残念、リーリエ回です!
サトシたちがショッピングモール内を歩いていると、突然災害時の非常用シャッターがあちこちで閉まり始めていた。そのために、サトシマーマネ、そしてリーリエとピカチュウたちがバラバラにされてしまったのだ。
「ピカチュウ、ロトム、リーリエ!」
「トゲデマル、大丈夫?」
『緊急事態発生ロト!』
「サトシ、聞こえますか?わたくしたちは大丈夫です」
「申し訳ありません。ただいま、非常装置が誤作動を起こしてしまったようです。現在原因の解明と復旧に向けて尽力しています。今しばらくお待ちください」
「とりあえず、待つしかなさそうだな」
「そうだね、ってわわっ!?」
突然電気が消えてしまう。周りからは驚きの声が上がった、が
「わぁ〜暗いよ怖いよ暗いよ怖いよ暗いよ〜!」
誰よりも大きな声を上げていたのはマーマネだった。パニックになり、走り回るマーマネ。そのままサトシに激突してしまう。
「ご、ごめんね、サトシ」
「いいって。誰にだって苦手なものの一つや二つあるもんな」
と、ここで非常用電源がつき、少し周りが明るくなる。落ち着きを取り戻したマーマネは、何やらシステムで悪戦苦闘している警備員の元へ走った。
「ちょっと見せてください!」
「こら君、子供の遊びじゃないんだ」
「お願いします。マーマネに任せてみてください」
「え、あ、あぁ」
真剣な表情で頼み込むサトシ。少年とは思えないその雰囲気に驚いたのか、あっさりと警備員は引いた。
「どうだ、マーマネ?」
「これくらいなら問題ないよ。ここをこうして、ここをこう。それでここはこうで・・・よしっ!行けたよ」
ものの数分でアクセスするマーマネ。なんだかシトロンに似ているなぁと懐かしむサトシだった。
「さっすがマーマネ!」
「この様子だと、一度主電源から再起動かけたほうがいいね」
「よしっ、なら行こうぜマーマネ」
「うん!」
「ロトム、どうだ?」
『ここの地図はしっかりと受け取ったロト』
「そこで待ち合わせですね」
「また後でな。行こう!」
閉じられた扉の両側から、サトシたちは主電源目指して走り出した。
「サトシ、さっきはどうして僕に任せようと思ったの?」
「えっ?」
「ほら、その。すっごく真剣に警備員の人に僕に任せてほしいって頼み込んでたから、なんでかな〜と思ってさ」
「うーん、とにかくマーマネならできる気がしたんだ。それだけ」
「そんな無責任な」
「けど、出来たじゃないか。俺が信じた通りにさ」
こそばゆい。こんなに正面から褒めてもらったことがあったっけ?自分だって、自分自身のプログラミング能力には自信があるし、実際いろんなものを作ることだってできた。でも、他人から腕を信頼してもらえるのって、こんなに嬉しいものなんだ。
ちょっとばかり、ニヤニヤしてしまうマーマネ。これ以来、彼はさらに自信を持ち、さらに色々なプログラムを作ることに成功するのだが、それの影の貢献人は自分がそのきっかけとなったことを知らない。
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リーリエは少し苦労していた。サトシたちと合流するにはロトムたちと一緒にいる必要がある、が、残念ながら未だにポケモンには触れられずにいる。そのため、ピカチュウやトゲデマルからやや離れてついて行った。時折ピカチュウが自分が付いてきているのかを確認するように振り向いてくれる。ピカチュウにまで気を使わせてしまっていることが、申し訳なく思ってしまう。
『ここから出られるロト!』
ロトム図鑑の案内通りに進んだリーリエたちは、合流ポイントである主電源付近にたどり着いた。そこには既に先客がいた。それは、
「って、ピカチュウ!?」
「なんでこんなところにいるのにゃ!?」
なんとロケット団だった。
「あれ?ジャリボーイは一緒じゃないのか?」
「おっと、これはチャーンス」
「もしかして、この事態はあなた方が引き起こしたのですか?」
「そんなのどーでもいいじゃない!」
