ガチで書き出したら文量が他と比べてとんでも無いことに……
まぁ、それだけこの回は大切にしたいと思ったわけです、はい
色々と追加しちゃったところもありますが、ご容赦
その朝、ポケモンスクールに大きな声が響き渡った。その声の源は、やはりというべきか、サトシたちの教室だった。
「は、博士。今、なんて?」
「だから、君たちのパートナーを交換してもらうんだ」
その爆弾発言に、時が止まった……ように彼ら、サトシとクラスメートたちは感じたのだった。
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ひとまず席に着くサトシたち。しかしその表情は優れない。先ほどの博士の『交換』という言葉が、大きく引っかかっているようだ。
「博士、交換ってどういうことですか?」
「アシマリ、どっか行っちゃうの?」
シロンとアシマリをそれぞれ抱きしめるリーリエとスイレン。マーマネとマオは不安そうに、カキとサトシは真剣な表情で博士を見ていた。
「あぁ、悪い。言葉が足りなかったな。この週末の間、君たち同士で交換してもらうってことだよ」
「俺たち同士で?」
「どうゆうこと?」
「これまでで、みんな自分のパートナーと一緒の時間を過ごし、仲良くなってきたと思う。でも、せっかくだから、自分のパートナー以外のポケモンとも、しっかりと触れ合って欲しいと思ってな」
ククイ博士の言葉にサトシも納得していた。確かに自分は、ピカチュウたちのことはよく知ったかもしれない。でも、みんなのポケモンについてはどうだろう。一緒に暮らしているはずのシロンのことも、あまりよく知らない気がする。
「パートナー以外、か」
「面白そうじゃん!」
「でんきタイプ以外のデータも欲しかったし、いいかも」
「そうですね。わたくしも、シロン以外のポケモンに触れるようにならないと」
どうやらみんなもそれなりに乗り気のようだ。早速ククイ博士の用意したクジを引くサトシたち。その結果として……
「ピカチュウ、よろしくお願いします」
「ピッカァ!」
「シロン、短い間だけど、よろしくな」
「コォン……」
「じゃあわたくし、ジェイムズに言って迎えにきてもらいます。折角なので、ピカチュウと二人だけで色々と経験したさてみたいので」
「わかった。シロンのことは任せてくれ」
元気よく挨拶するピカチュウ、不安げなシロン。割とフレンドリーなピカチュウと組めたことは、リーリエにとっても良かったかもしれない。一方、リーリエ以外にはなかなか懐こうとしないシロン。サトシの母の例があるため、他の人にも慣れるためにはサトシが適任だろう。くじの結果としては、悪くなさそうだ。
「アイナ食堂の看板ポケモン、可愛がってあげてね、マーマネ」
「アーマイ」
「マオも、トゲデマルのこと、よろしくね」
「オッケー、任せて」
「マリュ!」
ポケモンたちの中ではお姉さんポジションのアママイコと、シロン以上に末っ子っぽいトゲデマル。ある意味反対の二体を交換することで、どんな風に生活が変わるだろうか。案外、トレーナーの腕の見せ所かもしれないが、果たしてうまくやれるだろうか。
「スイレンのとこ、小さい妹いるだろ?バクガメスを怖がらないか?」
「ガメス?」
「大丈夫。大きいポケモンも、大好きだから」
「そっか。ならいいんだが」
「アシマリ、カキのお仕事、邪魔しちゃダメだよ」
「まぁ、アシマリはしっかりしてるしな。そういう心配はなさそうだ」
「アウッ!」
みずタイプは苦手と言っていたカキ。果たしてアシマリとうまくやれるのだろうか。スイレンの場合、バクガメスのような大型ポケモンがいて、ホウとスイが無茶しないかどうかが一番気がかりだった。
それぞれの期間限定パートナーが決まり、サトシたちは放課後から、そのパートナーと共に過ごすこととなった。
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「じゃあな、スイレン。バクガメスのこと、頼んだぞ!」
「うん。アシマリ、気をつけてね」
「しっかり掴まってろよ、アシマリ」
空を飛ぶリザードンの背に乗るアシマリ。初めての経験におっかなびっくりしながらも、どこかワクワクしているみたいだ。アシマリが怖がっていないことにほっとしながら、カキはアシマリが落ちないように、しっかりと身体を支えてあげるのだった。
