ゼロから始める瀟洒な異世界生活   作:チクタク×2

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初投稿作品です。
拙い文章ですが、できるだけ多くの方に楽しんでいただけたらと思います。
誤字の指摘や文章を書く上でのアドバイス大募集ですので、
何か気づいた点ありましたらよろしくお願いします。

2017/6/9
文章を一部改訂。


第1章
第一話:ことの始まり


「……ここはどこかしら。」

 

 気が付けば、十六夜咲夜は両脇に背の高い建物が立ち並ぶ狭い通路にただ一人、立っていた。

 

 見慣れない場所……、先ほどまでは紅魔館の図書館にいたはず。

 

 そう咲夜が思案するも、当たりの風景は明らかに紅魔館の図書館とはかけ離れている場所。

 それでも何か手がかりになるものでも見つかればと、周りに視線を巡らせるが、咲夜の疑問の答えに繋がりそうなものは何も見つからない。

 分かったことと言えば、その場所は咲夜の記憶の中にある幻想郷の、どの場所にも一致する場所ではなく、見知らぬ場所だということだけだった。

 

「ここがどこかはわからないけど、原因は間違いなくアレよね……」

 

 全く知らない場所。分かった事実に愕然とし、途方に暮れる。

 しかし、咲夜にはこの状況に陥った原因に対して一つ心当たりがあった。

 ほんの少し前の出来事について思い出す――――

 

 

 

 

 

 

 

 日本のどこかにある、世界から忘れられた存在のみが集まる場所、幻想郷。

 

 そんな存在が不確かな、まことしやかに語られる場所でもある幻想郷には、吸血鬼が主として住む紅い洋館の建物がある。

 

 血のように鮮血な色をさせた建物の名前は、紅魔館。

 その屋敷には吸血鬼を初めとして、様々な人外の住人がいて、十六夜咲夜は紅魔館、唯一の人間の存在であった。

 

 咲夜はその紅魔館で、屋敷の主である吸血鬼――レミリア・スカーレットに仕えるメイド長として働いていた。

 咲夜は主であるレミリアに高い忠誠を誓っており、職務に対しても真面目で、また、非常に優秀なメイドでもあった。

 彼女の優秀さは、紅魔館の管理がほとんど咲夜の手によって行われているといっても過言では無いほど。

 勿論、咲夜の他にも紅魔館で働いているものもいる。紅魔館には少なくない数の妖精メイドが働いていた。

 しかし、実際には彼らはあまり役に立つことはなく、メイドとして優秀な咲夜がほとんど一人で館の管理を担っていた。そんな彼女が忙しく働く毎日。

 

 そして、事件が起きたのはそんな咲夜がいつものように忙しく屋敷で働いていたある日のこと――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日も妖精メイドたちに作業の指示を出しながら、自身の仕事も並行して行なう咲夜。

 そして、館の掃除作業がひと段落したところで、主のレミリアから順番に、屋敷の住人や働く者たちの元へと咲夜が淹れた紅茶とお手製自慢のお茶菓子をトレーに乗せ届けていく。

 

「レミリアお嬢様とフラン様には、届けたから……次は、パチュリー様ね。パチュリー様なら、きっとあそこにいるはず……」

 

 紅魔館には、様々な蔵書が収められた本棚が無数に立ち並ぶ図書館がある。

 図書館の中は広大で、その場所に納められている蔵書の数は、紅魔館で働く咲夜でさえも把握できてほど。

 そんな場所にはいつも引きこもるようにそこで過ごしている魔女がいた。

 

 その魔女の名は、パチュリー・ノーレッジ。

 

 パチュリーは使い魔として従えた小悪魔に本の整理を行わせ、自身は一日のほとんどを図書館の本を読みふけって、その部屋で過ごす。 

 

 当然、その日も図書館にいるだろうと予測が着いた咲夜は、図書館に行き、暫く本棚の間を縫うように歩いてパチュリーの姿を探す。

 そして、予想した通りこちらに背を向けるパチュリーの姿を見つけることが出来た咲夜はその魔女の背に近づいていく。

 

「さて、そろそろ始めようかしら」

 

 咲夜がパチュリーの傍まで近づき声をかけようとしたところで、何かを始めようとする言葉をパチュリーの口から発されたのを耳にする。

 

「あの、パチュリー様は、一体何をしているのでしょうか?」

「あら、咲夜いたの?」

 

 パチュリーの言葉に、咲夜は声をかけ質問する。声をかけられたパチュリーは、以外にも作業に集中していたのか、そこで初めて咲夜の存在に気付く。

 

「ええ、たった今来たばかりですが。パチュリー様へ紅茶と洋菓子をお持ちしました」

 

 咲夜は、仄かに香る甘い匂いを湯気とともに漂わせる、紅茶が入ったポットとティーカップを洋菓子を乗せたトレーを、手にしていた。

 

