第九話です。
第九話の作成に手間取ってしまいました。
いつもより少し文字数が多いです。
感想も少しずつくるようになって励みになっています。
UAも3000近くまできているようですし。
これからも応援よろしくお願いします。
咲夜は盗品蔵の扉を体当たりで壊そうとしたが、古びていている割に、以外にも頑丈で、一度では壊れず、何度目か体当たりで、扉を破る。
そして壊れた扉から咲夜が中に飛び込むと、スバルとフェルトの姿が視界に入った。
咲夜はスバルの無事な姿を確認し、安堵する。
「あんたは……ああ、そういやこのにいちゃんの連れだったけな?」
フェルトは、扉を壊して入ってきた咲夜に驚き、こちらに目を向けるが、入ってきた人物が咲夜と分かるとすぐに、咲夜から視線を外して別の方向に視線を向ける。
スバルに至っては、咲夜に目を向ける余裕もないほど、体を震わせ、目の前の光景に目を離せない様子だった。
そんな2人の様子に疑問を抱いた咲夜は、2人の視線の先に目を向けると、そこには惨たらしい光景があった。
そこには先ほど盗品蔵にスバルを引きずっていった大柄の老人が、血だまりの上に倒れていた。
大柄の老人のその太く逞しかったその片腕は、肘から先がなく、そこから血があふれ出るように噴き出しており、老人の喉にはガラスの割れた破片が、突き刺さっていた。
(死んでいる……わね)
見るものを威圧するほどの大柄で筋肉質の老人は、今や目から光を失っていた。
咲夜はその状況を見て、老人の息が既にないことを悟る。
(一体誰が……)
「あなたは、さっき外で会ったメイドさんね」
咲夜は老人を殺したのは誰だろうか、と考えようとしたとき、女性の声がしたことで、老人の死体の傍に一人の女がいることに気付き、思考を止める。
その女は盗品蔵に、フェルトよりも遅れてやってきた、黒いマントを羽織った女だった。
女も盗品蔵に入ってきた人物が、外で会った咲夜だと気付いたようだ。
フェルトはその女に対し、敵意をむき出しにした表情で立っており、スバルは、フェルトの後ろで恐怖に怯えたように、震えている。
その状況を見て、老人を殺した犯人が誰であるのか咲夜は理解した。
(状況を見るに、老人を殺したのはあの二人ではないわね。殺したのはこの2人でないとするなら、犯人は……)
「よくも、やってくれやがったな……」
「余計に手向かうと痛い思いをするかもしれないわよ」
「反撃しなくても殺す気だろーが、クソサディストめ」
「動かれると手元が狂うかもしれないの。私、刃物の扱いが下手だから」
この状況を招いた原因であろう女とフェルトは、新たに盗品蔵に入ってきた咲夜をそっちのけで口論をし始める。
「……悪かったな、巻き込んで」
フェルトは激高しながらも周りを気遣うほどの冷静さはあったのか、ふと、自身の後ろに震えるスバルに目を向けそう謝罪する。
「……お、おれは」
そのフェルトの言葉に、スバルは恐怖に震えながらも返答を返そうとするが、その返答を最後まで聞く前に、フェルトは突風の如く女に向かって飛び出す。
フェルトはまるで羽のように軽いかのごとく、重力を感じさせないような圧倒的なスピードで、女に向かって走駆する。
普通の人間では、突如彼女が消えたように見えただろう。しかし、
「風の加護。ああ、素敵。世界に愛されているのね、あなた。――嫉ましい」
「――あ」
黒いマントを纏った女が、持っていたククリナイフを一閃。
フェルトは、肩を切切り裂かれ、地面を勢いよく転がっていく。
そして、フェルトの体が壁にぶつかり転がる体が止まる。
そしてその後、彼女の体は動くことがなかった。
「紹介が遅れたわね。私の名前はエルザ。新しいお客さん?」
フェルトをいとも簡単に殺した女は、既に物言わぬ死体になったフェルトには興味を失ったのか、咲夜の目を向けると、まるで人に朝の挨拶をするような気軽さで、笑みを浮かべそう挨拶する。
