ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

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第十六話です。

今回は戦闘回です。
正直戦闘描写を上手く書けるか不安でしたが、やってみたらなかなかに楽しかったでした。

今までで一番書いていて楽しかった回かも。


第十六話:良い案

 当たればただで済まない勢いで、ただ一点に向かい、魔法によって形成された大小の氷が飛びかかる。

 そんな魔法を放つは、エミリア。

 そして彼女から放たれた魔法が向かう先は、黒い影のような服のドレスを纏った女、エルザ。

 

 普通の人間であれば、そのまま氷の塊たちによって、たちまち傷だらけになり、致死性の高い傷を負うことになるだろう。

 しかし、エルザは襲いかかる氷の弾幕を愉しそうに笑みを浮かべ、ダンスをするように体を揺らして躱し続ける。

 そして時折、その手にもつククリナイフの刃を振るうことで、氷を叩き落とす。

 

 エルザは氷の合間を姿勢を低くし、左右に巧みに躱しながらかいくぐり、エミリアへの距離を詰める。

 そして凶刃をエミリアに叩きこむように一閃。

 エミリアによって、張られた氷の盾に自身の刃が弾かれ金属の音が鳴り響く。

 

 パックがいた時にも同様の戦いを繰り広げていたが、今はエミリア一人。

 同じ繰り返しのように見れても、二人で分担していた役割は全てエミリア一人で担っていた。

 

 一瞬でも気が抜けない状況だった。

 咲夜達は、攻守が目まぐるしく入れ替わるような尋常じゃない戦いを繰り広げるエルザとエミリアを見る。

 先ほどは威勢よく、加勢をすると言っていた面々であったが、この戦いに割って入ることは中々に困難であった。

 現状は様子見に徹する他無かった。

 しかし、そんな余裕も、猶予もない。

 

「押され始めたの」

 

 二人の戦いの形勢が変化し始める。

 パックとともに二人で相手をすることで、攻守の役割分担ができることによって余裕が生まれていたが、現在はその余裕がない。

 一対一であれば、単純な実力差による戦いになる。

 いまはまだ互角に見えるが、エルザが徐々に距離を詰め攻撃を行う回数が増えてきており、このままいけば、エルザの振るう刃に血が滴るのも時間の問題に思えた。

 

 ロム爺は、咲夜とフェルトにチラリと視線を向ける。

 咲夜とフェルトの二人が準備ができていることを頷きを持って返すと、ロム爺はエルザの方へ向き直り、普通の人間の大人程の大きさがある棍棒を強く握り締め、

 

「行くぞ――ッ!」

 

 棍棒を振りかぶりエルザに飛びかかる。

 

「あら、ダンスに横入りなんて無粋じゃないのかしら」

「そんなに踊りたければ最高のダンスを躍らせてやるわ! そら、きりきり舞え!」

 

 ロム爺は棍棒を片手で、右から左からと縦にエルザに向かって振るう。

 その振るわれる棍棒からは、グオンと獣の唸り声のような大きな風切り音を鳴らし続ける。

 

 しかし、エルザは自分よりも二回りも大きい巨人から唸るような音を鳴らして襲い掛かってくる棍棒を前に焦りの表情も見せない。

 右から、左からと縦に振るわれる棍棒を体を左右に揺らして躱す。

 むしろ、棍棒に纏って放たれる風を、まるでそよ風に吹かれて気持ちいいかのように、その風によって彼女の髪が靡かせながら楽しそうに笑みを浮かべる。

 エミリアは、老人が介入してくれた間に一呼吸を付く。

 

「これでどうじゃ!!」

 

 突如、縦の線で振るわれていた棍棒が、針で突き刺すように、点で振るわれる。攻撃の流れを変化させ、相手の意表を突いたと思われた攻撃は、そのままエルザの喉元に突き進む。しかし、

 

「なん、じゃそらぁぁ!!」

「あなたが力持ちだから、こんなこともできたのよ」

 

 まるでエルザは曲芸の技を披露するかのように、突き出された棍棒の先端につま先で乗っていた。

 そして、突き出された棍棒とエルザの重みが絶妙なバランスで、均衡を保っていたが、すぐにエルザの重みをその棍棒に感じ、下に引っ張られる。

 棍棒を握っているロム爺はそれにつられ体制を崩してしまう。

 その生まれた隙をエルザは逃さない。

 

