかな?」

「うん。ここなら、きっと色々釣れる」

「よーし、じゃあ早速、いっけぇ!」

 

ルアーを下ろすサトシ。僅か数秒後、早速何かがヒットした。今回サトシが引き上げたのは、コイキング。サトシの腕の中に落ちたかと思うと、ヒレで強めの一撃を与え、そのまま池の中に戻っていった。

 

「てて、またコイキングかぁ」

「ふふっ。サトシ、コイキングに好かれてる。はっ!?」

 

温和な表情から一転、スイレンが本気の顔に変わる。とある一点に真剣な視線を向けたスイレンは、釣竿を手に、ルアーを飛ばした。

 

水面に、何かの影が浮かび上がる。ただのポケモンではなさそうだ。

 

「まさか、もう来たのか?」

 

息をのむサトシとスイレン。緊張の表情をするピカチュウとアシマリ。

 

唐突に、スイレンの釣竿が引っ張られた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、一方カキたちはと言うと……

 

「ありがとな、マーマネ。助かった」

「まぁ、一応手伝うって約束だったしね。それに……」

「ああ……」

 

作業の手を止め、ちらりと視線を送る二人。その先には、女子組がいる。それはまだいいのだが、問題は彼女たちの前にある。

 

「あ〜あ、あたしも付いて行けばよかった。サトシとスイレン、二人だけなんて……よく考えたらサトシはアクティブなことが好きだから、釣りに惹かれるよね……」

「まぁ、サトシのことですから、特に意識しているわけではないと思いますが……それにしても、もっとこちらの気持ちを察してくれても。ねぇ、シロン?」

 

モーモーミルクにチーズ、ヨーグルト。ソフトクリームなど、名産品が色々と並べられ、次々にガールズのお腹に消えていく。二人のパートナーもやや呆れ顔だ。

 

「ありゃ手伝えって言えるわけないよな」

「そだね……」

 

今頃二人は楽しく釣りをしているのだろうか。取り敢えず、せめて二人が目一杯楽しんで来てくれるといい、そんな風にボーイズ二人は思い始めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「スイレン!」

 

咄嗟にスイレンのお腹に腕を回し、力一杯抱き寄せるサトシ。そのタイミングはまさに完璧というべきだろう。ほんの一瞬でも遅れていたら、スイレンが釣竿ごと、池に引きずり込まれていたかもしれなかったのだから。サトシの腕の中にいながらも、スイレンは釣竿を手放していない。

 

「かかった。大きい!」

「スイレン、大丈夫か?」

「うん!でも……強い、力が」

 

水面目掛けて何かが浮上してくるのが見える。その何かは水面を割り、大きな水しぶきをあげながら、サトシたちの前に姿を表した。

 

深い青色の体に、白い瞳。身体にあの時のデカグースと同じ、不思議なオーラを纏っている。

 

「これは、ぬしポケモン!なら、こいつが、」

「池の、主」

 

何やら陸地で喜んでいる、自称釣り名人歴70年だか80年だかのおじさんはほっておいて、主にバトル相手として認められたらしいスイレンは、さらに気合を入れる。

 

サトシが身体を支えているため、引きずり込まれることこそないが、主によって船はあちこち引き回される。そしてとうとう、池の中央にある小さな陸地に彼らは乗せられた。

 

なんとか無事に着地したサトシ。しかも、アシマリ、ピカチュウを片腕で抱き、もう片方の腕でスイレンを支えた状態で。まぁ、無事といっても、着地した時の衝撃で、若干足がしびれてはいるのだが、流石の運動神経である。

 

「っ〜〜。スイレン、大丈夫か?」

「平気」

 

若干涙目のサトシに対し、集中しているのか、言葉数の減るスイレン。なんとか主の気を引こうとアシマリに頼むが、すぐに陸地に戻って来てしまう。その目は涙ぐんでいる。どうやら、相当恐怖心を与える相手のようだ。

 

「アシマリ……そうだよね。怖いよね。大丈夫、あとは私がやるから」

「アウ〜」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

主に負けるもんかと、足腰に力を入れ、釣竿を引き続けるスイレン。しかし、主の突然の動きにバランスを崩し、地面に倒れてしまう。

 

「スイレン!」

「ダメ!来ないで。これは、私の、バトルだから」

『一人で釣るなんて無茶ロト!』

「ピカピカチュ!」

 

立ち上がったその足は、先程ぶつけたのか、血が滲んでいる。痛みに表情が歪む。それでも一人で戦おうとするスイレン。近くの岩で身体を固定し、力の限り引き続ける。

 

先程、主によって恐怖させられたアシマリが、スイレンのその様子を見つめる。あんなに転んだら、絶対に痛いのに……弱音を吐かずに、スイレンは挑み続けている。自分は、そんなスイレンの、パートナーなのだ!