一方スイレンは、普段なら浜辺へバルーンの練習をしに行くのだが、アシマリがいないので、直帰することにした。アシマリと違い、少し歩みの遅いバクガメスに歩幅を合わせるところから取り組んでみる。
「じゃ、トゲデマル。アイナ食堂まで、レッツダッシュ!」
「マリュリュ!」
走り出したマオの後を転がりながら追いかけるトゲデマル。さながら、姉を追いかける妹といったところだろうか。元々お姉さんっぽいところのあるマオは、案外トゲデマルとも相性が良さそうだ。
「トゲデマル、大丈夫かな?」
「アマイ?アーマイ!」
トゲデマルを心配しているのか、自分が心細くなってしまったのか。おそらくそのどちらでもあるマーマネは不安そうだ。そんなマーマネの肩を叩き、優しく笑いかけるアママイコ。マオに似たお姉さんタイプとトゲデマルに似たマーマネ……これはこれでうまくいきそうな予感がする。
さて、今回のポケモン交換において、ある意味一番の注目ポイントはというと、
「ではサトシ、しばらくシロンをお願いしますね」
「オッケー。リーリエも、ピカチュウともっと仲良くなれるといいな」
「はい。わたくし、頑張って見ます!」
気合いいっぱいのリーリエ。しかし車に乗る際に、すぐ隣にはまだ座れないようだ。ほんの少しだけでも、シロン以外のポケモンに近づけるようになれるといいのだけど。首を振って気合いを入れ直すリーリエは、ピカチュウに少しだけ近めに座った。
一方シロンはというと、大好きなリーリエと離れることにかなり戸惑っているようだ。サトシの方をちらりと見ると、すぐに顔を伏せてしまう。一緒に住んでいるとはいえ、やはり他のトレーナーに対しては不安があるのだろう。
「シロン、サトシの言うことをちゃんと聞くんですよ。ではサトシ、また」
「ああ。ピカチュウ、しっかりな」
「ピカチュウ!」
車が動き出し、リーリエが見えなくなる。不安げに一度鳴くシロン。そのまま車が見えなくなるまで、ずっとその方向を見ていた。
その様子を見ていたサトシ。やっぱり、シロンはリーリエが大好きなんだと実感する。そう言えば、ポケモンはタマゴから孵った時、最初に見た相手を親と認識することを思い出す。
今のシロンは、親であるリーリエから引き離されている状態に近いだろう。卵の時からずっと一緒にいて、たくさんの愛情をもらって。まだ生まれて少ししか経っていないことを考えると、きっとすごく不安なのだろう。
「シロン。取り敢えず、一度帰ろうか」
「……コォン」
歩き出したサトシの後ろをついて来るシロン。取り敢えず来てくれてはいるが、その足取りは重そうだ。シロンとはぐれてしまわないよう、サトシはいつもよりも大分ゆっくりと、家までの道を歩いて帰った。
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車があの大きな屋敷に着くと、一人の男性が出迎えていた。皆さんご存知、執事のジェイムズだ。リーリエが客を連れて行くと言っていたため、出迎えの用意をしていたのだが……
「おかえりなさいませ、リーリエお嬢様」
「2日間、お世話になるわ、ジェイムズ。それから、一緒に過ごすお客様は、」
「ピーカ!」
「おや?」
この声は間違いなく、あの少年のパートナー。サトシが来たのだろうかと思い、車の中を覗くと、そこにはちょこんと座っているピカチュウしかいない。はて、と首をかしげるジェイムズを見てクスクス笑った後、リーリエは今回の授業について説明した。
「なるほど。では、シロンはサトシ様のところに?」
「ええ。シロンも、わたくし以外の人に慣れる、いい機会です。サトシなら、きっとうまくいきます」
リーリエの部屋に案内されたピカチュウ。今はおやつにと出されたマカロンを一心不乱に食べている。デントの作るものも流石の一言だったが、ここのマカロンもなかなかである。
そんなピカチュウを微笑ましく眺めるリーリエにジェイムズ。お茶を持って来たメイドも、本当に美味しそうに食べている様子に、思わず笑みが溢れる。
「サトシは、大丈夫です。でも、わたくしは……」
じっと見られていたことを疑問に思ったのか、食べるのを一旦止めるピカチュウ。それを見たリーリエは、そっと手を伸ばし、ピカチュウに触れようとした、が、何故か空気を読めなかったピカチュウ、続きとばかりにマカロンを口に放り込んだ。
突然動かれて驚くリーリエ。カチンコチンと、凍ったのかと思うくらいに体が硬くなる。しかしそれも一瞬、またまた気合いを入れ直す。
