そろそろあっちの方も載せ始めるかな・・・
朝、勢いよく飛び出したサトシとリーリエ。今日も元気にポケモンスクールへ向かった。リーリエのおかげで、朝に寝坊する心配もなくなり、最近のサトシは生活のリズムがしっかりとできつつあった。ふと歩みを止めるサトシたち。その視線の先には、黒と赤の体色のポケモンがこちらをじーっと見つめていた。ゴロゴロと喉を鳴らしサトシの足にすり寄るポケモン。
「この子はニャビーですね」
「ニャビー?そういえば何度か見かけたことがあるな」
『ニャビー、ひねこポケモン。ほのおタイプ。感情を出さずに、一人でいることを好む。信頼を得るまでには、時間がかかる』
「それにしては随分と人懐っこいみたいですが・・・」
「もしかして、腹減ってるのか?」
カバンから自分の弁当箱を取り出すサトシ。本日はククイ博士お手製、サトシの大好きなコロッケを挟んだ大きなコロッケサンド。少しちぎってニャビーに差し出すサトシ。ところがニャビーはより大きなほう、コロッケサンドのほとんどを奪ってしまう。止めようとしたロトムやピカチュウにダメージを与え、ニャビーは茂みの中へ逃走した。
「あぁ、そのニャビーね!会ったの?」
スクールにたどり着いたサトシたち。先ほどの出来事の話をすると、マオが何かに思い至ったようだ。
「マオ、知ってるの?」
「ごはん頂戴~ってすり寄ってくるんでしょ?あれされるとかわいいんだよね~」
「あげちゃう、ついつい」
マオとスイレンは以前そのニャビーにあったことがあるらしく、どうやらすっかりかわいいと愛着がわいてしまっているようだ。
「でも、サトシは思っていたよりも怒ってないね。僕ならすっごい怒るけど」
「まぁ、あいつがそれだけ腹減ってたってことだと思うし。けど、お昼どうしよ~」
「まぁまぁ、わたくしのおかずを少し分けてあげますから」
「あたしも」
「じゃあ私も」
「みんなサンキュー!」
とりあえず空腹の心配はなくなったサトシ。話題は今朝のことからニャビーの普段についてへと移っていった。
「いつも一人だよね?」
「うんうん」
「ニャビーは構われることが苦手だからね~」
『トレーナーにも懐きにくいポケモンロト』
「いわゆる、一匹狼のポケモンって感じかな~。うちの食堂にもよくあらわれるんだけどね」
「市場でも見るぞ。きのみとかも勝手に持って行ってるみたいだしな」
「でも、かわいいんだな~。なんか憎めないんだよね~」
「で?サトシはそのニャビーをどうしたいんだ?」
「へ?」
カキの質問にサトシは素っ頓狂な声を上げた。
「『へ?』じゃなくて、そのニャビーに昼飯とられたんだろ?なんか思うことはないのか?」
「思うことって言われてもなぁ・・・とりあえず、ゲットしてみたいかな!」
「「「「「えぇ?」」」」」
「ほ、本当に怒ってないの?」
「いや、別に。腹が減ってたんならしょうがないだろ。トレーナーがいるならともかく、一人でいるなら食べ物を確保するのだって大変だろうし。それに、あいつ確かにかわいいし。前に見た火の粉も、結構パワーあったしな」
「ゲット・・・ですか」
「う~ん、うまくいくかな~」
「とりあえず、また会えたらいいなってくらいかな」
放課後、ククイ博士、リーリエ、サトシの三人は食材や生活用品を買いに市場へ来ていた。ととあるきのみやでサトシが立ち止まった。
「サトシ?どうかしたのかい?」
「サトシ?・・・あっ」
そのきのみやの店主のおばあさんの前には、お皿に乗っているきのみをおいしそうに食べているニャビーの姿があった。
「あら、いらっしゃい」
「すみません、そのニャビーっておばあさんのですか?」
「違うわよ。この子は時々、こうしてやってくるの。あたしのこと心配してくれてるのかなって、だから来るたびきのみをあげているんだよ。アローラじゃ、自然の恵みはみんなで分かち合わないとね。もしかして、坊やもあの子に食べ物を取られちゃったのかい?」
「あはは~。まぁ、そうなんです」
「どこに住んでるのかは知らないけど、悪い子じゃないんだよ」
「はい・・・俺も、そう思います」
市場を駆け抜けていくニャビーの後姿を、サトシは見送った。きのみを一つ咥えたまま走っていくニャビー。どこかへ持っていくのだろうか。誰かに、あげるのだろうか。サトシには想像することしかできなかった。
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翌日、ホームルームが終わったサトシは、マオと一緒に買い物をするというリーリエとは別に帰ろうとしていた。その途中でサトシの目に入ってきたのはニャビーが見たことないポケモンに追い詰められている様子だった。
「ニャビー!なんだあのポケモンは?」
『あれはペルシアンロト!』
