ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

35 / 35
第十七話です。

クルシュ陣営の各キャラ登場です。



第十七話:カルステン公爵

「ようこそ、ようこそお越しくださいました。貴方が十六夜 咲夜様ですね?」

 

 そう問いかけた、咲夜の前にいる人物は、頭が白髪で覆われている一人の老人だった。

 しかし、高齢に見える彼は、その見た目の年齢に似合わず、背筋は真っ直ぐに伸びていて、体付きはがっしりとしており、かなり鍛えあげられた肉体をしているのであろうことが容易に窺えた。

 その彼から醸し出されている雰囲気はなかなかに迫力があり、現役の頃は相当の歴戦の戦士、いや、今でも現役ではないかと思わせるほどだった。

 

「はい。本日は、突然の訪問を了承していただきありがとうございます」

「いえ、我が主、クルシュ様も貴方には興味がおありの様でした。推薦した人物が、人物ですので……」

 

 体つきの割には非常に紳士的な態度の彼ではあるが、彼の主は咲夜に興味を持っていることを告げる割には、その理由に彼なりに何か思いがあるのか、少し含みを持った言い方をし、目を僅かに伏せる。

 

「アストレア家もそうでしたが、このカルステン公爵様の屋敷も立派な建物ですね」

 

 咲夜は空気を読んで、話題を目の前にある屋敷に変える。カルステン公爵本人ではないとはいえ、お客の出迎えを任される立場の人物に対して心証を良くしておいても損はないだろう、そう思惑あったの行動だったが。老人も咲夜の意を汲んだのだろう、咲夜に少し視線で礼をすると、咲夜の振った話題に合わせて返事を返す。

 

「その回答は、屋敷に入ってクルシュ様のお部屋に行く途中にでも……。中にどうぞ。クルシュ様もお待ちしております」

 

 老人は咲夜を屋敷に入れ、カルステン公爵がいると思われる部屋まで先導して歩き始める。咲夜は彼の後ろを付いていく。老人は視線を少し後ろに向け、咲夜が後ろについてくるのを確認すると、「先ほどのお話ですが……」、と前置きし、

 

「クルシュ様は、若い年齢ながらも公爵の当主の座を継ぎ、賢人会でも中心になるほどの傑物な方です。ここは本邸ではないとはいえ、責任のある立場は、それなりの責任に見合う屋敷を持つものですから」

「ええ、おっしゃる通りですね。貴族にとって屋敷とは権威を表すものの一つですから……。同じ国に住むものに対してだけでなく、他国に対しても。カルステン公爵様ほどの立場になれば、国外の代表の方にもお会いすることになるでしょうし」

 

 老人は咲夜が貴族の屋敷の意味について、少なからず理解があることに少し目を大きくして驚く。そしてふと、笑みを見せる。

 

「そこまで理解していらっしゃるとは……。わたしが貴方と同じくらい若い頃と違って、咲夜様は優秀なのですね」

「いえいえ、わたしなんてまだまだ若輩者です。この屋敷に来たのも勉強のつもりでもありますから……」

「貴方のような若く優秀な方がいると、この老骨にとっては先行きの明るい未来に希望が持てますな。……っと、着きましたね。この部屋にクルシュ様がいらっしゃいます」

 

 ヴィルヘルムが一つの部屋の扉の前で足を止め、咲夜も止まる。

 案内された部屋は意外と近かった。おそらく客を迎える部屋なので、そこまで奥の部屋に位置していないのだろう。

 

「ありがとうございます。失礼ですが、貴方のお名前を窺っても?」

「これは失礼。まだ名乗ってはいませんでした。この老骨、名乗るほどのものではありませんが……ヴィルヘルム・トリアスと申します。ヴィルヘルムと、そうお呼びください」

「分かりました。ヴィルヘルム様、ここまでの案内ありがとうございます」

「いえいえ、これが仕事ですので。では、お部屋に入りますね」

 