「わたくしは、シロンに触れました。なら、他のポケモンにだって、触れます。論理的結論として、ピカチュウにも触れるはずです!」
改めてピカチュウをよく知りたいと思ったリーリエ。家の庭にあるポケモン用の遊び場に連れて行き、ピカチュウに自由に遊んで欲しいと言って送り出した。
まずは観察。相手のことを知ることこそ、仲良くなるための第一歩と考えたのだ。ピカチュウの動きや仕草、他のポケモンとの触れ合いを見ながら、ピカチュウをもっと知ろう、そう決めたリーリエは、ノートとペンを手に、ピカチュウを眺めていた。
「やっぱり、ピカチュウは素早いですね。それに、バランス感覚もかなりのものです。性格は、好奇心旺盛で、それから人望もありそうですね」
あっという間に、他の野生ポケモンたちから慕われている様子から、ピカチュウも主人と同様、他人を惹きつける魅力があるのかもしれない。サトシと似ているところも多そうだ、そう思い、リーリエは楽しげに笑った。
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さて、他の人たちはどうしているだろうか。少し見てみるとしよう。
ここ、アイナ食堂では、期間限定マスコットポケモンとして、トゲデマルがお客様に人気だった。小さい体で、マオの後ろをトコトコついて回る姿が、可愛いと評判のようだ。
ただ……
「あ、こらトゲデマル!お店で騒いじゃダメ!」
時々こうして、テンションの上がったトゲデマルが、転がり始めてしまうとさぁ大変。自分でもコントロールが効かないようで、こうなると店の中がところどころ大慌てになってしまう。とはいえ、本人は悪気はないわけで、
「もぉ、トゲデマルったら」
結局マオが抱き抱えることで、一先ず落ち着いたのだった。直接お店の手伝いはできなくなってしまったが、トゲデマルを連れてお客様に挨拶すると喜ばれるので、それはそれで良かったのかもしれない。
さて、次に訪れるのはマーマネラボ。サトシたちも使った大きな滑車の中に、アママイコが立っていた。
「オッケー、アママイコ。ちょっと走ってみて」
「アマイ?」
「あれ、わかんないかな?うーん、トゲデマルならすぐに協力してくれるんだけどなぁ。あれ?」
考え込むマーマネをよそに、アママイコはマーマネ宅の庭で育てられている、色とりどりの花に夢中になっていた。いつでも元気一杯のトゲデマルと違って、女の子らしさが前面に出ているアママイコ。さて、どう交流していくべきなのか。
「でも、お花を見てる時は楽しそうだなぁ。何かいい方法はないかな?」
頭を悩ませるマーマネだった。
海のそばにあるスイレンの家。二組のキラキラとした目が、バクガメスを見上げていた。スイレンの双子の妹たち、ホウとスイが、楽しそうにバクガメスを見ていた。
「おっきいおっきい!」
「おっきいおっきい!」
「ガ、ガメス?」
「ホウ、スイ。バクガメスにイタズラしちゃダメだからね」
「「はいはーい!」」
妹たちに軽く注意をしてから、スイレンは食事の準備を始めた。アシマリと違って大きな体を持ったバクガメス。いつもより多めにポケモンフーズを用意しなければ。あと、体を洗う時も大変そうだ。いい方法を考えておかなければ。
スイレンがお世話のことを考えている中、その注意をちゃんと聞いていたのだろうか、ホウとスイがバクガメスの体を触り始めた。背中の棘のことを考えて、不安になるバクガメス。スイレンが止めに入るまで、割とハラハラとした時間を過ごすことになったのだった。
続いて覗いてみるのはカキの牧場。いつも通りポケモンたちの世話をするカキだったが、
「さてどうしたものか……俺はみずポケモンは苦手分野だからなぁ」
ほのおタイプを専門とするカキ。バトルのための対策ならともかく、いざ共に生活をするにあたっての知識は皆無であった。頭を悩ませるカキを不思議そうに見つめるアシマリ。とそこへ、
「アシマリ、ホシと遊ぼう!」
カキの妹、ホシがやってきた。丁度いいところに、そう思ったカキはホシにアシマリと取れたてのモーモーミルクを飲んでくるように提案する。その通りに、ホシとアシマリは家の方へと向かって行った。
「しかし、いつまでもこのままってわけにもいかないしな……早めに何かうまくやっていけるきっかけを見つけないとなぁ」
