真剣でこの歳で学園生   作:たいそん

3 / 11
黛家の居候

横からの一閃。

 

まさに光が走ったかの様であろうその斬撃を刀身を斜めに構え、刃の接触と共に払い受け流す。

 

「ッ!?」

 

受け流されるとは思わなかったのか、驚愕の息遣いを感じるが手は出さない、隙であったのは事実だが、俺は暴力をふるうのは嫌いだ。というか性格なんだろうがハッキリ言って試合だろうが何だろうが戦う行為そのものが嫌いだ。

今までの人生で攻撃を防ぐ事もあれば、己の技術を教えることもあった。

しかし、ただの一度も自分から攻撃を加えたことはない。

 

「そこまでッ!」

 

黛大成の普段よりも厳格な声が修練所に鳴り響く。

その声に不満があるのか対戦相手――――黛由紀恵は口を開こうとするが、大成さんに視線で一喝されその場で一礼をして下がる。

 

「由紀恵、お前の負けだ」

「はい」

「理由は分かるな?」

「………はい」

 

今は桜舞い散る春の季節。

目の見えない生活に慣れ、将棋も釣りも最近ではテレビゲームすら出来るようになり視覚情報とは何なのかと考え始めている――――――実際のところは由紀恵ちゃんの妹である沙也佳ちゃんのコントローラーを操作する音に対してこちらも操作しているので、オンライン対戦では絶対に勝てない。

しかし大成さんにはその光景を見られて剣を振らないかと話を持ち掛けられてしまったのだ。

いつも良くしてもらっているので、今回も断れず一ヶ月ほど稽古を受けて、ある日突然由紀恵ちゃんの相手を頼まれたのだ。

 

「私は慢心……いえ、奉さんを軽んじました」

「そうだ黛家の人間としてそれだけはしてはならない、たとえ相手が何者であろうと全力で切り捨てなさい」

 

父からの厳しい言葉に由紀恵ちゃんは己の未熟さに肩を震わせている。

黛由紀恵は強い。恐らく同年代では北陸で彼女に並ぶ者はいないのだろう。

強者であるが故の慢心を戒めるための当て馬として選ばれたんだろうが、目の前で全力で切り捨てろとか言われるとちょっと悲しみを感じる。それくらいの気概で臨めという意味なのだろうが。

 

「だが、目の見えない彼に全力で打ち込めなかった優しさ、私は誇りに思うよ。由紀恵」

「…………父上」

 

模擬戦が終わり、師の雰囲気から一変、一人の娘の父親として娘をねぎらう大成さん。

由紀恵ちゃんも頭を撫でられて少しだけ嬉しそうだ。

 

「奉君もお疲れ様、由紀恵にはいい薬になっただろう。どうせなら君の一太刀も見てみたかったがね」

「いやー、流石に九歳も年下の女の子を斬るのは気が引けるといいますか」

 

居候させてもらっている側から言わせてもらえば年下関係なくやり辛い。

しかも彼女は今年で十一歳になる、万が一下腹部なんかに一撃でも入ってしまえばシャレにならない。

 

「そういえば今何時ですか?」

「そろそろ五時になりそうだね」

「じゃあ少しだけですけど釣りにでも行ってきます」

 

日課になっている釣りは、いつも朝の四時から始めている。

沙也佳ちゃんに頼んで三十分ごとにアラームの鳴る様に携帯を設定してもらったので、時間の感覚は最近覚え始めた。

 

「あの、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

おずおずとだが由紀恵ちゃんがそう申し出る。

この後の修行は大丈夫なのか、そんな意図を込めて大成さんに顔を向けるが何も言ってこないということは大丈夫なのだろう。

こんな時目が見えないのが不便だ。アイコンタクト的なものが一切できない

 

「おう、んじゃ一緒に行くか」

 

 

――――――――――――

 

「体は大丈夫かい?」

 

最上幽斎は会議を終え外で待っていた護衛の女に声をかける。

 

「んー、ちょっと辛いかな。昨日視たのよりは大分マシだけど」

「結局辛いのでは意味がないじゃないか、試練はまだまだこれからなのだからもう休んだ方がいい」

 

護衛にかける言葉ではないが、彼の生き方を知ればそれはごく当たり前のことだった。

全人類への愛を掲げる彼にとって、護衛も上司も赤の他人も等しく愛すべき隣人なのだから。

 

