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路地裏を出ると大通りにつながっていたようで、そこには幻想郷では見れない、賑やかな光景が広がっていた。
さすが王都と呼ばれる場所といったところか。
道を行きかう人は多く、大通りを歩く人は咲夜みたいな普通の人間もいれば、ネコ、イヌ、うさぎ、トカゲといった、見るからに獣人といった普通の人間でないものもたくさんいた。
幻想郷で人外に見慣れていた咲夜にとって、それは左程驚くことではなかったが、人の多さには驚きを感じざるをえなかった。
また、この街には幻想郷と大きく異なる点も咲夜を驚かせた。
「こちらの世界では、人間と人間以外が、ごく普通に一緒に暮らしているのね……」
幻想郷では人間と共存している妖怪も一部はいるが、基本的に人間にとって、妖怪とは恐れるものであった。
しかし、この世界ではそのような気配はなく、人間とそうでないものも等しく同じ住人として生活していた。
王都の住人に驚いていた咲夜は、気持ちを切り替え、王都を散策しながら情報収集をしていく。
しかし、情報収集をすることで咲夜は現在の自分の置かれた状況が決して良いものでないことが分かっていく。
結果として、咲夜は自分が以下の5つの点において、厳しい状況に置かれていることに気付かされることとなる。
一つ目が、こちらで使用できるお金を持っていないこと。
通りでリンガという、見た目がリンゴのような果物を売っている、いかつい男がいたので、咲夜はいくらか持っていた幻想郷での貨幣が、使用できるか試してみた。
しかし、やはりこちらの世界では、幻想郷のお金は使用できず、文無しと見られ、追い払われてしまう。
咲夜はこちらの世界に来て、一文無しになってしまったのだった。
もし長い間、この世界に滞在する必要が出てきた場合、生活を送るための資金が必要
になる。
そのためにもどこかで働き口を見つけ、お金を得る必要がある。
二つ目が、文字が読めないこと。
通りで様々なお店が立ち並んでいたが、どの看板の文字も咲夜には読めなかった。
元の世界の文字が通じない。これは書物からは情報を得られないことを意味している。
幸いにも会話はできるようなので、働き場所が見つからない、ということにはならないだろうが、仕事探しの際に、大いに不利に繋がることは否めなかった。
三つ目が、土地勘がないこと。
ここ王都と呼ばれる場所は想像以上に広く、また似たような通りも多く、何度も迷子になりかけた。
この王都がどれほどの広さがあるか、把握するのは難しい。
無論、空を飛べば迷子になることもなくなるだろうが、この世界で人が空を飛ぶことは珍しいことかもしれない。
目立つ行為は避けるべきと、咲夜はそう判断し、空を飛ぶことは控える。
四つ目が、知り合いがいないこと。
咲夜はエミリアたちと別れたことを今になって後悔していた。
咲夜は、当然だがこの地での知り合いがいないため、辺り前の常識を簡単に聞くこともできず、また異世界文化の違いも知らないため、迂闊な行動も取れない。
もし、ガイドしてくれる知人がいれば、先ほど入った亜人専門店で、変に怒られるといったようなこともなかっただろう。
五つ目は、上記の四つよりも咲夜自身にとって重大な問題であった。
咲夜の時止めの能力が使用することが非常に難しくなっていたことである。
正確には、能力を使用させてもらえない、ことであった。
一人になった咲夜は、まず最初に時止め能力を使用してみようとした。
結果、いつも通り時を止めることはできたのだが、咲夜自身も時が止まったように体が動かず、そしてどこからともなく、あの時に見た黒い手が現れ、咲夜の心臓を握りつぶそうとしてきたのだ。
黒い手が自身の心臓に手が届く前に、能力を解除することで難を逃れるが、服は冷汗でびっしょりと湿っていた。
恐ろしい経験をした咲夜は、少し休憩を挟み、やや憔悴しつつも気持ちを落ち着かせる。
そして、今度は召喚魔法について知っている者がいないか、様々な人間に聞いて回ることにする。
しかし、その試みはそう上手くいかなかった。
そもそも魔法自体使える者が多くないようで、魔法に関して深い知識を持っている者はさらに絞られるらしい。
そして、有力な人間は、大抵、王都で働く者か、どこかの貴族に召し抱えられていると、いう話。
こうして、咲夜は召喚魔法について有力な情報を得ることは出来ずにいた。
中々上手く情報収集が進まない 咲夜は焦りを感じていた。
「この分だと、異世界から幻想郷に戻れるのは当分先になりかもしれないわね。いづれレミリアお嬢様が、八雲紫に掛け合ってくれるかもしれないけど、何の情報も無い世界になると、わたしの捜索は難航するかもしてない……」
問題は山積み。
