ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

34 / 35
お待たせしました。
第十六話です。

最近は改訂作業にも時間に割いていたため、投稿が遅れてしまいました。



第十六話:繰り返される日常

 『時間の逆行』。

 

 かつて盗品蔵で起きた事件を解決するまで幾度も繰り返されたスバルの死に戻り。

 咲夜が時間の戻りに気付かなかったのは、咲夜が眠りについている間にそれが行われたから。

 そして、この時間からスタートしたのはこのタイミングでスバルが目覚めたから。

 

 状況から推測できるのはここまでだった。

 

 盗品蔵の事件前まで戻らなかったのかは謎であるが、そこまで時間が戻らなかったのは助かった。

 そう思い、あのエルザとの戦いの努力が徒労にならずに済んだことにホッとしてしまう咲夜。

 

 それにしても、事件の解決とともにもう起きることはないと思っていた時間逆行。

 まさか僅か5日目にして再発するとは……。

 

 咲夜がそう思うのも無理は無かった。思わずスバルへの不満の思いを抱きそうになるも、今一番考えるべきことは他にあるため思考を切り替える。

 

 時間の逆行――つまりその状況が示す意味は、スバルが死んだということ。

 スバルが死ぬことによって魔女によって発動する能力、時間逆行の力。

 

 現状、咲夜一人で考えて分かることはそれだけ。

 咲夜にはスバルの死因が何かは分からないし、どうしてこの時間に戻ったのかさえ分からない。

 いずれにしても、あの男――スバルの死にやすさは異常だ。

 まるで誰かがそう仕組んでいるのかと疑いたくなってくるほどに。

 

「とりあえず、スバルの様子を見に行こうかしら」

 

 これ以上は考えてもしょうがない、そう判断したところで、扉をノックする音が聞こえる。

 

 扉を開けると廊下にはレムが待っていた。

 

 彼女は一礼すると「わたくしはロズワール邸に仕えるレムと申します」と挨拶してくる。

 前回の時間軸とは行動が異なるレムに疑念を抱く咲夜だが、彼女から告げられた言葉によって、その理由は明かされることになる。

 

「わたしはエミリア様からお客様を診て欲しいとお願いされました。多少の治療術の心得がありますので、もし良ければ診ますが?」

「……お気遣い、ありがとう。でももう大丈夫。知らない場所にいたものだから少し混乱してしまっただけよ」

「……分かりました。もし、何かご入用であればレムに申し付けてください」

「そうね……、今からスバル、もう一人運ばれた男の様子を見に行こうと思ってるんだけど、この隣の部屋にいるのよね?」

 

 咲夜は前回通りスバルが隣の部屋にいることをレムに確認するが、彼女は少し申し訳なさそうな表情をする。

 

「申し訳ありません。お連れのお客様は目覚めると部屋を飛び出してしまいまして……。現在、同じくこの屋敷のメイドであるわたくしの姉とエミリア様が捜索しています。」

「飛び出した……」

「はい。ただ、お連れの方はすぐに見つかると思いますので、どうかそれまではお客様はお部屋でお待ちになってください」

 

 スバルが部屋を飛び出した。

 

 何故飛び出したのか、レムに確認するが彼女も原因は良く分からないらしい。

 恐らく、死に戻りした影響だろう。

 咲夜が取り乱したようにスバルも何か思うところがあったに違いない。何せ死んだのだから。

 

 それはスバルと同じく何度も時間逆行し、彼の死を見た咲夜だけが予想出来ること。

 詳細については分からないが、スバルを探す必要がある。

 

「スバルの状況は分かった。わたしもスバルを探すわ」

「いえ、お客様にご迷惑をおかけするわけにはいきません。お客様はお部屋で休んでいてください。それに、病み上がりに無理をしては、体調に障ります」

「手は多い方が良いでしょう? それにわたしも屋敷の外に出て、少し外の空気を吸いたいの。事のついでだから気にしなくてもいいわ」

「そこまで、おっしゃるのならば……。ですが、あまり無理をなさらないで下さい」

「ええ。肝に銘じておくわ」

 