色々と考えるカキ。きっかけさえできれば……そのきっかけは、果たしてどんなものになるのやら。
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「シロン、こっちにおいで」
サトシが手を差し出す。しかし、シロンはそっぽを向いてしまう。授業参観の時はリーリエの頼みということもあってサトシに協力してくれたが、どうやらまだ完全には心を開いてくれたわけではないみたいだ。さっきも、いつものようにポケモンフーズをあげたのに、全く食べる気配がない。
「まぁ、そんなすぐにはいかないか……」
自分の姉ともいえる相手の様子に、サトシのロコンが顔を覗き込むようにして近づく。遊びに誘っているみたいだが、シロンは目線を合わせたあと、またそっぽを向いてしまう。
「やっぱり、リーリエがいないと不安だよな」
違うとはいえ、親がいない状況は、まるで捨てられたかのような、そんな気持ちにってもおかしくはない。実際に捨てられ、トレーナーを待ち続けていたあのポケモンのことを思い出す。弱りながらも、ただひたすらに主人を待っていた。シロンも同じように、サトシに心を開かなければ、弱ってしまうのではないか、そんな不安がサトシの頭をよぎる。
「シロン……」
そっぽを向いたまま、丸くなるシロン。その隣にロコンが同じように丸くなる。ちらりとロコンを見たあと、再び目を閉じるシロン。なんとかしてあげたい、そうサトシは強く思っていた。
その夜、シロンは眠りにつかず、扉の方を見つめていた。主人の帰りを待っているのだろう。寂しげに一鳴きするシロン。
突然隣に誰かが座った。いつもならもう寝ているはずのサトシだった。シロンが首を傾げサトシを見つめると、サトシは毛布を自分の肩に掛け、シロンを抱きかかえた。そのまま優しく包み込むようにする。
「コォン?」
「リーリエみたいには抱っこできないかもしれないけど、少しは落ち着くだろ?それに、ちゃんと寝ないと、明日も元気に過ごせないぞ」
優しく撫でてくれるその手の感触に、シロンは戸惑いながらも、確かな心地よさを感じていた。と、サトシの口から優しい音色が聞こえてくる。どこか優しくて、初めて聞くはずなのに懐かしいような、温かい気持ちにしてくれる。
歌に呼応するように、外から優しい風と波の音が聞こえてくる。優しく揺らされ、リズムに合わせて撫でられる。だんだんと意識が微睡んで行く中、シロンはサトシを見上げた。
わずかな月明かりが彼の顔を照らしている。自分を見つめるその瞳は、主人と同じような瞳だ。優しくて、安心できる。自分を愛してくれている、そう伝わってくる。その手つきも主人とは違うけれども、大切にしてくれているのが実感できる。腕の中は暖かく、
自分の弟、彼もこうしてもらっているのだろうか。彼だけじゃない、この人間のポケモンたちはみんなこんなに愛してもらっているのだろうか……少し、ほんの少しだけ、羨ましくもあり、今こうしてもらっていることが、どうしようもなく嬉しい……主人、母親とは違う。きっとこれが……
「……眠ったかな?」
腕の中でスヤスヤを眠るシロンを見て、サトシは安心した。こうして自分の腕の中で眠れるということは、それなりに安心できている、信頼してくれているという証だ。
「シロン……リーリエだけじゃなくて、俺もお前のことが大好きだぞ。俺も。マオも。スイレンも。マーマネも。カキも。他のポケモンたちだって。みんなみんな、お前のことが大好きだからな。どんな時も、お前は一人じゃない」
そのまま撫で続け、話しかけるサトシ。シロンの様子に自分も安心したのか、だんだんと眠くなってきた。いつの間にか、彼も眠りについていた。
翌朝、ククイ博士が見たのは、ドアにもたれて眠るサトシ、そしてその腕の中で、安心したように、笑顔で眠るシロンだった。
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翌日、みんなそれぞれ期間限定パートナーとの絆を深めていた。例えばマオはというと、
「よーし、そのまま転がっちゃえ!掃除が終わったら、朝ごはんだよ」
「マリュリュ!」
トゲデマルが転がるのを活用することに成功していた。雑巾を持ち、そのまま店の床を転がるトゲデマル。ほんの僅かな時間で、床はピカピカに磨かれていた。
「よしっ、それじゃあご飯食べよっか!」
「マリュ!」
マーマネはどうだろうか?