「じゃあね、巨人さん。短い間だけどあなたと踊るダンスは愉しかったわよ」

 

 体制を崩したロム爺の喉元を狙い、エルザの右手に持つ凶刃が迫る。

 

「させっかーっ!」

 

 フェルトは、エルザの刃目がけて小型のナイフを投げる。

 エルザはフェルトの声に反応し、自分の振るうナイフ目がけて、小型のナイフが飛んできていることに気付く。

 

 しかし、飛んでいたナイフはそれだけではなかった。

 小型ナイフよりも少し遅れ、自身の顔目掛け、銀のナイフが一本、音もなく、放たれていることに遅れて気付く。

 

「……っく」

 

 エルザは咄嗟に振るっていた右手のナイフを手放す。

 手放したナイフが小型のナイフに弾かれるのに構うことなく、エルザは体を背後に反らし、首をさらに傾けることで、銀のナイフを紙一重で躱す。

 しかし、エルザはその体を反らした勢いを利用し、そのまま体を回転させ、スルりと左手で新たにククリナイフを懐から取り出し、回転の勢いのままにロム爺に刃を放つ。

 

 ロム爺は、体制を崩していたが、エルザから再度放たれた攻撃に気付き、すんでのところで、棍棒を縦にすることで防御する。

 しかし、体制を崩した状態で、防御の姿勢を取ったせいか、踏ん張りが効かず、そのまま弾かれ、巨漢の老人は後ろに吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ!!」

 

 盗品蔵に置いてあった、数々の品だろうか、それとも蔵の主の趣味だろうか、鎧や壺まど様々な品が置かれた場所に頭から突っ込む。

 巨体の老人がぶつかり、様々なものが――壺が、鎧が、辺りに落ち、砕ける音が響き渡る。

 

「ロム爺っ!!」

「ぐぅっ……」

 

 フェルトは、老人を心配し声を張り上げるが、老人からは呻く声を一つ上げただけで、それ以上の反応は返ってこない。

 先ほどの一撃の勢いに押されて、そのまま頭部をぶつけたことで、気を失ったらしい。

 エルザに切られたわけではないので、死に至ることはないだろうが、ぶつかった衝撃で頭を切ったのか、老人の頭から血が一筋流れるのが見える。

 

「外れたか……」

 

 銀のナイフを投擲したのは咲夜だった。

 ロム爺に気を取られているところに、フェルトからの小型ナイフ。

 そして、フェルトのナイフからあえて一拍遅らせて、時間差で音を立てずにナイフを投げることで相手の不意を突こうとしたが、相手も一筋縄ではいかなく、躱された。

 

 咲夜は、スキを突いた攻撃でもかわされる結果になってしまったが、元々相手が簡単に倒すことができない強者であることは、予想できていた。

 故に結果を冷静に受け止めた。

 しかし、それでも想像以上に相手が手強いことも分かり、首筋に少し、冷汗をかく。

 

 フェルトは死んではいないだろうが、ロム爺が気を失ってしまったことに少なからず動揺しているようで、エミリアもこちらの戦力が少なくなってしまい、より状況が悪化したことに、焦りを感じているようだった。

 何か手が無いかと、考えを巡らせる咲夜だが、ふと先ほどからいつまでたってもエルザから反応が返ってこないことに気付く。

 

 いや、よく見れば、彼女の方がわずかに震えていることに気付く。

 そしてその震えは徐々に大きくなり、それと同時に嗤い声も大きくなって聞こえ始める。

 

「……ふふふふ。いいわぁ。先ほどの攻撃、痺れてしまったわ」

 

 エルザは、首だけをこちらに振り向く。その表情は恍惚としており、目も少し潤んでいた。

 その表情を見て、エルザ以外の面々背筋に寒気を感じる。

 その彼女の纏う狂気的な感情に恐れを抱いたのだった。

 

 そしてエルザは倒れているロム爺に構うことはせず、咲夜たちの方へと体を向き直る。

 エルザの顔には一筋の小さな傷があった。

 躱されたと思った咲夜の攻撃は、彼女の顔にわずかなかすり傷を負わせていた。

 

