ほんとどうしたものかしら……。
2017/4/10
文章を改訂しました。前と比べたら大分読みやすくなったかな?と思っています。
スバル視点も追加しました。
2017/5/19 改訂
2017/6/10 改訂
「さて、どうしたものかしら」
そこは人通りが少ない路地裏。
路地裏の通路の両脇には背の高い建物の壁が続いており、太陽の光もあまり差し込まない、そんな少し薄暗い場所だった。
そのような場所に人がいるとすれば、それは貧民街に住む浮浪者やあまり人に言えないような裏の世界の住人がほとんど。しかし、現在そんな場所とは不釣り合いな美しい若い一人の少女が佇んでいた。
その少女の年齢は10代後半くらい。綺麗な生地をしたメイド服に身を包んでおり、顔立ちは端麗。少女の髪色は珍しくも銀。
彼女の髪は路地裏に僅かに差し込む光を反射させ、キラキラしそれがより少女のどこか幻想的な美しさをさらに際立たせていた。
その美しい少女は顔をやや俯かせ、難しい表情で何かを考え込んでいた。凛とした表情で考え込むその少女の姿はとても理知的で美しく見え、大抵の男性はそんな様子の彼女を見れば見惚れるに違いない。
そんな少女の名は、十六夜咲夜。
「まずはここがどこか、それを知ることが先決ね。人がどこかにいるといいんだけど……」
咲夜はこのまま考え込んでも現状の問題の打開に繋がらないと考え、一先ずその場を移動することに決める。
今いる場所を知るために人を探す。
そう目標を定め、その場を移動しようとしたとき、咲夜は自分の足元に落ちているものに気付く。
「……これはパチュリー様が魔法の触媒に使用していた黒い本ね」
落ちていたものは、召喚魔法で触媒に使用されていたあの黒い本。
図書館で見た時と同様にどこか不気味な気配を漂わせていたが、現状でこの場所にいる原因として考えられる一番の手がかり。
捨ておくことはできず、咲夜は腰をかがめ地面に落ちていた本を拾い、埃を少し払うとスカートのポケットに入れる。
そして今度こそ通路を進んでいく。
咲夜が通路を歩いて進んでいくと、通路の先からなにやら人の話し声が聞こえてくる。
聞こえてくる声は小さく、話の内容まではよく聞き取れない。しかし、どうやら声の主は咲夜が進んでいた通路の突き当りを曲がった先から聞こえてきていた。
「人の声? 幸先いいわね。この先に誰かいるらしいわね」
咲夜は声が聞こえる方向へと足を早めていく。
******************
「くそ、なんでこんな所に俺はいるんだよ! 携帯も繋がらねぇ。俺様を召喚してくれた可愛い女の子ともいねぇ。チートな能力ももらった気配もねぇ。こんな状態でどーしろってんだよ!!」
不満を爆発させ叫んでいるのは、高校生くらいの少年。彼の名は菜月スバル。
年齢は十八で平和な時代の現代の日本から異世界召喚された、という点を除けば、現代日本のどこにでもいるごくごく普通の少年。
彼は日本の学生でありながら、とある理由から学校には行かなくなり、引きこもり生活を送っていた。
ある日の夜中、家で寝ずにぶっ続けでしていたゲームに疲れ、休憩ついでに立ち寄ったコンビニ。その帰りに気が付けば、異世界のどこかの街の真ん中にワープ。
初めは突然の状況に戸惑うが、すぐに異世界召喚という非現実的なファンタジーな状況に興奮し、はしゃぐ。そうして早速と街を散策しだす彼だが、小説や映画などの主人公のように自分に特別な能力を与えられたわけでもなく、かと言って特別な出会いもなく、異世界にただただ放り投げられた状況に気付き、期待していた自分の異世界像との違いに不満を抱き始める。
目的もなく街を歩き周り、歩き疲れて路地裏で休憩。そうして、彼は休憩しながらこうして愚痴をこぼしていた。
「持ちもんは、コンビニに行ってただけだから大したもん持ってねー。……終わったな、俺。こういう場合……、RPGのセオリーで考えればまずは、情報収集からだな。現状必要な情報を集めるためにはそれが――」
ふと、スバルは声を止めた。自分がいる路地裏から大通りへ出る出口を遮る形で三人の人影が現れたからだ。
スバルが目を凝らして現れた三人組を見ると、薄汚い身なりをした三人の男たちがこちらをギラギラとした目つきで見てきており、どう考えても友好的な感じではない。
「やべぇ!? 強制イベント発生! これは負けイベントか! はたまた、俺様の覚醒イベント!?」
スバルは慌てて立ち上がり近づいてくる男たちに身構える。
いやいや、見かけはああ見えて、以外と優しい人かもしれない。
スバルは能天気にもそう考え、
「やあ、この俺様に何かようかい?」
さらりと髪をかき上げ、心の中で描くイケメンをイメージし、ウインクを一つ。
よし!友好的に会話できたぜ。何事もまずはコミュニケーションから。
ラブ&ピース、だぜ!