「ふんふん……じゃあこのきのみを使ってみてっと……アママイコ、もう一度お願い」
「アマイ!アーマイ!」
「なるほどなるほど」
アママイコの出す甘い匂いを研究するマーマネ。普段トゲデマルがいないと、夜が怖くて眠れないマーマネ。しかしアママイコの甘い香りの癒し効果のおかげか、昨日はいつもよりぐっすりと眠れたのだった。
「よーし、これでどう、アママイコ?」
「アマイ、アマーイ!」
「うんうん、いい感じみたいだね。じゃあこれをいかしてっと……」
スイレンの家では、
「どう、バクガメス。気持ちいい?」
「ガメース」
「ゴシゴシゴシゴシ♪」
「ゴシゴシゴシゴシ♪」
スイレン、ホウ、スイの三人にブラッシングしてもらって、とても気持ち良さそうだ。背中の棘に気をつける必要はあるが、妹たちもなかなか丁寧に磨いてくれている。
「ピカピカ!」
「キラキラ!」
「二人ともありがとう」
「ガメ」
そしてカキの家では、
「アシマリ、優しくバブルこうせんだ」
「アウッ!ア〜ウ」
牧場のポケモンたちの世話をするのに、アシマリが大活躍だった。喧嘩の仲裁、体の手入れ、ものを運ぶなどなど。バルーンやバブルこうせんを状況に応じてうまく適応してくれている。
バクガメスとは違う活躍の仕方に、みずポケモンも悪くないとカキは思い始めていた。
みんな普段とは違う生活を、それなりに楽しむことができているみたいだ。ククイ博士の思い描いていたように、パートナー以外との触れ合いは、彼らにとってもいい経験になっているようだ。
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そしてサトシはというと、
「シロン、おいで」
「コォン!」
サトシが手を広げると、嬉しそうにシロンはその腕の中へと飛び込んでいった。サトシが頭を撫でると、嬉しそうに笑顔を見せている。羨ましいのか、ロコンも飛び込む。サトシの両肩に乗る二体のロコン。両側から頬擦りされ、サトシも擽ったそうだ。
「一気に仲良くなったな」
『急にどうしたロト?』
「何にもないよ。なっ、シロン」
「コォン!」
朝ごはんをしっかりと食べ、サトシを先頭に、ポケモンたちは外へと飛び出して行った。散歩が大好きなシロンも、嬉しそうにかけて行く。
市場の方に来たサトシたち。既にこの辺りではサトシを知っている人ばかりのようで、いろんな人に声をかけられる。
「あら、サトシくん」
「おばさん、こんにちは」
ニャビーを気に入っていた、きのみ屋のおばあさんに声をかけられるサトシ。いつものように、彼女は彼のポケモンたちにきのみを分けてくれるのだった。
「あら?その子は?」
「シロンです。ちょっと今スクールでパートナー交換をしていて」
「あら、じゃあピカチュウが他の子のところに?」
「はい」
「そう?じゃあこの子が今はパートナーなのね。シロンちゃん、よろしくね」
「コォン」
「あなたもお食べ。アローラの恵みは、みんなで分け与えないとね」
差し出されたきのみを一つ口に取るシロン。そのままサトシの足元に行き、前足でサトシの足を叩く。
「ん?どうした、シロン?」
屈み込んだサトシの手に、シロンはきのみを乗せ、一鳴きした。そしてもう一つきのみを咥え、サトシの前で食べ始めた。
「こっちのは、俺に?」
「コォン!」
「あらあら、すっかり仲良しなのね」
「へへっ、ありがとうございます。シロンも、ありがとな」
「コォン!」
きのみを食べ終え、海岸にたどり着いたサトシたち。シロンを誘って特訓を開始するサトシたち。元々バトルの素質があったみたいで、シロンも特訓を楽しんでいるようだ。
「よぉし、シロン。強くなって、リーリエをびっくりさせてやろうぜ!」
「コォン!」
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さて最後の一人、リーリエはというと………
「ど、どうぞ」
「ピカチュウ!「ひゃあっ!?」ピィカ?」
「ご、ごめんなさい」
中々距離が縮まっていないようだ。触れる、触れる。そう思いながら触ろうと試みているのだが、後一歩のところで体が固まってしまう。サトシとピカチュウの様子を見ていると、すごく楽しそうにしているのがわかる。あんな関係に、リーリエは憧れていた。