 屋敷の庭への出方を教わり、レムと別れた咲夜は部屋に戻り着替えた後、ロズワール邸の表にある庭に出る。

 すると、そこでスバルはあっさりと見つかった。

 庭には心配そうにスバルを見ているエミリアと、眠たげなそうな表情で彼女の肩に乗るパックの姿もあった。

 スバルはそこでエミリアに笑顔で話しかけていた。

 

 なんだ。元気そうじゃない……。

 

 想像以上に簡単に見つかり、元気そうな姿をするスバルを見て拍子抜けする咲夜。

 

「部屋を飛び出したと聞いて心配して探してみたけど……そんな心配は杞憂だったようね」

「あ! 咲夜はもう大丈夫なの? まだしっかりと休んでいた方が……」

 

 声をかけた咲夜にエミリアとスバルが気付き、エミリアは咲夜の傍に心配そうな表情をして駆け寄ってくる。

 

「心配かけて悪かったわね、エミリア。もう大丈夫だから」

「そう? なら良かった。あまり無理をしちゃだめなんだからね」

「……何か、あったのか?」

 

 本当に問題なさそうだと、先ほどの調子の悪そうな咲夜と違う姿を見て安堵するエミリア。しかし、スバルは少し穏やかでない会話に怪訝そうな表情をして聞いてくる。

 

「いえ、大した事でないから気にしないで。それより、貴方部屋を飛び出したんだって?」

「っう……」

 

 痛いところを突かれたというような表情をするスバル。

 

「体調はもう大丈夫なの?」

「…………」

「どういたのよ?」

「いや、咲夜たんから心配されるとは思わなくて……。てっきりまたそれでイジられるかと」

「……スバルはわたしのことをどう思っているのかしらね?」

「い、いやぁ……はは」

 

 スバルは頭に手をあて、困った表情をして苦笑いして誤魔化す。

 そんなスバルに咲夜は呆れる。

 

「元気そうで良かったわ。殺されたと思って気が動転でもしてたのかしら?」

「……い、いや、実はそうなんだよ。平和にぐーたらな生活を送ってきた俺にはなかなかヘビーな体験だったぜ」

 

 咲夜の言葉にスバルはやや動揺しながらも肯定する。

 

「え!? そうなの、スバル!? ここなら怖がらなくても大丈夫だから。今はパックもいるし、悪い人が来たらわたしが守ってあげる」

「その言葉は嬉しいけど、女の子に守られるのは素直に喜べない複雑な男心……」

「素直に守ってもらったら?」

「い、いや俺にも男としてのプライドが……」

「そう。なら良いけどね」

 

 一応、死に戻りしたスバルへの咲夜なりの気遣いだったが、スバルなりに矜持もあったようだ。

 仮にも虚勢を張れるなら大丈夫だろう。咲夜はスバルの態度からそう判断した。

 

 そこからは、前回と同じ時間の流れを踏襲するかのように会話が進む。

 

 パックにお願いごととしてスバルはモフリ権を貰い、咲夜はロズワールへの咲夜の要望への口沿えをしてもらうよう約束する。そして、会話が終わる頃にロズワールが到着し、食堂で食事が。食事が終われば、盗品蔵での事件の件の概要を説明され、その事件の功労者の褒美としてスバルが雇ってくれるようお願いし、聞き届けられる。

 

 ここまで、同じようにやり取りが進んだのは、咲夜があまり前回とかけ離れた行動をとらないように心がけたこともあるが、スバルもそれに合わせるように前回の時間軸と同じような行動をとったからだ。

 通常、前回と同じ失敗をしないようにするなら、同じ行動は取らないはず。そう考えていた咲夜からすれば、スバルの行動は理解出来なかった。しかし、敢えての行動を取るなら何か理由があるはず。一先ず、咲夜はそう納得し、スバルの思惑に便乗させてもらうことにしたのだった。

