真剣でこの歳で学園生   作:たいそん

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奉は現在20歳です


梁山泊の追放者

時は進んでも中国は梁山泊。

ファンが防御型に戦い方を変えてから三年の月日がたった。

 

色々なことが起こった三年間だが現在(まつり)こと林冲の義弟は、一世一代の大ピンチに陥っていた。

梁山泊の首領、宋江に曽一族の切り札、史文恭に通じているとして処刑されかけたのだ。

実際、史文恭とはメル友だが別に情報を流していたわけではない。というか恐らく宋江的には梁山泊最高戦力である姉貴の手綱を完全に握るために俺を消したいんだろう。

 

梁山泊を敵に回すのと、裏切り者の義弟どちらを取るのか。宋江(そうこう)は梁山泊だと思っていたらしいが。

姉貴は「じゃあ、あたし一抜(いちぬ)けたー」と宋江を蹴り倒しそのまま関勝(かんしょう)呼延灼(こえんしゃく)董平(とうへい)秦明(しんめい)を相手に大立ち回りをして牢に入れられていた俺の元へやってきた、姉貴は息も絶え絶えといった様子だ。

 

「時間がない、早くいくよ」

「行くってなんかあてでもあるのか?」

「とっておきがあるから安心しとけって………奉その体……」

 

姉貴は俺の状況を見て息をのんだ、それもそのはずだ。敵と通じたやつが何を受けるか? 拷問だ、しかも千年越しの因縁ある相手では拷問の気合の入り方も別格だった。

姉貴には両目を焼きごてで潰されているのが確認できるんだろう。

「こんなのあたし視てないよ」

「だろうな、姉貴が昨日未来視しても完全にその通りに動かなければ未来はいくらでも変わる、大方予定より早く片付けたんだろ。急に焦りだして目を潰されたからな」

「なんでこんなことされて平然とペラペラ話してるんだよっ⁉ やったやつ誰だ? 今すぐあたしが「必要ねぇよ」

 

かぶせるように言葉をかける、その言葉に驚いたのか姉貴は怒っているのだろうか? 足音が少し大きく荒々しい物へと変化してこちらに近づいてくる。

鼻先まで歩み寄ってきた姉貴に声をかけようとした瞬間、思いっきり胸ぐらを掴まれて無理やり立ち上がらされた。

 

「なんでお前はそうなんだ? 父さんや母さんが殺された時も、理不尽な事があっても、今回みたいなことがあっても………どうして……」

「そうだなぁ、姉貴はどこまで知ってるんだ?」

「奉の両親は事故死じゃなくてあたしの親が殺した事は知ってる」

「じゃあ、話は早いな。姉貴の両親を殺したのは俺だよ」

 

姉貴はそんな言い方するなと頭を叩くと続きを求める。

 

「わかった、厳密には俺が目的でどこぞの犯罪組織が家を襲撃した、その襲撃者を俺が殺して、その時に俺を助けるように依頼された史文恭が現れ、日本にいるのは危険と判断してこっちに連れてきた」

「あたしがそのことを知ったのは三年前の史文恭が横槍を入れてきた時だよ」

「だろうな、あの日から曽一族が関わっている任務をそんなに引き受けなくなったから分かりやすかったよ。史文恭が話すとは思ってなかったけどな」

 

掴まれていた胸ぐらから力が抜けていくの感じて初めて姉貴が泣いている事を知覚する。

目が見えないだけでこうも不便なのか、と考えたが姉貴が続きを促すようにこちらを揺すってきたので言葉を吐く。

 

「俺はさ実親の仇をである育ての親が襲われるのを見て何もしなかったんだ。魔が差したっつーか、あの二人は実の両親を殺した人間だってな。でもよ史文恭雇って俺達の護衛につけてたのは父さんだったんだと」

 

泣いていた姉貴が動きを止める。つまり襲われることをわかっていた両親は身の安全でなく、姉弟二人の安全を依頼したという事に気が付いたらしい。

 

「その話聞いてからもうわけわかんなくって。俺は仇を討ったって喜ぶべきなのか助けてもらったって感謝すべきなのか憎むべきか怒るべきかすらわからなくなってよ」

 

