*注意
今回から、完全オリジナル要素が含まれていきます
ストーリーの流れには影響はないかもですが、大きな改変であることは間違いないですので
では、どうぞ
朝、早めに目を覚ましたライチは、いつも習慣的に行なっている、ヴェラ火山への祈りをしに、外へと出た。
まだ日が昇る少し前の時間のため、外を出歩く人も少ない。と、前から人影がこちらに向かってくるのが見えた。ライチの側まで来たその人物は、朝から元気のいい笑顔を見せ、挨拶をした。
「アローラ、ライチさん」
「ピカチュウ!」
「コウガ」
「アローラ、サトシくん」
額にうっすらと汗を浮かべながら笑うのは、昨日のホエルコ救出の際に活躍した少年、サトシだ。一緒に走っていたらしいピカチュウとゲッコウガもいる……あれ?一緒に走ってた?
「こんな朝早くからどうしたの?」
「いえ、なんだか新しい島での授業が楽しみで、目が覚めちゃったからトレーニングでもしようかと思って」
「そう。熱心なのね」
「ライチさんは、どうしたんですか?」
「私はヴェラ火山に朝の祈りを捧げようと思ってね。いつも習慣的にやってるのよ」
「じゃあ、俺も一緒に行ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
ライチに連れられ、サトシはオハナタウンのはずれにある、小さなお祈りの台座に来た。その台座の正面に立つと、丁度ヴェラ火山が目の前に見える。
「じゃあ、お祈りするわ」
「はい」
目を閉じ顔を伏せるライチを見て、サトシたちも真似をする。
「アーカラの大地の恵みをもたらす、ヴェラ火山。その炎は命の炎。アーカラの守り神、カプ・テテフ。どうか今日もこの大地に祝福を」
しばらく沈黙したのち、ライチは顔を上げた。
「さぁ、サトシくん。戻りましょうか」
「はい。あの、ライチさん?」
「なぁに?」
「カプ・テテフにも神殿があるんですか?」
「ええ。あるわよ」
「今度連れて行ってください!」
「いいわよ。でも、今は戻って朝ごはん食べないと。今日の課外授業は、エネルギー使うからね〜、っとわわっ!?」
走り出すライチ、だったが、すぐさま足元の石に躓き、転んでしまう。
……………(−_−;)
いち早く手を差し出すゲッコウガ。その手を取り立ち上がるライチ。大きな怪我はなかったようなので、とりあえずほっとする。
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、今度こそ行こっか」
「はい」
今度は転ばずにかけ出すライチ。その後をサトシたちも着いて行く。
その様子をピンクの体を持ったポケモンが眺めていたことには、気づくことができなかった。
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さて、今日の課外授業、メインとなるポケモンは、
「おおっ、ムーランドがいっぱいいる!」
「ヨーテリーやハーデリアもいるな」
朝食を食べ、ライチさんに連れられた一行が着いたのは、大勢のムーランドたちがいる場所だった。
「ここはね、ムーランドたちがライドポケモンになる訓練を受ける場所でもあるの」
「ライドポケモンに?」
「そう。今日はムーランドに乗って、みんなには宝探しをしてもらうわ」
『ムーランドは鼻がとてもよく、地面に埋まっているものを見つけることができるロト』
「さぁみんな。好きな子を選んでみて」
ライチに言われ、並んでいる様々なムーランドを見るサトシたち。
「おっ、こいつバトルとかでも強そうだな。あっ、こっちはレースでも活躍しそう」
一体一体を見ながら長所を述べるサトシ。ムーランドたちも褒められて嬉しそうだ。次々にクラスメートがペアのムーランドを決める中、サトシとスイレンのみ、まだ決まっていなかった。
「ん?こいつ……」
「ああ、その子はライドポケモンになったばかりなの。この中じゃ、一番の暴れん坊よ」
二人の視線が一体のムーランドに止まる。他と比べて、やや棘のある視線を向けて来ている、そんな印象を持たせる相手だったが、二人はその目を見ていた。
「凄い、いい目をしてるな」
「うん。澄んでる、とても」
「スイレン、こいつにするか?」
「えっ、でもサトシは?」
「俺は他の奴にするよ。スイレンが一緒にやってみたいんだろ?」
「……うん!」
こうして、サトシ以外のメンバーが選び終わった。さて、サトシはというと、
「わわっ。擽ったいって。わかったから、な」
何故かやたらとサトシを気に入ったムーランドがいたため、彼と組むことにした。のしかかられながら、サトシはその重さにハッとする。思い出したのは、あの時のムーランド。大きさの割に、あまりにも軽かったその体……
