前回の行動を踏まえて咲夜はどう行動するのか・・・
時間の巻き戻しが終わると、咲夜はこの世界に来た時と同じ路地裏の道に立っていた。
(どうやら、わたしがちょうどこの世界にきたタイミングまで戻されたらしいわね。……もしかしたらこの世界に来る前までの時間に戻れるかもって、少し期待しちゃったけど、そこまで上手い展開にはならなかったか)
咲夜は前回と同じように足元に転がっていた黒い本を拾い、男たちが喧嘩しているであろう道の方向へと足を進める。
前回と同じように、通りの曲がり角から人の声が聞こえる。
咲夜は、道を曲がれば、スバルがチンピラに絡まれているところだろうと、思い返しながら、歩き、道を曲がるが前回とは少し異なる光景が広がっていた。
道を曲がった先の道は、前回に見た三人のチンピラが地面に倒れ、スバル一人が立っていた。
「調子乗んなや、コラァ――ッ!!」
どうやらスバルは一人で、チンピラ三人を倒してしまったようだ。
(前回の時もそうだったけど、スバルは意外に運動神経がいいのね。……って、呑気に感想を考えている場合じゃないわね)
咲夜は、意外な運動神経の良さを見せたスバルに感心しながらも、前回と展開が異なることに気付いていた。
もし、時間逆行した場合、前回と同じ展開で全ての出来事は進むはずだ。
しかし、今回は異なった。
そのようなことを出来る人物は咲夜を除けば、時間逆行を行使した人物しかいない。
咲夜はスバルを警戒しながら、ひとまず話しかけることにした。
「そこのチンピラ三人に絡まれていたようだけど、大丈夫だったかしら?」
「え?……あ、あんたは!?十六夜咲夜?」
咲夜に話しかけられたスバルは驚き、振り向く。
そして咲夜を見ると、戸惑いの表情をしながらも咲夜の名前を口にする。
(わたしのことを覚えている!?……やっぱりこの男が時間逆行の犯人ね。今はわたしも時間逆行していることがバレないよう振る舞うのが正解かしらね)
「ごめんなさい。わたしはあなたのことを知らないのだけど、どこかで会ったことがあるかしら?」
「え!?だって、ここの道で会っただろ?ほら、俺がチンピラに絡まれていた時に!」
(う~ん、本当にこの男が時間逆行を行使したのかしら? あまりにも間抜けすぎて。もしかしたら、自分が時間逆行をしたことに気付いていない? 無意識に発動したのかしら?それとも行使したのは別の人物?)
咲夜はスバルの見せる反応に、スバルが時間逆行の犯人だという確信が持てない。
しかし、それでも疑いがある以上、気を抜くわけにもいかない。
咲夜は、素知らぬふりをしてスバルに対応する。
「残念ながら、覚えがないわ。それにチンピラに絡まれているのは今さっきではなくて?それとも以前も同じようにチンピラに絡まれたことがあるのかしら?」
「咲夜もサテラも俺のことは覚えていないって言うのかよ……」
スバルは咲夜の返事を聞いて、呆然としてそう呟いた。
それは、どこかもの悲しさを感じさせるような声だった。
「サテラ?……見たところ、ケガはないようだけど、本当にあなた大丈夫?」
咲夜は本当に聞き覚えのない、名前に少し疑問を抱くも、心配そうな声をしてスバルに話しかけるが、スバルはどこか上の空をした表情で「……ああ、大丈夫だよ。ありがとうよ」と答える。
「ひとまず、自己紹介をしましょう。わたしの自己紹介の意味はあまりないかもしれないけど、あなたの名前は知らないからね。わたしの名前は十六夜咲夜。あなたの名前は?」
前回に、互いの自己紹介は済ませていたが、咄嗟に名前を呼んでしまうと困ることになるため、咲夜は名乗っておく。
スバルはいまだにどこか納得のしていない表情をしていたが、ひとまず話に応じる気になったようだ。
「……俺の名前は菜月スバル。そうだな……ご主人様とでも呼んでくれ!」
「ではスバルと呼ばさせてもらうわ。」
「そんな……」
スバルはメイド姿の咲夜から、ご主人様と呼ばれたがったようだが、咲夜にそれを無視し、それにスバルはがっかりして肩を落とす。
「って、こんなことしてる場合じゃない!盗品蔵に行かないと」
「盗品蔵?」
「あ! 気にしないでくれ。俺はもう行かないと。心配してくれてありがとうな。咲夜。じゃあ、俺はこれで……」
「待ちなさい。」
スバルは急ぎの用を急に思い出したのか、すぐにその場を去ろうとする。
しかしそんなスバルを咲夜は呼び止める。
折角、また出会えたというのに、別れてしまっては意味がない。
「何か困っているようなら、わたしも付き合うわ。盗品蔵とやらに用があるのでしょう?」
「い、いや、そうだけど。これは咲夜に関係ないことだし、付き合わせるのも悪いし……」
「実はスバルに聞きたいことがあるのよ。急いでるようだし、先に用事が済んだらでいいから、聞いてくれないかしら?」
「う~ん、でも危ないし……」
「大丈夫。こう見えて、ある程度の護身術は身に着けているから。それにもう断られても勝手に着いていくわよ」
「……仕方ない。わかったよ」
スバルの用は、それほど安全ではないらしい。
咲夜を危険に巻き込みたくないのか、咲夜の同行を断ろうとするスバルだが、咲夜の頑な姿勢に折れ、スバルは渋々了承をする。
「さて、行きましょうか」
「盗品蔵への道はこっちだ。……それにしても咲夜の奴、やけに強情だな。……もしかして俺に一目惚れでも? ぐふふ、楽しくなってきたぜ!」
「???」
咲夜はスバルの後半のセリフが聞こえなかったため、急にテンションを上げたことに困惑の表情を浮かべながらも、先導にするスバルの後ろをついていく。
時間逆行を正しく認識できている咲夜とそうでないスバルの違いが明白になっている回でした。
前回と違い、咲夜と行動することで展開は変わるのか、変わらないのか・・・。
お楽しみに!