ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

18 / 35
第十八話です。

ついに第一章最終話です。

この話を書くために、第一章があったと過言ではありません。
一話を書く時点で、落ちは決めていましたから。


第十八話:決着

 部屋の中央で、ラインハルトが両手剣を構える。

 盗品蔵は、そんな彼を中心として、威圧される異様な空気に満ちていた。

 そしてそんな彼に向かい合ってエルザが立っている。

 

「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

「――『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

 互いに名乗りを上げる。

 そしてラインハルトの構えている両手剣は、太陽のような眩い光を徐々に強めつつエルザに向かって振り下ろされる。

 

「――っ!!」

 

 咲夜は思わず、その光の眩しさに目を瞑る。

 目を閉じたと同時に、辺り一帯全てを吹き飛ばすような衝撃と轟音が襲う。

 嵐のような風が吹き荒れ、その風の勢いに体が流されかける。

 咲夜は倒れまいと、足腰に力を入れ、踏みとどまる。

 

 やがて光が収まり、そろそろと目を開けると、先ほどまで盗品蔵であった場所は、まるで爆弾で建物を解体させたかのような、辺りに瓦礫しか転がっていない場所になっていた。

 あまりに様変わりしてしまった光景に、しばし呆然としてしまう咲夜。

 たった一振りでこのような光景を生み出してしまうラインハルトが、もし本来の剣を握った場合にどうなるのか、想像してしまい、思わずゾッとする。

 

 咲夜は、他の者はどうなったかと周りに視線を巡らせると、すぐ近くの場所にスバルとエミリア、ロム爺の姿を確認する。

 スバルは体を張って飛んでくる瓦礫から二人を守ろうとしていたのか、二人に体を覆いかぶった体制でいた。

 スバルの体では、老人の巨体を覆え切れなかったのか、ロム爺の頭がミルクのような液体で汚れていること以外には問題ないようだった。

 

 スバルも戦いの音が収まったことに気付き、目を開ける。

 そして部屋の中心辺りであったであろう位置に立っているラインハルトを見つける。

 

「なにが化け物狩りは自分の領分だ。お前のが十分、化け物じゃねぇか!」

「そう言われると、さすがに僕も傷付くよ、スバル」

 

 スバルの苦言に、ラインハルトは苦笑を返す。

 そして彼の手の中の両手剣は、ラインハルトの一撃に耐えられなかったのか、ボロボロと崩れ、壊れていく。

 

「無理をさせてしまったね。ゆっくり、おやすみ」

 

 ラインハルトは、悲し気に崩壊していく剣に別れを告げる。

 そしてスバルはキョロキョロと辺りを見回し、エルザの姿を探す。

 

「肉片ひとつも残ってねぇな……スプラッタ感が失せて逆にいいのか」

 

 エルザの姿が見当たらない理由をラインハルトの攻撃によるものだと判断する。

 そう考えるのも無理もなく、大抵のものは、あれほどの一撃を正面から受けたら、チリ一つ残らないほどの攻撃だった。

 破壊の跡はすさまじく、盗品蔵だけでなく、周囲の建物も巻き込み、余波で崩壊させていた。

 幻想郷で屈強な妖怪でもあれほどの攻撃を直撃すれば、ただじゃいられまい。

 まあ、中には不死身の連中もいるが……。

 

「でもこれで……」

「終わったわね」

 

 スバルが口にした安堵の言葉を、途中から咲夜が引き継ぎ、終わりを告げる。

 外は完全に日が暮れ、夜になっていた。

 ようやく終わった。

 時間にすれば、たった一日の間であったが、何度も繰り返された時間により、随分と長く感じてしまう。

 咲夜もようやく、緊張を解き、息を吐く。

 そしておもむろに、近くにある瓦礫をどかしてみて、そしてやはり無いか、と呟きため息をつく。

 

「こんなに瓦礫が辺りに散乱していたら、さっきの戦いで使ったナイフを回収するのは無理ね……」

 

 咲夜は、エルザの戦いで、少なくないナイフを使用した。

 戦いの後で使用したナイフは全て回収するつもりであったが、こうなってしまっては、一つ一つの瓦礫をどかして探すしかない。

 さらに、中には大きな瓦礫もある中で、ナイフが無事のまま埋まっているとも思えない。

 おそらく徒労に終わるだろう、そこまで想像できてしまい、さらにため息を吐いてしまう。

 そしてふと自身の右手が握っているものに気付く。

 チンピラから奪ったククリナイフだった。

 

