ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

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お待たせしました第十四話です。続けて第十五話も掲載するのでよろしくです。

一話あたりの文章量がどんどん増えていっていることに戦慄しています。予定通りに第一章今月には終わらんかも……。




第十四話:誤解

「――殺すとか、そんなおっかないこと、いきなりしないわよ」

 

 そう言って、盗品蔵の扉から現れた人物は、————エミリアだった。

 彼女はフェルトをここまで探し出すのにだいぶ苦労しただろうだろうか、少し疲労感を声ににじませながらも表情は、心外だとでも言うように不満気だった。

 

 咲夜は、盗品蔵に入ってきた人物がエミリアであるのを見て、エルザで無かったことに安堵の息を漏らすが、同時に内心面倒なことになったとも思っていた。

 折角交渉が纏まり、あとは交換するだけだったのに、その徽章の持ち主が現れてしまったのだから。

 前回はエミリアがエルザよりも先に盗品蔵に到着することが無かったので、油断していた。

 

 そして、エミリアが現れたことで都合が悪くなったのは咲夜だけではなかった。

 

「ホントに、しつっこい女だな、アンタ。それに空気が読めないやつだな、間が悪すぎ。」

「盗人猛々しいとはこのことね。神妙にすれば、痛い思いはしなくて済むわ」

 

 フェルトは、エミリアによって交渉に邪魔が入ったと、苦々し気に言うが、対するエミリアはそんなフェルトが、自分勝手な態度にしか見えなかったようだ。

 いや、自分勝手だが……。

 

「ってことはアレか。俺がいなければこんだけ早く辿り着くってことか」

 

 スバルは、エミリアが以前よりも盗品蔵に早く着いた理由に思い当たることがあったのか、そう呟やく。

 咲夜は知らなかったが、初めてスバルがエミリアに出会った時、スバルはエミリアと一緒に行動し、その時にも盗品蔵に訪れていた。

 そして盗品蔵に到着した時刻は、夕方ぐらいだった。

 もっともその後、盗品蔵に入った2人は、暗闇に潜んでいたエルザに殺されたのだが……。

 その時の経験から、路地裏でのスバルへの治療への時間がなければ、エミリアはこの時間帯に到着できるのだろう。

 

 エミリアは、いつでも魔法が打てるように掌をフェルトへ向けながら、入口を塞ぐ形を維持しながらも数歩足を進め、対照的にフェルトはエミリアが進む分だけ後ずさりする。

 

「私からの要求はひとつ。――徽章を返して。あれは大切なものなの」

 

 エミリアの周りには、生成された八本の氷柱が浮き、4人に対しそれぞれ二本の氷柱の先端が向き、いつでも打ち出せる状態になっていた。

 その氷柱は彼女の優しい性格だからだろうが、先端は丸くなっていたが、硬そうな氷柱が二本も当たれば、軽くないケガを負うことになるだろうことは見て取れた。

 

 フェルトと先ほど後ろで黙り続けていた老人もその光景を見て、状況が不利と悟ったようだった。

 

「……ロム爺」

「動けん。厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたもんじゃな、フェルト」

 

 あの老人はロム爺と言うのね――――咲夜は2人の会話を耳にして老人の名前を初めて知った。

 スバルは、エミリアが現れて場が、より複雑な状況になったうえに、自分たちも泥棒仲間に見られている現状に不安に思ったのか、咲夜に声を小さくして話しかける。

 

「おい、咲夜。この状況不味くないか?なんか俺たちも泥棒仲間に思われているっぽいんですけど?」

「今は静かにしてなさい。場の状況が落ち着いたら、誤解を解くわよ。一応聞くけど、あの子があなたの探していた子でいいのよね?」

「ああ。そうだ。俺はあの子に徽章を取り返そうとしてた。」

 

 咲夜とスバルは、ひとまず様子見に徹し、スキを見てエミリアの誤解を解き、このままフェルトたちからエミリアに徽章が渡れば良しとした。

 そこで話を切り、咲夜は再びフェルトたちに目線を戻す。

 

