というわけで、授業参観、始めるよー
さてさて、ニャビーを加え、フルメンバーになったサトシ。しかし今は特訓はお休み中。様々な本やノートを前に、何やら考え込んでいるご様子。
「どうだ、サトシ?進んでるか?」
「丁度いい時間なので、おやつにしませんか?」
「博士、リーリエ。うん」
鉛筆を置き、リビングに移動するサトシ。お菓子を食べながらため息をつく。
「はぁ〜、これは大変だなぁ」
「だいぶん苦戦しているみたいですね」
「まぁ、こういうのは昔から苦手だったからなぁ。それこそ、リーリエとかマーマネの方が詳しいと思うんだけど……」
『アローラ地方のポケモンの姿については、かなり多くの研究がされているロト。その情報も持っておいた方がいいロト』
「あぁ〜また読むものが増えるのかぁ」
実はサトシ、次のオープンスクール、早い話が授業参観でクラスを代表して発表を行うことになっている。が、もともと知識よりも経験で学ぶタイプな彼は、データを集め、分析し、まとめるという作業に苦戦しているようだ。
「大役だが、こういうこともポケモンについて学ぶのには重要だからな。なんとかやってみるといいさ」
「はい。何事もチャレンジですよ、サトシ!」
「まぁ、そうなんだよなぁ。それに、あいつのしてること、少しは理解できるかもしれないしな……」
「あいつ……ですか?」
「俺の幼馴染。同じ日に旅に出た、最初のライバルなんだけど、今は研究者の道を進んでるんだ。実際、助手っぽいこともしてたし」
「へぇ、つまり俺の後輩分ってことか」
『サトシと同い年だとしたら、かなり優秀な頭脳の持ち主ということになるロト』
「あぁ。あいつはすごい奴なんだ」
バトルの実力とポケモンの知識。その両方を兼ね備えた、幼馴染。親友で、理解者で、幼馴染で、最高のライバル。お互いに今は違う道を進んでいるけど、彼が普段どんなことをしているのか、詳しく考えたことはなかった。きっと今自分がしていることよりも、何倍も難しいことを調べているのだろう。そう考えると、もっと頑張らなければ、そう思える。
「よしっ、続き続き、っと。あっ、そういえば、オープンスクールってどんな人が来るんですか?」
「生徒の保護者とか、町の人とか。誰でも自由参加だ。アローラとカントーの違いからポケモンを見る。サトシにしかできないテーマだから、多くの人が来るかもしれないな」
「そんなにかぁ〜。こりゃ本当に大変だ。でも、俺なりのやり方でやって見るか」
「そのいきだぜ、サトシ……っと、お客さんだな」
「俺、出ますよ」
家のチャイムが鳴らされ、来訪者を告げた。ドアを開け、相手の姿を確認したサトシ。次の瞬間、驚きの声が上がった。
「ハーイ、サトシ。元気にしてた?」
「バリ!」
「ま、ママ!?それにバリヤードまで」
カントーにいるはずのサトシのママ、ハナコが、バリヤードを連れて、そこに立っていたのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「初めまして、サトシの母です。いつもサトシがお世話になっています」
「いや、こちらこそ。サトシがいてくれて、毎日が楽しいですよ」
「初めまして。わたくし、リーリエと言います。サトシには色々と教えてもらうこと、見習うべきところも多く、とても充実しています」
「あら、ありがとう。リーリエちゃんね?きっとサトシも、リーリエちゃんから学んでいることもあると思うわ。これからも仲良くしてあげてね」
「はい!」
突然の訪問者に驚きこそしたものの、ハナコ自身のフレンドリーなオーラのおかげか、ククイ博士はもちろん、リーリエも特に緊張する様子もなく打ち解けていた。
「それで、ママはどうしてこっちに?」
「それがね、オーキド校長から、サトシの晴れ舞台を見に来ませんかって誘われてね」
「へ?」
「ということは、今度のオープンスクールに?」
「そうよ」
いきなりの発言に驚くサトシ。これは一気にプレッシャーが重くなってしまった……
「そういえば、サトシ。こっちに来てから仲間は増えたの?ゲッコウガも一緒なんでしょ?」
「あぁ、紹介するよ。イワンコ、モクロー、ロコン、そしてニャビーだ。ロコンは一緒にカントーから来たタマゴから孵ったんだ。それから、ゲッコウガは浜辺で修行中」
「そうなの。みんな、よろしくね」
サトシと近いものを感じたのか、足元にすり寄ってくるイワンコとロコン。モクローは相変わらず寝ており、ニャビーはソファの上から視線だけを向ける。そのまま昼寝に戻ろうとするニャビーだったが、ハナコがその身体を抱き上げた。
