現時点では主人公は17歳です
「たっだいまー
「お、姉貴今回は早かったな」
中国は梁山泊、その一室で掃除をしている青年。そのまま伸ばしましたと言わんばかりの黒髪に少し目つきが悪く、第一印象は不良。そんな彼はいつもよりも早い
姉貴と呼ばれた女性は身長は高く。鋭い目つきに柔和な笑みを浮かべ掴みどころのない印象で、長い黒髪を後ろで一本に纏めていた。
「また槍を折ったのか、
「んー今回は許してくれると思うよ? なんせ史文恭が横槍入れてきたのに任務遂行したんだから」
「さっすが天雄星を継ぐ者って言ってやりたいけど史文恭もいい
「それ本人の前で言ったら絶対にシバかれるよ」
奉は折れて二本になった槍を取り合えず傘立てに入れながら梁山泊に来る前に出合ったことのある史文恭を思い出す。
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あの黒髪で妙齢の淑女と出会ったのは育ての親を目の前でぶっ殺された時が最初だ。
梁山泊に身を置いてはいるが、姉貴も自分も生まれ育ちともに日本である。
姉貴両親と俺の両親は遠縁にあたる親戚同士で、家も近く
しかし俺が3歳になった頃に両親は事故で死に、実親の代わりに姉貴の両親が我が子同然に俺を育てたので姉弟同然。というかもう姉弟になってた。
だが、そんな生活も長くは続かず。中学校に入学して程なく姉貴両親宅に何者かが襲撃を行ったのだ。
真っ赤な血に染まった両親の傍らに立つ人間、彼女こそが古より続く傭兵の一族である曹一族の武術師範を務める史文恭である。
学校を終えて帰宅した俺が両親の死体を前に茫然としていると、当時の俺を見つけた史文恭は姉はどこにいるの? と優しく頭を撫でながら聞いてきた。
浴びた返り血で赤く染まった戦装束のまま頭を撫で続ける黒髪の淑女に抱いた恐怖は今も忘れられない。
「あ、姉貴は赤点とったから補修って言ってたからあと1時間は帰ってこないと思う」
我ながらこの状況でまともに受け答えができたのはいまだに不思議だ。
しかし、その答えに満足したのか史文恭は そう。と一言呟くと壁に立てかけてあった狼牙棒を掴む。
俺を小脇に抱えて家を飛び出し、塀から屋根へ屋根から電柱、そしてまた屋根を伝ってあっという間に姉が通う高校へたどり着く、そして俺を門の前におろし少し待っていてと声をかけて学校の中へと消えていった。
数分後、気絶している姉を抱えた史文恭が現れ先ほどと同じく小脇に抱えられると、そのまま港まで連れていかれた。
船に乗せられあれよあれよという間に気づけば中国のボロい宿泊施設に監禁されていた。
「顔を見せられなくてごめんなさいね、これでも私色々指揮をとらなくちゃいけない立場でね………部下に何かひどいことされなかった?」
「父さんと母さんを殺した奴の顔なんか見たくないっつの」
姉貴は申し訳なさそうに食事を持ってきた史文恭を睨みつけながら俺を守るようにその間に立つ。
「目的はあたしの目でしょ? 学校では関数に気を取られてたから反応できなかったけどあたしの目は未来を見通す。無手だからってそう甘く見るなよ」
「知っているわ、その目は今まで現れた目の中で歴代最高の力を持ってることもね。そして貴女自身相当の手練れたどいうことも重々承知よ……まあ得意の槍はここには無いのだけれど」
姉貴は最後の言葉に悔しそうに歯噛みするも腰を低く構えて臨戦態勢へと入る。
史文恭はその行動に困ったように笑うと食事を机の上に置いて部屋を後にした。
そして、その日の晩に姉貴の手引きと気合で宿から逃げ出し、当面の生活費を稼ぐために何でも屋をはじめ、いつの間にか用心棒、最終的には姉貴の目の事をどこかで知ったのか、梁山泊の連中からのオファーを受けて今や姉貴は立派な梁山泊の稼ぎ頭である。しかも天雄星を継ぎ、名を林冲と改め。完全に日本へ帰るという選択肢は無くなっていた。
実際は姉貴が万が一俺を人質に取られたら絶対に逆らえない。と言うので少なくとも日本よりは安全な梁山泊に身を置いてる。未来を見通せる目、しかも歴代最高クラスともなればその力を利用したがる人間はごまんといる……というか姉貴はそう未来が見えたらしい。
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「今思えばなんで史文恭の所から逃げた時点で警察に行かなかったんだ?」
「今更過ぎるでしょその質問………まあ、あたしが見た未来で誰を頼っても曹一族の息がかかった人間に奉が人質に取られるから仕方なくね」