「それにしてもメイドさん、女性の顔に攻撃してくるなんて、容赦がないのね」

「あいにく、相手を気遣ってあげれるほど余裕はないのよ」

「ふふふ、あなたいいわぁ。素敵よ。あなたの腸を裂くのが楽しみだわ。きっと綺麗に違いないわ」

「……趣味悪いわね、あなた」

 

 エルザは、咲夜しか視界に入っていないのか、体を完全に咲夜の方へ向ける。

 視線はまっすぐ咲夜に向けており、完全に標的が自分になっていることに気付き、ため息が漏れる。

 そしてフェルトやスバルたちから少し離れるよう前に出る。

 

「スバル、フェルト、ここからはわたしとエミリアで時間を稼ぐわ。だから何か良い案でも考えなさい」

「随分な難題押し付けてくんな、姉ちゃん……」

「良い案って……。こんな状況で何が出来るんだよ?」

「こんな状況だからよ。不本意だけど任せたわよ」

 

 咲夜は、左手に銀のナイフを、そして右手にはいつぞやのチンピラから奪った、ククリナイフを構える。

 使い慣れた銀のナイフも良かったが、相手が格上であり、なおかつこちらの持つ銀のナイフよりもリーチのある武器を相手が持っている。

 せめて同じリーチの武器を使う方が、少しはましだろうと判断しての構えだった。

 

「第二ラウンド開始よ!!」

 

 咲夜が構えて準備が整ったことを確認するとエルザは飛び出す。

 しかし、横から無数の氷の刃がエルザを襲う。

 

「こっちも忘れてもらっては困るわ」

 

 エミリアは、エルザの横から畳みかけるように氷の刃を放つ。

 エルザは、後ろに飛び、躱すが、その後もエミリアから氷の塊が放たれ続け、手に持つククリナイフで、叩き切る。

 そして咲夜も、銀のナイフをエルザに放つ。

 

 エルザは、氷の刃とは別の方向から飛んでくる咲夜のナイフを姿勢を低くすることで躱し、その低い姿勢を維持したまま、エミリアに接近し、ククリナイフで攻撃を仕掛ける。

 ククリナイフの攻撃は、先ほどまでと同じように氷の盾に阻まれる。

 エルザはエミリアの盾を周りこみ横からさらに攻撃。

 

 しかし、エミリアもエルザの動きの合わせて盾を移動させ対応。

 エルザがエミリアの周りを駆け回り、隙を見て攻撃し、エミリアがそれを盾で防ぐ。

 咲夜は、エルザがエミリアの近くにいるために、うかつにナイフが投げれず、見ていることしかできなかった。

 

 そのまま、エルザが攻撃をし続け、エミリアがそれを防ぎ続ける攻防が継続されると誰もが思ったが、エルザは突如、向きを変え、咲夜に一直線に突撃してくる。

 先ほど不意を突いた咲夜が、今度は不意を突かれることになった。

 エルザは、咲夜の傍まで近づき、そのままククリナイフで左から横に切りつけてくる。

 

「……っぐ!!」

 

 カインっと、金属同士が衝突する音が鳴る。

 咲夜は、とっさに左手に持つ銀のナイフを縦に構えることで、エルザの刃を防ぐことに成功する。

 咲夜は、右手に持っていたククリナイフを右から切り付ける。

 エルザはしゃがみ込んで避け、避けるともに地を這う低空の蹴りを放ち、咲夜の足を狙う。

 咲夜は、後ろに飛び、そのままバク転する形で回避。

 

「空中に逃げたのは下策ね。」

 

 エルザは、バク転している途中の咲夜が落ちてくる位置を予測して、丁度顔の位置が来るであろう場所をナイフで突く。

 そのまま重力に引っ張られ、落ちてくる咲夜の顔をエルザのナイフによって、酷い有様になるであろうと思われたが、突如落ちてくる咲夜の体が空中で停止したため、エルザの攻撃が外れる。

 

「……なっ!!」

 

 そして空中に浮かんでいる、咲夜の目線は、エルザをとらえ、いつの間にか咲夜は、持っていたククリナイフの柄を口で咥え、空いた右手と左手には、それぞれの指の間に銀のナイフを挟み、4本ずつのナイフを持って構えていた。