(こんな鈍らだけじゃ、赤字もいいとこね。銀のナイフはいざという時の資金源にもなりそうだったのに……)

 

 そして咲夜はさらに幾度かため息を吐いたあと、気を取り直し、顔を上げた。

 スバルとラインハルトとで会話をしている。

 そして咲夜の耳にも彼らの声が届く。

 

「そういや、ラインハルト。まだ礼を言ってなかった。マジ助かった。さっきの路地のことといい、俺の心の叫びが聞こえたのかよ、友よ」

「それができたなら僕も胸を張るんだけどね、友達くん」

 

 ラインハルトはスバルの言葉に肯定せず、あいまいに言葉を濁し、目である一点を示す。

 咲夜もラインハルトの視線の先を追いかけて、そちらに目を向ける。

 

「お」

「あれは……」

 

 元盗品蔵の柱であっただろう、場所の陰から、フェルトが顔を覗かせる。

 

「なんだ、やっぱりフェルトのお陰か……」

「おや、スバルは彼女が僕を探していたことを知っていたのかい?」

「ああ、俺が呼んでくるよう頼んだからな!」

 

 スバルは威張るように胸を張り、そしてフェルトを見る。

 スバルに見られて、フェルトは嫌そうに顔を歪め、柱の陰に隠れるように引っ込む。

 ラインハルトは、そんなフェルトに苦笑しながらも説明を続ける。

 

(なるほど、あの時フェルトを逃がしたのはそういうわけか……)

 

 スバルの話を聞き、咲夜はスバルが危険を冒してまでフェルトを逃がした理由が理解できた。

 

「彼女が必死で路地を走り回っていたんだ。そして僕に助けを求めた。僕がここにこれたのは彼女のおかげだよ。その後は騎士の務めを果たしただけさ」

「騎士の務めって、ボロボロの廃屋を平たくすること?」

「それって意地悪過ぎやしないかい、スバル」

「なるほどね、スバルも少しは知恵を絞ったのね」

「おおよ!俺はやる時はやる男だぜ!!もっとも、いままでにそれが発揮された機会はほとんど無かったけども!」

 

 咲夜はスバルたちの方へと足を進め、会話に交じる。

 声をかけられたスバルは近づいてくる咲夜に気付き、スバルらしい、自慢しているようでどこか自分を卑下するような返事を返す。

 そんなスバルを見て、ふと咲夜も相変わらずだと、笑みを零す。

 そしてふと、スバルたちの後ろにある瓦礫の陰に潜む存在に気付いてしまった。

 陰に潜んでいたエルザに。エルザはククリナイフを構え、今にも陰から飛び出さんとしていた。

 

 ———エルザっ!!!

 

 咲夜は、スバルに駆け寄ろうとするが、エルザの方が一拍、早く飛び出す。

 ラインハルトもエルザに気付いたようだ。

 彼にしては珍しく焦ったような声を出す。

 

「――スバル!」

 

 ラインハルトの叫びによって、スバルもエルザの陰からの接近に気付く。

 

「――――ッ!!」

 

 エルザは、体を血で染めながらも、重症と思わせないような素早いスピードでスバルに接近する。

 エルザは、先端が折れたククリナイフを持っていた。先端がなくともエルザのスピードと常人離れした身体能力なら、人を殺傷するのは簡単だろう。

 

「てめぇ――ッ!」

 

 スバルは、ふと足元に落ちていたロム爺の持っていた棍棒が転がっていることに気付き、足で蹴り上げる。蹴り上げられた棍棒は宙に浮き、スバルはその柄を握ることに成功する。

 

「おっしゃあああ!!」

 

 スバルもまさか上手くいくとは思っていなかったようで、少しの驚きが混じった、気合を入れるような声を上げる。

 そして、エミリアを庇うように前に出る。

 エルザは、前に出てきたスバル目がけて、刃を振るう。

 

「狙いは腹狙いは腹狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 スバルはエルザの狙いを腹と決め、エルザの刃を防ぐため、棍棒を縦に構える。