「随分と楽しそうに人を殺すのね、あなた」
「ふふ。わたし、人を切り裂くのが好きなのよ。人のお腹を切り裂いて綺麗な腸を見るのが好きなの。お腹からどろどろと内臓が飛び出てきて、赤いきれいな宝石のような色をした血で染まっていてきれいなのよ。それに切った時に広がる血の匂いは格別ね」
「随分な趣味をしているのね……」
咲夜もいざとなれば人を殺すことに躊躇いを持たないだろうが、あくまでも必要な場合の時だけであって、好んで行うような趣味はない。
「そこのお兄さんもそうだけど、あなたも随分ときれいな腸をしてそうだわ。お腹を裂く時が楽しみだわ」
咲夜は、盗品蔵前でエルザと会った時と同様に、エルザから感じる気配により、エルザの正体に気付く。
それに似た気配を咲夜は毎日感じてきたのだから――。
「———あなた、吸血鬼ね?」
「あら、よく分かったわね。どうして分かったのかしら?」
「それは―――」
「ちょ、ちょっと待てよ!エルザが吸血鬼だって?嘘だろ?」
スバルは瞬く間に2つの死体が出来上がった状況に、恐怖し体を震わせていたが、エルザと咲夜の会話に『吸血鬼』という突拍子もない言葉が耳に入ったことで我に返る。
「わたしの主は吸血鬼で、いつもわたしはその方の傍で仕える者。あなたからは、主と同じような人間からは発せられない気配を感じたのよ」
「へえ。私以外の吸血鬼を知っているのね。なるほどね。あなたに興味を持ったわ。それとあなたのその主とやらにも会ってみたいものね」
「咲夜の主が吸血鬼だって?……もしかして咲夜も吸血鬼なのか?」
咲夜の回答を受けた2人の反応は対称的で、エルザは他の吸血鬼の存在を知っていることで納得し、興味深そうにする一方で、スバルは咲夜が吸血鬼に仕えているという驚きの事実から、混乱し、咲夜も実は吸血鬼なのではないかと不安に駆られる。
しかし、スバルの不安は杞憂であった。
「いいえ、わたしは普通の人間よ」
「……そっか。咲夜も吸血鬼なのか。そうだよな、話の流れから・・・・って違うのかよ!」
「あら?わたしも吸血鬼の方が良かった?あなた吸血鬼のフェチなの?血を吸われるのが好きなのかしら?……変態ね」
咲夜は、相対しているのが吸血鬼で、状況は悪いものだと感じていたが、焦りを表に出さず、平静を装い、スバルに冗談交じりの軽口を叩く。
「ぐっは!美少女のメイドさんから言われると、の刃が心に突き刺さる。・・・でもなんか目覚めそうグサッとくるぜ!そんな性癖はしていないつもりだけど、その冷たい眼差しをして口から放たれるその鋭い言葉」
スバルも恐怖から目を反らすために咲夜の冗談に言葉を返す。
しかし、咲夜とふざけた会話は、少しは緊張を解くのに良かったようで、スバルの体の震えは収まる。
「ふふ、わたしもメイドさんと楽しく語っていたいけど、仕事の都合があるから、あまり悠長にしていられないの。だから、――――」
エルザは突如、スバルに向かって駆ける。女性にしては長身な彼女であったが、その体のスピードは速く、あっという間にスバルの懐まで到達する。
「———先にお兄さんから切らせてもらうわ!」
「スバル!」
会話途中で、いきなりスバルに襲い掛かるエルザに、咲夜は反応が遅れ、スバルに呼びかけるので精一杯だった。
咲夜はスバルがそのままエルザに切られるの光景を想像したが、――
「――なめるんじゃ、ねぇ!!」
「ぐっ!!」
スバルはエルザが腹に向かってククリナイフで攻撃してくることを予測していたかのような動きで、後ろに飛びながら腹を引っ込めることで、エルザの攻撃を躱した。
そして回避した勢いのまま体を回転させ、回し蹴りをエルザに向かって放ち、エルザの顔面に打ち当てたのだった。
スバルから蹴られたエルザは、攻撃された衝撃で弾かれるようにスバルから距離をとる。