 驚きに一瞬体を硬直させたエルザの隙を見逃さず、咲夜は両腕を振り、その両手に持つナイフを全てエルザに向かって放つ。

 

 エルザは、向かってくるナイフの群を避けようと、後ろに飛ぶが、初動が遅れた為、2本ほどナイフが脇腹に刺さる。そしてナイフが刺さった個所から、彼女の血が滴る。

 

「…っぐ!!」

 

 エルザは刺さった瞬間、苦悶の表情を一瞬見せるが、すぐにいつものように笑みを取り戻し、やがて恍惚の表情に変わる。

 

「……ああ、痛い、痛いわぁ。でもこの痛みがわたしに生を感じさせてくれるの」

 

 咲夜は、空中から降り、直地して息を吐く。

 

「はあっ……はあっ……っ!」

 

 咲夜は、一瞬の攻防ではあったが、長距離を全力で走ったかのような疲労に襲われる。

 息は切れ、顔には少し汗が浮かんでいた。

 そして生死のやり取りに緊張していたのか、息を止めて戦っていたため、肺が酸素を求め、呼吸しようとするが、疲労からかなかなか喉に空気が入っていかない。

 

 対するエルザは、すぐに咲夜を責め立てず、自分の体に刺さるナイフを1本1本ゆっくりと抜いていき、床に捨てると、先ほどの咲夜の空中での奇妙な動きが気になったのか、咲夜に話しかける。

 

「あなた、加護持ちだったのかしら?」

「……」

 

 エルザに問われるが、咲夜はエルザが言った加護の意味が分からなかった。

 咲夜は勝手に警戒してくれるならそのまま警戒させておく方がいいだろうと、沈黙で返す。

 エルザは、沈黙が咲夜にとって図星によるものだろうと、自分の攻撃を躱した理由を、加護によるものだと結論付ける。

 

「まさか、そんな隠し玉を持っているとはね。少し驚いたわ。でも種が分かれば、次は対応できる。今度は、もっと別のことをしないと、躱せないわよ。次は何を見せてくれるのかしら?」

 

 エルザは咲夜が想像以上に楽しませてくれることを喜び、そしてさらなる驚きを期待する。

 そんな戦闘狂のようなエルザは、まるで鬼のようだな、と幻想郷で戦い好きな彼女らを思い出す。

 鬼と違ってエルザの方がかなり悪趣味ではあるが。

 

 咲夜は、エルザのまだまだ余裕そうな様子を見て、焦る。エミリアと二人で戦ってはいるが、もともと二人とも遠距離タイプであるため、エルザがどちらかの近くにいると、どちらかは味方を攻撃してしまうことを恐れ攻撃を仕掛けることができない。

 そのため、実質一対一と変わらない状況だった。

 そして咲夜とエミリアはエルザを挟む形で直線上の位置にいたため、互いに援護も難しい。

 

「最悪の状況ね……」

 

 状況の悪さに、さすがの咲夜も、愚痴が思わず、零れる。

 そしてエルザが再度、咲夜に攻撃をしかけようとするが、そこで待ったの声がかかる。

 

「こっちを向けーーー!エルザ―ーー!」

 

 大声でエルザの名前を呼んだのはスバルであった。

 その声に反応しエルザ、そして咲夜とエミリアもスバルを見る。

 スバルの手には、あの魔法器、携帯が握られていた。

 

 

 

***********************************************

 

「スバル、フェルト、ここからはわたしとエミリアで時間を稼ぐわ。だから何か良い案でも考えなさい」

 

 咲夜はスバルとフェルトにそう声をかけると、エルザの方に向き直り、スバルたちから距離を取ってしまう。

 

「何か良い案って、言われてもな……。フェルト何か良い案あるか?」

「おい、いきなり他人任せとか、情けねぇな、兄ちゃん……」

「仕方ねぇだろ!何も思いつかねぇんだから!」

 

 スバルとフェルトが考えている間も、エミリアたちは戦っている。

 エルザは強敵で、なんとか二人が凌いでいる状況だが、長くは持たないだろう。

 早く何か案を考え出さないと、そう考えスバルは焦りながらも必死に頭を捻るが、何も頭に思い浮かばない。

 周りに何かいいものでもないかと見渡すが、ここは盗品蔵であると同時に酒場も兼ねているのか、酒瓶があるばかり。

 酒瓶を投げても大した援護にもならないだろうと、スバルはため息をつく。

 