リーリエが詳しく話を聞こうとした時、ミミッキュがピカチュウ目掛けて攻撃を仕掛けてきた。不意打ちのそれをなんとか躱すピカチュウとトゲデマル。攻撃の手を緩めることなく、ミミッキュはシャドーボールを連発した。攻撃を避けるために少し離れたリーリエ。ピカチュウは次々に襲い来る攻撃を難なくかわしていた。
「あっ!」
リーリエの目に入って来たのは、流れ弾によって危険な目にあっていたトゲデマルの姿だった。このままでは危ない!助けに行こうと思ったリーリエだったが、ポケモンに触れることに対する恐怖が、その足を踏み出すのをためらわせてしまう。シャドーボールの一つがトゲデマルに直撃しそうになったその時、ピカチュウがトゲデマルを庇うように飛び込んだ。気づくと目の前にいたはずのピカチュウの姿が消え、隣のビルの窓にしがみついていた。
「ピカチュウ!」
自分があの時ためらわなかったら。ポケモンに触れることを恐れず、勇気を出せていたとしたら。だが今は責任を感じている場合ではない。ピカチュウは今にも落ちそうになっていた。助けなければ。でもどうやって?それに
「この小さいのもついでに頂いちゃいますか」
「あら、かわいい電撃でちゅね〜。痛くも痒くもないわよ」
ロケット団をどうにかしなければ。図鑑のロトムはバトルができない。トゲデマルの電撃じゃ攻撃には使えない。唯一戦えるピカチュウも、あれでは狙いのつけようがない。狙い・・・
「そうです!ピカチュウ、10万ボルト、お願いします!」
「ピーカチュウゥゥゥ!」
突然出された指示に疑問を持たず、ピカチュウは電撃を放った。しかし当然狙いは大きく外れていた。
「トゲデマル、今です!」
「マリュ!」
リーリエの指示でトゲデマルが動いた。体を丸め、尻尾を立てる。するとピカチュウの電撃が方向を変え、トゲデマルに当たった。その電気をまとったトゲデマルは、得意技のビリビリちくちくを発動、ロケット団の隙を作り出した。
「あっ、ピカチュウは」
ピカチュウの様子を確認するリーリエ。なんとか踏ん張っていたピカチュウだったが、どうやら限界のようだった。身体を支えていた片足が外れ、もう片方も滑って離してしまった。落ちる!そう思った時、彼女のそばを一つの影が通り過ぎた。
「クロー」
「ピカ!ピカァチュウ!」
「あれは、モクロー?」
「ピカチュウ、リーリエ!みんな大丈夫か?」
「サトシ!」
いつの間にか自分たちの後ろに、サトシたちが到着していた。走ってきたらしく、マーマネは激しく肩で息をしていた。
「ナイスだモクロー!ロケット団、覚悟しろ!」
「な、なんかこれやばいんじゃ・・・」
サトシもやってきて、やる気満々なピカチュウ。今度こそお空の星にしてやろうと意気込んでいたところだったが、またまたどこからともなく現れたキテルグマがロケット団をさらっていった・・・ビルの屋上から屋上を伝って・・・本当に何者なのだろうか。
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その後、無事にショッピングモールの電源復旧、および非常機能の解除に成功。ショッピングモールを見て回った後、サトシたちはマーマネたちと別れて、ククイ博士の家に向かって歩いていた。
「ふぅ~、今日はありがとうな、リーリエ。ショッピングモールの案内とか、ピカチュウたちのこととか」
「いえ、その・・・わたくしは、何も・・・」
ロケット団が連れ去られてから、リーリエの様子が少しおかしくなっているのにサトシは気づいていた。前にも見た、考え込んでいるような、落ち込んでいるような様子だった。サトシたちが駆け付けた時、ピカチュウは既に危機的状況になっていた。そこまでに何があったのかはわからないが、その時にリーリエが落ち込むようなことが起きたのだと予想する。
「もしかして、俺たちが来る前にピカチュウがああなっちゃったのに責任感じてるのか?大事にはならなかったんだし、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。な、ピカチュウ」
「ピカ、ピカチュウ」
サトシの問いかけに、ピカチュウは笑顔で返した。気にするなというように、リーリエのほうにも笑顔を向ける。しかしリーリエの表情は晴れなかった。
