ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

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 第十五話です。
 
 次話を書いたら、大分内容が長くなってしまったので、二話に分けました。
 そのため、十六話と連続投稿になりました。

 あと、セリフ以外の文も一行一行改行するようにしました。
 そちらの方が見やすいと思いましたので。
 それに伴い、既存の話も全部改行作業を行いました。


第十四話:探し人

 時刻は、まだ日が昇って間もない午前中の時間。

 咲夜は以前、盗品蔵があった場所に来ていた。

 今は瓦礫の山だけしかなく、盗品蔵に有った酒瓶や家具などは壊れ、散乱している。

 

「居ないわね……」

 

 咲夜はロム爺を探しに来ていた。

 昨日は、フェルトと一緒に探しに来ていたが、途中で邪魔が入り盗品蔵にまで足を運ぶことが出来なかった。

 咲夜は寂しそうな顔をしたフェルトが気になり、ラインハルトに午前中に外出願いを出してまで、探しに来ていたのだった。

 日々の安眠のお礼というやつだ。

 

「時間が早すぎたのか、そもそも盗品蔵には全然来ないのか」

 

 咲夜が一人盗品蔵前で考えに耽っていると、咲夜に近づいて来る者たちがいた。

 

「なぁ、姉ちゃん。女が一人でこんなところにフラフラと出歩いてちゃ、危ねぇぞ。へへ」

「俺たちが、安全な場所まで案内してやるよ。ひゃははは」

 

 見るからに柄の悪い連中が咲夜を取り囲んでいた。

 彼らが咲夜に対して言葉通りに好意的に近づいて来たわけではないことは彼らの態度を見れば明白だった。

 

「あなた達、ロム爺を知らないかしら? 体が大きなお爺さんの」

「何だ? ロム爺さんを探しているのか……さあ? 知らねえなぁ。それよりもいい場所に案内してやるよ」

「そう。知らないのね。残念。ならここにはもう用は無いわね」

「なら、俺たちと一緒に……なっ!?」

「……っ!? 空を、空を飛んだ!?」

「次は王都の表の通りね」

 

 咲夜は空中に浮かび、貧民街の連中からは手が届かない場所まで浮遊する。

 そしてこちらを呆然と見上げるだけの彼らを後目に咲夜は王都の賑やかな表の通りの方へと飛んで行く。

 

 王都の表の通りは相変わらずの賑わいだった。

 沢山の人が行き交うこの道で人探しするのは、大分困難な話ではあったが、何も情報が無い状況では地道にやるしか無かった。

 朝に屋敷に出る時に見送りに来たラインハルトに、「昼食は一人分多めに作ってもらうようキャロルさんに伝言をお願い」と、格好付けて言ってしまったy手前もあり、何も成果が無い状態で返るのも恥ずかしい。

 

 正午までは後、三時間しかなかった。

 

 その後も咲夜は王都の通りでロム爺を探す。

 時折、通りの人に話しかけ、ロム爺の風貌に似た人物を見てないか聞くが、有益な情報は無い。

 似た人物の情報が見つかったと思えば、全く似つかない人物だったり、話かけた咲夜を見てナンパをしてくる男性もいた。

 この辺りは、表も裏の人間の男は変わらないらしい。

 最も、咲夜が冷たい目をして断れば、諦める素直さはあったが。

 こうして咲夜はロム爺が見つからないまま、時間がどんどん過ぎていく。

 

「もうすぐ正午……不味いわね」

 

 咲夜は時間が徒に過ぎていくことに焦りを感じていた。

 一番当てにしていた盗品蔵だが、フェルトがいなくなってから何日も経っている。

 いつまでも盗品蔵に居ないのは当然かもしれない。

 相手もきっとフェルトを探しているだろうから。

 

 咲夜は、王都の道に立ち並ぶ屋台をなんとなく眺めながら歩いていると、「よう嬢ちゃん」と咲夜に声をかける者がいた。

 咲夜はまたナンパかと思い、振り返ると、昨日もあったリンガ売りの厳つい男だった。

 咲夜は、気が付けばリンガ売りの屋台の前まで歩いてきていたのだった。

 

