環境の変わる4月は忙しくて困りますね、取り合えずは身の回りもひと段落付いたので今度のGW位に頑張って書こうと思います。
この時期は忙しいうえに気温の変化も激しいので皆さんもお体には気を付けてくださいね。
「では、実力を見させていただきたいと思うのですが。皆さんからは対戦相手の希望などはありますか?」
今日は実力を測るために集まることになっていた29日の土曜日だ。
九鬼の鍛錬上に集まる面々は、不死川心、井上準、榊原小雪、葵冬馬、そして複数人の九鬼従者と忍足あずみに本多奉。
「俺と本多が戦ってユキと不死川でいんじゃないか? 九鬼の従者部隊の相手は正直言ってキツイだろ」
井上が葵冬馬にそう声を掛ける、その意見自体は真っ当なものだ。
元傭兵であり九鬼従者部隊序列一位の忍足あずみと好き好んで戦う一般人はそういないだろう。
だが困るのは奉だ。井上と戦って守ることは容易でも怪我をさせる可能性が高い。
本番は交流戦なのでその前に怪我させては本末転倒なのだ。
「まあ、順当じゃろうな。なんなら男二人とも此方が投げ飛ばしてもいいんじゃがのう」
不死川が見下すような目で男二人を見るが武力において奉たちよりも秀でているつもりなのだろう。
彼女が扱う武術は柔道の為、体格で優れている人間にも戦えるからだ。
自身よりも格下に対して気が大きいのは、家柄の所為だけではなく彼女自体の才能の高さがそうさせているのだ。
普段の言動の端々には、能力の高さを見せつければ友達になってくれると思っているかのような行動も多く、家の大きさなどによってコミュニケーション能力を上手く育めなかったのかもしれない。
「僕は心がいいなー、合法的に蹴り回せるってことでしょ?」
榊原は不死川よりも深い闇を抱えているようで赤い瞳をサイコパス的な色に染めながら、風切り音を立て、鋭い蹴りの素振りをしている。
ちなみに、回し蹴りだ。完璧に心の顔の高さに合わせた美しいまでの素振りだ。
「よ、よさぬか! あくまでも測るための戦いじゃろう。怪我でもしたらどうする!?」
「ユキ、不死川さんの言う通りです。皆さんも怪我のしないギリギリのところでお願いしますね」
葵冬馬の言葉に不満げに榊原は返事をすると蹴りの位置を胸あたりに下げた。結局、蹴りの速度は変わらないが顔は勘弁してやろうとの事なのか。
「オイ、井上」
今まで口を閉じていたあずみが井上に声を掛ける。
「本多の相手はお前には無理だ。アタイが相手する」
「え、何? 本多ってば強いの?」
「じゃなきゃ推薦なんてしねぇよ」
「個人的には推薦してほしくなかったけどな」
義姉が死んだ今、非暴力主義を貫く理由もない奉だが習慣になったのか純粋に武術を楽しめないのだ。
まして人様に拳を叩き込むのはドイツでマルギッテ達にしたことを思い出すと余計に抵抗がある。
だからこそあずみが試合の相手なのは助かる。井上にどの程度で戦っていいか分からないからだ。
「では準は見学していてもらいましょうか、私は準の実力は把握しているので問題ですし」
そう締めくくると各自準備運動を始める。
「まずはユキと不死川さんでお願いしますね、ルールは相手の背中を床につかせた方が勝ちということで」
「それならば得意中の得意じゃ」
不死川の柔術にはかなりマッチしたルールの為、得意げにしているがそれに反して榊原は素振り位置を顔の位置に戻しているだけだ。何としても顔面にお見舞いしたいのか。
「では位置についてください」
葵冬馬の号令で、そこそこ広い修練上に白いテープで引かれた枠内に二人は入る。
「審判は九鬼従者部隊序列一位、忍足あずみが行う。ルールは相手の背を床につけた方か場外に二十秒間出た者を敗者とする」
あずみが二人の間に立ったことでさっきまでの弛緩した空気は鳴りを潜め、二人の闘気によって張りつめられた空気に置き換わっていた。
「では、始めッ!」
あずみの鋭い号令に反応して最初に動いたのは、この試合を見ていた人間の予想に反して不死川だ。
一気に接近し、掴むのかと思いその手を見てみれば指を軽く曲げ、掌を向けている、掌底だ。
拳と違って肉体内部により深いダメージを与える技であるそれを不死川は榊原にはなったのだ。
榊原も投げ技に入ると思っていたのか、後ろに飛び距離を離そうとしたが不死川がさらに一歩踏み込んだことで遅れて掴むための手ではないのに気が付いたらしい。
「―――ッ!」
声は無く、吐かれた息の勢いでその手にに込められた
