大体、一週間ローテでお話を投稿してましたが、先週は投稿できませんでした。
少し間が空いてしまって申し訳ありません。
この連休中にあと1、2話何とか投稿までしたいと考えていますのでよろしくお願いします。
「あはぁ、エミリア様が連れてきたお客さんは、なーかなーかに興味深い人たちだーぁね」
レムの案内の元、咲夜たちが出迎えた主は非常に個性の強い人物だった。
細身で180センチ以上はあるだろう身長な、両目は左右で色が異なり、黄色と青のオッドアイ。それだけでも特徴的な見た目をしていたが、何よりも――
「ピエロじゃねぇか!?つか、顔ちけぇ!」
スバルが驚嘆するのも無理はなかった。
幻想郷でもあそこまで奇抜な格好をした人物はいないだろう。
顔は白く、左目には何かのマークだろうか、紫色のメイクが施され、まるで道化師のようだ。
どうやらそのピエロ男がここ、ロズワール邸とやらの主、ロズワール氏らしい。
ロズワール氏はスバルと唇が触れそうなほど顔を近づけ、興味深々と目を輝かせて見つめており、相手が誰だろうと、慣れ慣れしくコミュニケーションを取りに行くスバルですら、第一印象が強烈すぎたのか、戦慄させていた。
「ここの世界には普通の人はいないのかしら?」
「さ、咲夜たん、見てないで!た、助けて!ヘルプ、ミー!!」
「ははあ、元気が良い子はきらいじゃなーいよ」
咲夜が大人しく、他人事、否。関わりたくないと離れた距離から眺めていたが、スバルはロズワール氏、もといピエロ男のどんどん近づけてくる顔を両手で掴み、引き離そうと必死になり、咲夜に助けを求める。
スバルが引いている、やるわね、ロズワール氏。
……じゃない、スバル仮にも相手は屋敷を持つほど、おそらく貴族だろう相手に対して顔を掴むのは良いのだろうか。
いや、顔を掴まないとどうなるかは分かってはいるのだが……。
ちなみに、咲夜がスバルの立場なら確実にナイフを叩き込んでいただろう。
「良かったじゃない。受け入れたら玉の輿よ」
「玉の輿って何さ!?男性ルートは求めてねーよ!」
「タマノコシ?」
「きっとお団子の事だよ。団子を積み重ねて、神輿のようにするんだ。カララギでそう言う言葉があったはず」
「わ、美味しそう!パックってホント物知りなのね」
聞きなれない言葉にエミリアとパックが、楽し気に意味を推測し始める。
青髪のメイドは、興味なさげに、静かに傍で待機しており、ピンク髪のメイドは、少し羨まし気な、そして少し嫉妬に燃えたような目でスバルを睨みつけていた。
「平和ね……」
今日は雲一つない良い天気です、お嬢様。
お出かけには日傘を差していきましょう。
咲夜は空を見上げ、とりあえず、現実逃避することにした。
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――結局、スバルはロズワールの接吻を免れた。
青髪のメイド、レムとやらが話が進まないと止めに入ったからだ。
それまで10分もの間、スバルとロズワール氏の攻防は続いていたが……。
その後、食事の時間らしく、食堂を案内される咲夜とスバル。
それ以外の人、ロズワール氏は返ってきたばかりなので、一度着替えに、エミリアも朝の日課でラフな格好をしていたため、同じく着替えに部屋に一度戻っていった。
メイド達は咲夜たちを食堂まで案内すると料理の準備があると、厨房の方へと去ってしまった。
「随分と変わった客を招いたのかしら」
食堂には初めて見る少女がいた。
年齢は十二歳ほどだろうか、藍色のドレスを着た少女が既に食堂にあるテーブルの席に腰かけ、こちらを気怠げな表情で見ていた。
「会って早々、失礼なやつだなこのロリは」
「なにかしらその単語。聞いたことないのに、不快な感覚だけはするのよ」
「攻略対象外に幼いって意味だ。俺、年下属性あんまりないし」
「……先ほどと言い、ベティーにここまで無礼な口を効く奴も、珍しいかしら」