(ムーランド……安心してくれ。ニャビーは今日も元気にしてるぜ。きっと、俺がお前のぶんまで、ニャビーを……)
優しく目の前ムーランドを撫でる。気持ち良さそうに目を細めるその姿に、サトシも笑みがこぼれた。
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「みんな、用意はいい?鐘が鳴ったら戻ってくること。それじゃあ、ムーランドサーチ、スタート!」
ライチの合図で各々目的地を決めて走り出す……二人以外は。
片方はスイレン、さすが暴れん坊とライチに言われただけあって、そう簡単には言うことを聞いてくれそうにない。何とかスイレンが振り落とされないように乗ると、鼻をフンス、と鳴らしどこかへ向かって歩き出した。
一方もう一人、ウェアに着替え、髪をまとめたリーリエはというと、シロンやピカチュウに触れたとはいえ、まだまだ他のポケモンに対する恐怖心が消えたわけではない。それでも、ムーランドに乗れるようになろうと挑む姿を、ククイ博士とライチが優しく見守っている。
ムーランドに連れられサトシは森の方へとやって来た。と、何かを見つけたのか、鼻をヒクヒクさせ、地面を掘り始めるムーランド。ここ掘れワンワン、というか、ここ堀田ワンワンである。穴の中を見ると、何か小さな赤いものが見える。
「なんだこれ?」
『それは一部のマニアに人気の、あかいかけらロト』
「へ〜。よく見つけたな、ムーランド」
労うように撫でると、嬉しかったのかサトシに飛びつき顔を舐めてくる。本当にサトシが気に入っているようだ。
と、またムーランドが何かを見つける。
『おっと、一部のマニアに人気の、あおいかけらロト』
「違う色のものもあるのか。というか、これって何のかけらなんだろう?」
「ワウッ!」
「へ?また見つけたのか?どれどれ〜……って、これはまさか!?」
『御察しの通り、一部のマニアに人気の、きいろいかけらロト!』
「やっぱり……かけら多いな、この辺り」
褒めて褒めてとサトシに顔を寄せるムーランド。しっかりと労うように撫でるサトシ。小さなものでも、これだけ短時間で見つけられるのは大したものだ。素直に感心するサトシは、その後もムーランドとサーチを続けた。
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さて、他のみんなはそれなりに順調に進んでいるが、一組、なかなか苦戦しているようだった。
スイレンのペアだ。
このムーランド、暴れん坊なだけでなく、主人を自分で選ぶタイプなのか、スイレンの指示やお願いをスルーし、ひたすらにきのみを食べ続けている。
「ねぇ、宝探ししよう?」
「…………」
「駄目かぁ。どうしたら仲良くなれるのかな……?」
こんな時、ライチだったら?サトシだったら?どうしていただろう。ポケモンたちを惹きつける、不思議な魅力を持つ二人。きっとあの二人なら、このムーランドともすぐに仲良くなれただろう。
「どうしたらいいんだろう……あ」
いい案が思いつかず、ただムーランドの頭を撫でながら考えごとをしていると、カランカラン、と鐘の音がする。どうやら午前の制限時間はもう終わりのようだ。顔を上げたムーランド。流石に鐘の音が戻る合図だということは理解しているらしく、やや駆け足で集合場所へと向かった。
さて午前の部の鑑定、ライチがみんなの見つけたものに得点をつけるというものだが、みんなの成績はどうだったのか。
「サトシはあか、あお、きいろ、みどりのかけらね。合計20点」
「マオはちいさなキノコとおおきなキノコね。これも20点」
「スイレンとマーマネはまだみたいね、リーリエは今も頑張り中」
みんな中々大物はヒットしないようだ。一人、マーマネだけは一発逆転を狙っているからと自信満々だ。
「さて、カキはどうかな?ん、これは」
「何ですかそれ?石、じゃないですよね?」
「そう。これは化石よ。ズガイドスの頭の一部ね。よく見つけたわ、カキ。100点よ」
流石はアーカラ島に住んでいるカキ。古代の地層がある場所を探し、見事に大物を見つけさせることに成功したようだ。初めて見るズガイドスの化石に、みんなも興味津々だ。
「どうだ、サトシ?」
「よぉし、後半で、俺たちもスッゲェもの、見つけてやるからな!」
「望むところだぜ!」
火花を散らし始めるサトシとカキ。こういうことに熱くなれるところは、まだまだ子供のように思える。くすりと笑うライチ。鑑定が終わったため、リーリエを呼び、一度昼食をとることにした。
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「リーリエ、調子はどう?」