「なんだぁ? こいつ、ムカつく動きしやがって」
「どうも状況が分かってねぇみたいだな」
「嘗めやがって! ぶち殺す!」
結果として、それは全員の怒りを買うことに成功しただけだった。
「うぎゃあ!? そういえば、俺コミュニケーション能力ゼロだった! 小学校から通信簿の先生のコメント欄に、『もっと空気を読みましょう』っていつも書かれてた!……あちらさんがヤル気になったのなら仕方ねぇな。なら、先手必勝!……ぶち殺すって、そりゃ……こっちのセリフだ!」
スバルはまくし立てるように言葉を吐く。そして、男たちよりも駆け寄り一気に攻撃を仕掛ける。
やけくそ気味に繰り出されたパンチは大柄の男の顔のど真ん中に綺麗に吸い込まれていく。そして、殴られた男は勢いよく吹き飛ばされ倒れる。
「いってー!! 初めて人殴ったけど手がいてー!」
スバルのいきなりの攻撃によって仲間の一人が倒されたことに男たちに動揺が走る。
スバルはその隙を見逃さず、今度は小男に向けて蹴りを放つ。
「どっせーい!」
今度の攻撃も当たり、相手を壁まで吹き飛ばし壁に背中からぶつかりそのまま倒すことに成功する。
「ぐえっ!!」
「おおー!! 俺ってやっぱ、この世界では強くなってる!? よーし、このまま残りも……」
スバルは相手を立て続けに二人倒せたことで、自分の意外な成果にテンションをあげる。調子に乗り、そのまま残りの男に殴りかかって打ち倒そうと考える。
しかし、彼の調子の良さは長続きしなかった。
「すみません、すみません! 調子に乗りました! 俺が悪かったですから、命だけはご勘弁を!!」
スバルは恥も外聞も捨てて、頭をこすり付け、土下座をして許しを請う。
最後の相手が、状況の悪さから背中に隠していたククリナイフを取り出し、両手に構えたのだ。平和な日本で育ったスバルにとって、刃物を見た瞬間に恐怖を襲われ、全面降伏する。死の恐怖を感じてしまっては、彼はひたすらに命乞いをすることしか出来なかった。
「っぐ、いてぇ……」
「この野郎、やりやがったな」
「あれ!? 俺無双の攻撃でダメージ小ってどゆこと!? 召喚もののお約束は!?」
「なにわけわかんねえこと言ってやがる! それよりもよくもやってくれやがったな!」
スバルが先ほど倒したと思った二人の男が立ち上がってくる。
マジかよ…。俺、パワーアップしたんじゃねーのかよ!?