「ペルシアン?俺の知ってるのと違う・・・ってことはペルシアンにもリージョンフォームがあったのか?」
『アローラのペルシアンはあくタイプだから、ずるがしこくて残忍ロト!』
「なんだって・・・まさかあいつ!おい、やめろ!」
急な崖になっていたというのに、サトシはためらわずに滑り降りて行った。制止の声を上げるサトシ。しかしそんなのお構いなしと、ペルシアンはその鋭い爪でニャビーの体をきりさいた。傷つくニャビー、その口からきのみが落ちる。ニャビーの前に立ちはだかるペルシアン。後ろは海が広がる崖。ニャビーは絶体絶命のピンチだった。
「でんこうせっか!」
「ピッカァ!」
ペルシアンの体が後退させられる。ペルシアンとニャビーの間に立つように、ピカチュウは身構えた。
「10万ボルト!」
「ピィ~カァ、チュゥー!」
ピカチュウの得意技、10万ボルトが炸裂する。その威力に戦意をそがれたのか、ペルシアンはあっさりと逃げて行った。急いでニャビーの様子を確認するサトシ。ダメージが大きいようで、きのみを咥えて歩こうとしているその姿は、フラフラだった。気遣うようにサトシがニャビーの体を持ち上げる。
がぶりっ。サトシの腕にニャビーの牙や爪が食い込む。それでもサトシはニャビーを放そうとはしなかった。
「大丈夫だって。きのみも盗らないし、お前にも危害を加えたりしない。ただ、そのけがをほっとくのは良くないからな。何が何でもポケモンセンターに連れて行くぞ~。ロトム、きのみもってくれ」
『了解ロト!』
治療を終えたニャビーは、エレザードカラーと呼ばれる体の傷をなめないようにする治療具を取り付けられていた。
「ニャビー、もう大丈夫みたいだな。よかった」
「次はサトシ君ね」
「え?」
「その腕、随分大変だったみたいね」
ジョーイさんが指をさしたサトシの腕は、噛み跡や引っかき傷だらけで、血が滲んでいた。見ていて痛々しいその腕を見たサトシは、
「わっほんとだ!」
と驚きの声を上げるだけ。痛みを訴えることも、ニャビーを責めることもしない。不思議に思いながらサトシの治療を始めようとするジョーイさんだったが、ニャビーがきのみを咥えて、どこかへ行こうとしていた。
「あっ、ニャビー!」
いち早くそれに気づいたサトシは腕の治療もまだのまま追いかけるように駆け出した。
「サトシくん!あの子に無茶させないで!」
看護師としての言葉を送りながらも、ジョーイさんはサトシにも無茶はして欲しくないと思った。何故そう思ったのかはわからないが、彼は危なっかしい気がした。これまでも、この先も。彼が危ない目にあってしまうのが避けられないことだと、なぜか思ってしまった。
その後、ニャビーを追いかけていたサトシは、ニャビーがエレザードカラーのせいで柵の隙間を抜けられずに困っているところを発見した。このままほって置くわけにもいかない、そう思ったサトシは・・・
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「それで連れてきたのですか?」
「まぁね、あっいててててっ」
ニャビーを抱えたサトシは、そのままククイ博士の家まで連れてきたのだった。休息をとらせるのにも、ここなら博士もいるから安心だと考えたのだ。現在、ニャビーは博士による軽いチェックを受け、サトシはリーリエに手当てをしてもらっていた。手当てが終わった頃、ククイ博士がニャビーを連れて地下から上がってきた。
「サトシ、ニャビーのチェック終わったぞ。とりあえず傷口は開いていないようだし、心配はないだろう」
「ありがとうございます、博士」
フスーっと諦めたのかやたら大人しくなったニャビーをサトシは抱えて膝の上に乗せる。邪魔そうにしていたエレザードカラーを外してあげ、小さくて暖かいその体を優しく撫でながら、サトシはニャビーに語りかけ始めた。
その夜、サトシがニャビーを膝に乗せたまま寝てしまっているのを見かけたリーリエはちゃんとベッドで寝るように声をかけようとした。すると、ニャビーが起きて、きのみを持ってどこかへ行こうとしていた。慌ててサトシを起こすリーリエ。二人とピカチュウたちはそっとニャビーの後をついて行った。
ニャビーが向かった先は廃墟だった。そこにはかなり歳をとっているのがわかるムーランドがいた。ニャビーはどうやら、彼のために食べ物を探していたようだ。その様子を見たサトシはムーランドに話しかけた。
「遅くなっちゃってごめんな、ムーランド。こいつ喧嘩して怪我しちゃったんだ。けどもう大丈夫だから」
ムーランドの長い毛を撫でながら、サトシは警戒を解くように語りかける。ムーランドも顔をサトシに向けたが、そこに警戒の色はなかった。それを確認してからサトシは今度、ニャビーの方を向いた。
「ニャビー、俺お前のことゲットしたいって思ってた。でも、こういう事情があるならここを離れるわけにもいかないもんな」
