ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

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作者は悪党ではありませんが、こんにちは。

エミリアさんの初登場回です。

2016/05/20 改訂

2017/06/10 改訂


第三話:――そこまでよ、悪党

「――そこまでよ、悪党」

 

 路地裏でチンピラに絡まれ、土下座をしていたスバルを助けようとしていた咲夜は、突如聞こえてきた第三者の声に動きを止める。

 声の主に目を向ければ、そこには咲夜と同じ長い銀髪を靡かせ、鋭い瞳でこちらを見てる美しい少女がいた。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。そこまでよ!」

 

 白いコートを着たそのどこか幻想的な美しさを持つ少女の存在感に、その場にいた男たちは圧倒される。彼女から敵意を向けられたチンピラたちは、表情を青ざめさせ後ずさる。

 

「待て待て待て! 待ってくれ! な、なんだかわからねえが、こいつは見逃す! だから俺たちのことは勘弁して……」

「潔くて助かるわ。今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」

「だから悪かったって……へ? 盗った物?」

「お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。――今なら、命まで取ろうとは思わないわ」

 

 立て続きに現れた乱入者に咲夜はまたもや出鼻をくじかれ、じっとして行動を移す機会を窺う。

 しかし、新たに現れた少女とチンピラたちの間で誤解が生じていることを感じた咲夜はこの場を早期収拾させるために、会話に口を挟む。

 

「そこのあなた。あなたはそこに転がっている男を助けに来たんじゃないのかしら?」

 

 チンピラたちの後方から声をかけられ、白いコートを着た少女はその時初めて咲夜の存在に気付く。少女は咲夜の質問を受け、咲夜を含めた5人の状況を改めて確認する。そして少しの間考え込んで、

 

「……変な格好をした人ね。そこに転がっている男はあなたの恋人? 恋人を守るために三対一という状況であっても戦おうとした。そんな状況? 当たりでしょ?」

 

 咲夜の質問には答えず、ローブを着た少女のどこか自信ありげな態度で、逆に質問が返ってくる。

 

 まずは誤解を解くことを先だ。

 少女の傍から少女とは別の只者でない気配も感じるし、少女に無用な警戒を抱かせない方が良い。

 

 そう考え、咲夜は少女の頭が痛くなりそうなひどい勘違いにすぐにこの場から逃げ出したくなるのを、ぐっと堪え、

 

「あなたが何を盗まれたかは知らないけど、私たちは無関係よ。おそらくあなたの探している盗人は先ほど通路の壁を越えていった少女だと思うわ」

 

 咲夜の言葉が本当かと、ローブの少女が残りの男たち4人に視線を向けると、チンピラたちとスバルは仲良くぶんぶんと首を縦に振り肯定する。

 

「嘘じゃ、ないみたい。それじゃ盗った人は路地の向こう? 急がないと」

 

 咲夜の言葉に嘘が無いと納得し、ローブの少女はこちらに背を向け路地の外に向かっていく。チンピラたちと咲夜がそれを見て安堵し、スバルはまたも助かるチャンスを逃したのではないかと、焦ったとき――

 

「それはそれとして、見逃せる状況じゃないのよ」

 

 少女は振り向き、こちらに向けられた掌の先から数多の氷の結晶が放たれる。

 突然の氷の魔法による強襲にチンピラたちは反応することも出来ず、撃ち抜かれ受け身もとれずに吹き飛ばされていく。

 

「「――魔法」」

 

 その光景を見て、言葉が漏れる。奇しくも咲夜と同じことを思ったスバルと声が重なる。

 

 魔法は幻想郷では別に珍しくないものであったため、スバルと違い咲夜にとってさほど驚くものでは無かった。

 それでも無詠唱からタイムラグなく苦も無さげに放たれた氷の魔法により、少女がそれなりに熟達した魔法使いであることが分かり、咲夜は警戒する。

 

「やってくれやがったな。こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる・・・二対一で勝てっと思ってんのか、ああ!」

 

 魔法によって小男は気絶したようだが、吹き飛ばされた全員を完全に倒すことは出来なかった。残りの二人のチンピラが闘志を瞳に燃え上がらさせながら立ち上がってくる。

 