 

スイレンの諦めない姿に勇気をもらい、アシマリは、再び池の主に挑む。得意の泳ぎと、バブルこうせんを使い、主を翻弄するアシマリだったが、突然、水の中からハイドロポンプで弾き出され、岩場に叩きつけられる。

 

「アシマリ!」

「今のは?」

 

サトシが顔を水につけて確認すると、主の周囲に、何体もの水ポケモンが現れている。中でも厄介なのはママンボウだ。癒しの波動で主が元気を取り戻してしまう。何とかして、スイレンを助けなければ。

 

「どうしたの?」

「スイレンはそっちに集中しててくれ。他のポケモンが主の加勢に来てる。俺があいつらを引き受けるから、スイレンは主を」

「うん!」

「よーし!ゲッコウガ、君に決めた!」

 

水中にいるポケモンたちを相手にするため、現在手持ちで唯一みずタイプを持つゲッコウガを出す。とはいえ、通常水の中の敵を相手にするのはトレーナーから見えないため困難である。

 

もちろん、それはあくまで、一般的なトレーナーの話だが。

 

「行くぞ、ゲッコウガ!」

「コォウッガ!」

 

二人の気持ちが高まり、繋がる。激しい水流がゲッコウガを包む。

 

 

その時、島のどこか。一体のポケモンが何かに気づいたような声を上げる。その視線の先にはサトシたちのいる池。

 

「テテ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

自称釣り名人(もう年単位じゃなくなってる)が驚愕の声を上げる中、変化したゲッコウガが水中へと飛び込んで行く。そのゲッコウガの見るものが、直接サトシに伝わる。

 

「かげぶんしん、そこから一斉につばめがえしだ」

「コウッ!」

 

主を援護しようと現れたポケモンたちの周囲を、ゲッコウガの分身が取り囲む。彼らが混乱する中、高速で接近したゲッコウガのつばめがえしが、次々に決まる。ゲッコウガが相手では分が悪いと見たのか、一体、また一体と撤退して行くポケモンたち。最後の一体が逃げて行くのを見届けたゲッコウガが、サトシの隣に降り立った。

 

「サンキュー、ゲッコウガ。スイレン、こっちは終わったぞ!頑張れ!」

「うん!」

「アウッ!」

 

アシマリも復活し、再び主に挑む。小さな攻撃でも、必ず効いてくる。主が一瞬ひるんだ隙を、スイレンは見逃さなかった。力の限り引っ張るスイレン。

 

水面を割り、主とアシマリが飛び出してくる。

 

ここで決めれば勝てる!自分が、スイレンを勝たせるんだ!

 

アシマリのその強い思いが、新たな力として発現する。ゲッコウガのように、水流が身を包む。しかし変化するのではなく、それは高速移動の推進力。その技を、サトシはよく知っていた。

 

「これって……」

「アクアジェットだ!」

 

主目掛けてまっすぐに突っ込んだアシマリのアクアジェットが、相手の身体を貫いた。バラバラになって池に落ちて行く主。いや、違う。この一つ一つが、別々のポケモンだ。それも、

 

「これ、ヨワシの群れ?」

「みんなで集まって、あの大きな主になっていたのか……」

『あの主は、ヨワシの群れた姿だったロト。データ、アップデート』

 

小さい力も、たくさん集まれば大きな力になる。まるでそれを体現しているかのようなポケモンだ。水面に、一体のヨワシが現れる。頭についている絆創膏から、さっきの子だとわかる。

 

「お前も、主の中の一体だったんだな」

「すごく楽しかったよ」

 

スイレンの方に近づくヨワシ。その口の中に、何かキラリと光るものが見える。綺麗にカットされたひし形、深い水のような青色、そして一粒の雫のような模様。

 

「これ、ミズZだ」

「私に、くれるの?」

 

頷くヨワシ。ミズZを手に取り、しばし見つめるスイレン。

 

「ありがとう。ナイスファイト!」

 

スイレンとサトシに一礼ずつしてから、ヨワシはまた潜っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヨワシを見送ると、疲れたのか、その場に座り込むスイレン。

 

「お疲れ。大丈夫か?」

「うん。平気っ!」

 

怪我した足が痛むのか、顔をしかめるスイレン。取り敢えずは名人(自称)のいる陸地に戻らなければ。サトシがスイレンの前に屈み込み、背中を向ける。

 

「サトシ?」

「足痛むんだろ?背中に乗れよ」

「えっ、でも」

「無理しないほうがいいしな」

「……わかった」

 

サトシの背に体重を預けるスイレン。なんでもないかのように立ち上がったサトシは、ボートの中にスイレンを下ろした。

 

「あの、サトシ……重くなかった?」

「いや、全然。むしろ軽かったかな?」

「そ、そう?」

 

嬉しそうなスイレン。まぁサトシは本心から言っているのだが、ちょっとニュアンスが違うのだ。サトシの場合、他の比較対象に、ヨーギラスとかコータスなど、思わず「ん?」となるポケモンも含まれているのだ。まぁ、言わなければ問題にはならないので、今回はサトシグッジョブといえよう。

 

無事に陸地に戻ったサトシとスイレン。おじさんに礼を言ってから、ポケモンセンターを目指すことにする。もちろん、サトシがスイレンをおぶって。

 