簡単には元の世界に帰れないことを悟った咲夜は、今は、魔法の情報よりも差し当って、生活拠点を築くことの方が優先するべきだと思った。
咲夜はそう考えつつも、もう少しだけ情報収集に時間を割くことにした。
今度は召喚魔法についてではなく、咲夜がこの場所に来ることになった原因である黒い本について知っている人がいないか、聞いてみることにしたのだった。
もし黒い本を知っている人がいれば、真実に少しは近づけるかもしれないと、期待して。
「すみません。少しお尋ねしたいことがあるのですが、お時間を少し頂けないでしょうか?」
咲夜はちょうど視界に入った、道を歩いていた若い男の二人組に話しかけた。
男たちは話しかけてきた人物が、銀髪であることに一瞬、顔をしかめるが、相手が美少女の人間であることが分かると、態度を変え、気分良く相手をしてくれた。
「はいはい、どうしたの?」
「実は、この本について何か知っていることがあれば、お話を聞きたいのですが……」
「本? ……何か流行りの本かな?」
「流行っているかはわかりませんが、この本です」
男は質問してまで聞きたいことが、ただの本であることに男たちは一瞬眉を寄せるが、相手は美少女、特に断る理由もないので、すぐに態度を取り繕い、愛想よく咲夜の相手をする。
そして咲夜が本を差し出すと、男のうちの一人が徐々に顔色を青くしていく。
「こ、これって・・・」
「っ、何かしっているのですか!?」
男のうちの一人が声を震わせながらも、知っているような反応を見せたので、咲夜は今まで情報集めに成果が出ず、気持ちに焦りがあり、男に詰め寄る。
「ひっ! く、来るなーーー!」
咲夜に詰め寄られた男は、辺りに響き渡るくらいに大声で叫びをあげる。
咲夜と叫んだ男の横にいた友人は、その大きな叫びに驚く。
その大きな声は、人通りが多い場所にいたこともあって、周りの人の注目を集めてしまう。
男の友人は周りの目を気にしながらも、叫んだ男に理由を聞く。
「おい! 急に叫んでどうしたんだよ。お前らしくない」
「ば、ばか、お前、あの黒い本は……」
叫んだ男は、咲夜のことをまるで化け物でも見るかのような目で見つめ、咲夜の持つ本を震える指で指し、ゆっくりと話し出す。
「すみません、何か気に障ることでもしたでしょうか?」
咲夜は怖がられるようなことをした覚えが全く無かったため、困惑する。
場所が異世界で、異なる文化を持つ世界であるが故に、何か叫ばれることでもしてしまったのだろうかと、震える男に一歩足を踏み出す。
しかし、その行動は逆に相手を刺激してしまい、
「やめろ! 近づくな。魔女教徒め!」
「魔女教徒? いったい、それはどういう―――」
男の『魔女教徒』という言葉の意味が分からず、咲夜は質問を返そうとするが、そこで周りの様子がおかしいことに気付く。
先ほどまで人による話し声で賑やかだった通りの音が、消えている。
いや、正確には男のそばにいた友人、咲夜たちに注目して目を向けていた周りにいた人間は、その言葉を聞いて、シンと静まりかえっていた。
「おい、この子が魔女教徒って証拠は?」
「……彼女の持っている黒い本だ。魔女教徒は『福音書』を持っている。以前、魔女教徒になってしまった友人が、その子のもつ同じ本を持っていた。そして言ったんだ。これは『福音書』だって」
魔女教徒とが何を示すのか、咲夜は分からなかった。しかし、相手の反応を見るに良い意味を持つ言葉では無いことは察せられた。
そして、男の言葉により周りにいた人間たちも騒ぎ始める。
「お、おい、衛兵を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな、だれか、だれか衛兵を!」
(まずいわね。まさか衛兵を呼ばれるほど、この本が有名だったとはね。しかも最悪な方向で……)
周りの人間が騒ぎ、衛兵を呼ぶかどうかの騒ぎになったとき、異世界で自分の身元を保証できるものが何もない咲夜は捕まると面倒だと思い、その場を走って逃走を図る。
「あっ、逃げたぞ! やっぱり魔女教徒だったんだ! 早く衛兵に通報を!」
「だ、誰か、捕まえろ!」
咲夜が逃げ出したことで、いよいよ辺りにいた人間たちは、パニックになる。
咲夜が話しかけた男たちやその周り一帯の騒ぎが大きくなると、そこに声をかける者がいた。
「そこのきみ、何か事件でもあったのかい?」
「あ! え、衛兵さんですか?」
「え、まあ、今日は非番だったのだけれど、そうだね。何か問題があったのなら、話を聞かせていただけないだろうか?」
「よかった。実は――――」
話しかけた人物は、落ち着いた声で、聞いていて心地の良いはっきりとした声は、話しかけられた男を落ち着かせた。
そして話しかけられた男は、その場であった出来事を説明する。