胸ぐらを掴んでいた姉貴の手を掴み握る。潰れた目では何も見えないが姉貴が俯きながら話を聞いているのは確かにわかる。

 

「父さん達がなんで俺の親を殺したかもわかんないし俺に何の目的があって誰に襲撃されたかもわからないけどよ。その話を聞いたときやるだけ無駄だって思っちまった」

「無駄?」

「復讐は復讐を、暴力は暴力を。誰かが我慢しない限りソレに際限はない、だったらここはひとつ俺が我慢しようってな」

「目玉潰されてもか?」

「じゃなきゃ仇討ちに行って姉貴が殺されたら俺は我慢できないし、逆に姉貴が殺せばソイツの関係者が報復に来るだろ?」

「史進か」

 

姉貴が殺されると言った瞬間どうやらバレてしまったようだ。史進のもつ異能は『消去』

相手の異能を打ち消し正面から戦うといったもの、普段の義姉ならば勝てるだろうが今はボロボロの状態である、戦えば十中八九死ぬし、万全でも一対一でなければ異能を消され袋叩きにされて姉貴は死ぬ。

 

「俺は姉貴のために戦いたくないからな、最終的には姉貴の敵になりそうだから」

 

その言葉がよっぽど意外だったのか、俯いていた姉貴の顔が勢いよく上がる。

 

「目玉を焼き潰されようと親を殺されようと、姉貴に敵として見られるよりずっといい。俺は姉貴が無事ならそれでいい。」

「何言ってんだよこの愚弟……今のお前の状態見て姉ちゃん無事じゃねぇよ馬鹿」

「それについてはすまん。抵抗したらファンやらルオやらスンやらに手を出すっていうから、ちょっとお兄ちゃん面してる身としては抗えなかった」

 

ファンとルオに鍛錬を付けていたらいつの間にか梁山泊の子供たち全員の相手をしていたのだ。

驚くと炎を上げて服を燃やしてしまうスン、公孫勝(こうそんしょう)が甘やかしに甘やかして育てたため失敗を意地でも認めないユアン、他にもパンツの味を占めた馬鹿や真剣白刃取りを歯でやるマンガを読んで乳歯全部吹き飛んだ馬鹿、とか色々いるがなんだかんだ仲が良かった上に特に不能者であるファンには本当に何かしそうだったので仕方がなかった。

 

「いつの間にか義弟がお兄ちゃん属性備えていたとは姉ちゃんちょっとショックだぞ」

「ロリコン言わなかったって事は少しは機嫌よくなったみたいだな」

「ああ、決心も付いたし、そろそろここ出ようと思う」

「どっか行く当てあるのか? 未来視たなら脱出する分にはまだなんとかなりそうだけど」

 

まかせろ。と姉貴は小脇に俺を抱え上げると牢を飛び出した。

いつだか史文恭に似たような事をされた覚えがあるが、今度は目が見えない為恐怖しかなかった。

かく乱のためだろう、梁山泊のあちらこちらから爆発と共に花火と紙吹雪が舞っている音と頬にあたる感触で分かる。

警備の動きを完全に見ていた姉貴は一度も発見される事無く予め準備していたであろう二人乗りのオートバイの元へたどり着いた。

 

「いやーはぐれない様に二人乗りにしといてほんとよかった」

「にしても一日でこんだけ派手な陽動の準備するって未来視の出来る時間伸びたのか?」

「あはは、流石に歴代最高とは言っても見れるのは明日の出来事ぐらいだよ、準備ができたのも宋江の奴がこうする事も安道全(あんどうぜん)が教えてくれたから」

 

バイクに乗り目が見えないので姉貴に全力でしがみつく。

それを確認した姉貴は一気に梁山泊の支配地域を駆け抜けていく。

 

「安道全が?」

「宋江ももう歳だからね。次代は準備万端なのにいつまでもその地位にしがみ付いてるから派閥ができてんのよ。現宋江派と次期宋江派でね」

「んで、今回の件で現宋江を引きずり落とす代わりに俺の救出の手助けしてもらってんのか」

 

そゆこと。と姉貴が返事をしてバイクのアクセルを上げる

かく乱に使われていた花火の音が遠ざかっていくのが分かるが、梁山泊から離れていることが何も見えない暗闇ではどうにも実感がわかなかった。

 