「サトシはどうやってピカチュウと仲良くなったのでしょう……」
サトシとピカチュウが普段どうしているのかを思い返してみる。一緒に走ったり、食べたり、遊んだり。でもやっぱり一番二人が輝いて見えるのは、バトルをしている時だった。息がぴったり合ったバトルの時の二人。大試練の時や、カプ・コケコとの戦い、強い相手との戦いを、心から楽しんでいた。
「あっ!」
「本当によろしいのですか?」
「手加減は無しでお願いします、ジェイムズ」
庭のバトルフィールド。そこでジェイムズとオドリドリ、リーリエとピカチュウが対峙していた。サトシのように、バトルを通じて、ピカチュウと仲良くなれるのではないか、そう思ったリーリエは、ジェイムズにバトルを申し込んだのだった。
「ピカチュウ、お願いしますね」
「ピッカァ!」
「では、行きますぞ、オドリドリ!」
「ドォリィ!」
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ピッカァ!」
「かわすのです」
駆け出したピカチュウのでんこうせっかをかわすオドリドリ。反撃にめざめるダンスを繰り出し、ピカチュウに命中させる。続けてフラフラダンスでピカチュウを混乱状態にすると、おうふくビンタで着実にダメージを与える。
「ピカチュウ、大丈夫ですか?」
「ピ、ピィカ」
流石は屋敷でも断トツの実力者であるジェイムズ。あの時、ゲットしたばかりのモクローで互角以上のバトルを繰り広げたサトシが、いかに優れたトレーナーなのか実感する。自分がピカチュウの力を引き出せていないのだと、そう感じる。
「どうすれば……サトシのようにできるのでしょう」
「ピカピィカ!ピカチュウ!」
俯くリーリエをピカチュウが呼ぶ。はっと顔を上げると、強い眼差しが此方を見ている。その姿は、諦めている者のそれではなかった。むしろ、やる気に満ちている。でもそれだけじゃない。リーリエのことを信じている目だ。
そして思い出す。いつだってそうだったではないか。二人がバトルしている時、サトシはピカチュウを、ピカチュウはサトシを、全力で信じていた。ピカチュウだけではない。彼のポケモンたちはみんなそうだ。どんな状況でも、どんな無茶苦茶な指示でも、彼はポケモンを信じ、ポケモンたちは彼を信じた。それこそが、彼の力。彼らの絆。
「そうでした……わたくしがこんな調子ではいけませんね。だって、ピカチュウはわたくしを信じてくれているんですもの。わたくしがピカチュウを信じなくては……いつまで経っても、変われない!」
伏せていた顔を上げるリーリエ。その眼差しは強い決意で満ちていた。その表情を見たときに、ジェイムズはいつだったか見た、サトシのそれに似ていると、そんな気がした。
「ピカチュウ、わたくしを信じて!」
「ピッカァ!」
「でんこうせっか!」
走り出したピカチュウ。再び避けようとするオドリドリ。しかし、
「今です、右へ!」
「ピッカァ!」
突然の方向転換の指示。にも関わらず、ピカチュウはその声を信じ、曲がった。それは丁度オドリドリが避けた先、でんこうせっかが見事にオドリドリに決まった。
弾き飛ばされるオドリドリ。全くの不意打ちに、オドリドリは怯んでいる。
「今です、10まんボルト!」
「ピィ〜カ、チュ〜!」
ピカチュウの決め技、10まんボルトがオドリドリに炸裂した。倒れこむオドリドリ。その目は回っていた。ピカチュウとリーリエ、二人が勝ったのだった。
「勝っ、た……のですか?」
「ピカ、ピカチュウ!」
「〜〜〜〜っ、や、やりました!」
お互いに駆け寄るリーリエとピカチュウ。ピカチュウはいつもサトシにするように、リーリエに飛びついた。そのピカチュウを、リーリエは両手を広げ、しっかりと受け止めたのだった。
しばらく喜びを分かち合うように抱き合う二人。と、ここでリーリエは自分が今、ピカチュウを抱きしめていることに気づく。
腕の中の確かな暖かさが、これが夢ではないことを教えてくれる。ピカチュウの顔を覗き込むと、笑顔を返してくれる。少し高く抱き上げ、頬を擦り合わせる。
「ピカチュウ……あったかいです」