「ケンカやる前から負けなんて認めんのかよ?折角取引も決まりかけてたのに」

「ただの魔法使い相手なら儂も引いたりせんがな……この相手はマズイ」

 

 フェルトはそんなロム爺の弱気の発言が気にくわなかったのか、強気な発言で返すフェルト。

 しかし、ロム爺には何か懸念することでもあるのか、そう返す。

 

「お嬢ちゃん。……あんた、エルフじゃろう」

「正しくは違う。――私がエルフなのは、半分だけだから」

 

 咲夜とスバルは、エミリアの言葉の意味をそのまま受け取ったが、フェルトとロム爺にはその言葉の意味の受け取り方が違ったようだった。

 2人は目を大きく見開き、驚きの反応を返す。

 

「ハーフエルフ……それも、銀髪!? まさか……」

「他人の空似よ! ……私だって、迷惑してる」

 

 どうやらこの世界にとって『銀髪』と『ハーフエルフ』、この二つの単語の意味するものは大きなものであるらしい。

 『ハーフエルフ』ではないが、『銀髪』である咲夜にとって、それを自分は無関係と切り捨てるのは危険と考えた。

 また、ラインハルトからも『銀髪』のことを指摘されたことがあったため、咲夜はあとで機会を見つけて調べる必要がありそうだ。

 

 咲夜はそこまで考えると、すぐに思考を切り替え、現状の問題の方をどうにかすることにした。

 状況からして、エミリアから咲夜とスバルも敵とみなされているらしいので、その誤解を解くことをまずは優先させべきだ。

 今はフェルトたちとエミリアが、互いににらみ合い、ちょうど会話が切れ、場が硬直していたので都合が良い。

 

「フェルト」

「あん?なんだよ、姉ちゃん。この状況を打開できる方法でも思いついたんかよ?」

「いえ、徽章の取引のことだけど、持ち主が来た以上は、取引はなしよ。徽章はいらないわ」

「な、なんでだよ!!?」

「一体何の話をしているの?仲間割れ?」

 

 咲夜とフェルトの会話を理解できなかったエミリアだが、徽章のことを話しているらしく、意見が対立した様子から仲間割れかと思われたようだ。

 

「まずは、誤解を解いておくけど、わたしとこの男、スバルはあなたの徽章を盗んだ子とは仲間ではないわ。」

「それならなぜ、あなたたちは盗品蔵に?」

「あなたから徽章を盗んだそこの金髪の少女に、徽章との取引を持ち掛けようとしていたからよ」

「徽章を?悪いけど徽章を譲ることはできないわ。わたしにとってあれは何があっても必要なものだから」

 

 咲夜たちの目的が徽章と聞き、エミリアは咲夜たちを警戒の視線を強める。

 スバルはそのエミリアの反応を見て、余計に疑惑を深めたかと思い焦る。

 

「待ってくれ。別に俺たちはあんたの徽章を横取りしようとしたわけじゃない!もともと返すつもりだったんだ!!」

「ちょ、ちょっとス「どういうことだよ、兄ちゃん!あんたグルだったのか?」」

 

 スバルはよりエミリアの誤解を深めたと思い、焦り、スバルと咲夜の会話に口を挟んでしまう。

 しかし、スバルが口を挟んだ言葉により、今度はフェルトに疑念を抱かせることになってしまう。

 

「フェルト、ごめん!」

「な、なんだよ。謝るってことはやっぱりグルってことかよ?」

「違う!謝ったのは徽章を欲しがった理由に嘘をついてたことに対してだ。俺はもともと持ち主に返すために徽章を手に入れようとしてたんだ。咲夜に対してプレゼントってのは嘘だったんだ」

 

 スバルは、フェルトに徽章を欲していた理由を正直に告白した。

 フェルトと横で聞いていたロム爺もスバルの徽章の欲しがっていた本当の理由を聞いて驚く。

 咲夜は、スバルが嘘を明かしてしまったことに対しては、仕方がないわね、というように内心ため息をついた。

 

「兄ちゃん……サイテーだな。」

「うっ。確かに嘘をついたことは謝るけど、サイテーは言いすぎじゃねぇ!?」

 