「あら、ニャビちゃん、いい毛並みしてるのね。暖かくてふわふわしてて……いいわね」
「ニャ、ニャ〜」
『こんなだらしのない表情のニャビーは、初めてロト』
ハナコの腕の中にいるニャビーは、いつものクールな印象はどこへ行ってしまったのやら、とろ〜んとした表情で、されるがままになっている。
「凄いですね」
「あー、まぁ、ママはいつもあんな感じだから」
サトシがやたらとポケモンの扱いが上手い理由の一端を、垣間見た気がしたリーリエだった。
「あら?こっちの子もロコン?白い体なんて、珍しいわね」
「コォン?」
「シロンと言います。わたくしのパートナーなんです」
「アローラ地方のロコンはこおりタイプ。環境の違いに対応して、こうなったんだって。因みに、俺のロコンとほとんど一緒に生まれたから、姉弟みたいな感じかな?」
「そうなの?よろしくね、シロンちゃん」
「コォン!」
「あっ、そうだ!リーリエ、シロンのことなんだけど、」
「はい?……はい……なるほど。いいと思います!」
ニャビーに続いてシロンまでも。初対面でサトシに技を浴びせた二体をこうもあっさり骨抜きにするあたり、流石はサトシの母である。
その夜、ハナコの手料理に舌鼓を打つ博士とリーリエ。マサラタウンでも評判のハナコの腕に、リーリエが、そして後にマオとスイレンが刺激されることとなるのだが、それはまたいずれ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、オープンスクール当日。
サトシ、リーリエ、ハナコ、バリヤードに博士はポケモンスクールへとやって来た。ニャビーはまたしてもハナコの腕の中に抱えられている。
ポケモンスクールは鮮やかに飾られていた。生徒たちの手作りアーチをくぐると、中には様々なポケモンの模型が並んでいる。中でも注目を集めているのが、等身大のアローラナッシーだ。
「あら、立派」
「小さい子達と一緒に作ったんだ」
「一つ一つの顔が、違う表情をしているのがポイントです!もちろん、尻尾にもちゃんと顔があります」
「凄いわね〜」
既に大勢の人たちが見学に来ている。中にはいくつか知っている顔も。
「アローラ!サトシくん、ピカチュウ」
「ノアさん、アローラ!」
「パンケーキレース以来ね。聞いたわよ。今日発表するんだって?楽しみにしてるわね」
「はい!ノアさん、俺のママです。この人はノアさん。ポケモンパンケーキレースっていう大会に出場した時に特訓してくれた、去年の優勝者なんだ」
「初めまして、ノアです」
「初めまして、サトシの母です」
「あら、サトシくん?」
「あっ、アローラサンライズの店長さん。どうしてここに?」
「前に君がスクールの生徒だって言ってたのを思い出してね、せっかくだから見に来てみようかと思って」
「そうなんですか」
「サトシくん、お久しぶり。元気にしてた?」
「グース!」
「ジュンサーさん!デカグースも、アローラ。二人はどうしてここに?」
「巡回の途中よ。残念ながらすぐに行かないといけないんだけど、挨拶だけでもって思ってたから、会えてよかったわ」
「アローラ。あら、ニャビーちゃん!」
「アローラ!」
「まぁまぁ、そう。ニャビーちゃんのトレーナーになったのね?」
「はい!」
「この子、本当にいい子ですね〜」
「そうなんですよ。良かったわね、ニャビーちゃん」
「お嬢様、サトシ様。アローラ、でございます」
「ジェイムズ、来ていたのですか?」
「はい。屋敷のものを代表し、私がお嬢様の学校での様子を見に来ました」
「お久しぶりです、ジェイムズさん」
「お久しぶりでございます。いつもお嬢様がお世話になっております」
「いえ。俺もリーリエにはたくさん助けてもらってます。ジェイムズさん、紹介します。俺のママです」
「初めまして」
いろんな人から声をかけられるサトシ。まるでもう長いことここに住んでいるかのようにも見えるその光景に、ハナコは安心した。昔のようにポケモンばかりと仲良くなって、周りの人とうまく付き合えないなんてことはないかと、少し心配していたのだ。
「そろそろ教室に行きましょう」
「そうだな。行こう、ママ」
「ええ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教室に着くサトシとリーリエ。既に他のメンバーは集まっているようだ。教室の後方には見学に来た人たちが並んでいる。
「あれってサトシのママ、だよね?ひょっとしてカントーから?」
「アローラサンライズの店長さんもいる」
「あれってパンケーキレースのノアさんだよね?どうしてここに?」