既にその場を走り出していた咲夜は、遠く離れた場所にいて、そんな会話が繰り広げられていることに気付く事は無かった。
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咲夜はその場を離れることを最優先に、暫く走り続け、周りに人気が完全に無い場所に着いたことを確認できると、立ち止まり息を着く。
「ふう。ここまでくれば、ひとまず大丈夫そうね……。あまり良くないものだろうとは思っていたけど、騒ぎになるほど悪いものだったなんて」
咲夜は、騒ぎの原因となった黒い本を手に取って、それを眺め、苦々し気に言う。
本来なら、災いを招いた黒い本は、すぐにでも捨ててしまいたいところだったが、現状召喚魔法についての一番の手がかりでもあるため、捨てられず、仕方なくポケットにしまい、持ち続けることにする。
そして、咲夜は自身が逃げ込んだ場所を見渡す。辺りはすっかり日が暮れていた。
咲夜は知らなかったが、そこは貧民街という場所であった。
貧民街の人間は貧しく、窃盗や強盗は当たりまえな、治安の悪い場所であったが、そこに住む人間はみんな後ろ暗い過去を持つものが多い場所であり、人通りが少なく、人の目が付きにくい、ということもあって、図らずも咲夜は最適な場所に逃げ込んだようだった。
「さて、こうなった以上、この王都には長居できないわね。早いとこっ……!」
落ち着ける場所に着いたことで、一度、現状を整理しようとした咲夜だったが、急に背後の何かに悪寒に襲われ、そこから逃げるように横に全力で飛ぶ。
「おや、避けられてしまったようだ。」
「……いきなり現れて女性に襲い掛かるなんて、女性への扱いがなっていないんじゃないかしら?」
先ほどまで咲夜がいた場所の後ろには一人の男がいつの間にか立っていた。
男は赤い頭髪し、整った顔立ちをしながらも、凛とした表情で、咲夜を見ており、その男の右手で刀を作っていた。
どうやら、それで咲夜を背後から気絶させようとしたようだ。
「すまないね。できるだけ穏便に済ませるつもりだったのだけれども、事が事だったのでね」
「あなたは何者かしら?」
「これは失礼、自己紹介が遅れたね。僕の名前はラインハルト。先ほど大通りで銀髪のメイドの魔女教徒が現れた、なんて騒ぎがあってね。悪いけど、事情聴取に付き合ってもらいたい。抵抗をしないでいただけるとこちらとしても助かるのだけれども……」
咲夜は、ラインハルトと名乗った男を見て、その放たれる圧倒的な存在感に、首筋に冷汗をかく。
男から放たれるオーラにより、否応なしに自分よりも格上の存在だと感じさせられる。
あのまま立っていたら、確実にそのまま気絶させられていたであろう。
(ラインハルトという男、かなりの実力者ね。まだまだ余裕がありそうに見えるし、底が見えない……。こちらが能力を使えない以上、このままやりあうのも下策ね。なんとかスキをついて逃げるほうがよさそうね)
咲夜は相手が悪いことを悟り、ひとまず抵抗の意思を見せず、油断をしたところで逃げることを決め、会話に応じることにした。
「事情聴取……ね。悪いけど、ひどい誤解だわ。わたしはその魔女教徒という存在ではないわよ」
「なら、そのことを証明をするためにも、是非事情聴取に協力してもらいたい。誤解なら、誤解を解く必要がるだろうし、穏便にことを進められるなら、その方がお互いにとってもいいことだろうしね」
「分かったわ。協力しましょう。質問には何でも答えるわ」
(ひとまず、ここは従順な振りを見せて―――っ!? この感覚は!)
咲夜はラインハルトとの会話中に、突如、世界に変化が起きたことを知覚する。
それは、咲夜が時止めの能力を使用した時の感覚に似ていた。
そして、咲夜は周りの時が止まっていることに気付く。
(誰かが時を止めた?この世界にはわたしと同じ能力を持ったものがいる?)
咲夜は時が止まっていることは認識ができたが、体を動かすことはできなかった。
どうやら、時間の巻き戻りが起き始めている。
咲夜の周りの光景が目まぐるしく変わり、過去に起きた出来事が流れ過ぎ去っていくのを見て、咲夜はその事に気付く。
そうして時間の巻き戻りが終わると、咲夜はこの世界に来た時にいた場所に立っていることに気付く。
咲夜は、この先何度も時間の繰り返しに巻き込まれることになることはこの時、気付く由も無かった。
第五話、いかがでしたでしょうか?
咲夜は能力が使えない代わりに、スバルを除いて時間の逆行に気付くことのできる唯一の人間です。まあ、リゼロの二次小説はみんなそんな感じですが(笑)
咲夜はリゼロの時間の逆行に気付くことのできる理由で一番違和感のないキャラなので書きやすくて助かっています。むしろそれを狙っていた。何しろ咲夜は時止めの能力者ですしね。