 そして咲夜たちはどうしただろうか、とスバルは目を向けるが、今はエミリアとエルザが戦っているのか、エルザの攻撃をエミリアは氷の盾を形成して防いでいた。

 エルザの攻撃をギリギリ防いでいるエミリアを見てハラハラし、目が離せなくなりそうな光景であったが、そうしている暇もない。

 

「くそっ!こんな時こそ主人公の力が目覚める時だろうが!!俺の秘められし力よ今こそ出でよ!」

 

 スバルはそう叫んでみるも、何も起こらない。

 

「兄ちゃん……真面目に考えろよ」

 

 フェルトにも冷たい目をして怒られ、スバルはわあっているよと、返し再び考える。

 

「無いものねだりをしても仕方がない…。現状あるもので何かできないか、考えろ。」

 

 スバルは、考えていることをそのまま口に出しながら考え続ける。

 そして自分のポケットをまさぐり、そこに人類の文明の利器、携帯を見つける。

 そのままポケットから携帯を取り出す。

 

「そのミーティアで何とかできないのかよ?何かすごい機能とか持ってないのかよ?」

 

 携帯を見たフェルトが、魔法器なら何か、逆転の目をだせるんじゃないかと、スバルに問う。

 あいにくただの携帯。

 携帯で人は撃退できない。

 

「携帯にそんな機能はねーよ。現代なら警察とか呼んで撃退とかできなくもないけど、電話がつながらないこの世界では――」

 

 そこまで言いかけてスバルは気づく。

 

「そうか、人を、助けを呼べばいい!!この世界だって衛兵くらいはいるはずだ。でも、エルザを倒せるような強いやつなんてそう都合よくいるのか?いやいる。アイツなら……きっと。」

 

 スバルは、フェルトの言葉をきっかけにどんどん考えを巡らせ、ぶつぶつと呟きながら案を纏めていく。

 

「あとはどうやって、エルザの目を盗んで抜け出すかだが……」

 

 スバルはふと手に持つ携帯を見る。

 そこには、盗品蔵に着く前に、フェルトを撮影した一枚が待ち受け画像として表示されていた。

 

「おい、兄ちゃん、さっきからブツブツと何を――」

「フェルト、俺の作戦を聞いてくれ」

 

 フェルトは、急にブツブツと一人で呟き出した、スバルを心配し声をかけようとしたが、逆にスバルに肩を掴まれ、声をかけられる。スバルが何か閃いたようだ。

 

 

 

***********************************************

 

「こっちを向けーーー!エルザ―ーー!」

 

 突如、横から大声がし、咲夜は声の主に目を向けると、そこにはスバルがいた。

 声に反応しエルザとエミリアもスバルを見る。

 スバルの手には、あの魔法器、携帯が握られていた。

 

「くらえ!!連続、菜月フラッシュ!!!」

 

 携帯から連続して眩い光が連続して放たれる。

 エルザが来た時には既に日が暮れ始めており、盗品蔵の中は電気もついていない状態であったため、今や部屋の中はかなり暗くなっていた。

 

 夜目に慣れた咲夜たちでなければ、中の様子は見えない状態だったろう。

 そこにスバルによって、照らされる光。

 咲夜たちも含め、エルザの目を光で目を眩ませるのに十分な条件であった。

 そして、スバルが思いもよらなかったが、エルザは吸血鬼で、夜には通常の人間よりも暗闇の中でも見えやすいことも、より大きな効果を生んだ。

 

「ああっ!!!」

「うっ!」

「眩しいっ!!」

 

 エルザ、咲夜、エミリアと光の眩しさに目が眩む。エルザは特に目が眩んだようで、体を思わずふらつかせた程だった。

 

「今だ、フェルト!行け!」

 