「じゃ、二対二なら対等な条件かな?」

 

 突然、この場にいた人間以外の声が聞こえ、魔法使いと思われる少女を除く全員が戸惑う。声は魔法を放った少女の方から聞こえた。

 しかし、そこには少女以外の存在がいない。ローブの少女によって掌が差し出され、その掌に全員の視線が集まる。

 

「あんまり期待を込めて見られると、なんだね。照れちゃう」

 

 すると、ローブの少女が差し出した掌に乗るサイズの直立する猫が現れる。

 そこで咲夜は先ほどからローブの少女の傍から感じていた気配が、その猫のような生物であったことに気付く。

 しかし、その猫の正体は咲夜には分からなかった。その答えは、以外にもチンピラから教えられることになった。

 

「――精霊使いか!」

「ご名答。今すぐ引き下がるなら追わない。すぐ決断して! 急いでるの」

 

 チンピラたちは相手の正体を知り、分が悪いと感じたのか、途中で気絶した仲間を回収して、「覚えてろ!」と捨て台詞を吐きながら足早に去っていく。

 チンピラたちが完全に遠くに去ったと分かると、スバルは安心したような表情をする。スバルが魔法を放った少女に礼を言いながら、足をふらつかせながらも立ち上がろうとする。

 

「あー、無理して立ち上がんない方がー、……って遅かったね」 

 

 謎の猫がそう忠告するが、スバルは体をふらつかせたあと、そのまま倒れ気絶してしまった。

 

「――で、どうするの?」

「関係ないでしょ。死ぬほどじゃないもの、放っておくわよ」

 

 猫のような生き物の質問に、ローブの少女はそんな冷たい言葉を返す。

 しかし、言葉とは裏腹に心配気な表情は隠せていなかった。

 それを見て気絶したスバルだけに用があった咲夜は、助け舟を出してやる。

 

「その男なら私が見ておくから行っていいわよ。あまりもたもたしてると、泥棒さんに逃げられちゃうわよ?」

 

 咲夜がそう言われるが、それでもローブの少女はまだ迷いがあるのか、なかなか踏ん切りがつかない様子。

 

 他の人がいる前で異世界の話をすれば、頭のおかしい人と思われるかもしれない。

 

 出来れば他の人がいない場所で質問がしたかった咲夜は、少女にさっさと立ち去って欲しかった。

 しかし、その少女は咲夜の思惑を裏切るほど人一倍、お人よしであった。

 

「やっぱり、放っておけないわ!」

 

 ローブの少女はそう言い、この場を去ろうとした足を止めこちらに戻ってくる。

 それを見た咲夜は、一先ず少女がいる間、倒れている男――スバルから情報を聞き出すことは諦める。

 

 代わりに少女から情報を聞き出すことにしよう。

 

 咲夜はそう前向きに考えることにした。

 しかし、咲夜は情報を聞き出すよりも先に、ローブの少女には言っておかなければならないことがあった。

 

「あ、それと言っておくけど、私とその男は恋人関係じゃないから」

「ええ!! 嘘!? 結構名推理だったと思ってたのに!」

 

 信じられないと心底驚いている表情をした魔法使いの少女を見て、咲夜は不満顔をするのであった。




話の展開が原作とそこまで違いが感じられないかもしれません。

はい、確かにあまり変わっていませんね。
ただ、リゼロの主人公、菜月スバルがエミリアと関わっていくうえで、外せない展開ですので、あまり話の流れは変えませんでした。スバルとエミリア抜きではリゼロは語るのは難しいですしね。第一章は原作と大きく変化がない章になります。要所、要所では、若干の違いはありますが。

王選にも話が関わっていくので、
ラインハルトとフェルトはどうしても遭遇させる必要もあります。

とはいえ、起承転結で言えば、その中の「起」と「承」と「結」が既に動かせない状況です。しかし「転」はできるだけ変えていけたらなと考えています。
しかし、その中でも違いはあるので、その違いを楽しんでいただけたら、と思います。

起:物語の前提を説明
承:事件
転:事件を解決
結:結果

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