俺のせいだったらしい。二年前までは曹一族の権力は高く表立って動けば捕まるのは目に見えていたことも理由の一つである。と姉貴は付け加え浴室へ消えていった。
近年は曽一族への報復の意味もあって姉貴が積極的にその力を削いでいたため、最近は一人で街に出ててもいい許可も得られた。
脱ぎ散らかされた戦闘服を拾い集めて洗濯カゴに放り込み、掃除の続きをしようと雑巾を手に取ったところでドアがノックされる。
「はいはいどちら様ってルオか」
「お休みのところ申し訳ありません奉さん、林冲さんがお戻りになったと伺いまして……」
「姉貴はさっき風呂入ったからなー。どうせシャワーだけじゃ物足りなくなってお湯ためるだろうし後三時間は出てこねーと思うぞ」
「そう……ですか、分かりました失礼します…………」
姉貴と同じく未来の見える目の異能を持つ少女ルオは、がっくりと肩を落とすとトボトボと去っていく。
彼女自身は次代の天雄星、林冲を継ぐものとして目をかけられているので姉貴に鍛錬を頼む必要はなく、姉貴に鍛錬してもらう時間が決まっている。
しかし、そのルオが任務帰りの姉貴にわざわざ声をかけてその上あそこまで落ち込むということは今でなければいけない理由があるのだろう。
「どうせファンも鍛錬に付き合わせたくてわざわざ予定の鍛錬とは別に頼みに来たんだろ? 異能についてはてんで参考にならんが槍なら俺が相手してやるよ」
姉貴に付き合わされてもう五年間も槍での模擬戦をやらされている、十一歳の彼女たちに教えるくらいならまだ何とかなるだろう。
先の言葉にルオは高速で方向転換し頭を下げてくる。
「ありがとうございます! ファンは今表で鍛錬していますのでそこでお待ちしています!」
「まあ、俺も暇だしな。湯隆のところに寄って行くから十分くらい待っててくれ」
ルオはもう一度深く頭を下げると小走りで廊下の角を曲がっていった。
あの調子だと手は抜けないな。と考えながら折れた槍を傘立てから引っ張り出し湯隆の元へ向かった。
結局は湯隆に説教を食らいそうになったが、ルオ達をダシにその場からうまく逃げおおせたので、鍛錬引き受けてよかったと己の判断を絶賛しつつも広場へ急ぐ。
「悪い少し遅れた、湯隆のババアがキレやがってさ槍折ったの姉貴なのに」
「いえ、私なんかの鍛錬に付き合っていただいてすみません!」
到着して五分遅れたことを謝罪したらルオの親友であるファンが即座にお礼とも謝罪ともとれる言葉と共に頭を下げる。
「んじゃ、まあ取り合えずかかって来いよ。指摘と矯正は一戦しなきゃわからんからな」
「「はい!」」
ルオとファンの大きな返事と共に、ルオは槍をファンは棒で一気に駆け込んでくる。
槍の突きと棒の払いを俺は棒を足で思いっきり踏みしめ、槍は自身の槍で跳ねのける。
「かかって来いよとは言ったが、ニ対一はちょっと舐めてたかな」
そんな呟きと共に二人からのコンビネーション抜群な攻撃を完全に防いでいく。
現在の林冲である義姉は、未来予視による回避力を前面に使った当たらなければ問題ない戦法を使うゴリゴリの攻撃特化だ。
一方、そんな義姉とは対照的に、義弟は完全な防御特化型だ。
理由は単純で、未来予視なんていう反則的な異能を持っている義姉に負けないためにはこれしかなかった。
おかげで義姉との稽古で負けたことはこの数年一度もない――――勝ったことすら一度もないが。
そんな攻防を続けて十五分を過ぎたところでルオが根を上げた。
ファンはまだいけるらしく、さらに苛烈に攻撃を加えるがそれも更に十五分経てばルオと同じく地面にひっくり返ってゼェゼェ息を切らしている。
「ファンお前すげーな姉貴ですらニ十分で飽きるってのに」
「す、すみま……ごほっ…せん……」
「なんで謝るのかはわからんが、取り合えずルオから話すか」
「はい! お願いします!」
休憩も十分なルオに向き合い、先の稽古での矯正すべき点と鍛錬方法を教えていく。
「未来を視えるからってあんまり攻めすぎない方がいいぞ。姉貴の真似なんだろうがお前にはまだ早い、まずスタミナつけた上で槍の攻撃力の上昇が今後の目標だな。ああ後、利き腕側からの攻撃が本命なのまる分かりだから、もうちょっと左腕の腕力上げないとフェイントになんねぇぞ」
「っ、分かりました。精進します!」
最初のスタミナは自覚があったのか素直に聞いていたが、フェイントには自信があったのだろう一瞬悔しそうな表情を浮かべるとルオは両腕に重しを着けながら広場を走り始めた。
次に息の落ち着いたファンに向かい合う。
