作者はこのためにしばらくウンウン唸ることとなりました
その日のポケモンスクールの朝は慌ただしかった。ピカチュウが大好きで仕方がないようで、トゲデマルが大はしゃぎしていた。それによってアシマリやアマカジ、サトシたちもあちこち走り回ることとなった。はしゃぎだして転がるトゲデマル。壁や机、棚などにぶつかるも、なかなか止まる様子がない。そのトゲデマルが向かう先には、リーリエが立っていた。突然のことに驚き固まるリーリエ。彼女の手が引かれ、何とか無事に躱すことに成功する。ポスン、と何かに頬が当たるのを感じたリーリエは、思わず閉じていた眼を開いた。
「大丈夫か、リーリエ?」
至近距離からのぞき込むサトシ。やや前のめりになっていたため、リーリエはサトシの胸に顔を埋めるようになっていた。顔に熱が上がるのを感じて慌てて離れるリーリエ。
「す、すみません」
「いや、いいよ。突然だったもんな〜」
「ごめんね、リーリエ。トゲデマルには後でちゃんと注意しておくから」
「だ、大丈夫です!論理的結論として、わたくしがその気になれば触れるはずですから」
「でも、スクールに来てからはまだ一度も触れてないよね?」
「・・・ハイ、その通りです」
「大丈夫、きっとすぐに触れるようになるって。焦らなくても大丈夫だよ」
サトシの励ましにうなだれながらもうなずくリーリエ。彼女の視線の先、ピカチュウもろとも本棚にぶつかり、なんとか止まったトゲデマルは、再びピカチュウにじゃれついていた。それをやや呆れ気味に見つめるアシマリとアマカジ。クラスメートたちの相棒。自分もいつかはパートナーができて、みんなのポケモンと一緒に遊ばせてあげたい、遊びたい。そんな気持ちをリーリエは抱いていたのだ。
「アローラ、みんな」
丁度いいタイミングでククイ博士がやってきた。
「これからみんなで校長室へ行くぞ。オーキド校長からの特別授業だとさ」
「特別授業?」
なにやら面白いことが始まりそうな予感がした。
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サトシたちが訪れた校長室の机の上に並べられていたのは、二つの卵だった。一つはサトシがカントーから連れてきたもの、もう一つはつい最近アローラ地方で見つかったものとのこと。ここでオーキド校長から提案があった。
「この二つの卵、どちらかをわしが、もう一方を君達で育ててみるのはいかがかな?」
ポケモンの卵のお世話。スクールでは今までやったことのない内容だったため、マオたちは大盛り上がりですぐに賛成した。ポケモンと触れ合うことは何度もあったが、卵から育てられるなんて、そうそう経験できることではない。何気にこの中で一番経験豊かなサトシは、リーリエにどちらの卵を選ぶか尋ねた。
「私が選んでいいのですか?」
「なんとなくだけど、リーリエが選ぶべきだと思ったんだ。これもポケモンに慣れるための第一歩だと思ってさ。ポケモントレーナーが初めて旅をするときだって、パートナーを選ぶんだ。それと同じ感じ」
「いいね、それ!ほらほらリーリエ、選んじゃいなよ」
マオからも急かされ、おずおずとリーリエは白色の卵を指差した。もう片方の茶色の卵が一色なのに対し、白色の卵にはいくつかの水色と淡い緑色の模様がついていた。
「わたくし的にはこちらがいいです」
「なんで?」
「ここの模様が、お花のようなので」
「わっ、ほんとだ!」
「うんうん、可愛い」
「えー、そんな理由で?」
「まぁいいじゃんか、どんな理由でもさ」
「そりゃそうだけど」
「それよりも、どんなポケモンが生まれてくるのかな?」
「さぁな。強いやつなら面白いんだが」
「あたし的にはかわいいポケモンがいいかな」
「うんうん、お世話し甲斐があると思う」
「では、わしの特別授業はおしまいじゃ。みんなで協力して、しっかりと卵の世話をするんじゃゾロアーク」