「こんなにたくさんの人の前で発表することになるわけだが……サトシ、大丈夫なのか?」
「あはは。まぁ、緊張はするけど、なんとかなるさ。そういえば、みんなの家族は?」
「あたしのところは、お店があるから来てないよ」
「俺の所もだ。牧場を離れるわけにはいかないんだと」
「僕のパパもママは来てるよ」
「うちはお母さんと……妹たちが」
なぜか少しどんより顔のスイレン。スイレンが言い終わるか終わらないかの時に、サトシの両側面から衝撃が与えられる。
「サトシだ!」
「サトシだ!」
「「遊ぼ、遊ぼっ!」」
ご存知、スイレンの妹たち、ホウとスイだ。なんだかとてもテンションが高い。ポケモンスクールに来れたのが嬉しいのだろうか。
「ポケモンスクール、スクール、スクール!」
「ポケモンいっぱい、いっぱい、いっぱい!」
「「私たちもポケモンスクール入る!」」
「はいはい、もう少し大きくなってからね」
はしゃぎ回る二人を小脇に抱え、優しそうに宥める女性。間違いなくスイレンの母親だろう。
「なんだか、思ってたよりも人が多いな」
「サトシ、頑張ってください」
「ファイト!」
「あぁ。頑張ってみるよ」
授業開始のチャイムが鳴り、ククイ博士が教室に入ってくる。いよいよ発表の時間になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃあサトシ、頼んだぞ」
「はい!」
教卓に立つサトシ。手の中には二つのモンスターボール。ピカチュウやロトムも離れた場所からサトシを見ている。
「サトシです。えーと、今回俺、じゃなくて、僕が発表するのは、アローラ地方とカントー地方のポケモンの違いについてです」
少し表情が固いが、なんとか笑顔で話し出すことができたサトシ。深呼吸を一つして、続ける。
「まず、僕はカントー地方のマサラタウンから来ました。アローラ地方に来てまず気づいたのが、気候の違いでした。カントーでは暑い時はごく稀で、どちらかと言えば涼しい環境でした」
アローラとカントーの気候の違いから説明し始めるサトシ。知識ではなく、自分の経験を交える。それはカントーとアローラだけではなく、様々な地方を旅して来たサトシだからできること。
「環境が違うと生活が変わる。それは人間もポケモンも同じなんだと感じました。では、ここで実際に、違う環境の同じ種族のポケモンを紹介します。ロコン、シロン、出てこい!」
手に持った二つのボールから、二匹のロコンが現れる。赤い体を持つカントーのロコン。白い体を持つアローラのロコン。サトシの両肩に乗る二体。緊張がほぐれて来たのか、サトシの表情にも余裕が見え始め、一人称も戻り出した。
「みなさんがよく知るロコンは俺の左にいるこの白いロコン。でも、カントーから来た俺にとって、初めて見た時はとっても驚きました。色だけじゃなく、タイプまで全然違っていたからです」
サトシの説明に合わせるように同時に肩から飛び降り、弱めのこなゆきとひのこを出すロコンとシロン。白と赤、炎と氷、二つは絶妙な加減で混じり、グラデーションのようにも見える。パフォーマンスっぽいその演出に、保護者もマオたちも驚く。
「他に見たのだけでも、コラッタにラッタ、ペルシアンにナッシー、ライチュウにディグダ、ダグトリオ。こんなにも多くのポケモンたちが自分の知っているのと違う姿をしている。ポケモンって、やっぱり不思議だって、もっともっと知りたいって思いました」
ここで一度、彼は今の自分の手持ちが並んでいる壁際を見た。
「始めは旅行で来て、ポケモンたちのことをもっと知りたいと思って。そうして俺はポケモンスクールに通い始めました。そのあと、モクロー、ロコン、イワンコにニャビー。いろんな仲間ができました。クラスメートにも、いっぱい教えてもらっています」
語りながら、クラスメートや見学に来てくれた人たちを一人一人、見るサトシ。真っ直ぐな瞳に真っ直ぐな言葉、そして真っ直ぐな心。誰もがサトシの発表を真剣に聞いていた。
「俺、将来の夢として、ポケモンマスターになりたいって思っています。だから、これからももっとポケモンと触れて、不思議について知って、たくさん学びたいって思ってます」
途中からは発表というよりも感想っぽくなってしまったものの、サトシの発表は見学に来た人たちからも高評価で終わることができた。
息子が成長しているのだと、なんとなく感じたハナコ。寂しいような、嬉しいような。なんだかわからないけれど、自然とその口元には笑みが浮かんでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発表を終え、一息つくサトシ。今は保護者の方々も構内の展示を見て回っているため、サトシたちは教室で休んでいた。