今回の責任の追及のために、強制的に隠居させられた宋江の代わりに次期宋江が梁山泊当主となった。

梁山泊最高戦力である林冲の離反を聞かされていなかった次期宋江派の者たちの内何人からは、捜索し捕らえるべきだと意見が上がったが。

離反した林冲の活躍で党首の座に収まったこともあり新宋江は奉と林冲をへの捜索はせず、空いてしまった梁山泊の星達の穴埋めのために次代の子供たちの育成に注力すると方針を固めた。

 

――――――――――――

 

「ここにいたか奉君」

「大成さん? どうしたんです、この時間は娘さんの鍛錬でしょう?」

 

現在、俺は剣聖、黛大成の元へ身を寄せている。

理由は簡単、姉貴がこの人に貸しがあったので一年俺の面倒を任せ、本人は傭兵家業を続けて現在は中東にいるらしい。

 

「由紀恵は今瞑想をさせているからね、君の様子を見に来たんだ」

「相変わらずですよ、たかが目が見えないだけなんでそこまで心配しなくても大丈夫ですよ」

 

現在、俺のしている事は釣りだ。目が見えなっくなってから一ヶ月が過ぎ、何とか盲目の生活に慣れてきて今では毎朝防波堤で釣りをする毎日だ。

元々、未来視をする奴と張り合っていたため目が見えなくとも感覚で最低限の生活はできていたのだが、それを見た大成さんはもっと鍛えるべきだと釣りや将棋を勧めてきたのだ。

ここでも居候の身のため、断るのも悪いので取り合えず釣りや将棋、最近では簡単な内職なんかもしている。

 

「今日はいつもの場所とは違うだろう? 少し心配だったんだが………問題はなさそうだね」 

「案外慣れるもんですね、二回くらい転びかけましたけど」

「普通はそうはいかないよ。君の感じ取る力の高さゆえだ」

「姉貴相手じゃ下手に目で追う方がやられますから元々鍛えられてたんでしょうけどッ」

 

歓談にふけっていると、竿に微かな振動を感じ勢いよく竿を振る。

魚の口に針が掛かる感触を手に感じながら大きさ、速さに合わせて引っ張り少しづつ体力を削り弱ったところで引き寄せ網で掬いあげれば終了。

攻防自体は早々に決着がついた、防波堤釣りで釣れる魚ならば針をかけた時点で勝ったようなものだ。

 

「お見事」

 

大成さんに褒められながら触った感触からしてクロダイであろう魚をクーラ―ボックスに放り込み帰り支度を始める。

大成さんはクーラーボックスを覗き込むと、一番聞きたかった事であろう質問を投げかけてきた。

 

「昨日、オコゼを釣って来ただろう? 毒針のある魚をどう区別しているのか気になってね」

「あー、普通に掴んで刺されましたよ? 毒とか効かない性質(タチ)でして」

「お姉さんから聞いてはいたから海釣りをしても大丈夫だと思っていたが普通に刺されていたのか、傷は大丈夫なのかい?」

 

異能というには少し違うが、俺の体はすさまじく頑丈で適応量が高い。

梁山泊に居た頃、食事に毒を盛られた時の対策としての耐毒性を付ける訓練で謎の適応力の高さを発揮したのだ。

安道全曰く、異能ではないが体質に近いものだそうだ。

 

「傷は寝たら治りましたよっと、お待たせしました帰りましょうか」

「そうか、なら良かった。一応その傷跡は見せて貰うよ、しかし今日は豪華な朝食が食べられそうだね」

「豪華って言ってもクロダイ一匹じゃ味噌汁に入れるくらいが関の山ですよ。メバルは五匹なんで一人一匹は食えますけどちっこいからなー」

 

荷物を担いで大成さんと帰路に就く、梁山泊を出てここに来てから一ヶ月、帰り道の街道で銀杏の独特の匂いがなくなった事に気が付き冬の到来を感じる。

日本で久しぶりに過ごす年末に義姉が戻ってくるのかどうかが気がかりだった。




史文恭が遅れた理由は一応ありますが長いのでカット
3年間に色々ありましたがそれもカット

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