「うう、それがまだ……大丈夫大丈夫と、自分に言い聞かせているのですが……」
しょんぼり気味のリーリエ。とはいえ、初対面、それもムーランドのような大きなポケモンが相手では、緊張するなという方が無理かもしれない。さてどうしたものかとみんなが考え込む。
「まずは、ムーランドと目線を合わせて、話しかけてみたらどうだ?」
と、早速意見を出すのは我らがサトシ。既に食べ終わってるあたり二重に流石の早さだ。
「話しかける、ですか?」
「リーリエのこととか、色々と話してみたら、ムーランドとの距離も縮まるかもしれないだろ?」
「わたくしのこと……はい。やってみます!」
意気込みを見せるリーリエに、ウンウンと頷くサトシ。中々的確な助言を与えるサトシに、ライチは感心したような視線を送る。
いわゆる触るための手順や、効率的な手段などを教えたわけではない。ただ、彼はリーリエなら乗ることができると信じ、疑っていないのだ。そのために、ポケモンと心を通わせるための第一歩を教えただけ。でも、それこそが、彼女の突破口になるかもしれない。
ますますサトシの大試練が楽しみになって来る。
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午後の部の開始とともに、サトシとムーランドはダッシュで岩場の方へと向かった。自分たちも化石を見つけるんだと、大張り切りのようだ。
「よーし、ムーランド!しっかりと見つけていこうぜ!」
「ワウッ!」
—————クンクン
「……ワウ?」
「ん?どうした、ムーランド?」
辺りの匂いを嗅いでいたムーランド。何かを見つけたのか、首を傾げた後、小さな洞窟に入っていった。暗い洞窟を奥に進むことしばし、明かりが見えた。その方向へ進むと、天井に穴が空き、光が漏れている空間に辿り着いた。
「なんだろ、ここ?」
天井部分の崩れた真下、瓦礫の中に何か埋まっているのだろうか。ムーランドの力を借りながら、サトシは瓦礫をどかした。
一見そこには何もなさそうに見えた。が、砂の下で、何かが光を受けて光っているのが見えた。そっとそれを手に取るサトシ。
「これって、もしかして……」
手に取ったのは透明な鉱石。宝石のような価値あるものではなく、アクセサリーに使うものでもなさそうだ。だがその中央に、サトシは不思議な模様を見つけた。一粒の水滴のような、模様。それにサトシは見覚えがあった。
「確か前に、博士が見せてくれた……ミズZの」
『ビビッ、確かにおんなじ模様ロト!』
だが、あの時のミズZは綺麗な青色をしていた。だというのに、この鉱石は透明だ。また、形が違う。通常のZクリスタルが横長のひし形なのに対し、この鉱石はまだ磨かれていないためデコボコしている。
それに、勘ではあるが、今は力を感じないのだ。デンキZやノーマルZと違って、触れた時に感じる不思議な感覚、それがこの鉱石からは感じられなかった。まるで、空っぽの容器のようにも思える。
『サトシ、それをどうするロト?』
「取り敢えず持って帰って見るよ。せっかくムーランドが見つけてくれたんだしな。サンキューな」
またまたサトシに飛びつき顔を舐めるムーランド。よしよしと撫でながら、サトシは改めて手に持つその鉱石を見る。
(なんだかわからないけど、何故か、これが俺に取って、とても大切なものになる。そんな気がするな)
洞窟の外に出たサトシたち。さて、別の場所を探そうと思った時、何処か近くで爆発音、そして声が聞こえた。
「今の……スイレン!」
ムーランドに跨ったサトシは、大急ぎで音の方へと向かった。
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ダストダスのヘドロばくだんが、アシマリに決まる。大きく後ろに飛ばされたパートナーを抱え、スイレンは周囲を見渡す。ムーランドが後ろで目を閉じていて、正面には三体のダストダス。運悪く、彼らのナワバリに踏み込んでしまったのだろう。明確な敵意を持ってこちらを見る相手に、スイレンは逃げなきゃ、そう思った。でも、
「このままじゃ、ムーランドが……私が守る。アシマリも、ムーランドも!」
強い意志を持った瞳でダストダスたちを見るスイレン。ダストダスの一体が前に進んで腕を振り下ろそうとする、と、
「ワウッ!」
スイレンの後ろから、寝ていたはずのムーランドがギガインパクトで突っ込んできた。ダストダスを突き飛ばすムーランド。そのまま怒る他の二体と対峙する。まるでスイレンを守るように。
「ムーランド。助けてくれるの?」
「ワウ」
視線ををかわすムーランドとスイレン。そんな二人めがけて、残り二体のダストダスが襲いかかる。