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校長室から戻ったサトシたちは、卵を囲んで様子を見ていた。そっとサトシが手を伸ばし、卵に触れる。
「暖かい。この子が生きてるって感じがする」
「どれどれ?あっ、ほんとだ」
「僕も触らせて」
「私も」
卵に触れながら盛り上がるクラスメートを見ながら、リーリエは少し戸惑っていた。ポケモンには触れないけど、もしかして卵なら。
「リーリエも触って見なよ!ポケモンは無理でも、卵なら動かないし」
「そ、そうですね・・・では、」
マオの言葉に後押しされ、そっと卵に手を伸ばすリーリエ。その手が卵に触れようとした時、ピクピク、と卵が動いた。それに驚き、リーリエは悲鳴を上げて後ろにとびさがってしまった。
「ごめんね、リーリエ」
「いえ、大丈夫です」
「まぁ、こうして動くってことは元気な証拠だから。案外すぐに生まれるかもな」
「サトシ、お前意外と詳しいな」
「俺の仲間の中には卵から孵った奴もいるからな。卵の世話をした経験はあるんだ」
「そうなの?」
ポケモンの卵なんて、そんなに何度も見られるものではない。それこそブリーダーやドクター、博士だとそういうことを経験することは多いだろう。けれども旅をしながら、それもその中で育てるなんて。改めてサトシのようにポケモンとともに旅をすることで得られるものの多さを実感する。
大丈夫。少しずつ、少しずつ。一歩ずつ変わっていけばいい。少し深呼吸をして落ち着く。ちらりと卵を見ると、また少し揺れた。外に出ることを楽しみにしているのだろうか。一体どんなポケモンが生まれてくるのだろうか。
話題は卵の世話に移った。学校で育てるのはいいが、夜や休みの時はどうすればいいのかという疑問が出たのだ。卵をそのまま放置するわけにはいかないため、当然、誰かが家に持って帰り、そこで世話をすることになる。では誰が?
「サトシがいいんじゃないの?こういうことに慣れてるわけだし」
「確かにそうだな。博士もいるし、どんな時にでも対応できる」
「えっ、うん・・・なぁ、リーリエ。卵の世話、してみないか?」
「えっ、わたくしが、ですか?」
「でも、リーリエはポケモンに触れないし」
「そうだけど、卵から慣れていくことができれば、リーリエもポケモンに触れるようになると思ってさ。もちろん、俺も手伝うし。ダメかな?」
クラスメートの顔を見渡すサトシ。真剣そうな表情からも、彼が冗談やからかいで言っていないことはわかる。そもそも彼がそんなことを言うような人じゃないこともわかっている。それだけ彼が、リーリエに協力しようと思っているのだ。ならば、否定する理由もない。
「ううん、全然。むしろあたしもそれがいいと思うな」
「リーリエはどう?やってみる?」
しばしのためらいを見せるリーリエ。しかし俯かせていた顔を上げた彼女は、覚悟を決めた表情をしていた。両手をぐっと握りしめ、クラスメートたちの顔を見据え、
「はい!わたくし、必ず卵の世話を立派に成し遂げてみせます!」
と言い切った。
放課後、サトシが卵を持ち、リーリエと一緒に帰ろうとしていた。頑張ると宣言したものの、いざ運ぼうと思い立ったら卵がまた動き、リーリエが驚いてしまったのだ。これから慣れていけばいい、一緒に頑張ろうぜとのサトシの言葉を受け、再び落ち込みかけていたリーリエも立ち直った。と、彼らが歩いていると、一台の大きな車が近くに来て止まった。中からきっちりとした服を着た初老の男性が降りてきた。やや色が薄くなっている髪やひげ、片目だけの眼鏡をかけ、いかにも執事としか言いようのない男性は、リーリエのもとへ走り寄り、その両手を取った。
「お嬢様!やっと、やっと見つけましたぞ」
「えっ、ジェイムズ!?」
「誰?」
ちょっとシリアス度が高くなるかもしれません
せっかくだからUBもちゃんとこの作品に活かしたいですしね