「先ほど?スバルはこの少女を知っているの?」
「ん?ああ、咲夜はまだ会ってないのか。このロリーな少女はベアトリス。俺は一度目覚めた時に会ったんだよ。エラい目にあったけど」
「ふん、ベティーに対して失礼な態度を取ったお前が悪いのよ」
スバルはどうやらこの少女とは既に会ったことがあるらしい。
あまり中は良さそうではない。おそらくスバルが何かしたのだろう。
「何?あなたこんな幼い少女に対しても悪戯したの?」
「今の会話だけ聞いて、初めに出てくるその発言で、俺が咲夜たんに普段どう思われているかが伺える発言ですね……」
「今更ね」
「うぐっ!それでも俺みたいな純情、ピュアな少年は傷つくんだぞ。泣いちゃうぞ?」
スバルは変に体にしなを作り、目を潤ませ咲夜を見上げてくる。
「どこの席に座ればいいのかしら?」
「スルー!?俺様渾身の演技をして、スルーですか!?」
しかし、スバルを無視して、どこに座ろうかと考え始める咲夜。
「あはー、随分と楽し気なお客さんだーぁね」
「スバルはどこ行っても元気なのね」
スバルの声を聴いたのか、食堂の扉を開けて入ってきたロズワール氏とエミリアがそれぞれの対称的、楽し気な、呆れた反応を見せる。
「「失礼いたしますわ、ロズワール様、お客様。食事の配膳をいたします」」
全員がそろったところで、双子のメイドが台車を押しながら、食堂に入ってくる。
それを見てロズワールを初め、各々が席に着く。スバルは「俺はエミリアたんのとーなり♪」と、言いながら意気揚々と席に着く。
「ちょっと」と、エミリアは若干嫌そうにしていたが。
咲夜はメイドたちを除く全員が席に着いた後に、開いている席に座る。
変態な二人、ロズワール氏とスバルから一番距離が離れている席を選んで。
「それにしても、ベアトリスがいるなんて珍しい。久々に私と食卓を囲む気ぃになってくれたのかなん?」
「頭が幸せなのはそこの奴だけで十分なのよ。ベティーはにーちゃと食事しに顔を出しただけかしら」
ベアトリスの自信を呼ぶ声に釣られたのか、エミリアの髪の中からパックが顔を出す。
「や。ベティー、二日ぶり。ちゃんと元気にお淑やかにしてた?」
「にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ。今日はどこにも行く予定はないのかしら?」
「うん、大丈夫だよ。今日は久しぶりにゆっくりしようか」
「わーいなのよ!」
一転してパックに対して年相応に見える少女らしい振る舞いをするベアトリス。
咲夜は、ベアトリスという少女のことは、会ったばかりでそれほど知らないが、先ほどのスバルへの態度から一転した態度には少し驚かされた。
「驚いたでしょ?」
「ええ」
「ビックリっていうか、なんだよあのロリの態度。猫の前で猫被ってるとか狙いすぎじゃねぇ?」
エミリアがベアトリスの反応に驚いた咲夜に話しかける。
咲夜が同意の返事を返すと、スバルも話に参加してくる。
「ふふっ」
「ごめん。ちょっとなに言ってるのかわかんない」
咲夜は猫被るの意味は分かり、スバルの感想に思わず笑いを溢すが、エミリアには意味は伝わらなかったらしく、首を傾げただけだった。
「それにしても、スバル席が近いわよ」
「いいじゃん、いいいじゃん。食事は楽しく、賑やかに。楽しければ、食事も一層美味しく感じられる。楽しい食事は人生を豊かにしますぜ」
「それと、わたしとスバルが近いのは関係ない気が……」
「美少女が隣にいれば、なお楽しい!」
「いーぃじゃない、エミリア様。礼節は大事だけど、身内しかいない場で気にしすぎるのも食事を楽しめない。ああ、彼の言う通りだ」
「さっすが、ロズッち。話が分かる!」
「ひょっとして、それ私のこと?」
「他に誰がいんだよ。ロズっち。いいじゃん、仲良くなるためにも愛称は大切だぜ」
「あはー、ほんとにスバル君は面白いねぇ」
「もう、二人とも仕方ないんだがら」
スバルの強引な論理とロズワールの援護射撃に、エミリアも諦めたようだ。