 スバルの読み通り、エルザの狙いは腹で、エルザの趣向を理解して読んだスバルが見事、棍棒でエルザの死を誘う凶刃を防ぐかと、思われた。

 しかし、

 

「――んなっ!!!?」

「残念ね、坊や」

 

 スバルは自身の持つ棍棒、否。

 棍棒だったものを見て驚愕の声を上げ、エルザは自身の勝ちを確信し微笑む。

 

 スバルの持つ棍棒は、途中で切れ、半分の長さの棒切れになっていた。

 まじかよ、と呟くスバルは、自分を死に至らしめんと近づく刃を、まるで時が止まったかのように感じながら見る。

 これが走馬灯ってやつか、と呑気に考え、これまでの戦いを思い出す。

 

 そしてロム爺がエルザとの戦いで、気絶させられる前に、棍棒で一撃を防いだ時のことを思い出し、ああ、その時だったのか、と呑気に考え、そして諦めたかのように目を閉じる―――

 

 

 

******************

 

 

 ――咲夜は、スバルに駆け寄ろうとするが、エルザよりも先に辿り付けそうにない。

 ラインハルトも咲夜以上にスバルと距離が離れていて、間に合いそうにない。

 ここまで来たのに――、咲夜はそう思いながら必死に手を伸ばすが、距離があり届かない。

 

 咲夜はもう無理だと、悟る。

 そして、つい最近にも似たような光景がつい最近あったなと、思い出す。

 

 あの時は、必死で能力も使用することも忘れ、とっさに行動してしまったが、何とかパチュリー様を助け出すことはできた。

 しかし、自分が逃げるほどの時間はなく、間に合わなかった。

 その結果、紅魔館から、お嬢様たちから離れ離れになってしまった。

 

 今回は、前とは違って、能力を使用したいと思える程度には冷静だ。

 なのに、能力を使用することができず、それが歯がゆく感じてしまう。

 こんな目にあったのは、あの黒い女の影のせいだというのにまた、今回もあいつの都合でやり直しに巻き込まれてしまう。

 しかし、咲夜は、誇り高き吸血鬼の主を支える忠実なメイドとしての矜持がそれを許すことが出来なかった。

 時間操作というお株を奪われて、いいようにされてたまるか、と。

 

「っふざけるな!」

 

 間に合わないと分かりながらも、咲夜は足を止めず、強く地面を踏みつけ、駆ける。

 せめてもの抗いだと叫ぶ。

 

「ま、間に合えーーー!」

 

 その時、咲夜は自分の体から何かが急速に失われていく感覚を覚える。

 それと同時に、とある感覚も感じる。

 自分が、自分だけが感じることのできる、最も慣れた感覚に似た感覚を。

 

「これは、———」

 

 ふと遠くでラインハルトが何かを感じ取り、呟いたが、その言葉が言い終わる事は無かった。

 エルザの刃は進みを止めていた。

 いや、エルザ自身が止まっていた。それだけでなく、盗品蔵にいた人物全ての動きが止まっていた。

 

 時が止まった。これなら―――。

 

 咲夜は、好機と見て、さらにスバルの元へと駆ける。

 しかし、時が止まったのは数舜の間で、再び時間が進みだす。

 再び動き出すエルザは、既にスバルのすぐ傍まで迫っていた。

 

 エルザは、咲夜がまるでワープしてきたかのようにすぐ傍まで迫っていたことに目を丸くするが、エルザの腕は既にスバルに向けて伸ばされていた。

 咲夜も手に持つククリナイフを突き出す。そして、

 

 キインっ、と耳が少し痛くなるような金属が辺りに響く。

 エルザの突き出したククリナイフは、咲夜の突き出された、刃の腹を側面で防がれる。

 しかし、真正面からぶつかるように突撃してきたエルザに対し、横から右手に持つククリナイフを突き出された咲夜のククリナイフは、勢いは殺せず、咲夜の手ごと弾き飛ばされ、その勢いのままスバルの腹にぶつかり、スバルの体を吹き飛ばす。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

 スバルは喧しく叫び声を上げながら、隣の隣家の壁まで吹き飛ばされていった。

 

「この子はまた邪魔を――」

 

 横から現れた咲夜を苦々しく見て、今度は咲夜に襲い掛かろうとするが、

 

「そこまでだ、エルザ!」

 