「昨日ぶりだな、嬢ちゃん。今日はフェルトの奴と一緒に居ないみたいだな。どうだ、今日もリンガを買っていかないか?」

「あいにく、今日は買い物目的じゃないのよ」

「なんだ、そうなのか。そりゃ残念だ」

 

 ふと咲夜はその会話で、何度もスバルの時間逆行のループに巻き込まれている時に、盗品蔵でロム爺で二人した会話を思い出す。

 その時にリンガ売りの話をした。

 もし、ロム爺が知っていたのがこのリンガ売りなら……。

 

「ねぇ、あなたロム爺、フェルトの保護者みたいな存在の大柄な老人だけど、どこにいるか知らないかしら?」

「……まぁ、フェルトの知り合いなら言ってもいいだろう。あいつなら数日前に見かけたきりだな。その時にお昼頃になると盗品蔵に行っているって言ってたな」

「盗品蔵? お昼に?」

「ああ。何でもフェルトを探しているとかで。そういや、まだフェルトと会えてねぇのか?あいつ」

「そうみたいね。助かったわ。貴重な情報ありがとう。リンガ8個買うわ。銅貨16枚ね」

「おう! 毎度あり! へいお釣りの銅貨1枚」

「? ここはリンガ1個、銅貨2枚じゃなかったかしら?」

「嬢ちゃんは美人だからな。それにあの爺さんは知らない仲でもないしな。1枚おまけしてやるよ」

「……」

「ん? どうした、嬢ちゃん?」

「……いえ、何でもないわ。ありがとう。……ふふ」

「?」

 

 咲夜はお釣りとリンガを受け取ると、頭を傾げている屋台の男の前から礼を言って立ち去る。

 盗品蔵でのロム爺との会話の中にリンガ売りで銅貨15枚でいくつ買えるか、そんな話をしたことも思い出して、咲夜はつい可笑しくなってしまい、笑いが零れてしまったのだった。

 

 時刻は丁度お昼頃。

 咲夜は、もう一度盗品蔵に訪れると、果たしてロム爺はそこにいた。

 瓦礫に腰掛け、大きな体をした彼の後ろ姿を確認した咲夜は安堵のため息を漏らす。

 

「久しぶりね。お爺さん」

 

 咲夜に声をかけられ、ロム爺は振り返る。

 振り返った彼は、何者かと訝し気に咲夜を見るが、顔を見ると正体が分かったのか、驚いた顔に変わる。

 

「何じゃ? ………嬢ちゃんか。久しぶりと言われると程、そんなに日が経っていないじゃろう。小僧とは仲良くやっとるか?」

「……そのネタはもう良いでしょう? 別に彼とは付き合ってないわ。あれはあの場での嘘だったのだから」

「そうなんか。以外とお似合いな気がしたのじゃが……」

「そんな話をしに来たんじゃないの。それよりもフェルトのことよ」

「!? お前さん、フェルトがどこにいるか知っておるのか!? どこじゃ、フェルトは!?」

 

 フェルトの話題になり、ロム爺はフェルトのことを余程心配していたのか、取り乱してフェルトがどこにいるのか聞いてくる。

 

「落ち着きなさい。今、フェルトはアストレア家にいるわ」

「アストレア家‥‥よりにもよってあの家か」

 

 咲夜からフェルトの居場所を聞けたことで、取り乱したロム爺は落ち着く。

 そしてフェルトがいる場所が分かると、過去にアストレア家と何かあったのだろうか、苦々しい表情をする。

 

「取り合えず、貴方が見つかって良かったわ。わたしは貴方をアストレア家に連れて行くために来たのよ」

「アストレア家に?」

「ええ。フェルが貴方のことをずっと心配していたわよ。早く会ってあげなさい」

「……何故、フェルトがアストレア家に連れて行かれたか、聞いても良いか?」

「屋敷で聞きなさい。もうお昼になっちゃってるから。フェルトがそろそろお腹が空いたと、癇癪起こしてるかもしれないわ」

「仕方あるまい。分かった。連れてけ」

 

 咲夜にロム爺は、付いて貧民街を抜けていく。

 途中、貧民街で先ほど咲夜に絡んできた連中も見かけたが、傍にロム爺がいると、悔しそうに歯嚙みしながらも引いていく。

 盗品蔵が無くなっても、貧民街には未だにロム爺の影響力はそれなりにあるようだ。

 

