今回は会話が多めになっています。
実は一昨日、昨日、今日と連続でこれまで上げた話の少し修正を行っていましたが、改訂として履歴が残らないんですね。
修正したといっても話の流れは変化していないので、既に既読の人は改めて読み直す必要はないです。誤字の修正や違和感のある部分の修正、読みやすくなるような修正をしているだけなので・・・。
それでは第十話です。
「え!!?」
前回と同じように路地裏の道を曲がると、咲夜の目にしたのは、スバルが血を流し倒れていた姿だった。
その光景を見て、咲夜はすぐに状況が理解できず、驚ろきの声を上げる。
「誰だ!?」
「・・・女?」
スバルの近くには3人の男の姿があり、それは咲夜がこれまでに2度も見たことのあるチンピラの男達であった。
咲夜は、男たちの内の1人が血が滴ったナイフを持っているのを見て、スバルがその男達に刺されたのだと、悟った。
(まずい!すぐに手当てをしないとスバルが死ぬ――)
スバルが死んでしまうことを懸念した咲夜だが、あの盗品蔵で見たことのある黒い影が、スバルの近くに纏わり付いており、時間が停止し、周りの景色が変わり始めるのを見て、また時間が戻されていることに気付く。
どうやら、前回予想した通り、スバルの死を発動条件として、時間が戻されるらしい。
(……遅かったか。それにしてもいきなり死ぬなんて……。スバルは死神にでも愛されているのかしら?幻想郷とは違い、こちらの死神はなんて働き者なのかしらね。少しは幻想郷を見習って欲しいものだわ)
咲夜はスバルの死に安さから、まるで死神に呪われているのかと、三途の水先案内人の死神を思い出す。
そして時間の停止している状態が終わり、元の場所に戻されていることを確認すると、咲夜はすぐに行動に移る。
スバルにまたすぐ死なれると困るからだ。
「衛兵さーーーーーーーーん!!!誰かーーーー! 男の人呼んでーーーーーーーー!!!」
(これはスバルの声。助けを呼ぶなんて、少しは学習したようね)
足元の黒い本を忘れずに回収すると、咲夜はすぐにスバルの元へと走る。
「やっぱ、失敗か……」
「おどかしやがって……ほんの少しばかりだが、ビビっちまったじゃねえか」
「ほんの少しだけな!」
「ほんのちょびっとだけだけどな!」
路地裏にはチンピラの男達3人とスバルが向かい合っていた。
スバルが大声で助けを呼ぼうとしたことに焦った男達だが、しばらくしても誰も人が現われず、スバルの試みが失敗したと、チンピラ達は安心し、各々の武器を取り出し構える。ナイフ、錆びた鉈。そして、
「ひとりだけ無手ってなんなの。武器買うお金がなかったの?」
「うるっせえな! 俺は武器ない方が強いんだよ! あんま舐めた口きいてっと、本気で殴り殺すぞクソがッ!」
「残念だけど、それが叶うことはないわ」
突如、その場に女の声が聞こえ、それと同時に2つの物体が、スバルの横を過ぎ去り、チンピラの元へ飛んでいく。
それは、武器を持っていた2人のチンピラたちの手に当たり、男たちは衝撃で、それぞれが持つ武器を落とす。
「いてぇ!」
「ぐっ……誰だ!!」
その場の全員が、物体が飛んできた方向に目を向けると、そこには美しい銀髪をした少女がいた。
「……サテラ?」
スバルは思わず、目に飛び込んできた銀髪から、美しい銀髪のハーフエルフの少女を想像したが、目の前の少女がメイド服を着ており、よく見ると徽章を探していた少女ではないことに気付く。
「いや、違う。あれは……」
「今はわざと柄の方をぶつけてあげたけど、それ以上やるならあなた達の頭からナイフが生えることになるわよ?」
「なっ!!?あの距離から当てたのか!!」
咲夜からチンピラ達からの距離は、10メートル以上の距離はあった。
咲夜はそこから2つのナイフを同時に狙った場所に当てたのだ。
ナイフ投げに対してそうとうの技量の持ち主であることをその場にいる者たちに知らしめるのに充分であった。
「おい、どうする?」
「だ、大丈夫だ。こっちは3人いるんだ。一斉に飛びかかれば、なんとかなるだろ」
「でも、あの女、ここから少し距離があるぜ。それまでに誰か、頭からナイフを生やすかも……」
