こちらもいつもよりも文章量が多いです。過去最高の文字数になってしまいました。
サクッと第一章は終わらせたいんですがねぇ。
でも中途半端にカットもしたくない……。
いくつもの先が鋭く尖った氷柱が剛速球でエルザに対し、叩きつけられる。
その勢いはすさまじく、曲者揃いの幻想郷での弾幕戦で鍛えられた咲夜でさえ、躱すのは簡単では無いだろう。
全ての氷柱が叩きつけられ、部屋にもうもうと白い煙が上がる。
あれだけの数をあれだけのスピードで打ち付けられれば、まず無事ではないはずだ。
しかし、相手は吸血鬼。
ケガを負ったとしても、このまま終わることはないだろうと、咲夜は警戒を緩めなかった。
「やりおったか!?」
「はい、ここでダメなフラグ一丁入りました――!!」
「――備えはしておくものね。重くて嫌いだったけれど、着てきて正解」
煙が晴れ、出てきたエルザは、先ほどと変わらない調子で現れる。
あれほどの攻撃を食らってもまさか無傷であることに、エルザ以外の全員が衝撃を受ける。
「まさか、無傷とはね……」
「別に攻撃が効かなかったわけじゃないわよ。私の外套は一度だけ、魔を払う術式で編まれていたの。それでただ命拾いしただけ」
咲夜の驚きの声に返答し、答えを明かしてくれるエルザ。
相手に情報を簡単に明かすことは愚かではあったが、それは余裕からか……。
咲夜はますます警戒を強める。
今度は攻めてきたのはエルザだった。
エルザは姿勢を低くし、手に刃を構えて、一気に距離を詰めてくる。
狙っていはエミリアだった。
エルザの駆けるスピードは早く、一瞬でエミリアに肉薄し、エルザは刃をエミリアに突き立てようとする。しかし、
「精霊術の使い手を舐めないこと。敵に回すと、恐いんだから」
刃は氷によって形成された盾に阻まれ弾かれる。
攻撃を防がれると、すぐさまエルザはその場を後ろに飛びのき、距離を取る。
その直後、先ほどまでエルザがいた場所に、無数の氷柱が突き刺さる。
どうやら、盾を形成したのはエミリアで、先ほど攻撃したのが、パックによる魔法のようだった。
「アレが精霊使いの厄介なところじゃ。片方が攻撃して、片方が防御。場合によっちゃ片方が簡単な魔法で時間を稼いで、もう片方が大技をぶっ放す……なんてのもできる。『精霊使いに出会ったら、武器と財布を投げて逃げろ』ってのが戦場のお約束じゃな」
エミリアたちが戦い始めると、エミリアとパック以外の面々は、距離を取り邪魔にならない所へ避難していた。
彼女たちの戦いは、一般人が立ち入れるものではないものになっていたからだ。
そして、そんな面々に説明するようにロム爺が戦いを見て解説を入れる。
あれがこちらの魔法使いの戦い。
幻想郷では見かけない精霊使いの戦いにそう咲夜は感想を抱く。
(もし幻想郷で例えるなら、氷の妖精を従えた魔理沙と戦うものかしら?二人の息の合ったコンビネーションを想像できないわね)
その想像からはあまり脅威を感じれないが、もし息の合ったコンビネーションで戦うことになれば、一人で相対すれば通常の相手にとって脅威だろう。
咲夜がスバルを横目で見れば、彼もロム爺の言葉に感嘆としており、その脅威は伝わっているようだった。
「ところで、爺さんはなにをしようとしてんだ?」
「機を見て、エルフの娘に助太刀をな。まだ向こうの方が話がわかりそうじゃ」
「待て待て待て待て待て待て待て! やめとけーって! 絶対、足引っ張るだけだから! 右腕と首を切られてやられんのがオチだ、ジッとしてよう!」
「具体的な負け予想するでないわ! なんでか本当に切られた気がしてくるんじゃ!」
「わたしもスバルに同意見よ。ここは静かに見守りましょう」
「むぅ。仕方ないのう」
咲夜もスバルの意見に同意する。
むやみに戦いに介入すれば、たちまち足を引っ張り、周りを道ずれにこちらが殺されることになるだろう。
ここは、静観するのが正しい。
スバルのやけに具体的な負け方の想像に、思わず自分の死を想像させられ、嫌そうな表情をしていたロム爺は、咲夜にも諭され、ひとまず静観するという意見を了承する。
そして再び一同は、戦いに目を向ける。
戦いは先ほどと状況が変わらず、エミリアとパックによる氷柱が打ち出され、それをエルザは巧みに躱し、隙を見て距離を詰め攻撃し、それが防がれ、エルザが距離を取る、それの繰り返しだ。