「サトシ、お疲れ」
「なかなか良かったんじゃないか」
「うんうん。僕のパパとママもすごかったって言ってたよ」
「そっか、ありがとな」
「でも、いきなりサトシがシロンを出したからびっくりしちゃったよ。そういえばリーリエ抱っこしてなかったなぁ、って思ってたけど」
「昨日、サトシがシロンに力を貸して欲しいと頼んだのです。いい発表にしたいから、と」
「ありがとな〜、シロン」
「コォン」
頭を撫でられて嬉しそうなシロン。それを見て、サトシのロコンも、自分も自分もとサトシにじゃれつく。労いの言葉とともに、サトシがロコンを撫でていると、何やらケンタロスのレース場から騒がしい音が聞こえて来た。
「なんだろう?」
「何か事故でもあったのか?」
「行ってみようぜ!」
走り出したサトシたち。フィールドに着くと、そこにはお馴染みのスカル団トリオ、その正面にいたのは、
「ニャビーにママ!?」
「あら、サトシ」
「えっ、な、何してんの?」
「この人たちがなんだか他の人に迷惑をかけてたから、ちょっとお説教を、ね」
「またあんたたちなの?」
「懲りない奴らだな」
「よりによってオープンスクールの日に来るなんて、ほんとにもう」
「ちっ、また厄介な奴が来やがった」
「兄貴、どうするっスカ?」
「へっ、今日こそぶっ倒してやるだけだ!」
「サトシのお母様、危ないので下がっててください」
「いいえ。ここは引き下がれないわ」
『サトシのママは、バトルできるロト?』
「あはは。それじゃあ、ニャビー。ママを頼むぞ」
「ニャブ」
「ピカチュウ、ロコン、君に決めた!」
「ピッカァ」
「コォン」
スカル団のヤトウモリ、ズバット、ダストダスと対峙するピカチュウ、ロコンにニャビー。サトシとハナコ、親子のタッグがスカル団に挑む。
「行くぜ、「「どくどく!」」」
地面を蹴り、飛び上がったスカル団の三体が強力な毒液をピカチュウたち目掛けて打ち出す。
「かわせ!」「かわして!」
二人の指示に合わせて難なく避けるピカチュウたち。あっさりと避けられ、驚く三体は、絶好のターゲットとなる。
「ピカチュウ、エレキボール!ロコン、はじけるほのお!」
尾に電気エネルギーを集め、塊として打ち出すピカチュウ。直後にロコンがはじけるほのおを打ち出す。エレキボールにはじけるほのおが直撃し、電撃と炎が合わさった小さめの塊がいくつも降りかかる。大きなダメージはないものの、目くらましと足止めにもなる。
「ニャビちゃん、ひっかく!」
怯んでいる三体に接近し、鋭い爪で攻撃するニャビー。三体が一箇所に集まるように後退させられる。
「よし!行くぞ、ピカチュウ!」
「ピィカ!」
腕を交差するサトシとピカチュウ。Zリングから溢れた光がピカチュウを包み、巨大な電撃の槍を形成する。
「スパーキングギガボルト!」
打ち出された槍はスカル団のポケモンに直撃し、電撃の柱が空へと登る。バトルを見ていた者も、室内にいた者も、その柱に一瞬目を奪われた。
激しい爆風が止み、土煙が晴れると、目を回しているヤトウモリたちがそこにはいた。慌ててポケモンを回収するスカル団。何故かバイクがなかったようで、走り去って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「サトシ、今のは?」
「Z技っていうんだ。俺とピカチュウ、二人の全力の技さ」
「そう。それもこっちで学んだこと?」
「うん」
へへっ、とZリングを見せ笑みを見せるサトシ。どうやらここでの生活は、色々とサトシに刺激を与えているようだ。
「ニャビちゃんもありがとう。あ、そうだ。この花壇、荒らされちゃったけど、一緒に直さない?」
「そうだな。やるか!」
せっせと花壇の修復を始めるハナコとサトシ。それを見て、クラスメートたちは顔を見合わせ、笑う。
「やっぱり、親子だな」
「すごく似てる」
「無鉄砲なところとか」
「ポケモンが大好きなところとか」
「それに、みんなを守ろうとする優しさもです」
「みんな、手伝ってくれる?」
「一緒にやろうぜ!」
「「「はーい!」」」「ええ」「ああ!」
その後、他の保護者の人の協力もあり、花壇は前と同じ、いや、それ以上に綺麗になった。そしてハナコは、サトシのことをよろしくと博士に頼み、帰って行った。
ニャビーを連れて行くことを割と本気で検討していたのは内緒だよ。
次回、マーマネの引越し!?
ちゅーかトゲデマル、マジピカチュウ大好きフリスキー
あそこまで泣くとは……