 ヴィルヘルムは、そう言うと、扉に向き直り、ノックをして中から返事が返ってくるのを待つ。すると、中から要件を聞く女性の声でし、ヴィルヘルムが返事をする。そして、中に入るように言われ、ヴィルヘルムが扉を開ける……。

 

 さて、いよいよご対面ね。今まで会った二人の女王様候補は、少々突飛な人物だったけど、今度のは本物の貴族。ヴィルヘルムほどの人物を従えるほどの人物に、咲夜は少し期待に胸を膨らませる。

 

 

 

 

 

 

 ―――何故、咲夜がカルステン公爵の屋敷に来ることになったのか、その経緯を語るには、咲夜がラインハルトに対して、屋敷に来た要件を告げたところまで時を遡ることになる。

 

 咲夜がラインハルトに要望として求めたことは、カルステン公爵で働きたいので、その伝手になってほしいことだった。それを聞いたラインハルトは、少々驚いた顔をしたが、その後二つ返事で了承。すぐに使いを出してくれたのだった。そして、カルステン侯爵から返事が返ってきたのは次の日の午前中。返事は、午後に咲夜に会う時間を作ってくれるとのこと。あまりにも上手く行き過ぎと咲夜でも思ってしまったが、やはり事はそう簡単にはいかなかった。

 

 正式に雇うかどうか、面接を合格し、さらにある程度の試用期間を持って判断することにする。

 

 そう、返事が返ってきたのだ。しかし、ラインハルトというコネを使ったとはいえ、正直、貴族の中でも位の高い公爵家で働くチャンスがあるだけでも僥倖というもの。それでもチャンスを貰えたのは、アストレア家、そして剣聖であるラインハルトのお願いだから、というのが大きいだろう。咲夜は、メイドとして仕事に対して自信があったため、むしろ望むところと気合が入った。

 

 面会の日付は、咲夜がアストレア家に来た翌日の午後。思った以上に急な話だが、カルステン公爵の都合もあるのだろうが、ラインハルトの計らいも有った結果だろう。

 咲夜はまだこの時点では正式にカルステン家に雇われたわけではないので、正式に雇われることが決まるまでは、アストレア家にいてくれても構わないとラインハルトに言われる。行く当ても無かった咲夜はラインハルトの申し出をありがたく思い、好意に甘えさせて貰い、咲夜はアストレア家で前回と同じ部屋の自室が与えられていた。

 

 

 

 

 

 ―――そんなわけで、咲夜はカルステン公爵家に来ることとなったのだった。そして、今まさにその公爵と会うこととなるのだった。

 

 ヴィルヘルムが扉を開けると、そこは客を出迎える部屋なのか、真ん中に立派なテーブルが一つ。そのテーブルの横に、向かい合うように対称的にソファーが一つずづ置いてあった。

 部屋の中には二人の女性がいた。向かって右側のソファーに座っている男装のような服を着た女性とその傍に仕えているように立っている可愛らしい服装をした女性がいた。

 

 ソファーに座っていた人物が、咲夜が入ってきたことを確認するとソファーから立ち上がってこちらに向き直り、

 

「貴殿が十六夜 咲夜殿だな? わたしの名はクルシュ・カルステン。急な話で申し訳ないが、わたしも忙しい身。時間が空いているのがこの時間しかなくてな。悪く思わないでくれ」

「はい。わたしが十六夜咲夜です。今回のお話は完全にわたしの都合の話。むしろ貴重なお時間をわざわざ割いて頂き感謝しています」

 

 クルシュ・カルステン公爵は、先ほどヴィルヘルムの言っていた通り、若い女性だった。年齢は咲夜と変わらないくらいで、少し年上といったところだろうか。女性の身で有りながら、服装は男装のようなものを着ており、口調も男らしい。

 

「では、そちらのソファーに座ってくれ」

 