チンピラたちは急に咲夜が現れたことで、状況が変わったことに動揺する。
チンピラたちは、人数差があるので、戦うか、逃げるか判断に迷い始める。
「――そこまでだ」
その場の人間以外の、凛とした男の声が、路地裏に唐突に響きわたる。
声に反応し、全員の視線を集めた先には、ひとりの青年が立っていた。
炎のように赤い頭髪した、青い瞳をし整った顔立ちをした、騎士剣を下げている男だった。
「たとえどんな事情があろうと、それ以上、彼らへの狼藉は認めない。そこまでだ」
言いながら、チンピラたちの後ろの方から現れた青年は、堂々とチンピラ達の隣を抜け、スバルと咲夜を背中にする形で間に割って入り、彼らと相対する。
咲夜は、その男には見覚えがあった。
初めてこの世界にやってきた時に、黒い本の騒ぎで敵対することになった男だ。
名前はラインハルトといったか。
「ま、まさか……」
「燃える赤髪に空色の瞳……それと、鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」
「ラインハルト……『剣聖』ラインハルトか!?」
「自己紹介の必要はなさそうだ。……もっとも、その二つ名は僕にはまだ重すぎる。逃げるのならこの場は見逃す。そのまま通りへ向かうといい。もしも強硬手段に出るというのなら、相手になる」
「これで三対三ね。人数で優っていたあなたたちだけど、これで五分五分ね。いや、剣聖さんとやらがいるから、こっちは圧倒的に有利な状況になったのかしら?」
チンピラ達がラインハルトが現れ、狼狽しているところに、咲夜に不利な状況にあるのはお前たちだと、明言した言葉は、男たちを完全に怖気づかせ、逃走へと行動を移させる。
「じょ、冗談っ! わりに合わねーよ!」
チンピラ達は、咲夜たちに背を向けると、その場を、足を縺れさせながらも走って逃げていく。
逃げていくチンピラたちの背が完全に見えなくなったことを確認すると、ラインハルトはこちらに向き直り、声をかけてくる。
「無事でよかった。ケガはないかい?」
「あんだけのことしてこの爽やかさ……イケメンってレベルじゃねぇぞ」
「このたびは命を救っていただき、心からお礼申し上げる。このナツキ・スバル、その御心の清廉さに感服いたしますれば……」
「そんなに堅く考えなくても構わないよ。向こうも三対三になって、優位性を確保できなくなってのことだ。僕がひとりならこうはいかなかった」
「いや、あのビビりようからしたら三対一どころか十対一でも逃げてそうだったけど……なんだ、このイケメン。本気で身も心もイケメンか。俺ルートのフラグが立つわ!」
スバルとラインハルトは、お互いの性格が合ったのかすぐに仲良く会話をし始める。
ラインハルトは、スバルの元気そうな姿を見ると、今度は咲夜の方へ振り向き、無事がどうか聞いてきた。
「君も大丈夫だったかい?」
「ええ、おかげさまで問題なく」
「いや、スバルにも言ったけど、僕一人ではこう上手くいかなかった。君が僕の発言を後押しするような発言で、あの男たちが逃走を図るよう誘導してくれたからね」
「そうそう、さく……メイドさんもありがとうな!あのナイフ投げの腕には痺れたぜ!やっぱり異世界の美少女メイドは戦闘力も持ち合わせているのな!」
咲夜は相変わらず調子の良いスバルにため息を尽きたくなるも、我慢し、スバルに忠告する。
「あまり、人通りの少ない路地裏には行かない方がいいわよ。あなた弱そうで、いいカモに見えそうだし」
「うう……。確かに引きこもりであんま運動していなかったけど、これでも毎日欠かさず筋トレして鍛えているんだけどな……」
美少女の咲夜に弱そうだと言われ、少し男のプライドが傷ついたスバルは、言い訳がましくそう呟く。
「えーっと、ラインハルトさん……でいいんスか?」
「呼び捨てで構わないよ、スバル」
「さらっと距離縮めてくるな……えっと、改めてありがとう、ラインハルト、それと……メイドさん」
「どういたしまして。衛兵を呼んだ君の判断は正しかったよ」
「わたしのことは咲夜でいいわ。ふふ、あんな叫びを聞いたら気になっちゃうわよ。あなた、微妙に女の声を真似て叫んでたでしょ?なかなか面白かったわよ?」