そう胸の中で虚しく叫ぶスバルだが 現実は残酷にも敵は再び復活し、三人になる。
さらに言えば、相手は先ほどの攻撃で怒りを買っている分、状況は先ほどよりも悪化している状態だった。
そして、……スバルは復活した二人も含めて、三人の男たちによって蹴られ、嬲られ始める。スバルは、ただ体を丸めて相手の攻撃を耐えるしか出来なかった。
蹴られ続け、いつまでこんな状態が続くのかと、スバルの意識が少し朦朧としてきた時、ふと自身への蹴りが止まっていることに気付く。
スバルがどうしたのかと、よろよろと顔を少し上げ、男たちの方へと視線を向ける。
先ほどまでスバルを蹴っていた男たちは、スバルの後方に誰かいるのか、そちらに声をかけ話しかけていた。
自分の他に人がいる。
そう理解したスバルは、誰かが助けに来たのかと期待を込めて視線を後方に向ける。すると、そこには美しい銀髪の髪をした少女がいた。
少女の顔立ちは人形のように整っており、彼女の凛とした目は女性の意思の強さを表していた。
彼女の来ている服はメイド服。まるで彼女のために存在していたのではないか、そう思わざるをえないほど彼女に、見事に調和しており、それが彼女の美しさを一層引き立てている。
スバルはその少女の美しさに目を奪われる。見惚れ、今まで襲われていた恐怖や体の痛みも忘れ、思わず叫んでいた。
「おお!! 銀髪美少女メイドキターー! これぞ異世界ファンタジー。やっぱ異世界ファンタジーにメイドは必須だよな! ああ、きっとこれから彼女と俺とで長い冒険の旅が始まるに違いない!」
突然のスバルの叫びに驚いたのか、メイドの少女は、驚いた表情で目を丸くしてこちらを見てきて視線が一瞬会う。それが、スバルと咲夜の初めて出会った瞬間だった。
「やべぇ、驚いた表情も可愛い……」
「うるせぇ!!静かにしてろ!!」
「ひでぶっ!!」
スバルは早々に無様な姿を晒してしまうが。
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「———そりゃ……こっちのセリフだ!」
通路の先を曲がった咲夜が目にしたのは、グレーのジャージを着た男――菜月スバルが叫びながら男に殴りかかっている光景だった。
通路を曲がった先にいたのは、スバルも含め4人の男がいた。
咲夜に対して背を向けているスバルの表情は確認できなかったが、彼に対峙する形で立っていた残りの3人の風貌は確認することができた。
三人組はそれぞれの身長や体格は見事にバラバラだった。小男、身長が大きく太った男、身長が咲夜と同じくらいで少しやせた男の3人。
共通しているのは、鋭い目つきと少し汚れた服装をしているくらいだった。
彼らから醸し出される雰囲気から、あまり堅気の人間には見えない。
人通りの少ない路地裏の場所、そして状況から察するにジャージを来た男は、三人組、チンピラたちに絶賛絡まれ中ってところだろうか?
咲夜はその場をそのように推察する。咲夜が思考している間にも、状況は進行していく。殴りかかったスバルの攻撃は一人の大男に見事命中し、相手を倒す。
殴りかかった男は喧嘩は意外にも強かったのか、その後も立て続けに小男を蹴り倒してしまう。残っている相手は中背の男だけ。
そのまま調子に乗ったスバルがそのまま最後の一人も倒してしまわれると思ったが、最後の男が武器を取り出すと一転して形勢は逆転していた。
先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、スバルは相手が刃物を持っているのを見るや、情けなくも土下座し全面降伏をしたのだった。
スバルは相手に許してもらえるよう、恥を捨てて頭を地面に擦りつけて全力で謝罪する。しかし、チンピラたちの怒りは当然収まらない。それどころか、さらに先ほど倒した男たちが復活したのを見て、
「あれ!? 俺無双の攻撃でダメージ小ってどゆこと!? 召喚もののお約束は!?」
「なにわけわかんねえこと言ってやがる!それよりもよくもやってくれやがったな!」
相手を刺激し、さらに怒りを買う始末。そしてスバルは状況を悪化させ三人の男から蹴られ続けるはめに。
咲夜は、その状況を静かに見ていた。
咲夜には、特にその状況をどうにかしようという気は無かった。
蹴られている男を助ける気もなく、首を突っ込むこと気もない。面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がり、そのまま男たちの諍いが収まるまで眺めているつもりだった。