 

 そして、スバルの望みを聞いたロズワールから前回と同じように咲夜に対しても要望はないか聞いてきた。

 咲夜はそれに対し、前回と同じ3つの願いを告げる。

 つまり、それはお金と王都までの竜車とアストレア家訪問への橋渡しであった。

 

 スバルによって死に戻りして時間が戻ってしまった。

 勿論、スバルと協力して原因の解明と解決に協力することも考えた。

 しかし、咲夜にとって最大の目的は幻想郷へ帰ること。周り道をするつもりもない。

 それにわざわざ自分から死の危険があるかもしれないことに首を突っ込むつもりもない。

 スバルも馬鹿ではないはず。流石にエルザみたいに理不尽な状況でなければ、そうそう同じ失敗もしない

はず。咲夜はそれなりにスバルのことを評価していたのだ。

 だからスバルに対して何か干渉を行うことをしない。咲夜はそう決めていた。

 これでいいはず。咲夜は要望を告げた時にスバルが一瞬、見せた寂しそうな表情が頭によぎったが、気のせいだと自分に言い聞かせる。

 

 そして、前と同じように咲夜の3つの願いでひと悶着あり、前回と同じやり方で無事解決する。

 

 その後、その日は屋敷に泊まり翌日は竜車に乗ってアストレア家まで移動。

 ラインハルトが出迎えがあり、夕食の時間まで言葉の勉強。

 夕食の時間になり食堂でフェルトを含めたアストレア家のメンバーに会う。

 ここまでは、前回と一緒。

 しかし、それ以降は咲夜は前回と同じ行動を取るつもりは無かった。

 

「さて、食事も済んだことだし早速本題に入ろうか。咲夜が我がアストレア家へ訪問した理由について聞かせて欲しい」

「わたしが王都での仕事を見つけるまでの宿の提供と、仕事の斡旋をお願いしたいわ」

「宿と仕事の斡旋」

「そう。少しの間、王都で用事があってね。それを解決するまで暫く時間がかかりそうだから、この王都に滞在したいの。でもお金もそんなに持っていないから……」

「なるほど。それで仕事を」

「ええ」

「なら、いい仕事先があるんだけど――」

「ごめんなさい。実は働き先も希望があるの」

「希望を聞いても? 咲夜にはフェルト様を助けて貰った恩があるからね。僕の方でも何か力になれたら協力するよ」

「ありがとう。わたしの仕事の希望先は、クルシュ・カルステン。カルステン公爵の屋敷よ」

 

 咲夜は前回に関わったこのアストレア家でフェルトたちを見ている間に、改めて主と従者の関係について考えさせられることがあった。

 王選には主とその一番の従者として騎士が付き、競っていくことになる。

 ならば、王選候補者はみな、従者の存在がある。

 となれば、他の候補者たちにも彼らなりの主従の関係があるはず。 

 

 咲夜は他の候補者たちに興味が沸いたのだった。正確には主従の在り方について。

 アストレア家では咲夜の考える主従関係とは異なる姿を見た。

 

 今回はフェルトには悪いが、他の候補者と関わっておきたかった。

 それにどの候補者の近くにいようと、この王都にいれればいいのだから……。




 久しぶりのエミリア陣営の登場。
 でも短い間でしたね……。
 スバル君の活躍を期待していた人がいたらごめんなさい。
 彼らはまた、もう暫くの間登場しなくなります。

 咲夜さんとしては現状は幻想郷の帰郷が最優先ですので、スバル君が死に戻りしても敢えて助けようとはしません。
 まだ一回目だし……、そういう思いもあります。

 次回は珍しくも第二章で登場するクルシュ回になります。
 果たして咲夜は無事、カルステン侯爵家で働くことが出来るのか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。