「ファンはその年にしては十分な体力があるが、いかんせん焦りすぎてるな。目線で大体の動きに予測がつくから精神的な修行も少し増やしていった方がいいぞ、他にはそうだな………」
言っていいものか悩んだ、ファンの戦い方はルオほどではないにせよ攻撃寄りだ。
しかし、正直言って彼女には向いていないだろう。だが異能をいまだに有していない彼女は防御に回っても他の子達には勝てない。
それ故の攻めの姿勢なんだろうが、攻めにおいても異能を持たない彼女は早期決着を狙うしかなく、そのことへの焦りが如実に目に表れていた。
「どんなお言葉でも受け止めて見せますっ! だから教えてください!」
「…………ファンお前に攻めの姿勢は向いて無い」
「はい……それは自覚していました、しかし私に異能で強化された攻撃に耐えられるような力はありません………どうすれば……」
自覚はしていたらしく、俺の指摘はすんなり受け入れられたがそうすると問題はこのまま攻めの姿勢を貫くか、守りの型に改めていくかだ。
「一応言っておくが姉貴との打ち合いで俺は負けたことが最近全くない。言ってる意味わかるよな」
「ま、奉さんは異能を持っていません、しかし現在梁山泊で最強の林冲さんに打ち負けていないということですか?」
「そんな疑いの目を向けられるのはもっともだろうな。未来視してくる上にヒューム・ヘルシングのケツひっぱたいて逃げてくる化け物相手にどう耐えるんだってな」
最強爺さんケツバット事件は姉貴の武勇伝の十八番だ、かれこれ数百回は聞かされた
「見るんだよ、全部を」
「見る?」
「相手の目、指、呼吸、筋肉の動き。そして何より思考」
ファンは要領が得ないのか首をかしげる。
俺は広場の外周を走っているルオに視線を移し説明を続ける。
「次にルオが戦うときはどうすると思う? 俺の指摘を受けたルオは左からの攻撃を強化してくるだろうが、結局は本命に利き腕での攻撃を使うだろうよ」
「ですが利き腕の攻撃をフェイントに左からの攻撃で体力を削り最後に本命を入れてくる可能性があるのでは?」
「その可能性のほうが多い。けどな守ることで一番大切なことは何かわかるか、ファン」
ルオから視線を戻し、ファンの頭をポンポン叩きながら問いかける。
ファンは答えが見つからないのか顎に手を当てて唸ったままシュミレーションでもしているのか、ぶつぶつと何か呟いている。
「急所を守ること? いや、関節? 目線を遮らないようにする事……ですか?」
納得のいく答えが出たようでおずおずとだが答えのだが、ファンに軽くデコピンを食らわして答えを告げる。
「残念不正解。答えはな
「殴らせる……?」
「重要なのは
「す、すみません」
「だめだ、ファン相手しろ」
ファンは考えが顔に出てたのが恥ずかしかったのか、顔を朱に染めて俯いた。
そんなファンに槍を構えて正面に立つと慌ててファンは棒を構えた。
「…………そうだな。左右に突きを放って牽制」
ファンは完全に攻撃が読まれていた事に驚きながらも予定通りに突きをくわえる。
そして、四打撃目で奉が半歩右足を下げた。
その隙を見逃すことなく、ファンは渾身の足払いを次に下げるであろう左足に振るう。
「けどそれはフェイントで棒を一回転させて反対側で俺の顔面に突きを加えて防がれれば仕切り直し。躱されれば棒を回避した方向へ振って追撃」
その言葉にファンの動きは完全に停止した。
すべて読まれていた、それ以上に先ほどの奉からの言葉を理解したが故の驚愕による停止だった。
「わかったろ? 姉貴に負けないのは付き合い長いぶん完全に手玉にとれるからだよ。武松なんか相手にした時は衝撃波飛ばしてくるからまた別の対応するし、これが絶対ってわけじゃないがな」
「
「ファンが牽制の突きで右から入りたくなる所から」
ファンがあんぐり口を開けて驚いてると夕食の準備を告げる鐘が鳴る。
「私は食事の準備があるので失礼します! あのもしよろしければ今後もご指導お願いできませんでしょうか」
「任せとけって言いたいけどまずは何よりその目をどうにかしろよ? 焦りすぎだ」
「はい!」
ファンは元気よく返事をすると厨房のある方向へ走っていった。
「さてと、俺も不能の一員として洗濯でもするかー」
姉貴が脱ぎ散らかした戦闘服の汚れを思い出してため息一つついて部屋に戻る。
その後、置いていかれたルオは若干涙目で姉貴の元へ鍛錬を受けに来たらしい。
直江大和が川神学園2年生時点で奉の年齢が26歳になるようにしています
原作時間まで追いつく為に時間は飛ばすのでいつかはその空いた時間もいつかは補填したいなーとか思ったり思わなかったり
とりあえずは原作時間までに四話か五話で追いつくはずです