 クルシュは、自分の座るソファーと対面にあるソファーを指して、咲夜に座るよう言う。咲夜はその言葉に素直に従い、ソファーに座り、一緒に部屋に入ったヴィルヘルムは、クルシュの側のソファーの後ろに立って控える。

 

「さて、まずは私の従者についてフェリスを紹介しようか……。後ろにいるのは、フェリックス・アーガイルだ。こう見えても王国の騎士団に仕えるものだ」

「フェリックス・アーガイルだよ。フェリスって呼んでね。よろしくねん」

 

 クルシュに紹介されたのは、クルシュの後ろに控えていた女性だった。彼女は咲夜を興味深そうな視線で見ながら、こちらにウインクして挨拶してくる。第一印象としては、華奢な体付きで可愛らしい服を着飾った彼女はとても騎士団に仕えるものとは見えなかった。彼女の細腕で、果たしてクルシュを守れるのだろうか。クルシュの方がよっぽど武人のように見える。咲夜がそう考えていたことが想像できたのか、クルシュが彼女について補足する。

 

「フェリスは、武人としてではなく、治癒術の腕を買われて騎士団に所属している。その腕は青の称号を認められるほどだ」

「それは、……すごいですね」

 

 『青の称号持ち』。その言葉を聞いて、アストレア家にいたときにラインハルトに教えられたことを思い出す。ラインハルトは、青の称号持ちが騎士団にいると言っていたのを。

 前知識があったため、咲夜にも彼女の凄さが少しは想像できた。少なくともこの王国には、二人といないほどの腕の持ち主なのだろう。  

 

 ルグニカ王国に二人しかいない色の称号持ちに、こんな短期間で二人とも会えるとは。果たして幸運なのか、そうでないのか、悩むところね。

 

「っと、話が逸れてしまったな。早速本題に入ろうか。本日こちらにご足労頂いた理由については既に、そちらに通達済みではあるが、今一度確認しておこうか」

「はい」

 

 クルシュは、話の内容が逸れていることに気付き、コホンと咳払いを一つして、軌道修正する。そして姿勢を改めて正し、先ほどの柔らかな視線で見てきた表情を引き締め、こちらを真剣な瞳で見つめてくる。それに対して、自然と咲夜も意識を切り替え、こちらも真剣になる。

 

「そちらからの信書には貴殿がこの屋敷で働きたがっていることは、剣聖殿からの親書に書いてあった。それに対して、申し訳ないのだが、すぐに貴方を雇入れることを了承するわけにはいかない」

「―――」

「誤解してほしくないのだが、こちらも貴方を雇いたくない、と言っているのではない。剣聖殿が推薦するほどの人物だ。きっと優秀なのだろう。だが、こちらとしても貴殿が信用に値する人物で、さらに言えば、雇入れるほどに値する人物か、見定めなければ答えは出せない。……理解頂けるか?」

「ええ、勿論です。剣聖様にとっては知り合いでも、そちらとわたしは赤の他人。知らない人物のことであれば、すぐに判断できないのは当然です」

「理解を頂けてありがたい。そこで本日はその見定めとして、面接を行いたい。まずは、我が屋敷で働きたい理由を聞かせていただきたい」

「わたしが、この屋敷で働きたいと思った理由は―――」

 

 いよいよ、始まった面接。

 咲夜は問われた事にどう答えるべきか、一度、瞳を閉じて思考を整理する。

 そして、目を開き、相手を見つめ、口を開いてその思いを告げるのだった。




それぞれのキャラの性格を意識して、
どのような会話を語らせるのか、考えるのが意外と大変でした。
まぁ、フェリスは一言しか発言してなかったですが(笑)

口調に違和感があれば、ご報告くださると助かります。

それにしても、クルシュ陣営は咲夜がいじれるキャラがいないので、
暫くは真面目なお話になってしまいますね。
いや、作者はいつも真面目にお話を考えていますが……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。