「ピィカチュウ!」
優しく撫でられる感触に、ピカチュウも満足そうだ。ジェイムズが涙を流しながら、見守る中、リーリエはさらなる喜びを噛みしめるように、目を閉じ、腕の中の感触を強く感じ取るのだった。
その晩、リーリエと一緒に寝たのは、ピッピ人形ではなかった。それは黄色い体で、安らかな寝息を立てていたとか。
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そして、パートナー交換終了の日。元のパートナー以外と触れ合った成果を報告し合っていた。
「トゲデマル、掃除の時に大活躍だったよ。それに、お客さんにも人気だったし。ね〜」
「マリュ!」
「ふふん。これが僕とアママイコの研究の成果!アママイコの甘い香りを再現した、特製マラサダドーナッツ!後でレシピあげるね」
「わぁ、ありがとう!」
「おおっ、ピカピカだな、バクガメス」
「妹たちが手伝ってくれたの。一緒に遊んでくれたから、すっごく喜んでた」
「こっちは色々と助かったぜ。アシマリ、偶には牧場に手伝いに来て欲しいくらいだ」
「そう?じゃあ、偶にならいいよ」
「どうやらみんな、いい成果が出せてるみたいだな。サトシたちはどうだ?」
嬉しそうに頷いていたククイ博士がサトシに話を振る。とはいえ、
「俺とシロンも結構仲良くなったぜ!バトルの特訓も一緒にしたし。な、シロン?」
「コォン!」
サトシの腕の中で嬉しそうに鳴くシロン。今までリーリエ以外が抱っこすることが出来なかったことを考えると、かなりの進歩である。腕の中で後ろ足でたち、サトシに顔を寄せるシロン。その頬を親愛の情を込めて舐めた。
「のわっ、擽ったいって、シロン」
「すっごく仲良くなってる……」
「流石はサトシ」
「うんうん。それじゃあ最後はリーリエだな」
「少しはピカチュウと仲良くなれたの?」
みんなの視線がリーリエに集まる。にこりと微笑むリーリエは、ピカチュウに視線を向ける。
「ピカチュウ」
「ピッカァ!」
リーリエが呼ぶと、嬉しそうにピカチュウは飛び上がり、差し出された腕を伝い、その肩への登った。そしていつもサトシにしているように、頬を擦り合わせたのだった。
「「「「えぇぇぇぇっ!?」」」」「おおっ」
声をあげて驚くクラスメートたち。嬉しそうなククイ博士。そして優しく微笑んでいるサトシ。シロンに続いて、また新しく、リーリエがポケモンに触れるようになったのだった。
「すごいじゃんリーリエ!」
「大進歩だよ!」
「はい!これからもっと頑張って、他のポケモンにも触れるように、頑張ります!」
たった一体、されど一体。シロンに加えて、ピカチュウにも触れるようになったことは、リーリエの中で、大きな自信に繋がっていた。
「やったな、リーリエ。ピカチュウも良かったな」
「ピカチュウ!」
「はい!サトシのおかげです」
「俺の?」
「サトシとピカチュウの絆、それを思い出せたから、ピカチュウに触れるようになったんです。だから、ありがとうございます!」
「俺は何もしてないよ。リーリエが頑張った結果さ。凄いぜ!」
謙遜しているわけではなく、本心から褒めるから、サトシの言葉はよく届く。その嬉しさを、リーリエはピカチュウと分かち合うように、顔を見合わせ、笑い合った。
「リーリエ、折角だから、バトルしないか?」
「バトル、ですか?」
「そう。そっちはピカチュウと、俺はシロンと。特訓の成果、見てもらいたいしな。な、シロン」
「コォン!」
やる気満々なシロンの様子に、リーリエもやる気になった。その日、スクールの生徒たちは、楽しげにバトルするピカチュウとシロン、そして普段とは違うトレーナーの姿を見かけたとか。
その勝負の決着は、果たしてどうなったのか。それは彼らのみ知る。お互いのポケモンのことを知ることが出来た、この交換会。博士の期待以上の成功で終わったのだった……
余談だが、シロンのサトシに対する懐き具合のおかげで、サトシ=シロンのパパという方式がスクール内に出回ったとか……
ちなみにサトシの歌っていた曲は、作者のイメージとしては「風と一緒に」です
あの曲大好きなんですよ
次回はライチさん登場です
お楽しみに〜