「あ~、ほら。何があったのか、話してみなよ。少しは楽になるかもしれないしさ」
「・・・あのとき、ピカチュウがあんなことになってしまったのは、わたくしのせいでもあるんです」
「へ?何が?」
「ピカチュウは、ミミッキュの攻撃からトゲデマルを守ろうとして・・・でもわたくしのほうが近くて、わたくしがトゲデマルを助けていれば、ピカチュウもあんなことにはならなかったはずです。でも、わたくしは動けませんでした。ポケモンに触るのが怖い。その思いが、わたくしの動きを止めてしまったんです。そのために、ピカチュウが」
サトシだったら、きっとためらいなどしなかっただろう。たとえどんなに恐ろしい状況でも、どんなに危険だとわかっていても、すぐに飛び出してトゲデマルを助けていたのだろう。それができない自分が、悔しいと思う。
「そんなことはないよ。リーリエが飛び出していたら、リーリエ自身が危なかったかもしれないだろ?それに、すごかったじゃないか」
「え?」
「ピカチュウとトゲデマルにバトルの指示を出していただろ?自分のポケモンじゃないのに、ちゃんと特徴を理解してて、それを生かした攻撃ができた。なかなかできることじゃないぜ。それだけリーリエがポケモンについての知識を持っていて、それをちゃんと生かせるってことだろ。すっげぇじゃん」
「でも、わたくしはまだ、ポケモンに触れません。このままでは」
ポンっ、と頭に軽い衝撃を感じる。視線を上げるとサトシがいつの間にか正面に回り込み、まっすぐに自分を見つめながら、その手を頭にのせていた。落ち着かせようと撫でてくるその手は、まるで小さな子にするそれだった。でも、不思議と不快感はなく、むしろ普段ポケモンたちに向けられているその優しさをその身に感じ、とても心地よかった。
「焦らなくていいんだって。それに、リーリエは頑張ろうとしてるんだろ?大丈夫だよ」
「あっ、その・・・はい・・・」
さっきまでの暗かった気持ちが嘘のように晴れていく。サトシは何か特別な力でも持っているのだろうか。こんなにもすぐに自分の中の暗い気持ち、寂しい気持ち、悲しい気持ち、不安な気持ちを、取り去ってしまえるのだから。代わりに自分の心を満たしてくれる。優しくて、暖かくて、体の奥から湧き上がってくるようなこの気持ち。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。本で読んだことがあって、確かに興味もあった。でも、こんなにも幸せな気持ちになれるものなのだろうか。
彼と一緒なら、自分は変われるかもしれない。あぁ、本当にそう思える。自分を、彼を、あの人を変えてくれるのかもしれない。そうしたらまた・・・
頭を撫でてくれる手に、リーリエは自分の手をそっと重ねた。頭から離し、両手でその手をそっと握ってみる。サトシが不思議そうな表情をするのが見える。そっと目を閉じてその手のぬくもりを感じてみる。やっぱり彼はそういうことを意識したことはないのだろうか。少し残念な気もするが、同時に安心する。自分のこの感情が、まだ彼に知られることはなさそうだ。
「リーリエ?」
何も言わずに自分の手を握り続けるリーリエにサトシは声をかける。目を開き、サトシを見るリーリエ。その瞳からはさっきまでの自分に対するふがいなさや責めるような感情はもう見えなかった。つないで手はそのままに、リーリエはサトシを引っ張るように歩き出した。
「ちょっ、リーリエ?」
「行きましょう、サトシ。博士が帰ってきてしまいます」
振り返りながら笑うリーリエ。その笑顔は、今まで彼女が見せてくれたどんな笑顔よりも、明るく、楽しそうだった。自然と笑みが広がるサトシ。
「あぁ!」
余談だが、博士の家に帰る途中にその博士本人に会い、結局はアイナ食堂で食事をすることになった二人。にやにやする博士、赤面するリーリエ、そして何もわかっていないようなサトシ。この三人を見ながら、マオがうらやましいような微笑ましいような気持ちになったとか。
リーリエが若干優遇気味ですが、作者の一番はセレナです
ほ、ホントダヨー