 追い付いてきたラインハルトを見て、これ以上の戦闘を続けることは無理と判断し、一足飛びに、広場の方まで跳躍して距離を取る。

 

「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」

 

 そう言葉を言い、エルザは一瞬、咲夜に意味ありげな目線を向けた後、跳躍して家々の屋根を伝って、駆け去ってしまう。

 立ち去るエルザを追わず、ラインハルトはエミリアに駆け寄る。

 

「ご無事ですか――」

「私のことはどうでもいいでしょう!? それより……」

 

 エミリアはふらつきながらも、壁まで飛ばされ、倒れていたスバルに駆け寄る。

 咲夜もエミリアに続き、スバルの近くまで寄る。

 

「ちょっと大丈夫!? 無茶しすぎよっ」

「お、ぉぉお……ら、楽勝楽勝。あそこってば無茶する場面だべ? 動けんの俺しかいねぇし、あいつがとっさに狙う場所もこっそり当てがあったし。まあ、意味はあまり無かったけど……」

 

 心配そうに近づくエミリア、スバルはククリナイフ越しに一撃をもらった腹を、服をめくって確認する。

 青よりも黒に近い、痛々しい色の青痣になっている。

 

「あなた、吹き飛ばされてばかりね、好きなの?」

「ちょっ!俺を変な性的趣向の持ち主にしないでくれる!!?」

 

 咲夜は、先ほども盗品蔵でエルザに蹴り飛ばされていたスバルを思い出し、呆れる。

 

「まあ、あなたの強さは、何度蹴り飛ばされても、嬉しそうに立ち上がってくるタフさだものね」

「あ、あれ?前に言っていたことと少し変わってない!!?あの時は、不覚にも感動したのに、なんかありがたみが薄くなっちゃうよ!!?しかも、ナチュラルに特殊性癖の持ち主みたいにさせられてるし!!!」

 

 咲夜は、スバルをいじり、その反応のよさにクスクスと笑い、元気に返ってくる反応から大丈夫そうだと判断する。

 さすがにこれだけ苦労させられたのに、やり直しさせられては、報われない。

 それにこちらは少なくない数のナイフも消耗した。

 

 エミリアに心配され、咲夜に一通りからかわれたスバルは、立ち上がり、ラインハルトに聞く。

 

「今度はもう、完璧にいなくなったよな?」

「すまない、スバル。さっきのは僕の油断だ。君がいなければ危ないところだった。彼女を傷つけられていたら僕は……」

「タンマタンマタンマタンマ! そっから先は言及無用だ。こんだけ色々ともったいぶったんだから、そこの部分を他人に委ねちゃ俺が報われん」

 

 謝るラインハルトを止め、スバルはエミリアの方へ向き直る。

 そしてスバルは左手を腰に当て、右手を天に向けて伸ばし、スバルは高らかに声を上げようとする。

 

「俺の名前は「一体、何のポーズよ、ソレ」ちょっといきなり話の腰を折らないでくれますー!!?」

 

 咲夜に途中で突っ込まれ、会話を遮られるスバル。

 ———だって気になったんだもの、仕方がないじゃない。

 

「ごほん、ごほん。今のは忘れて、Take2!」

 

 スバルはわざとらしい、咳を立て、今のは無かったことにしようとする。

 小声でエミリアがTake2?、と疑問の声を上げ、首を傾げているのも無視して会話を続けるスバル。

 

「ナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!」

「な、なによ……」

「俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人! ここまでオーケー!?」

「わたしはあなたの命の恩人だけどね」

「す、すみません!お願いしますから少し静かにして頂けませんか!?お願いします!!!」

「仕方ないわね」

 

 にやにやと笑いながら、茶々を入れる咲夜。

 しかし、これ以上は話が進まないと咲夜も思い、話が終わるまで静かにすることにする。

 

「Take3!! 俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人! ここまでオーケー!?」

「おーけー?」

「よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?」

 

 エミリアは過剰なスバルのテンションに引きながらも、「お、おーけー」と律儀に応じる。

 

「俺は命の恩人、そしてそれに助けられたヒロインのお前、そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか? ないか!?」

「……わかってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど」

「なら、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ」

 

 指を一本エミリアに突きつけながらスバルは自身の求めるものを要求する。

 

「そう、俺の願いは――」

「うん」

「君の名前を教えてほしい」

 