榊原もそれを予期したのか床を蹴り思いっきり軸を右にずらす。
前後の動きでは逃れられないと判断したのだろう。
掌打は榊原の顎に刺さることは無く、左肩に当たっていた。
痛みに榊原は顔を歪めるが左肩に受けた衝撃を利用しその場で回転し、回し蹴りを不死川の胸に叩き込む。
不死川も一撃入れたことで追撃しようと投げるために左腕を榊原に伸ばしていたが、反撃されるとは思っていなかったのだろう。
綺麗に蹴りを受け後方へ吹き飛ぶ。
「にょわあああああああああ!」
そしてそのまま受け身を取ることなく床に背中から落ちた。
「そこまで!」
あずみの号令と共に観戦していた従者部隊の連中がそれぞれ二人の怪我の具合を確かめる。
「正直、俺びっくりだよ。不死川が殴りにいくとはなぁ」
井上が感嘆の声を上げる。
「まあ、柔術が得意なだけで別に殴れないわけじゃないんだろうな、榊原もそこら辺を舐めてかかってたから一発貰ったし」
「ふう、ユキもよくあそこから立て直せましたね」
葵冬馬が二人の怪我が大事でない事を確認すると安心したように息を吐く。
「そりゃ、不死川も一発入れた時点で思いっきり油断したから。自業自得ってやつだ」
「マジで? あの瞬間の二人の感情読み取ってたの?」
「不死川が油断してなかったら掌底が肩にあたった時点で肩をそのまま掴まれて投げられてたな、榊原に掌底が当たったところで油断した所為で、榊原が反撃するチャンスが出来ちまったのが敗因かね」
「ふむ、ではユキについて何かありますか?」
「まあ、舐めてたよな。柔術が得意なだけで別に他の事が出来ないわけじゃないし、相手は箱入り娘にしたってあんだけ調子に乗ってんのもそれに伴う自信があるからだ」
勝負において全力で戦わなければ負けるだけだ。
手加減や様子見が許されるのは、教え子や自分よりも遥かにか弱い者だけだ。
「んじゃ、アタイらも準備すっか」
井上と葵にそう説明しているとあずみが体をほぐしながら声をかけてきた。
そこでやっと思い出す、次は自分の番だと。
「………了解」
嫌々ながらも周りの視線に耐えきれず同じように軽く体を動かす。
「ああ、そうだ。なんか適当な長さの棒持って来てくれません?」
「適当って一番困る指示だからな。お母さん困らせてきたろ」
「炊飯担当は俺でした。ってそうか、あれと同じか」
奉は義姉が何を食べたいかを聞くたびに「何でもいい」と答えるせいで何度頭を抱えたかを思い出す。
「木刀とかってあります?」
先の発言に反省し、具体的に聞いてみる。
「川神学園にある決闘用の刀ならありますよ」
従者部隊の一人がそう言って刃を潰した刀を一振り手渡す。
長さは十分、重さも普通。鞘から引き抜き軽く二、三回振ってみるが重心もブレもない。
「お前、槍使うんじゃなかったか?」
あずみがそう質問してくるが、大成さんの所に身を寄せていたことは知らないらしい。
「槍の方が慣れてるけど、こういう風にちょくちょく使わないと上達はしないですから」
「アタイも舐められたもんだな、そんな覚えたての技術で九鬼の従者部隊序列一位から一本とれると思ってんのか」
お互いに準備が整い軽口を叩きながら開始位置に進む。
榊原と不死川は辛そうだが興味があるのか、壁に寄りかかりながら試合を見るつもりのようだ。
「では、審判は忍足あずみに変わりまして序列42番。桐山鯉が務めさせていただきます」
青い髪の執事が間に立つ。
さっきの試合とは打って変わって闘気によって空気は張りつめていない。というか、忍足あずみは闘気をバンバン出しているが奉本人はソレに応じることなく体から力を抜き、とてもリラックスしているように見れる。
「では、よろしいですか? ――――――始めっ!」
奉の様子に桐山は改めて確認を取るが、問題ないと目で返されたため試合開始の号を上げる。
「鈍ってないか見せて貰うぜ!」
あずみはにこやかに宣言すると三十を超えるクナイを投擲する。
まるで銃弾が乱射されたかのようなクナイの攻撃に、従者部隊の人間はやり過ぎだと焦り、葵たちは刃を潰しているとはいえあの速度のクナイの乱射に晒されてはただでは済まないと息をのむ。
だが、あずみと奉は全く逆の反応を示す。
「ハッ、最近調子悪い方だってのッ」
飛来するクナイ群を鼻で笑うと、右手に持ったままの刀をそのまま片手で振り抜く。
気の込められていないその一振りは、常人が行えばただの素振りでしかない――――――が、そもそもこのクナイの乱射は常人に対して行うような攻撃ではないのだ。
