その朝、リーリエがいつものようになかなか起きてこないサトシを起こしに向かうと、驚くべきことに既に起きているサトシがいた。
『サトシが起きてるロトォ!?何かあったロト?』
「おはようございます、サトシ。今日は早起きですね」
「うん。なんだか、Z技のこと考えてたら起きちゃって」
そう言ってサトシは左腕のZリングを撫でた。 Zクリスタルは、カプ・コケコとの戦いで失われてしまったが、いずれまた手に入れ、カプ・コケコと再び戦いたい。それがサトシの望みだった。
「Zリングは、基本的には島キングや島クイーンの大試練、ポケモンバトルに勝利して認められたものが与えられるんだ。そしてその大試練を受けるためには、用意されている試練をこなさなければならない」
『データによると、試練も大試練もいずれも難度が高く、相応の実力者でなければ攻略は難しいロト』
「島キングや島クイーンはその島を守護する役割も持ってるからな。そう簡単にはいかないぞ」
ククイ博士とロトムの説明を受けながらも、サトシは燃えていた。難度が高いと聞けばやる気を出すのがこの少年だ。今までの旅で難度が低かったものなんて一つもなかった。どの地方でも強いトレーナーがいて、激しいバトルがあった。今度はどんな人たちとバトルできるのだろうか。内心ワクワクが止まらない様子のサトシにククイ博士もにっこりと笑った。
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一人で卵を運ぶと言い、リーリエは先にスクールに向かったため、サトシはククイ博士と一緒にスクールへ向かった。その道中、人だかりができている道を見かけた。そこにはジュンサーさんの姿もあった。
「何があったんですか?」
「あら、ククイ博士。それから君は?」
「俺の生徒なんですよ」
「サトシです。こっちは相棒のピカチュウとロトムです」
「ピィカチュウ」
『よロトしく』
「ジュンサーよ、よろしく。私もスクールの卒業生なの。どうやらラッタやコラッタが大量発生して作物を食い荒らしたらしいの。その後、道路に飛び出した結果、運ばれていた木材が散乱してしまったのよ」
ジュンサーの目線の先には多くの丸太が山のように積み重なった状態で道を塞いでしまっていた。人々がどうしようと話し合っていると、丸太が動き始めた。正確には、いつの間にか来ていたハリテヤマと一人の男が丸太を担ぎ、荷台に戻し始めたのだ。どっしりとした体に白みがかった髪。しかし歳を感じさせないパワーと威厳がその人にはあった。
「すっげぇ・・・あんなに軽々と」
「あの人が島キングのハラさんだよ」
「あの人が?」
サトシとククイ博士はハラさんを手伝うべく、丸太を担ぎ始めた。流石に重いと感じたサトシはゲッコウガを出し、ペアで取り掛かった。その時、彼の左腕のZリングにハラさんが目を止めたのには気づけなかったが。
その後、応援に駆けつけたカイリキーたちの助力もあり、丸太は全て荷台に戻された。ハラさんに近いうちに訪ねに来るように言われたサトシは、1日中ワクワクしながらスクールでの1日を終えた。幸い翌日はスクールがお休みだったため、その日に行くこととなった。
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サトシとククイ博士はハラさんの家に訪れた。リーリエは卵の世話をすると言って留守番だ。大きなその家に着いたサトシは、空いていた部屋で見覚えのあるものを見つけた。自分の左腕に今も巻かれているZリング、それがいくつも置いてあったのだ。
「君が身につけているZリングは私が作ったものでしてなぁ」
「ハラさんが?俺、これをカプ・コケコにもらったんです」
「やはりそうでしたか。ある日、気づいたらリングが一つ無くなっていましてなぁ。カプ・コケコの仕業だとピンと来ました」
「それって、よくあることなんですか?」
「Zリングを持って行ったのは、今回が初めてですなぁ」
自分のZリングを見つめるサトシ。一体何故カプ・コケコはこれを自分に渡したのだろうか。まったく想像もつかなかった。
「カプ・コケコは君のことが相当気になるようですなぁ」
「えっ?」
「いやいや、こちらの話です」
意味深げなハラさんの呟きが気になったが、サトシは特に追求することはしなかった。改めてハラさんと向かい合うサトシ。
「ハラさん、俺、Zクリスタルをゲットしたいんです。もう一度、カプ・コケコとバトルしたいんです」
「もう一度・・・なるほど。ではサトシくん、一つ質問いいですかな?」
「?はい?」
「今島の人たちがラッタやコラッタに困っていることはご存知ですな?君ならどう解決しますか?」
「俺なら?それはやっぱりバトルして、」
「サトシくん。大昔からこの島に伝わる島巡り。それは何も強いだけのトレーナーを育てるためにあるわけではないのです。アローラの島、ポケモンに人間。全てを愛し、守れる人を育てることが目的だったと伝えられています」
「愛し、守れる・・・」
「バトル以外の方法も、考えてみてください。Zクリスタルの話は、その後で」
「・・・わかりました。俺なりに考えた答えを見つけて来ます」
その日のサトシたちは、そのまま帰ることとなった。
ゲームの試練って大変なのもあったなぁ