「ねぇ。貴方はいつもお昼になると盗品蔵に行っていたと聞いたけど、どうして?」

「誰に聞いた?」

「リンガ売りの厳ついオジサマよ」

「あいつか……確かにあいつには言ったかもしれん。理由は単に、昼になれば腹を空かしたフェルトが来るかもしれない、って思っただけよ」

「……そ、そう」

 

 理由は至って、家族愛溢れる感動的なものだった。

 いつまでも帰らない、幼い孫が返ってくるかもしれないと、待つ老人。

 第三者がこの話を聞けば、感動的な話だと思うかもしれない。

 しかし、実際は待っている老人が、筋肉粒々の大柄の厳ついジジイ。

 感動しようにあまり感動出来ない、咲夜だった。

 

 

**********************

 

 咲夜とロム爺がアストレア家に着くと、ラインハルトが出迎える。

 

「お疲れ様。用事は無事に済んだようで、良かった」

 

 ラインハルトは咲夜の隣にいる人物を見て、咲夜の午前中の頑張りが徒労に終わらなかった事を喜ぶ。

 

「まぁ、少しお昼には遅れてしまったけどね。もうお昼は始まっているかしら?」

「皆、咲夜の帰りを待っていたから、大丈夫だよ。フェルト様は「姉ちゃんはまだかー!」って、焦れているようだけどね」

「……これ以上、機嫌を損ねないうちにさっさと行きましょう」

 

 咲夜たちが門をくぐり、屋敷の中を通ると、庭であるものを目にする。

 荷車を押すグリムの姿。そしてその荷車には、三人の若者が仲良く重なられて乗せられていた。

 

「あれは、何をしているのかしら?」

「ああ。あれはラチンスたちが朝、逃げ出そうとしてね。爺やに見つかってずっと気絶させられていたんだよ」

「わたしが朝出かけた時には見かけなかったけど……」

「表の庭にずっと転がしてるのも見栄えが悪いからって、庭の木々の所に転がしていたって言ってたよ。もうお昼の時間だから、流石にそのままにしなかったようだけどね」

「ふむ。貧民街で見かけたことのある顔じゃな」

 

 どうやら咲夜が朝気付かなかったのは、グリムによって庭の木陰に彼らを隠していたらしい。

 しかし、咲夜は他にも疑問があった。

 

「別に逃げたきゃ、逃がしても良かったんじゃないの?」

「確かに逃げるだけなら構わないんだけど、彼らは屋敷の調度品などを持ち逃げしようとしたんだよ」

「納得いったわ」

 

 そうして、咲夜たちは食堂に向かう。既に食事の並ぶ食堂のテーブルには、フェルトが着席していた。

 

「姉ちゃん、おせぇぞ!」

「ごめんなさい。少し用事が長引いてしまってね」

「用事って何だよ?」

「それは、ほら! 入ってきて良いわよ」

 

 咲夜の合図に、ロム爺は扉を開けて食堂に入ってくる。

 

「フェルト。元気にしてたか?」

「ロム爺!? な、何でロム爺がここに!?」

 

 突然のロム爺の登場に、フェルトの目を丸くして驚く。

 彼女の疑問に、ラインハルトが答える。

 

「それは咲夜が連れて来てくれたんだよ」

「姉ちゃんが?」

「ええ。この屋敷で随分と寂しそうにしていたからね。保護者も一緒に居た方が安心するでしょ?」

「べ、別にそんなに心配してねえよ! ロム爺のことだから、どっかでしぶとく生きているに違いないって思ってたしよ」

「フェルト、わたしは心配していたとは言ってないわよ」

「――っ!!」

「なんじゃ、フェルト。そんなに儂のこと心配してくれておったのか?」

 

 フェルトは口で否定するも、自らボロを出すフェルト。

 事実、顔を真っ赤にしながらも、口角はわずかに上がっていていた。

 嬉しさを隠せていないのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 隣に座ったロム爺にフェルトは久しぶりに会えて安心したのか、明るい表情で話始める。