「サトシ……ありがとう」

「ん?」

「サトシが一緒に来てくれて、すごく助かった。最初に支えてくれた時も、他のポケモンと戦ってくれたことも、運んでくれてることも。それに、すごく楽しかった」

「俺も楽しかったよ。流石スイレン、って感じだったぜ」

 

サトシの歩みに合わせ、軽く揺れる身体。不快なわけではない、むしろ心地いい。いつだっただろう、自分が最後におぶってもらったのは。妹たちが生まれてから、自分もしっかりしないとと思って、親の負担にならないように頑張った。こうして、誰かに甘えたのは、いつが最後だっただろう。

 

「ねぇ、サトシ……」

「ん?」

「私ね……」

 

「テテ?」

「「えっ」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

何か声が聞こえた。二人で上を見ると、彼らの少し上の空、一体のポケモンが彼らを見下ろしていた。ピンクの帽子のような頭に、黒とピンクの身体のそのポケモンは、首をかしげると、彼らの前まで下りてくる。

 

「カプ・テテフ!」

「これが、アーカラ島の守り神?」

 

サトシとスイレンの周りを飛ぶカプ・テテフ。その動きは、宝島でのことを思い出させる。

 

と、サトシが背負っているスイレンの足の怪我に気付いたカプ・テテフ。傷の前まで下り、目をパチクリさせる。と、キラキラした鱗粉がスイレンの傷にかけられる。たちまち癒え始める傷の様子に、スイレンは驚かされる。話は聞いていたけど、まさかこんなにすぐ効くなんて。

 

「治っちゃった……」

「良かったな、スイレン」

「うん。あの、サトシ、もう下ろしていいよ」

「あ、そっか」

 

少し名残惜しさはあるが、怪我が治ったのに、いつまでも背負ってもらうわけにもいかない。地面に降りて、改めて傷が完治していることに驚くスイレン。

 

一方サトシの方は、久々に出会えたカプ・テテフに興味津々の様子。驚くべきことに、カプ・テテフの方も、サトシに興味津々のようだ。

 

「ありがとな、カプ・テテフ」

「テテ?」

「今回のことと、この前のことも、改めて」

「……」

「なぁ、良かったら今度、バトルしないか?って、カプ・テテフ!」

 

サトシの誘いを受ける前に、カプ・テテフは上昇していた。もう興味を失ったのかと思ったが、空からこちらをチラリと見たことから、そういうわけではなさそうだ。手のようなものを振るカプ・テテフ。それを見たサトシも、また今度の意を込めて手を振った。

 

何故、カプ・テテフが再びサトシの前に現れたのか、それはまだわからない。けれども、またすぐに会えるのではないか。そんな気が、スイレンはしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、ご飯を食べ終わった頃、ライチがスイレンにあるものを手渡した。完成した、Zリングだった。

 

流石ライチの手作り品。カキのとは異なる色の石をいくつか使い、海の色にも見える。まさに、スイレンにぴったりのものだ。

 

「はい。気に入ってもらえるといいんだけど、」

「ありがとうございます!すごく、嬉しいです」

「そう?なら良かった」

 

早速腕につけるスイレン。そしてポケットの中から取り出した、ヨワシからの贈り物をそこにはめ込んだ。部屋の明かりで、キラリと水色の輝きが見えた。

 

「スイレン、お前」

「それってもしかして、」

「うん、ミズZ。カプ・テテフにもらったの」

「「「「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」」」」

 

この発言には流石のライチとククイ博士も驚きの声を上げる。まさか、守り神がZクリスタルをあげるなんて、そんなこと……

 

「……いや、あるかもしれないな」

「確かに……あるかもしれませんね」

「確かに」

 

冷静になってみて、ありえなくはなさそうだと思ってしまうライチを除くみんなだった。ソースはこの中で唯一驚いていない少年だ。彼もまた、カプ・コケコからZリングを、そして大試練の後にはデンキZを貰っているのを見たことがあるのだから。まぁ、実際は、

 

「嘘です」

 

……………(−_−;)

 

チラリと舌をのぞかせ、頭をコツンとするスイレン。あざとい、が、やたら似合っている。スイレン本人に、何ら邪気がないからだろうか。

 

「でも、カプ・テテフに会ったのは本当。私の怪我、治してくれた。ね、サトシ」

「ああ。俺もまた会えて嬉しかったぜ。今度はバトルしてくれないかなぁ」

 

釣りバトル、及び試練に打ち勝ったスイレンとアシマリ。二人は一体どんなZ技を見せてくれるのか。そしてサトシはカプ・テテフとバトルできるのか。それはまだ先の話。

 

何だかサトシとスイレンの距離が、物理的に、縮まったように約2名感じるわけだが、それもまた別の話。

 

 




夜、寝る前にあの鉱石を取り出して眺めるサトシ。が、

「あれ?色がついてる?」

鉱石の僅かな部分が、元々透明だったはずなのに、深い青色に染まっていた。

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