場所間違えた、やっちゃった
「結構集まったし、そろそろ帰るか」
「ピカ」
「三人とも、喜んでくれるといいけど」
夕暮れ時、だんだん暗くなって来た頃になって、サトシたちは帰り支度を始めた。折角なので何かお土産を持って帰ろうと思ったサトシ。博士やカキ、マーマネが喜びそうなものは残念ながら見つからなかったが、ハートのウロコや、貝殻など、周りにはたくさんの綺麗なものが見つかった。マオたちが楽しそうにしているのを見て、持って帰ってあげようと考えたサトシは、ピカチュウとともに、素材を集めていたのだ。
「ん?何だ、この音?」
「ピィカ?」
浜辺を歩いていると、どこからか甲高い音が聞こえて来た。同時に、小さいながらも何かかが動いているような音もする。
「鳴き声?何処から?」
「ピィカ。ピカ!?ピカチュウ!」
サトシの方から飛び降りたピカチュウ。その後を追いかけると、岩の崖に小さな穴があるのが見えた。その中を覗くと、先ほどサトシのおやつを狙っていたのと同じポケモンが一体、中で動き回っていた。見たところ出入り口は上からしかないようだ。
「ひょっとして、出られないのか?待ってろ、すぐ助けるから」
言うが早いか崖に掴み掛かり登り始めるサトシ。本来ならばモクローの力を借りるところだが、今日は留守番しているため不在だ。自力で登るしかない。とはいえ、出っ張りも少なく、足場に出来る場所も少ないため、サトシも苦戦している。
「のわっ!?っ、く!」
足を滑らせたサトシ。落ちるのを止めようと手に力を入れて踏ん張る。少し滑り落ちたところで静止するサトシ。その手は擦りむけ、血が滲んでいる。
「痛ってて。よし、まだまだ」
手の怪我を気にせず登り続けるサトシ。しかし運悪く、右手と右足を掛けた出っ張りが崩れてしまった。
「へ、へ、うわぁぁっ!?」
崖から完全に体が離れ、落ちてしまうサトシ。襲撃を覚悟し、背中を丸める。と、ぽすん、という感じの衝撃で、サトシの落下が止まった。驚きながらも目を開くサトシ。その前に広がったのは緑色。そして耳に入った鳴き声。
「ナッシー」
「ナッシー?どうしてここに?」
「ピカピ!」
「ピカチュウ。そうか、お前が呼んでくれたんだな。ありがとう。ナッシーも、サンキューな」
長い首を持ち上げるようにするナッシー。その協力のおかげで、あっという間にサトシたちは崖の上に登ることができた。
「もう少しだけ待っててくれ。今からそっちに降りるから、少し隠れててくれ」
亀裂の壁に手と足を添え、ゆっくりと降りていくサトシ。何とか下まで辿り着く。怯えたように震えるポケモン。大きな岩のある穴に向かって進もうとするも、通れずにいる。
「ここから入って来たのか?この岩がその後に落ちて来たってことか。潰されなくてよかったよ」
岩をどかそうとするサトシ。しかしその大きさだけあって重い。全く動きそうになかった。不安げに鳴くポケモンを見て、サトシは安心させるように笑顔を向ける。
「心配するな。絶対にここから出してやるから。ちょっと離れてろ。ピカチュウ、アイアンテール!」
跳び上がり尻尾で岩を叩くピカチュウ。鋼のように硬度を高められた尻尾の一撃は、容易く巨大な岩を粉砕した。その先には穴が開き、夕焼け色に染まる海が見える。
「ナイスだ、ピカチュウ!さっ、出られるぞ」
サトシの足にひっつくようにして隠れていたポケモンは、サトシの声に正面を向き、すぐに外へと飛び出した。後ろに続くようにサトシたちも海へと出た。
「これでちゃんと帰れるぞ。次からは気をつけるんだぞ。ん、あれは……」
水面に現れたいくつかの影。どうやら仲間が迎えに来てくれたようだ。
「ほら、仲間も待っててくれてる。良かったな」
一目散に仲間の元へと駆け寄る(途中から泳いでいたが)ポケモン。チラリとサトシの方を振り返り、仲間たちと水中へと潜っていった。
「良かった、ちゃんと仲間たちと合流できて。ん?」
首をかしげるサトシ。先ほど潜って行ったはずのポケモンが浜辺まで戻って来たのだ。急いでサトシの足元まで来るポケモン。屈みこんで、サトシはできるだけ目線を合わせた。
「どうした?」
ポケモンが口に何かを咥えていた。サトシの掌の上に乗せられるそれは、夕日を受けて、淡いピンク色の輝きを放っていた。
「大きな真珠だ!これを、俺に?」
「キュイ、キュー」
「ありがとな。元気でいろよ」
「キュー」
別れの挨拶を済ませ、サトシとポケモンは別れた。海へと戻っていくその姿を眺めながら、穏やかな気持ちになるサトシ。そのまま水平線に陽が沈むのを、ずっと眺めていた。
と、空を何かが飛んでいるのが見えた。
輝く軌跡を残しながら、華麗に舞うポケモン。ピンク色の身体をしているが、どこかカプ・コケコに似ていると感じた。
「ポケモン?うわっ!?」
飛ぶ姿を眺めていると、ポケモンはサトシの目の前まで降りて来た。首をかしげ、サトシを見つめる。その後、サトシの周囲を回りながら、サトシのことを観察しているようだった。
「な、なんだ?」
「テテ?」
ポケモンの目がサトシの手に止まる。ポケモンを助けるためにボロボロになった手。数度瞬きをすると、そのポケモンはサトシの両手を取った。
「へ?あっ、傷が……」
「ピィカァ?」
真意がわからず不思議そうな顔をしたサトシだったが、その顔が驚きに変わる。みるみるうちに、サトシの両手の傷が癒えていく。そして完全に治ったところで、ポケモンは手を離し、そのまま何処かへ飛んで行ってしまった。
「あっ、サンキューな!」
驚きから立ち直り、大きな声でお礼を叫ぶサトシ。ポケモンはサトシをもう一度一瞥すると、そのまま止まらずに飛んで行った。
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「そいつはきっと、カプ・テテフだな」
「カプ・テテフ?」
その後、無事に家に帰ったサトシたち。博士の家で夕飯を待っている間に、サトシは宝島でのことを話した。最後のポケモンについて話し終わったところで、ククイ博士がそのポケモンの名前を言った。
「カプってことは、カプ・コケコの仲間?」
『そうロト。アーカラ島の守り神ポケモンで、なかなか見られるポケモンじゃないロト』
「私も本で読んだことがあります。確か、鱗粉を振りまき、傷を癒す力を持っているとか」
「それと、助けてやったのはコソクムシだな。自然の掃除屋とも言われ、臆病な性格だな」
「そうなのか。あいつも元気でやってるかな?それに、また会いたいよな、カプ・テテフ。な、ピカチュウ?」
「ピッカァ!」
新しい出会いに胸を膨らませるサトシ。そして新しい守り神ポケモンのカプ・テテフ。また出会えるだろうか。まだまだたくさんの不思議やポケモンが待ってるアローラ地方。サトシたちの冒険はまだまだ続く。
次回ニャビー回、お楽しみに
グラジオでるのが楽しみだわぁ