 ロム爺もようやくフェルトに会えたフェルトと楽しそうに話している。 

 二人の会話は、グリムが運んできた白目をむいたラチンスたちを席に座らせ、キャロルも含め、全員が食堂に集まり、食事が始まっても会話は続けられた。

 

「それにしても、そこの三人の昨日の態度からして逃げ出さないと思ったのだけどね」

「どうせ、一晩経ったら考えが変わって逃げ出そうとしたんだろ。んで、逃げる途中で爺ちゃんに見つかってこうなったと」

「なるほど。らしい結論といえばらしいが……想像がついておったのか?」

「こうなるんじゃねーかなってのは昨日から思ってたし、婆ちゃんたちに言っといたもんな」

「ええ、フェルト様から言われておりましたから。お爺さんも頼られたのが嬉しいのか張り切ってしまって」

 

 キャロルの答えに、グリムは肩をすくめる。

 口の利けない彼は、紙に言葉を書く、かこうして態度で示すことがほとんどだ。

 

「それにしても、面白いものですね。ほんの数日前まで一生懸命に逃げ出そうとしていたフェルト様が、今度は別の人たちを逃がさないように釘をお刺しになるんですから」

「あ、婆ちゃんそれ言う?」

「フェルトが一生懸命、逃げ出そうとしていたとな?」

 

 痛いところを突かれた顔のフェルトに、ロム爺が興味深そうな顔をする。

 

「フェルト様とは、屋敷をお連れして以来、一つ約束をしていまして。僕を除いた爺やたち、この屋敷の住人の目を盗んで屋敷を抜け出すことができれば、フェルト様を追わないと」

「なるほどな。売られた喧嘩をむきになって買ったところが目に浮かぶわい。大方、毎日毎日やり込まれておったんじゃろう?」

「見てきたみてーに言うなよ……あー、だからロム爺には聞かせたくなかったのに」

「そこの気絶している三人組もそうじゃが、わしはメイドのお嬢ちゃんがいる事の方が驚きじゃがの? お主、元からこの屋敷のメイドじゃったのか?」

「いいえ、違うわよ。わたしの主は別にいるわ。……色々と事情があって、今は一時的に、ここのメイドとして働いているけどね」

 

 咲夜がアストレア家にいるのは、あくまでも幻想郷に帰るため。

 ここ王都で情報収集するためには、仮の宿が必要。

 幻想郷のお金が使えない以上、資金も必要。

 咲夜にとってここにいるのは都合が良いからに過ぎない。

 

「咲夜には、王選でのフェルト様の支えになって欲しいからね」

「ずっと一緒に居られる保証はないんだけどね……」

「それでも、それまでは一緒にいてあげて欲しいと思っているんだよ」

「王選……」

「ああ、そういや、ロム爺にはまだアタシがこの屋敷に誘拐された理由を話して無かったな」

 

 そもそもフェルトが貧民街でラインハルトに捕まり、彼の屋敷に軟禁されたのが事の始まり。

 以来、逃げようとするが、その計画はことごとく失敗。

 そうして逃げ出せずに時間が過ぎ、今日に至っている。

 

「王選……王位争奪戦か。ったく、とんでもねー話に巻き込んでくれやがって」

 

 フェルトの恨みがましい呟きに、ラインハルトは涼しい顔を崩さない。

 

「それで、フェルトが何故、この屋敷に連れて行かれたのか、説明してくれんかの?」

「それは僕の口から説明するべきだろうね」

 

 ロム爺の疑問にラインハルトは、そう切り出して説明する。

 

 王選―――それはこの親竜王国ルグニカにおける一大事変、その俗称のようなものだ。

 

 半年前に、起きた伝染病により、ルグニカ王国の王族が次々と病死し、現在の王座は空位。

 フェルトは次の王位の候補者として祭り上げられた。

 自治は過去に誘拐されたい王族の生き残りではないかと疑われて。

 

 フェルトは、具体的に何ができるか、まだ何も分かっていなかった。

 それでも、このままではいけない、という確かな熱が彼女の胸の中にあった。




 やっとロム爺と再会できたフェルト。
 
 寂しそうなフェルトが気になった咲夜さんの気遣い。
 咲夜はフェルトのことを意外と気に入っているようです。

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