「うげ!どうかそれは忘れてくだされ。俺の黒歴史がまた一つ増えて……。あ、あとラインハルトって衛兵なの?そうは見えないけど」
新たに黒歴史を作ってしまったことを自覚したスバルは、その話題から逃げるように、ラインハルトに質問し、話を強引に変える。
咲夜はそれが話を逸らすための質問であることは分かっていたが、咲夜も気になったことでもあったため、追及しなかった。
「よく言われるよ。まあ、今日は非番だから制服を着ていないのも理由だろうけど」
「『剣聖』とか呼ばれていたわね」
「家が少しだけ特殊でね。かけられた期待の重さに潰れそうな日々だよ」
ラインハルトは苦笑しながらもそう答えた。
咲夜は剣聖と聞き、やはり只者ではなかったか、と納得する。
以前に対峙した時の迫力は並みの者では出せない迫力であったからだ。
「そうだ!2人には聞きたいことはあるんだけど、このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子って見てない?」
「白いローブに、銀髪……」
「付け加えると超絶美少女。で、猫……は別に見せびらかしてるわけじゃないか。情報的にはそんなもんなんだけど、心当たりとかってない?」
「ううん、すまない。ちょっと心当たりはないな。もしよければ探すのを手伝うけど」
「そこまで面倒はかけられねぇよ。大丈夫、あとはどうとでも探すさ。咲夜の方は何か知らないか?」
「残念だけど、わたしも心当たりはないわ」
スバルに問われている人物が、エミリアのことであることは咲夜には分かっていたが、
「そっか。情報なしか……。じゃあ、2人には世話になったな。この礼はいずれ。ラインハルトには衛兵の詰所とか行けば会えるのかな?」
「そうだね、名前を出してもらえればわかると思う。もしくは今日みたいな非番の日は、王都をうろうろしてるから」
「わざわざ男を探して町をうろつき回る趣味はねぇなぁ……乙女ゲーじゃあるまいし。あ、咲夜
「その咲夜
「……イ、イエス、マム」
スバルは絶対零度の目をした咲夜に首元にどこから出したのか、その手に持つナイフを突きつけられ、首元に冷汗を流しながらそう答えた。
「じゃ、じゃあ、俺はこれで……」
そうスバルはいうと、そそくさと逃げるように路地裏から通りに出ていった。
ラインハルトは、そのスバルの背中を見届けたあと、まだその場に残っている咲夜の方に目を向けると、咲夜は路地裏の地面に手を伸ばしていた。
「何をしているんだい?」
「ナイフを拾っているのよ。いちいち投げたものを回収するのは面倒だけど、数に限りがあるから」
「スバルが言っていた、投げナイフだったかな。僕はその時には居なかったけど、すごかったんだって?」
「……ただの一芸よ。」
咲夜はラインハルトの値踏みするような視線にから逃れるように2本のナイフを素早くナイフホルスターに回収していく。
そして、ラインハルトが去ろうとしていたスバルに気を取られている間に隠れて拾った、チンピラの落としていったククリナイフも、空間を広げたポケット内にあることを確認すると、その場をすぐに立ち去ろうとした。
「じゃあ、わたしも行くわ。ナイトさん」
「ああ、今のルグニカは平時よりややこしい状態にある。気を悪くしてほしくないんだけど、その銀髪の髪はいたずらに目立つだろうから気を付けて」
「……忠告ありがとう。一応、注意しておくわ」
ラインハルトの言葉にいくつか疑問が沸くものがあったが、今はスバルの後を追いかける方が先決のため、その場をすぐに去ることにした。
そして咲夜はスバルが出ていった方向と同じ道から路地裏から出ていった。
ちょっとだけ咲夜さんの投げナイフの披露回でした。
実は咲夜さんは時止めの能力は扱えませんが、空間を広げる方の能力は問題なく使用できるため、咲夜さんのメイド服のポケットはドラえもんのポケットのようにたくさんン収納できます。もちろんポケットの入口から入る大きさのものでなければなりませんが・・・
予備のナイフもそこにたくさん入っていて、暗器のようにナイフを取り出せるようになっています。