「これ以上あたしが試練を乗り越えても意味ないのよ、あたしが考えなきゃいけないは奉のためにどこまで何を残せるかだけ」

「だがその病が治るかどうかはその時まで分からないだろう? 僕は諦めてほしくなはいな」

 

希望を取るべきだと幽斎は友人へ諭すが決意は固く、未来を視る力を持たない己で、も彼女が絶対に譲らないのは分かった。しかし最上幽斎としては絶対に認められないその生き様に肯定を示すわけにもいかず?小言を言う所で済ましている。

 

「諦めじゃないんだけどね、幽斎には一生わかんないことだよ」

 

話に一区切りついたのを見計らってか最上幽斎に声がかけられる。

 

「おう幽斎! そっちのボンッキュッボンのねーちゃんが話してたコだよな?」

「ああ、帝。すまないね、報酬が君への仲介する事なんだ」

 

九鬼帝。

九鬼財閥を世界最高峰組織へと昇華させた風雲児。

話すことすら中々できない存在である彼と話すためにこの一年を全て捧げた。

 

「単刀直入に言うわ九鬼帝、貴方がクローンに手を出してるのは知ってるし、他にも幾つか口外したくない機密も知ってる。さらに言えば貴方の息子と妻はあたしに借りがある」

「交渉というよりはは脅迫だな」

 

帝の後ろに控えるは、九鬼従者部隊序列零番ヒューム・ヘルシング。

世界最強の一角である金髪の老人はその言葉に静かに闘気を出し両者の間に立つ。

 

「ヒューム、あんたに用はないわ。さっさとそこを退かないとケツひっぱたくわよ」

「フン、今の貴様では赤子も同然。後ろすらとれんだろうに」

「おいヒューム下がれ。言い方は確かに気に食わねぇが、実際に英雄の怪我があれで済んだのも局が拉致されかけたのを阻止したのも事実だ」

「しかし帝様、この女が仕組んだ可能性もございます」

「だとしても二人を完全に守れなかったのは九鬼の落ち度だ。証拠がない時点でこのねーちゃんには恩しかねぇ」

 

九鬼の長男が爆破テロに巻き込まれた時には未来視を使ってテロを意図的に最小限の被害に収め助けた。

そして、助けたということを強調しようとした結果、長男に怪我を負わせてしまった。

妻である局が誘拐されそうになった時は前回の失敗を防ぐために、完璧に事が起こる前に終わらせたのだ。

 

「私が欲しいものは九鬼の技術よ」

「なんだ? 新しい体を作って脳を移植しろってか、ハッキリ言ってまだ無理だぞ」

義弟(おとうと)の目を治す」

「目玉くり抜いたクローン弟の方はどうするんだ? 目玉だけ作るなんて出来ないからな。木曜日にゴミに出しておけばいいのか?」

 

帝の目が蔑むような視線に代わるがそれを鼻で笑って返す。

 

「いえ、皮膚だけ作ってもらえばいい。目が戻っても移植した皮膚が目立ってちゃ可哀そうでしょ」

 

彼女は火傷後に移植した皮膚が他人では少し色が違うせいで目立つのを避けるためだけに九鬼にクローン技術を使わせろと言っているのだ。

 

「肝心の目玉はどうするんだよ」

「眼ならここにあるわ、未来すらよく見通せるのがね」

「は? 弟が喜ぶと思ってんのか」

「彼女は末期のがんなんだ、九鬼にある借りを使えば助かる可能性は極々ほんの僅かだがある。僕はそう勧めたよ」

 

最上幽斎がそう補足する。

帝は未来視を可能とする彼女に瞳をじっと見つめ、覚悟を確認するが時間の無駄だといわんばかりの視線が返ってくるのみだ。

 

「目元周りの皮膚を作る程度で妻や息子の恩を返せると思えねぇんだが」

「医者はいらないかな、安道全ばりに優秀な子見つけたし………

 じゃあもう一つお願いしようかな――――――」

 

その願いに九鬼帝は目を丸くしその後、腹を抱えて大笑いした後に笑顔で了承し最上幽斎はその願いの助けになると申し出た。

帝から予定以上の言葉を引き出した上に実力自体は認めている最上幽斎の助力まで引き出せたならもう後悔はない。

 

「奉の奴たぶんキレるよな…………あの子達でどうにかなるといいんだけど、保険だけはかけておこうかな」

 




最上幽斎と九鬼帝の会話があっているか自信がない………
たぶん呼び捨てか君呼びと思うのですが

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。