油断できない相手と判断したエミリアとパックからは、無数に大小形が様々な氷柱が打ち出され、室内一帯にエルザに回避されそのまま壁や床に突き刺さったままの氷の塊が散乱する。
一撃一撃が、必殺のスピードで無数に打ち出すエミリアとパックの力量も凄まじいが、それを躱し続けるエルザもかなりの強さを持っている。
咲夜が見るに、まだまだ余裕がありそうだ。
「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」
思わず、攻撃をしているパックから感嘆の声が漏れる。
その言葉にエルザも喜びの表情を出す。
「あら。女の子扱いされるなんてずいぶんと久しぶりなのだけれど」
「ボクから見れば大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても、不憫なくらい強いもんだね、君は」
「精霊に褒められるなんて、恐れ多いことだわ」
そしてそんな会話が交わせられるも、戦いは続く。エミリアとパックが氷柱を撃ちエルザが躱す。
一見エミリア側が優勢に見えるが、状況は膠着していた。
そんな状況を見守っていたスバルが、ぽつりと懸念事項を漏らす。
「このままだとMP切れして負けるんじゃねぇか?」
攻守が入れ替わる展開を思い描き、スバルは長期戦になる不利を訴える。
しかし、そんな不安に首を横に振るのはロム爺だ。
「えむぴーとやらがなにかはわからんが、精霊使いの戦いでマナが切れる心配はいらん」
「マナが切れる心配がないっつーのは……」
「魔法使いと違って、精霊使いが使うのは己の中でなく、外にあるマナじゃからな。世界が枯渇しない限り、精霊使いに弾切れは存在せん」
「無制限に魔法を使用することができるのは、すごいわね」
咲夜とスバルは精霊魔法の強さの一つの理由を知り、驚ろく。
しかし、老人はそれでも油断はできないと、話を続ける。
「ただし、精霊がいつまで顕現できるか、はまた話が別じゃ。精霊抜きじゃと、一気に形勢が傾くかもしれんぞ」
「うげ、そういやそうだ。……そろそろ五時とか回るか!?」
「どういうこと?」
スバルは、既にエミリアとともに行動していた時に知っていたが、精霊は顕現できる時間に制限があることを知らなかった。
そしてそのことをスバルから説明を受けると、咲夜もロム爺が懸念していることを理解する。
「あ、マズイ。ちょっと眠くなってきた。むしろ、今ちょっと寝ながら戦ってた」
「ちょっとパック! しっかりやってよっ」
「……はっ! 寝てない! 寝てないよ! ボク、全然寝てないよ!」
「なんかすげぇ小声で不安になるやり取りしてねぇ!?」
懸念していたことが起きてしまいそうなのか、パックがだいぶ眠そうにし、時折瞼を閉じ駆け、寝そうになる。
エミリアもパックが眠れば不利になると危惧して、焦りが入る。
「楽しくなってきたのに。心ここに非ずなんて、つれないわ」
「もてるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でもほら、夜更かしするとお肌に悪いからさ」
「そろそろ幕引きといこうか。同じ演目も、見飽きたでしょ?」
「――足が」
先ほどまで機敏に動き回っていたエルザが唐突に、転ぶ。エルザの足は氷によって、縫い止められていた。
「無目的にばらまいてたわけじゃ、にゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
「年季の違いだと思って、素直に賞賛してくれていいとも。オヤスミ」
パックはそう言った後、両手を前に構える。その両手には膨大の魔力がかき集められていくのが咲夜には分かった。
そして、そこから青い光のエネルギーが放たれる。
それを見て、色も違い、力とスピードも劣るが、放たれ方が似ていたため、咲夜は魔理沙のマスタースパークのようだと思った。
パックから放たれた光は、エルザにまっすぐ向かう。このままエルザに当たるかと思われたが、
「嘘、だろ……」
「嘘じゃないわよ。ああ、素敵。死んじゃうかと思ったわ」
「……女の子なんだから、そういうのはボク、感心しないなぁ」
エルザは、自分の足の底を持ってた刃で剝ぐことで、氷の拘束から逃れ、飛んで躱すことに成功させたのだった。
彼女の皮が剥がれた足からは、血が滴り、それが氷の上に落ちることで温度差から湯気を出させていた。
その見ているだけで痛々しいケガに一同は顔を顰める。