語りかけながらも、サトシは笑顔だった。けれどもその笑顔はどこか寂しげだった。きっとサトシはニャビーのことを本当に思っているのだろう。そしてその上で、いやだからこそ。彼は自分と一緒に来て欲しいとは言わないのだ。
「サトシ・・・」
「また来てもいいかな?食べ物持って来るからさ」
ニャビーを撫でようと手を伸ばすサトシ。しかしその手が触れる前に、ポケモンたちがピクリと反応した。彼ら以外に何者かがいるようだった。暗闇からゆっくりと現れたのは、昼間のペルシアンだった。相当しつこいというか執念深い性格のようで、わざわざつけて来ていたのだ。急いで建物の外に出るサトシたち。ちょうど頭上をはかいこうせんが通り過ぎて行った。
「まったく、しつこいやつだな」
「しつこい相手は嫌われてしまいますよ!」
そんなサトシたちの言葉などお構いなしに、ペルシアンは攻撃を仕掛けてくる。年老いて思うように動けないムーランドにペルシアンの鋭い爪が襲い掛かろうとしていた。
ピッ、と飛び散る赤い血。しかしそれはムーランドのものではなかった。両腕を交差し、頭を守った状態のサトシが、ペルシアンとムーランドの間に入り、攻撃を受けたのだった。絆創膏が張られていた腕にさらに傷がつく。しかしサトシは痛がる様子も見せず、
「大丈夫か、ムーランド?」
と、後ろにいるムーランドの心配をしていた。ニャビーはあっけにとられた。どうしてそこまでしてくれるのだろう、と。自分は確かにこの人間とは何度か遭遇している。しかしそのたびにひのこを浴びせたり、ひっかいたり、嚙みついたりといろいろしてきた。相当痛いはずだ。それなのに怒るどころか、彼は自分やムーランドのことを案じてくれている。こんな人間・・・初めてだった。追撃しようとするペルシアンの前に立つニャビー。体に力を入れ、大きく息を吸い込み、思いを込めてひのこを放った。そのひのこは今までに放ったものとは比べ物にならないほど大きかった。直撃したペルシアンは泣きながら逃げて行った・・・いやそれどこのト〇とジェ〇ー?
「すごかったぜ、今のひのこ」
賞賛の言葉とともに自分の頭をなでる大きな手。相手の笑顔を見ながら、ニャビーはされるがままだった。でも、不思議とこの人間に構われるのは、嫌いじゃなかった。血のにじんでいるその腕を、ニャビーはそっと舐めた。
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翌日、いろんなきのみを抱えて、サトシたちはニャビーたちが暮らしていた廃墟に向かったが、そこにはもう誰もいなかった。あたりを探してみても、彼らがいる気配はなかった。いなくなってしまったことに寂しさを感じたサトシ。その様子を心配そうに眺めるリーリエとピカチュウ。結局どこへ行ったのかわからないまま市場を歩き回っていると、
「ニャッブ」
フンスっと足元から声をかけられた。そこにはきのみを咥えたニャビーがサトシをじーっと見つめていた。フンスっともう一度鼻を鳴らし、ニャビーは柵を超えて茂みの中に入っていった。どうやら彼らは引っ越したらしい。ただ、このあたりから離れたわけではなさそうだ。ここにいればまた会えるかもしれない。そう思ったサトシは明るい笑顔でニャビーに手を振ったのだった。
「サトシはすごいですね」
「え?」
「懐きにくいと言われるニャビーがあんなふうに心を開くなんて。それも、トレーナーじゃないのに」
彼がモクローをどんな経緯でゲットしたかの話を聞いたとき、リーリエは最初信じられなかった。野生のポケモンが自分からトレーナーについていくことを決めるなんて、自分が得た知識の中にはなかったのだ。でも、あのモクローの懐き具合、そして今回のニャビーの件を間近で見て、きっと本当にそうなのだろうと実感した。サトシのまっすぐな気持ち、ポケモンを大切に思うその優しさに触れて、ポケモンたちは彼を選ぶのだろう。彼についていきたいと、行ってもっと多くを見てみたいと、そう思うのだろう。それはきっと、彼にしかない魅力。誰よりもポケモンにやさしくて、誰よりもポケモンのことを考えている彼だから。その姿勢はポケモンだけではなく、人をも惹きつける。そう、自分たちのことだって。
「仲良くなれて、よかったですね」
「そうだな。今はまだ無理でも、またムーランドのところに連れて行ってくれるといいな」
「サトシなら、きっとすぐですよ」
「そうかな?」
「そうですよ」
ニャビーが消えたほうを見る二人。この先またニャビーには会うことがあるかもしれない。その時にどうなるだろうか。ニャビーはサトシの仲間になるのだろうか、それはわからない。彼らの話はまだまだ続く。
ニャビーはゲットされるのかな?
だとしたらいつくらいかな?