 スバルからあらかじめ、目を瞑っているよう言われていたフェルトは、スバルの合図で目を開け、盗品蔵の扉に走る。

 目が眩んでいたエルザは、フェルトの姿を目でとらえることができない。

 しかし、エルザは音で判断したのか、持っていたククリナイフをフェルトの方へ正確に投擲してくる。

 スバルは傍の棚に置いてあった酒瓶を投げつけ、見事ナイフにぶつけることに成功する。

 酒瓶は割れ、中から液体が飛び出し、酒の匂いが辺りに充満する。

 ククリナイフは、酒瓶がぶつけられたことで進行方向を変え、フェルトから外れる。

 

「おお―、自分でやったことだけど、俺ってすげー!!まぐれでもやってみるもんだな!!」

 

 フェルトはその間に、扉にたどり着き、外へ出る。

 

「よっしゃああ!」  

 

 スバルは、上手くフェルトを逃がせたことに、歓声を上げる。

 助けを呼ぶために逃がすなら、自分よりも幼い少女を助けるべきだ。

 フェルトはこのあたりの土地勘もあるし、自分よりも素早く動けるため、逃げられる可能性も、助けを呼べる可能性も自分よりも高いはず。

 スバルは、そう考え、携帯による目くらまし作戦をフェルトに提案したのだった。

 それがうまく成功したことで、スバルは安堵の息を吐く。

 

「まさか、何も役に立たないと思っていたお兄さんしてやられるとは思っていなかったわ」

「俺もまさか、半ば博打のような作戦が完璧に成功するとは思ってなかったぜ!ざまあ、みやがれ!」

 

 スバルは自分自身でも驚いたような発言をしながらも相手を煽る。

 簡単な挑発に乗る相手では無いが、

 

「ふふ、威勢が良いのね。でも楽しんでいたところに水を差されて、わたしも少しイラっとしてしまったわ!」

「ぶはっ……」

 

 そう言うと同時にエルザはスバルの近くまで一気に駆けより、回蹴りをする。

 スバルはエルザの速さに反応できず、横顔を蹴られ、部屋の壁まで吹き飛ばされる。

 

 エルザは、その後、咲夜に近づこうとするが、そこで背後から氷柱が迫ることに気付き、横に飛ぶことで回避。

 しかし、回避した後も、氷の柱の雨による攻撃は止まらず、エルザは部屋を駆け回ることで回避し続ける。

 咲夜は、エミリアが攻撃している間に、エルザから距離を取り、回り込むように移動することで、エミリアの近くまで行く。

 咲夜が近くまで来たことを確認すると、エミリアは一旦攻撃を止める。

 

「さすがに、素手で魔法使いの相手をするのは骨が折れるわね」

「そう思うなら、手を引いてくれないかしら?」

 

 さすがのエルザも武器が無い状態では、少しばかり避けるのに苦労するのか、何本かの氷柱がかすったのか、ところどころ、服が破れ、そこから肌が露出している。

 しかし、あれほどの攻撃をされても大した傷を負ってもいないようだった。

 咲夜は、諦めてくれないだろうと思いながらも、手を引いてくれないかと、期待してしまう。

 

「残念。仕事の依頼だから個人の都合では決められないの。それにこんな楽しい戦い、そうそう味わえるものでもないもの。手を引くわけにはいかないわ」

 

 エルザは、素手の状態でも戦う気を一切衰えることがなく、こちらに走り出せるように体制を低くする。

 対するこちらも油断なく、エミリアはいつでも魔法を出せるよう、掌を前に構え、咲夜もククリナイフを構える。

 スバルも吹き飛ばされていたが、足をふらつかせながらも立ちあがり、拳を構える。

 しかし、エルザが前に飛び出そうとしたとき、盗品蔵の天井をぶち破ってきたものがいた。

 

「そこまでだ!」 

 

 凛とした声とともに、ぶち抜かれた屋根から降り立ったのは、燃えるような赤い髪をしたラインハルトだった。




今までで一番文章量が多い回になってしまいました。

愉しかったでしたが、とても疲れた回でもありました。
ラインハルトさんや駆けつけるの遅すぎ……。

今回は、初の試みですが、咲夜以外のキャラ、スバルの視点での描写も入れてみました。
いかがだったでしょうか?

今後も、場合によっては他のキャラの視点に切り替えて、話を展開させていくことが増えてくるかもしれないです。次回は、第一章最後の話になると、いいな……。

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