ズパァンという豪快な破砕音と共にクナイは全て弾け飛ぶ。
その光景にこの場にいる一同はポカンと四方八方に弾け飛ぶクナイを見つめていた。
「全く、審判の私の仕事ではないのですがね」
審判の桐山のみが適切に対処し、人にあたる様なクナイを防いでいく。
本来、葵たちを守る役目の従者部隊の人間も、一切の気を感じない男へ向けたあずみの攻撃に焦り、その男の反撃の仕方に度肝を抜かれてしまったのだ。
そんな中で四方八方に飛ぶクナイが葵たちを捉えたのも仕方のないことだ。
その、行動に従者部隊は我に返り最初とは全く違う顔つきで場外の守護にあたる。
「………今のなんだ?」
あずみは従者部隊のテンポの遅れた動きに、こめかみを抑えつつも奉の行った事に答えが見つからずに尋ねる。
「何って、そりゃ
「少なくとも人間が使う技じゃねーんだよ」
壁越えの人間は普通に使うが、世間一般では壁を越えた時点て人の皮を被った化け物ポジションだ。
奉も相当な実力者だとはあずみも理解していたが、かつて会った時とは比べ物にならないと頭を切り替える。
「マルギッテ達とやり合った時から、どうも体の反応が悪いんだよな」
「猟犬とも知り合いかよ」
あずみは次の一手に出る。忍者としての基本、目くらましである。
奉の眼前に小さな黒い球を複数のクナイと共に投げる。
数の少ないクナイを体を逸らして避けた奉だが、その中に混じっていた閃光玉に完全に視界を焼かれた。
更に、ワイヤーを足元に張り、思いっ切り衝撃を与えれば倒れる状況を完璧に整える。
勝利条件を満たせる状態を一瞬で忍足あずみは作り出し、最後も油断なく全力で背中を蹴ろうと接近する。
「こいつでどうだッ!」
あずみの声が響くが、封魔忍者独特の技法で音源の認識をずらす発声法を使っているため、奉は誰もいない方向へ刀を振り抜く。
「そっちか」
ゾクリと、その言葉にあずみの背筋に悪寒が走るが時すでに遅し、奉の背に蹴りが届く寸前で、その足を左手で掴まれる。
そのままあずみは逆さ釣りのまま奉に掴みあげられた。
高身長の奉に掴みあげられ、そのまま奉は左手を大きく振りかぶる。
またもや、奉の攻撃に観戦者は度肝を抜かれている。
確かに勝利条件は満たせるだろうが、その行為が行われればあずみはただでは済まないだろう。
ブオンと風切り音で済んだのは手加減のつもりなのだろうか、
「マジで猟犬部隊と同じ感じだ、服着てれば基本抜けられるのか?」
奉の手にあるのは脱ぎ捨てられたメイド服、かつて、リザの忍術モドキによってマルギッテが手の中から逃げおおせた時と同じ感覚だ。
「次は肉に指食い込ませればいいか」
冷静に対策を考える奉は傍から見れば化け物にしか見えなかった。
「やっと、エンジンかかってきたな」
あずみの声のする方向を奉が向くとそこに居たのは下着姿になった忍足あずみだった。
奉の
「お二人ともお熱くなっているところ申し訳ありませんがここまでです」
桐山鯉が間に入ったことで両者の動きは止まった。
「桐山、どういうことだ?」
「これ以上は本多さんの攻撃に修練場が持ちそうにないので」
桐山がそう言って周りを見渡す。同じように周りを改めてあずみは視るが凄惨足る光景が広がっていた。
奉が刀を振るった回数は二回だ、たったそれだけで床剥がれ、壁にひびが入り、天井や至る所にクナイが刺さっている。
奉も言われてから気が付いたのか手で顔を覆って俯ている。
「ごめん、やり過ぎた………」
「アタイも似たようなもんだから気にすんな………」
あずみとお互いを慰め合っている姿を見てやっと周りの空気も弛緩し始める。
「これは………少し考えないといけませんね」
「若、考えるも何も本多は大将に据えて戦わせないようにするしかないと思うんだ」
「此方も井上に賛成じゃ………というか壁越えなんて聞いておらぬぞ!」
「準。僕、知ってる。あれ後で敵になって出てくるタイプのヤツだー」
「コラ、人を指指すんじゃありません」
交流戦まで残り二日にて本多奉は対武神用として扱われる事になった。
書き終わってから感じたんですけど、私が戦闘を書くと味気がないですね。
たぶん、技名とか言わせるの好きじゃないからだと思うんですが何か意見とかあったら教えてくだされば助かります。
自分じゃなく普通に読んだり見たりする分には技名を言ってるのは好きです。単純に心の奥底で恥ずかしがってる可能性が?
因みに、好きな技名は『火火十万億死大葬陣』です