「ありがとう。後でいただくわ。そこのテーブルの上にでも置いといて」

 

 それをちらりと見たパチュリーは、咲夜に礼を言い、指でそばにあるテーブルを指して、そこに置くよう指示すると、すぐに視線を反らしてしまう。

 

「かしこまりました」

 

 パチュリーが指で指した方向には、少し大きめな横長のテーブルがあり、上には実験で使用するような様々な色の液体が入ったフラスコが置いてあった。

 咲夜は机の位置を確認すると、パチュリーの言葉に了承する。そして、テーブルの空いたスペースにトレーを静かに音を立てないように置く。

 

「パチュリー様はいったい何を始めるつもりで?」

 

 咲夜は、パチュリーの作業に疑問を抱いて質問をした。

 

「そうね……、ちょうどいいわ。咲夜も見ていきなさい。今から魔法のテストを行うところだったのよ」

「魔法のテスト……ですか? それは一体、どのような魔法を行うつもりで?」

 

 パチュリーの行う魔法に、少し興味が沸いた咲夜は、これから実験しようとする魔法の内容を尋ねた。

 

「今朝、小悪魔が図書館に見たことのない黒い本を持ってきてね。その本には見たこともない読めない文字で書かれていたの。それで興味が出たから今からその本を触媒に、この本に縁がある存在を呼び出してみようと思ったのよ」

 

 見つけた本がそんなにも珍しいものだったのか、いつものパチュリーと比べ、やや興奮した声を上げて、咲夜に説明してくれた。

 

 パチュリーの向ける視線の先には、床にかかれた魔法陣が存在し、その魔法陣の中心には彼女の言う通り、黒い本が置かれていた。

 陣の中心に置かれた本は、何の変哲も無い普通の本に見えるが、その吸い込まれそうな黒い色のせいか、どこか不気味な雰囲気がする本だと、咲夜は感じてしまう。

 

「呼び出す……、召喚というものでしょうか? もし呼び出されるものが良くないものだった場合、危険じゃないですか?」

 

 件の本の不気味な気配に、少し不安を覚えた咲夜は魔法のテストの最後の確認を行っているのか、手に持っている魔術書を開きページをめくりながら着々と準備を進めているパチュリーに、その場で思いついた懸念を伝える。

 

「大丈夫よ。その為にいろいろな薬品を集めて入念に準備をしたのだから。これらは決められた手順で使用することで、召喚されるものを抑える強い働きをするのよ」

「ああ、テーブルの上にあった様々な色をした液体が入ったフラスコはそのためだったのですね」

 

 咲夜の懸念した事は、既にこの長年生きた魔女も考慮済みだったようで、そんな心配は無用かのような心強いのよい彼女の返事がすぐに返ってきたことで、咲夜の不安は払拭される。

 

「そう。ただし、魔法の詠唱をしながら正しい手順で使用しなきゃいけないから、少し手間がかかるけどね。でも効果は保証するわ。さて、それじゃあ始めようかしら。せっかくだし咲夜もサポートして」

「え!? わたしは魔法については知識がないのですが……」

 

 突如、お願いされた魔法のサポート。

 魔法について知識が深くなく、素人同然の咲夜は、自分に手伝えることなんてあるのだろうかと、心配する。

 

「大丈夫、簡単な作業をお願いするだけだから大丈夫よ。薬品が必要となったタイミングでわたしが声をかけるから、咲夜は言われた色の薬品が入ったフラスコをわたしに渡してくれるだけでいいわ」

「それくらいなら、わたしでも大丈夫そうですね」

 

 パチュリーは咲夜の了承の返事を聞くとすぐに、魔法の詠唱を始めていく。

 パチュリーの口から朗々と詠唱の声が紡ぎ出されると、魔法陣に変化が起きる。

 詠唱とともに、魔法陣から虹色の光が漏れ始め、光の輝きは徐々に強くなっていく。

 

「よし! じゃあ咲夜、緑色の液体が入ったフラスコを持ってきて!」

「かしこまりました」

 

 薬品を持ってくるように指示された咲夜は、パチュリーの指示した色の薬品をテーブルから持っていき、魔法陣から目を離さず、集中した様子で詠唱を行い続けてながらパチュリーがこちらに差し出しすようにの出された手に渡す。

 その後も、咲夜とパチュリーは同様のやり取りを何度か繰り返し、たくさんの薬品があったテーブルには薬品が2つ残るだけとなる。

 

「じゃあ、あとはその残りの2つの薬品を使用するだけだから2つとも持ってきて」

 

 何度も繰り返され慣れた作業に、咲夜もパチュリーの声に反応して、すぐにテーブルから残り2つとなった薬品が入ったフラスコを手にする。そして、パチュリーに渡そうと近づいたとき、