 エミリアはスバルの願いを聞いて、呆気にとられる。

 咲夜のため息が一回聞こえた後、暫く沈黙の空気が続く。

 スバルはやっちまったか、と沈黙の空気に耐え兼ね、少し体がプルプルと震え始めていたが、必死に、相手の反応を待ち続ける。

 そして暫くしてエミリアから笑みが漏れる。

 

「ふふっ」

 

 楽しげな笑いが漏れたことにほっとするスバル。

 

「――エミリア。……私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル。私を助けてくれて」

 

 エミリアの感謝の笑みにスバルが見惚れる。

 咲夜は、そんな二人を見て、これだけのために随分と遠回りしたものねと、やれやれと肩を竦める。

 そして一通り会話が落ち着いた頃を見計らって、ラインハルトがスバルに声をかける。

 

「それにしてもスバル、よく無事だったね」

「そいつに関しては、咲夜、さまさまだな。咲夜がいなきゃ、腸をドバドバ飛び出させていたところだ」

「そうね。チンピラもたまには役に立つものね――」

 

 咲夜は、弾き飛ばされ落ちていたチンピラから奪ったククリナイフをすぐ傍で見つけ、拾う。

 

「あら?」

 

 拾い上げられたククリナイフは、刃が真ん中から折れ、地面に金属音の高い音を立てて落ちる。

 ゆっくりと、ラインハルトたちがスバルの方を切なげな目で見た。

 スバルは嫌な予感を感じつつジャージの裾をまくる。

 

 ――先ほどまで青あざしかなかったスバルの腹に、横一線に赤い筋が現れた。

 

「あ、やばい、これは―――」

 

(――ピチュったかしら?)

 

 咲夜がそう考えた瞬間――スバルの腹部が横に裂け、大量に血が噴出される。

 

「――ちょ、スバル!?」

 

 慌ててエミリアがスバルに駆け寄る。

 そして咲夜もスバルの元に足を踏み出そうとするが、不意に両足から力が抜けていく。「え?」と、咲夜もそんな自分に驚きの声を上げるが、足に力が入らず、そのままスバルを見ているエミリアのへと倒れてしまう。

 

「きゃっ!!?」

 

 自分の方へと倒れてきた咲夜の体をエミリアは咄嗟に支える。

 ラインハルトも驚いた表情をして、駆け寄る。

 

「ちょっと、まさかさっき庇った時にケガをしての!?」

「いや、これは…‥‥」

 

 エミリアが咲夜も実はケガを負っていたのかと、心配の声を上げるが、ラインハルトは心当たりが有ったのか、否定する。

 

「これは、……マナ切れだね」

「マナ切れ?」

「彼女は大丈夫だ。それよりも先にスバルの方を見てくれないか?彼の方が重症だ」

 

 ラインハルトの言葉に疑問の声を上げるエミリアだが、ラインハルトにスバルの容態の方が緊急を要すると急かされ、一瞬、頭に浮かんだ疑問は消える。

 エミリアは咲夜の体をゆっくりとその場に倒し、「ごめんね。あなたは後で見てあげるから」と、申し訳なさそうな表情をした後、スバルに向き直り、手に青い魔力を宿して治癒に取り掛かる。

 

(う……、一体何が……)

 

 咲夜は自分の身に起きた事態を理解しようと考えを巡らそうとするが、強烈な眠気に襲われ、徐々に意識が薄れ、やがて意識を失う。




やっと第一章が完結しました。

この後書きを記載しているまさにこの瞬間に、
キーボードの「る」のキーが取れてビックリ(笑)
壊れたわけではないので、はめ込めばすぐ直りましたが。

さて、一章が完結しましたので、暫くは第二章のストーリーを練りながら、
これまでの投稿話の改訂作業に入りたいと思います。
改訂にどれほど時間を割くか、まだ考えていませんが、
第二章の投稿までそれほど長く時間は空けたくはないかな、とも思っています。
そうは言っても、作者は一話あたりに使用する時間は多いため、心配もあります。

ちなみに十八話は、見直しも含め、十三時間くらいかかりました。

改訂作業の進捗は、今後は「活動報告」の機能を使用して
お知らせしていこうと思います。
良ければ、覗いてみてください。

……やっぱりシリアスが続いた反動か、
ギャグが多い回になってしまいましたね、今回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。