 少女のフェルトに言われたことは、スバルには想像以上に耳に痛かったようだった。

 フォローを求めるようにロム爺の方に目を向けるが、

 

「坊主、サイテーじゃな」

「うっ!そ、そんなに責めなくてもいいじゃんかよ!!交渉ごとに嘘やハッタリも時には必要だろ!!」

 

 素気無く、ロム爺にも責められ、スバルは若干涙目に叫ぶ。

 咲夜も、サイテーまで言われるほど責められるいわれはないとは内心思った。

 思っていたが、面倒なのでフォローするつもりはなかった……。

 

 しかし、フェルトは自分たちのサイテーの意味を取り違えていることに気付いたようで、言葉を付け加える。

 

「別に交渉に嘘を着いたことに対しては、責めてねーよ。兄ちゃんの言う通り、交渉に嘘も必要だし、騙されたあたしたちが悪いだけだ。謝るのはあたしたちじゃなくて、そこの姉ちゃんに対してだろーが……」

『へ?』

 

 しかし、その予想外の理由と自分の名前が出てきたことに驚き、咲夜はスバルと同じ驚きの声をあげてしまう。

 なぜそこでわたしの名前が出るのかしら?

 

「だから……そこのメイドの姉ちゃんに粉かけておいて、別の女にプレゼントしようとするなんてサイテーだろうが」

「わしらが責めているのは、坊主がこの盗品蔵に来たことを自分のためと勘違いさせて、そのまま嘘をつき続けたことに対してじゃよ」

 

 察しが悪いスバルに対して呆れたようにフェルトはため息をつきながら、説明する。

 そしてさらにそれに補足を付けるようにロム爺がいう。

 

「つまり、それって……」

 

 咲夜がここまで言われてやっと意味するところに気付く。

 フェルトたちが言いたかったのは、こうだ。

 

 スバルは咲夜に気のある行動を見せながらも、別の女、盗品蔵で交渉してまでエミリアに徽章をプレゼントしようとしている。

 ただスバルにとって誤算だったことに、咲夜が徽章を自分のためと勘違いし、盗品蔵に来てしまったので、スバルは咲夜のためと、咲夜の勘違いを利用する形で理由をでっち上げた。

 

 しかし、もともとのプレゼント予定だった、女性、エミリアが来てしまい、誤解されたくなくて嘘を明かした、

 そんな男に見えたのだろう。

 そこまで咲夜は理解に至り、それと同時に自分がこの勘違いによって、勘違い女のように思われていることにも気付く。

 勝手に勘違いし、勝手に惚れた女と。

 

「いやいや、誤解だ!俺は純粋に徽章を返そうと思っただけだ!!つか、悲しいけど、自慢じゃないが俺様そんなリア充みたいなラブコメ展開、元の世界でも一度も無かったくらいに幸薄い男だったかんね!ちくしょー!」

 

 スバルも咲夜と同じことに気付いたのだろう、必死に誤解を解こうとする。

 

「えっと、…‥‥複雑な関係なのね?」

「坊主、銀髪フェチとは変わってるの?」

 

 エミリアは話を理解できなかったようだが、それでも咲夜が哀れに思ったのか、フォローになっていないフォローをする。

 咲夜は誤解が解けていない上に、エミリアにまでフォローされて少し泣きそうになった。

 

 そしてロム爺のわけの分からないスバルへの感想に殺意を抱く。

 禿ジジイっ……。

 というか、エミリア、あなたも勘違いの当事者なのよ?分かっているのかしら?分かっていないわね、きっと。

 

「誤解が解けてねぇ!それとロム爺さんは、呑気な感想入れないでくれますかねぇ!!いや、銀髪は嫌いじゃないけども。いやむしろ言われて俺って実は銀髪フェチじゃないんかと、自分でも思い始めちゃってるけども!……ひっ!!」

 

 スバルもエミリアとロム爺の言葉により、どう誤解を解こうかと、思いつくままに言葉を並べては自爆するような発言を言う。

 途中からスバルの横にいた咲夜から黒いオーラのようなものを感じ、恐怖に声を上げ、早くなんとか誤解を解かねばと、部屋の中を視線を彷徨わせ、扉の方に目を向けたとき、黒い影がそっと、銀髪の少女の背後へと忍び寄っていたことに気付く。