しかし、先ほどスバルの口から漏れた言葉は、咲夜にとって無視できるものでなかった。スバルの発した『召喚』。
咲夜はスバルのその言葉を発したことから、スバルが召喚魔法と何か関係のある人物ではないかと考えた。
パチュリーの召喚魔法が原因で見知らぬ地に来てしまった咲夜にとって、その単語は聞き逃せるものではなかった。
初めに遭遇した人物からその言葉が出てきたのだ。自身とも無関係とも思えない。
そう思考を巡らし、咲夜はひとまずスバルを助けてやることに決める。何故、彼から『召喚』という言葉が出て来たのか、確認する必要があった。
「お!! なんかもう一人いるじゃねえか」
しかし、咲夜がスバルの助ける行動に移すよりも先にチンピラたちが咲夜の存在に気付く方が早かった。
スバルをさんざん蹴り続け、ある程度のうっぷんを晴らし、一息つくチンピラたち。
少しは怒りが収まったのか、周りに目が向いたとき、スバルの後方の離れた場所に静かに立っていた咲夜の存在に気付いたのだった。
「銀髪!? ……なんだ、人間か。メイド服を着ているな。どこかの貴族で働いているメイドか?」
「よく見ると、か、かわいいじゃねえか……」
新たな人物の発見に、チンピラたちの意識が完全に咲夜に向く。
彼らは相手が女性で、それも美しい少女だと分かると色めき立ち、嫌らしい笑みを浮かべながら咲夜に話しかけてくる。
「なあ、お嬢さん。この転がっている男のお友達かい?」
「いいえ、知らない人ね」
先ほどまで自分たちが嬲っていた男の関係者だと事態がややこしくなると考えたのか、まず指でスバルを指して、知り合いかどうか確認してくる。
関係者であることを咲夜が否定すると、笑みをさらに深くし下心満載な表情をするチンピラたち。男たちの表情から彼らが考えていることが容易に想像できていまい、咲夜は嫌そうに顔をしかめる。
「なら、お嬢さん、俺たちと一緒に―――」
「おお!! 銀髪美少女メイドキターー! これぞ異世界ファンタジー。やっぱ異世界ファンタジーにメイドは必須だよな! ああ、きっとこれから彼女と俺とで長い冒険の旅が始まるに違いない!」
チンピラのうちの一人が咲夜をナンパしようと声をかけるが、それはスバルの叫び声で遮られる。突然の叫び声に咲夜は驚き、声を主に目を向ける。
先ほどまでじっと固まって蹴られ続けていたスバルは、こちらを見て興奮している様子だった。
咲夜と同様にチンピラたちも急に大声を上げたスバルに驚ろく。しかし、咲夜の驚きとチンピラたちの驚きの意味は異なっていた。
咲夜が驚いたのは叫び声を上げたことだけでなく、スバルの発言に対してもだった。
『異世界』。
スバルの放った言葉は、先ほどの『召喚』という言葉の疑惑も合わさり、ますます咲夜はスバルに対して関係者である疑いを強める。
「うるせぇ!!静かにしてろ!!」
「ひでぶっ!!」
チンピラは自分のナンパが邪魔されたことに気分を害し、土下座をしたままのスバルに蹴りを入れた。蹴りによりスバルが静かになったことを確認すると、チンピラが再度、咲夜をナンパしようと挑戦しようとする。しかし、哀れにもまたも邪魔が入ることとなる。
「ごほん。……お嬢さん、俺たちと一緒に――」
「ちょっとどけどけどけ! そこの奴ら、ホントに邪魔!」
切羽詰まった声を上げて、誰かが路地裏に駆け込んでくる。その声に反応して路地裏にいた全員がその声を上げた方向へと目を向ける。
視線を向けた先にはこちらに向かって走ってくる小柄のセミロングの金髪の少女がいた。
走り込んできた少女はチンピラたちの存在を無視し、そのまま横切っていく。横切る途中、土下座をしたスバルと目を合わせたが、
「なんかスゴイ現場だけど、ゴメンな! アタシ忙しいんだ! 強く生きてくれ!」
「って、ええ!? マジで!?」
その少女は現われるのも早かったが、去るのも早かった。特にボロボロなスバルを助けようとすることもなく、そのまま嵐のように通り過ぎていく。突然の出来事にその場の全員が呆気に取られ固まっていたが、咲夜はいち早く、我に返る。
驚いている場合じゃない。
スバルを助けようとしたことを思い出し、咲夜は慣れた手つきでナイフを取り出そうとしたとき――。
「――そこまでよ、悪党」
その場に一人の少女が乱入してきた。
「今度は一体誰よ……。」
咲夜は思わず文句を口に出してしまった。それは、この場にいる全員が共通して胸の内に抱いていた言葉でもあった。
面白い小説を書く人は、語彙も豊かですよね。
文章を書いてみると、その大切さと自分の語彙の少なさに痛感させられます。