「ああ、――今のはとても、感じたわ」
「スバル!無事のようね……少し見直し———」
咲夜はスバルの傍に駆け寄り、無事であることに安心しかける。
しかし、一拍遅れ、スバルの腹から血と内臓が飛び出す。
血は勢いよく飛びちり、駆け寄った咲夜の顔にも少し付着したほどだった。
『えっ?』
無事だったと考えていた2人は、スバルの体から血が噴き出たことに驚く。
スバルは、自分の体からこぼれる血を、信じられないような表情で見ながら、体をふらつかせ、そのまま体を後ろに倒れそうになるが、咲夜にその体を支えられる。
「驚いた? すれ違いざまにお腹を開いたのよ。これだけは私、得意なの。それにしてもやっぱりあなたの腸は、とてもきれいな色をしていたわ」
エルザは笑みを交えて、得意げに言ったあと、スバルの体からこぼれた内臓を見て、恋をする少女のようにうっとりとしてその顔を赤らめる。
その彼女の表情はどこか妖艶で、男が見たらさぞ色気を漂わせた彼女に目を離せなくなるような表情をしていただろう。
「ごふっ。」
「スバル!」
スバルは血を吐き出し、切られた痛みから苦悶の表情を出す。
(医療用具は持ち合わせていないし、それにこの出血量では助からない・・・)
咲夜はスバルの体から流れ出す、血の量を見て、スバルが助からないことを悟った。
咲夜は楽な姿勢になるようスバルの体を仰向けにゆっくりと体を倒してやる。
「ぁぅ……うぁ」
「……じっとしていなさい。スバル。あまり体を動かそうとすると余計に苦しいわよ」
スバルが呻き声を上げ、体を揺らすが、咲夜は助からないと気付きながらも気休めにそう声をかけるしかできなかった。
「あなたはもう助からないだろうけど、最後の反撃、少しかっこよかったわよ」
「う・・・さ・・くや」
スバルはそういうと、息を引きとったのか、動かなくなる。
それを確認し咲夜はエルザに向き直ろうとするが、自分の体が動かないことに気付く。
そして、同時にスバルの傍からあの黒い手と同じ気配が纏わりついていることにも気付く。
(これは!?)
咲夜は体を動かせずにいると、スバルの体の近くに黒い影が形作り始め、やがて女の黒い影になる。そして、その影はスバルに何か言葉をつぶやいくと、時間が巻き戻り始める。
(時間の逆行が始まった!?……どうやらスバルが巻き戻しをしていたのではなくて、この黒い影の仕業だったようね。これでスバルに自覚がなかったのにも説明がつく。スバルが死ぬ度に、時間を戻しているのかしら?)
咲夜は、時間の巻き戻しを行っていた犯人が、スバルではなく黒い影の存在によるものであると理解する。
そして咲夜は時間の巻き戻りに伴い、周りの光景が変わっていくのを眺めていたが、スバルの傍にいる黒い影は未だに消えず、咲夜の方に向き、何か言葉を呟く。
「・バル・、た・けて」
ところどころ途切れた言葉を呟かれたあと黒い影は消え去る。
そして、気付くと咲夜は前回のスタート地点であった路地裏の道に立っていた。
「はぁ。またここに戻ってきてしまったのね。一からやり直しね」
(でも、収穫はあったわね。時間の巻き戻しを行っている犯人が分かった。……人かどうかも怪しいけどね。それに———)
咲夜は、あの黒い女の影の存在が、悪意のある存在には感じられなかった。
少なくともスバルにとっては。
「スバルをたすけて・・・か。問題は何一つ解決していないし、謎は深まるばかりね……。元の世界に戻る手立てもなし。ひとまずは、スバルを助けることから始めましょうか」
咲夜はそう呟くと、前回と同じように足元に落ちていた黒い本を拾い、ポケットに入れ、スバルと出会った道の方へと足を進める。
なかなか展開が進まないと感じるかもしれませんが、第一章はなかなかに大事な伏線が多くてカットしずらいお話なので、もう少し数話お付き合いいただけると嬉しいです。