 

「――パック! 防げ!!」

 

 黒い影は、スルりとエミリアに近づき、その首を手に隠し持っていた刃物で刎ねようとしていた。

 エミリアの綺麗な白い首がそのまま切られるかと思われたが、それは失敗に終わる。

 刃は首元ギリギリのところで、青い膜のような壁に阻まれていた。

 そこには青い膜には魔法陣が描かれていて、どうやら魔法の障壁のようなもので防がれたようだった。

 

「パック……っ」

「間一髪だったね、まさに」

 

 どうやら刃を防いだのは、エミリアに付き添う妖精、パックによる魔法だった。

 エミリアは、すぐに自身の背後から前に飛び、距離を取る。

 そして振り向き、自身に起きたことを悟る。

 

「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ」

「助かったのはこっちだ。あんがとよ。あの空気どうしようかと……」

 

 パックはスバルに突然の強襲を防げたことに対して、感謝し親指を立てる。

 対するスバルも親指を立てて、なんとか間に合ったことに安堵し、同時に別の意味で殺伐とした空気から解放されたことに感謝する。

 

「――精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」

 

 エミリアを襲ったのは、ククリナイフを顔の前に持ち上げて、恍惚を浮かべるのは殺人鬼――エルザだった。

 エルザの登場に部屋にいた全員は警戒を強める。

 そして現れたエルザにフェルトが怒鳴る。

 

「おい、どーいうことだよ!」

「徽章を買い取るのがアンタの仕事だったはずだ。ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」

「盗んだ徽章を、買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」

「この場にいる、関係者は皆殺し。徽章はその上で回収することにするわ」

 

 怒りに任せて声を荒げていたフェルトだが、エルザの酷薄そうな目をまっすぐに向けられ、恐怖に竦む。

 そしてエルザは笑みを浮かべながら、フェルトに告げる。

 

「――あなたは仕事をまっとうできなかった。切り捨てられても仕方がない」

「――――ッ」

 

 フェルトは、エルザに言われた言葉に表情を歪めた。

 しかし、その言葉に対してフェルトではない自分から反論の声が上がった。

 

「てめぇ、ふざけんなよ――!!こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸開帳大好きのサディスティック女が!! そもそも現れる時は、ノックぐらいしやがれ!不法侵入だぞ!セコムさんに怒られるぞ!笑顔と発言がかみ合ってないんだよ!?いちいち発言が怖えんだよ!すぐにこの場から逃げ出したくなるわ!それは言い過ぎた!」

「……なにを言ってるの、あなた」

「テンションと怒りゲージMAXでなにが言いてぇのか自分でもわかんなくなってきてんだよ! そんなお日柄ですが皆様いかがお過ごしでしょうか小説サイトはそのままでどうぞ!」」

 

 意味不明な言葉の羅列のスバルの怒声に、エルザが呆れる。

 しかし、スバルのその頑張りは相手の毒気を抜き、油断させるのには十分だった。

 

「時間稼ぎ終了――やっちまえ、パック!!」

「見事な無様さだったね。――ご期待に応えるよ」

 

 気が付くと、エルザは先端を尖らせた氷柱――それが二十本以上に全方位囲まれたいた。

 

「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前はパック。――名前だけでも覚えて逝ってね」

 

 そして、全方位からの氷柱が放たれ、エルザの全身に浴びさせられる。

 そして氷柱の勢いはすさまじく、轟音を音を響かせ、叩きつけられる。

 かくして、盗品蔵にて戦いが始まる。

 

「まだ、誤解解いていない……」

 

 そしてその轟音とは別に、ぽつりと咲夜の悲し気な呟きは、誰の耳にも届くことは無かった。




なぜか、スバルと咲夜がそろうとギャグが入ってしまう作者です。
本当はシリアスなんですが……

次回からようやくエルザ戦が始まります。前書きにも記載していますが、続けて第十五話も掲載するのでよろしくお願いします。

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