 

「最後の詰めね。最後の薬品を使用するタイミングは重要だから気をつけなきゃ」

 

 そう、パチュリーが独り言をつぶやいたとき、二人の思いもよらぬところから第三者が現れる。

 

「さ~くやっ!!」

 

 パチュリーと同様に、光り輝く魔法陣の方に集中していた咲夜は背後から近づく存在に気付くことが出来なかった。

 咲夜は後ろから腰あたりにぶつかるようにして金髪の髪をした小柄の少女――屋敷の住人からはフランと愛称で呼ばれ、親しまれている、に飛び付くように抱き着かれる。

 抱き着いたフランは咲夜を驚かせたかったのか、気配を消して咲夜に近づいてきていたのだった。

 しかし、そんな彼女のいたずらが思いもよらぬ結果を齎すことになる。

 

「えっ!!?」

 

 咲夜はフランに抱き着かれた衝撃で、思わず両手にそれぞれ一つずつ持っていた薬品を魔法陣の上に落としてしまう。

 

 ―――パリン!

 

 咲夜はその時、何か壊れたような音を聞いた気がした。

 

 それはフラスコが割れた音だっただろうか、それとも召喚されようとしていた何かを抑えていた薬品の効果が、正しいタイミングでない薬品の使用によって阻害され、破壊された音だったろうか、あるいは両方か……。

 その音は、何か取り返しのつかないような音のように咲夜は感じた。

 

 薬品を落とすと同時に、先ほどまできれいな虹色の光を放っていた魔法陣が、突如、深い闇のような黒い光を放ちだす。

 そのどんな眩しい光でされも包み込んでしまうかのような、深い底の見えないような闇を感じされるような光は、魔法の知識に乏しい咲夜の目から見ても、危険を感じさせるのに十分だった。

 

「まずい! 魔法陣が暴走する!?」

 

 その光景を見て、慌ててすぐにパチュリーが魔法陣を抑えつけようと、魔法人に注ぐ魔力を強めようとする。

 しかし、黒い闇を放つ魔法陣から突如、同じく闇のような色をした黒い手が飛び出し、パチュリーへとその腕を伸ばし、襲い掛かっていく。

 

 パチュリーはその突然の出来事に、驚きから一瞬、体を硬直させてしまう。

 

「パチュリー様!」

 

 危ない!?、そう感じた咲夜は、咄嗟に自分にしがみついてきたフランを自分から引き離し、すぐにパチュリーをその場から突き飛ばす。

 咲夜に突き飛ばされたことにより、パチュリーは黒い手から逃がれることに成功する。

 

 ただし、咲夜自身と引き換えに。

 

 パチュリーを突き飛ばし、代わりに黒い手の進む斜線上にいた咲夜は、すぐに自身の時を止めて離脱しようとするも、すでに遅く、黒い手は咲夜の腕をしっかりと逃がさないように掴んでいた。

 

「っく! 振りほどけない!」

 

 咲夜はすぐに腕を振り払って、引きはがそうとしたが、黒い腕の掴む力は、まるで鬼に掴まれているかのように力強く、引きはがすことができなかった。

 

 咲夜が黒い手を引きはがすのに苦戦している間に、魔法陣からはさらに3つの腕が伸び、次々と咲夜を体を掴んでいく。

 そして、合計4本の腕に掴まれ、今度は、黒い腕は魔法陣の方へと咲夜を引っ張っていこうとする。必死に咲夜も抵抗するが、力の差に簡単に魔法陣の中心へと咲夜は引き攣られていく。

 

「咲夜!」

 

 パチュリーが魔法で咲夜を掴むその黒い手を撃退しようとするよりも、咲夜が魔法陣の中心に到達する方が早かった。

 咲夜が魔法陣の中心に着くと、先ほどの闇のような黒い光とは真逆に、魔法陣からは白い光りが溢れだし、部屋全体をまるで太陽のように照らす。

 

「うっ、眩しい!」

 

 そのままその白い光は数秒間もの間、部屋を照らし続けた。

 その間パチュリーは目を開けられずにいた。

 

 光が消え、パチュリーが目が眩しさに眩んだ視界が落ち着き、周囲を確認すると、そこには咲夜の姿は無かった。

 さらに言えば、咲夜だけでなく魔法陣の中心にあった黒い本の存在も見当たらなかった。

 

「そんな……」

「え……」

 

 図書館には、起きた出来事を理解し、小さく口を開けて呆然とするパチュリーと、何が起きたのか全く理解できず、小さく首を傾げるフランだけが取り残されていた。




第一話どうでしたでしょうか?
誤字脱字が無いよう気を付けてはいますが、
呼んでいて何か気づいた点があれば、教えていただけると助かります。

第一話を呼んでくれた方は今後のお話も読んでいただけたら幸いです。

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