「ピカチュウ、アイアンテール!ムーランド、ほのおのきば!」
「チュー、ピッカァ!」
「ワォウッ!」
横から飛び出した二体の攻撃が、ダストダスたちを弾き飛ばした。走ってきたムーランドの背中に乗っているのは、
「大丈夫か、スイレン?」
「サトシ!」
「なんだかよくわからないけど、取り敢えず、ここは行こう!」
「うん!ムーランド!」
「ワウッ!」
スイレンの言葉に、膝を折り身を屈めるムーランド。その事に、一瞬目を見開くスイレンだったが、すぐさま跨り、サトシたちの後を追って駆け出した。去り際にちゃんと一言残して。
「騒がせちゃって、ごめんね!」
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さて、無事に逃げ切ったサトシとスイレン。すっかりスイレンに心を許したムーランドを見て、サトシが嬉しそうに笑う。
「ちゃんと仲良くなれたんだな、そのムーランドと」
「うん!ありがとね、ムーランド」
「ワウッ!」
「あれ、どこ行くの?」
突然、スイレンを乗せたまま、ムーランドがどこかへ走り出す。なんとなく気になったため、サトシもスイレンたちの後を追いかけて見る事にした。
彼らが辿り着いたのは、サトシがいたのとは別の小さな洞窟。その中へとスイレンたちが入って行く。と、ここで鐘がなる音が聞こえた。
「やっば、戻らないと……でも、さっきのこともあったし、スイレンたちのこと、待つとするか。な、ピカチュウ」
「ピカチュウ!」
待つことしばし。スイレンが何かを持って洞窟から出てきた。そのままサトシたちと合流し、集合場所を目指す。既にみんな集まっており、どうやら自分たちを待っていたようだ。
「それじゃあ、後半戦の鑑定を始めるわね。今回は、マオから。大きなサンの実ね〜。通常のサイズでも珍しいのに、こんなに大きいのは初めて見るわ。75点」
「ああ〜、カキには届かなかったか〜」
「次、マーマネ。これは大昔にアーカラ島に落ちた隕石のかけらね。150点」
「えっ、マーマネがトップ!?」
「ま、まぁね」
到着順に並び直し、鑑定が進む。午前の部と比べると、マオとマーマネの二人は中々高得点のものを見つけてきたようだ。
「そして、リーリエの宝は、あれだ!」
ククイ博士が指差す先、ムーランドの背に跨り、辺りをかけるリーリエの姿があった。もっとポケモンと仲良くなりたいという気持ちを持って、ムーランドに話しかけていたリーリエ。その気持ちに応えたのか、ムーランドも膝を曲げ、じっと動くことなくリーリエを待ったのだ。
何度も怯えながらもゆっくりと近づいたリーリエは、見事に乗ることができたのだった。リーリエはもちろん、ムーランドも嬉しそうにしている。
みんなの賞賛の声を受け、照れるリーリエ。また一歩、大きく進歩することができたみたいだ。
「じゃあ次ね。カキは、またまた化石ね。今度はアーケンの尾羽ね。これも100点、合計して200点」
「ええっ!?また抜かれた……」
「やっぱり、カキが優勝かな?」
ニヤリとサトシを見るカキ。しかしサトシは自分の見つけたもの、その鉱石のことが気になっていたため、勝負のことが頭から抜け落ちていた。そしてサトシの番。
「サトシは……、何もなし?」
サトシの前の台には、何も乗っていなかった。何か言おうとしたロトムに、しーっと合図を送るサトシ。なぜかわからないけど、もうしばらくこの鉱石については秘密にしておきたいと思ったのだ。
(なんでだろう……でも、なんだか、自分で答えを見つけないといけない。そんな気がする)
「じゃあ最後はスイレンね。どれどれ?」
台座の布をライチが取る。そこには中央にZの模様が見える石が置いてあった。どことなく、カキやサトシの身につけているものに似ているそれは、
「Zリングの原石ね!凄いわ、スイレン。500点!よって、ムーランドサーチ対決は、スイレンの優勝よ!」
その見事なまでの逆転勝ちに、スイレンの周りにみんなが集まる。台座の上のZリングの原石は、夕日の光を受けて、キラリと輝いた。
「これでZリングを作るわよ」
「もしかして、私の?」
「もちろん!」
「やったな、スイレン」
「凄いじゃん!」
「いいなぁ」
「良かったですね、スイレン」
「うん。リーリエも」
こうして、みんなムーランドと仲良くなることができた一日、誰もが楽しい思いをすることができたのだった。
ただ、宿舎のポケモンセンターに戻るときに、サトシだけが、何か考え込みながら歩いていることに、ククイ博士とライチは気づいた。
というわけで、サトシのムーランドが見つけた鉱石。
これは今後のこの物語の中では大きな役割を果たすことになると思います
どう関わっていくのかは、お楽しみに