そんなエミリアに同情の声をかける。
「大変ね。この屋敷にはスバルみたいのが既にもう一人いたのね……、由々しき事態だわ」
「本当よ、あんまりスバルがオイタするようならお尻ペンペンの刑なんだから」
「お尻ぺんぺんとか、きょうび聞かねぇな。それと咲夜たん、流石にこのピエロと一緒にされるのは俺も嫌なんだけど……」
そんな会話の間にも、双子のメイドのラムとレムが次々と料理をテーブルの上に乗せていく。
テーブルの上に湯気の立つ食事が並べられていき、朝食の場が整えらていく。
全ての食事を並べ終えると、食堂にいる全員の目線が屋敷の主に向かう。
「では、食事にしよう。――木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」
ロズワールが呟き始めると、それに合わせたように、エミリアや双子のメイド、ベアトリスも目をつむって手を合わせ目をつむる。
何事だと咲夜とスバルは意味が分からず目を合わせるが、すぐに食前の祈りだと二人とも気付き、周りの動作を真似して目を閉じる。
どこの世界でも、こういうものはあるものなのね。
「それじゃ、スバルくん、咲夜くん。いただいてみたまえ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」
全員の祈りが終わった頃を見計らって、ロズワール氏が食事の開始を告げる。
メニューは一見、様々な色合いの野菜が入ったサラダと、ハムが挟まったトースト。
一般的な洋食でのメニューといったもので、一口トーストを齧ってみれば、確かに美味しい。
しかし、咲夜はこの料理よりも1点気になることがあった。
「む‥‥うまい」
「そうね、美味しいわ」
「そうでしょ。レムの料理ってば美味しいんだから。レムだけじゃなく、ラムも優秀なの。この屋敷だってレムとラム二人だけでほとんど管理してるの」
スバルと咲夜から良い評価が出ると、エミリアがさも自分が褒められたかのように嬉しそうにレムとラムの有能さを二人に語り出す。
「そうなの。それは、すごいわね。よほど優秀じゃなければ、二人で管理するのは大変だし」
「そうでしょう。種族なんて、っていう人がいるけどそんなの関係ない。優秀な人は優秀なんだから」
この大きな屋敷をたった二人で管理している、この事実に咲夜も世辞抜きで賞賛しないわけにはいかなかった。
お手伝い妖精が沢山いたが、咲夜も紅魔館を実質一人で管理していた。
しかし、それは咲夜の時止めの能力があってのもの。
能力も使用せずに、館を管理する大変さは誰よりも理解しているつもりだ。
それなのに他の使用人がいない。
そこには何か理由があるのだろう。
そこまで推測するが、わざわざその事情を聴いて、深く立ち入る必要はないだろう。
この大きな屋敷にしては人気が少ないことには咲夜も気が付いていた。
屋敷の庭に出る時、この食堂に来るまで移動したが、今ここにいる人以外に見かけなかったのだから。しかし、咲夜のそんな思惑を裏切る者がいて――
「このどでかい屋敷の管理が二人だけとか馬鹿じゃねぇ? 質にこだわるとか以前に二人が過労死すんぜ。――それとも、『召使いが雇えない』みたいな感じの制限かかるような状況ってこと?」
スバルの問いかけにロズワールは黙り込み、エミリアはビクンと肩を揺らす。
先ほどまで楽し気な雰囲気だった食堂の空気が重いものになる。
咲夜は空気を変えたスバルと見て、今までスバルに対して思い違いをしていたことに気付く。
スバルは、不幸に好かれていると思ってたけど、実は逆だったのだと。
自らトラブルに突っ込んでいる。いわば、わざわざ地雷原で遊ぼうとする子供なのだ。
わざわざ、事情がありそうなところに突っ込んでいくスバルをみて咲夜はそれを悟ったのであった。
ロズワールの登場回です。
咲夜さんの目にはスバル(変態)が二人いる、という風にしか見えなかったようです(笑)