咲夜は、とっさの判断で、足を削いでまで、躱すエルザの判断に戦慄を感じる。
「早まって切り落とすところだったのだけれど、危ういところだったわ」
「それだけでも相当、痛いだろうに」
「ええ、そうね。痛いわ。素敵。生きてるって感じがするもの。それに……」
心配気なパックの言葉に対して、エルザは恍惚の表情で、その出血する足を傍らの氷塊に足裏を押し付け、血を止血する。
その後、ククリナイフで氷塊の表面を撫で切る。
その強引な止血方法に、咲夜も引く。
「ちょっと動きづらいけど、十分よ」
そしてエルザは愉しそうに笑う。
「パック、いける?」
「ごめん、スゴイ眠い。ちょっと舐めてかかってた。マナ切れで消えちゃう」
「あとはこっちでどうにかするから、今は休んで。ありがとね」
「君になにかあれば、ボクは盟約に従う。――いざとなったら、オドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ」
その言葉を最後に、エミリアの方に乗っていたパックの姿が徐々に薄くなっていき、完全に消える。
「――ああ、いなくなってしまうの。それはひどく、残念なことだわ」
パックが消えると、これまでエミリアが一方的に攻撃できた状況は変わる。
咲夜はそう考えるが、そのように考えたのは咲夜だけではなかったようだ。
「そろそろ、ただ見てるだけってわけにはいかんな」
棍棒を握りしめて、ロム爺が立ち上がる。
「加勢なしの勝算はもうわからん。なら黙って見とるのも機を逃すだけじゃ。……わかっとるじゃろ、フェルト」
「わかってるっつーの。逃げるにせよ、そろそろ動かねーといけねーってな」
そしてロム爺は、他にこちらの勝算を上げるものはないかと、スバルに目を向けるが、
「坊主……、ハア、お前さんはそこにじっとしておれ」
「そのため息はなに!?確かに俺は役には立てないけどさー!!」
ため息を尽き、特に期待もしていないのかそう声をかける。
そしてスバルは自身がどう判断されたのか、分かっていながらも不満の声を上げる。
ロム爺はスバルを相手せずに、今度は咲夜に声をかける。
「嬢ちゃんは戦えるかの?」
「あら、か弱い女性を戦わせるの?」
「ふん、こんな状況でいけしゃあしゃあと。嬢ちゃんは、これまでの戦いも目でちゃんと追えていたじゃろ?それに先ほど鑑定の際にナイフを取り出した時の慣れた手つきから、刃物の扱いの心得はあるのじゃろ?少なくともそこの小僧よりかは、役にたちそうじゃしの」
思ったよりもこの筋骨隆々とした老人は、周りを見ているようだ。
それに見かけ通りよりも頭も回るらしい。
この老人は意外とこのような荒事にも慣れているように思われた。
咲夜は状況から判断して協力するしかないかと判断し、肩をすくめ返事を返す。
「まあ、スバルよりは役に立つでしょうけど、そこまで戦えるわけではないわ」
「今は人手が多い方がいい。実際に何ができるんじゃ?」
「わたしに近接戦を期待しても無駄よ。遠距離から攻撃する方が得意だし。武器はこのナイフね」
咲夜はそう言って、足のホルスターから銀のナイフを一本抜き取り、手に取ってロム爺に見せる。
「ふむ、手投げナイフってところかの。腕前のほどは?」
「36m離れた場所までなら狙った場所に当てられるわ」
その返事を聞き、スバルたちは咲夜のナイフ投げの技量の凄さに驚く。
ロム爺はその頼りになる返事を聞き、笑みを浮かべる。
咲夜の話は、正確には、36メートル先にいる頭上にリンゴを乗せた妖精メイドの額に当てたことだったが……。
「それほどの腕前なら十分じゃろう」
「作戦は?」
「わしがスキを見て攻撃を仕掛けるから、嬢ちゃんは、その援護をしてほしい。」
「援護って言っても、わたしの投げナイフじゃ、狙いは正確でもきっと躱されるわよ。」
「そこは、わしとフェルトで何とかスキを生み出すから、そこを狙って何とかしてほしい」
「何とかって……」
随分いい加減な作戦であったが、現状それ以上に思いつく作戦は無いだろう。
そう考えて咲夜も覚悟を決める。
フェルトは既に、一人となったエミリアとエルザが戦い始めているのを見て、準備を完了させ、覚悟を決めているようだった。
スバルはそんな戦いの準備をし始めている三人を見て、何もできない自分を嘆いているのか、少しうつむく。
そんなスバルを見て、咲夜は声をかける。
「スバル、あなたはそこで戦いを見ていなさい。」
「咲夜……、俺に、俺にも何かできることはないのか?」
スバルは力になれないことを悔しく感じるも、それでも何か出来ることがないか、咲夜に縋るような目をして聞く。
「あなたに何もできることはないわ」
「……っ」
そんなスバルに咲夜は冷たく現実を突きつける。
スバルは咲夜の言葉を受けて、ショックを受け、顔を俯かせる。
「何をしているの、スバル」
「何をしてるの、って、そりゃ現実を突きつけられて、落ち込んでるんだよ。こんちきしょう!見りゃ、分かるだろう!!」
咲夜の言葉により落ち込み俯いていたスバルは、咲夜にその行動の原因を作った咲夜本人に理由を聞かれ、顔を上げ、怒りの声を上げた。
しかし、スバルの顔を少し赤くし憤っているスバルの顔を真っすぐに見つめながら、
「だから、落ち込んで俯いている暇なんてないわよ」
「は?」
「最初に言ったわよね、わたし。あなたはそこで戦いを見ていなさいって」
「あ、ああ。でも俺には力はないし、見ていることしかできないから……」
「そうね。あなたは力もないし、戦いへの覚悟もない」
咲夜は足を震わせているスバルを見ていう。
スバルは、恐怖に慄き、戦いへの覚悟もないことを咲夜に見透かされていることに、表情を暗くし、また顔を俯かせようとする。
しかし、咲夜の続ける言葉に、顔を上げる。
「だから、考えなさい」
「え?」
「あなたの強みは何?」
「お、俺の強み?引きこもりをやっていた俺に強みなんてどこにも……」
咲夜に唐突に自身の強みを問われたスバルは困惑の表情をする。
スバルはこれまで何もせず、学校へも行かず、両親に甘えて引きこもっていた男だった。
そんな努力もなにもしてこなかったスバルは、自分の強みについて、答えを出せることが出来なかった。
「なら、あなたはどうしてここにいるの?」
「それは徽章を取り返したくて……」
「ならここまで来るのに何の苦労も無かったのかしら?ここまで辿り着くのに何の障害も無かったのかしら?」
スバルはこれまでの死に戻り経験を振り返る。
スバルはここまで来るのに4回もこの世界を繰り返していた。
エルザに二回殺され、チンピラに一回殺された。
それでもスバルは、諦めず、明るい未来を信じて、すべて上手く解決できるはずだと信じ、ここまで来たのだ。
「あなたの強さは、その諦めの悪さじゃなかったの?」
咲夜に言われ、スバルはハッとする。
確かにそうだ。
これまで俺は、何度死んでも諦めずにここまで来た。
エミリアの問題からは目を背けて、忘れ関わらなければ、死など簡単に回避できたのにだ。
まるでこれまでの頑張りを見てきたことのように咲夜に言われ、スバルは救われたかのような気持ちになり、その目に輝きを戻す。
「そうだな、これまで簡単じゃなかった。苦労もいっぱいあった。」
「なら、あなたはその苦労に対して、どうしたの?」
「何か、いい方法が無いか、考えて考えて……」
「なら、考えなさい。この戦いを見て、何かいい方法が無いか、考え続けなさい。それがあなたに出来ることよ」
咲夜はそういうと、もう言うことはないのかスバルに背を向け、戦いにいつでも入れるようにナイフを構える。
そしてロム爺は、咲夜とスバルのやり取りを見ていたのか、茶々を入れる。
「中々にお似合いじゃの」
「黙りなさい。あなたも言っていたとおり、今は少しでも人手は欲しいの。少しでも勝ち目が上げようと行動しただけよ」
咲夜は、ロム爺に絶対零度の目を向け、それにロム爺はビビり、慌てて話題を変える。
そして、咲夜は仕方なしに話を合わせる。
「さて、準備はいいかの?」
「ええ。いつでも飛び込んでいいわよ。あなたの腕と首が切られるのを最後まで見届けてあげるから」
「ちょっ!!?なんじゃ、根に持っておらんか?謝るから、機嫌を直してくれんかのう?」
「ロム爺、姉ちゃん!いつまでもくだらないことでふざけてる場合じゃないぞ!」
「こら!フェルト!爺ちゃんの命がかかってるんじゃぞ?くだらないとはなんじゃ!!」
戦いの準備は整った。
後は機を待つだけ。
咲夜たちは気を引き締め、エミリアとエルザの戦いに集中する。
今回は咲夜さんのヒロイン力が半端ない回になってしまったような……。スバルのヒロインはエミリアさんなんですがねぇ。
あ、あとご安心を。誤解はちゃんと第二章の最初で解けますので。第一章でのギャグ要素として捉えてください。