しんねぇ 作:メデューサの頭の蛇
「スポーツデュエル大会?」
「あぁ!一緒にやらねぇか!?」
ある昼の事。珍しくみんなで一緒に昼ご飯というわけでは無く、俺はクラスの子達と食堂で昼食を食べていた。転入初日に昼飯に誘ってくれたあの子とその友人達とだ。
初日に誘ってくれたのに断ってしまい、結構申し訳なく思ってたところで、また誘われた。
三度目の青春。友達作らずして何を楽しめというのか。孤高を気取るのも良いが、それではあまりにも俺のキャラに合わない。そう思い、誘いに乗ってワイワイと談笑していたのだが……突然やってきた遊馬くんに、スポーツデュエル大会に参加しないか?と誘われた。
誘われてばかりだな、と思いながらそのスポーツデュエル大会とやらを開く理由を聞く事にした。
曰く、ナンバーズクラブでのマスコットガールを決める話で女子達が喧嘩をしたらしい。
曰く、その喧嘩は長続きしており、仲直りして貰うためにはやっぱりデュエルしかない!という結論になり、開く事に。今度の日曜にやるらしい。
…………何というデュエル脳。デュエリストよりもリアリストである俺からすれば、その帰結は可笑しいと思うが、これが普通だ。デュエルが世界規模で経済を動かす程に当たり前になってるこの世界では、な。
というか、そのナンバーズクラブの揉め事の原因は、零がマスコットガールを決めようと言い出した事だそうだ。何やってるんだ、と思うと同時に、彼奴らしいなと苦笑する。内心では大笑いしてるんだろう、可愛い奴だ。
因みに俺がそのマスコットガール云々に参加していない理由は、そもそもの話、俺は別にナンバーズクラブではないからだ。一緒には行動するが、そこまで仲が良いって訳ではないからな。まぁ、通信ができるバッチでもくれると言うなら喜んで入ってたかも知れないけど。
「そうですねー。司会役としてなら良いですよ」
「ホントか!司会役は真月と、ギラグって奴がやってくれるんだけどさ、真姉もいてくれた方が助かるぜ!」
それはつまり、零とそのギラグって奴に任せてたら不安だと言いたいんだな。良し、本人達に伝えておこう。遊馬くんは君達に微塵も期待していなかった!ってな!……やらないけど。
微笑みながら了承したら、遊馬くんはじゃぁ!日曜なー!!と言いながら去っていった。言っておくが校内は走るの禁止である。
「(よくよく考えたら、今度の日曜って明後日……)」
今日は金曜日である。あと二時間の授業が終われば、一週間の癒し。土日曜日の休みの日がやってくる。週に二日休みって良いよな。そもそも俺の場合、ここに来るまで毎日が休みだったんだけど。
まぁ良いか。遊馬くんが去っていた方向から目を逸らして、食べていた昼食を頬張る。日替わり定食、今日は唐揚げ定食であり揚げたての唐揚げは実に美味しい。口の中でカリッとした食感と肉汁が広がった。うん、美味い。
そういや、零の奴弁当食べているだろうか。二人分は時間が無くて作れず、とりあえず作れた一人分の弁当を睨んでくる零に押し付けたのだが。彼奴は良くわらかない所で面倒くさがるから、コッペパンで済ませてなきゃ良いけど。
「今のって、九十九君だよね?友達なの?」
この昼食に誘ってくれた子がそう問うてくる。不思議なのかな?まぁ別のクラスだもんな。幾ら遊馬くんがコミュニケーション能力高すぎ問題でも、他クラスの子達と仲が良いというわけではないだろう。しかも女子と。もしそうなら、全俺が泣く。前前世ではあまり女性とは無縁の生活をしてきたからなぁ。良い出会いも無くいつの間にか死んだと思えば、前前世で言う美少女になっていたわけだが……その時も誰とも結ばれず、死んだし。というか思春期に死ぬって結構な事だよな。わぁお、壮絶な人生。
「友人ですねー。弟の友達という事もありますが」
「あぁ、貴女と同じ髪色をした子」
「はいはい、真月さんと同じ顔の、でしょ?」
「そっくりだよね。流石双子って感じ!」
イエス。その子です。
この学校にオレンジ色の髪色をした子供は俺達二人しかいない。しかも双子であり、髪型はあまり似ていないが顔形は似ているときた。わからない方が可笑しい。まぁ、弟の方が美人補正かかってるんじゃないかってぐらい可愛いし、あざといけどな。くっそ、演技とは言えあんなに可愛いとは……幼い頃を思い出すから止めて欲しいんだよな。
「そういや、その子人気よね」
「うんうん、ウチのクラスでも狙ってる子がいるよ」
「何か守りたくなる系男子わよね」
「「ねー」」
なん……だ、と?
いや、あのルックスだ。モテない方が可笑しいな。ただ、止めておいたほうが良いと思う。姉として何かアドバイス無い?と聞かれても、告白するなら相応の覚悟持ってしろよ、って言うな、絶対。それ程、彼奴の性格は歪んでいるから。
まぁ、多分相思相愛になれば、彼奴は結構律儀深い所があるから、良い所まで行くだろう。だけど、多分だが面倒くさい女子は嫌っていそうだ。彼奴自身の根本まで理解してくれて、フォローしてくれる女子ならば、俺も安心して応援できる。もし、彼女できたって聞いたら心配で仕方がなくなるだろうからな。
けど、だけれど、目の前できゃっきゃしてる女子生徒達に途轍もなく言いたい。
「(多分守りたい系男子じゃなくて、罵倒されたい系男子だぞ)」
昔ならともかくな。
開いた口に白ご飯を押し込んだ。
そして、週末の日曜日。
日曜日が休みになったのはキリスト教が伝わってきたからなのだが、神に祈りを捧げるために日曜日を休みにしろと言ったキリスト教徒を褒めて讃えてあげたい。休みってのは世界共通、嬉しいものだ。
なので、その休みの日に学校へ行くという行為は些か疲れる。何だろうか、この学校に来て何日も経ってはいないが、この校門を跨ぐのを躊躇している自分がいる。どうにこうにも、身体は正直な様である。
日曜日に学校のグラウンドで、そうD・パットに受信されていたメールに書いてあった。遊馬くん、いつの間に俺のメアドを知ってたのかと疑問に思ったが、そういや初日の昼休みに交換したな、と思い出す。あの場にいる全員と連絡先を交換したので、連絡先一覧が元々一人だったのからとても増えた。嬉しい事だが、連絡なんてしない事が大半なので使うかどうかはわからない。大抵は学校で会えるし、自分から発信する事は無いだろうし。
「行かないんですか?」
校門の前で数分ぐらい立ち止まっていると、後ろから声が掛けられた。この声、馴染みのある音だな。敬語からしても、その声からしても直ぐに誰かわかってしまった。まぁ長い年月一緒にいるとわかるものだ……たまにというか大体声が低い時があるけど、大元は一緒だとわかる。これが双子の力よ!んなわけ無いけど。
振り返ると案の定、零だった。きょとんとした表情を作っており、中に入らない俺を不思議に思っている様だ。
「行くよ。ただ、身体が言う事を聞いてくれないんだ」
「……意味がわからないです」
むっとした顔をした零に苦笑を零す。
さて、これ以上我が儘を言っていても仕方ないだろう。嫌だと主張する心と身体を無視して、学校の敷地内へと一歩踏み入れた。
「さて、行こうか。遊馬くん達が待っているだろうから」
「はい!さっさと行きましょう!」
くるりと振り返り、零にそう言うと彼は笑顔になる。そして俺の手を取り、走り出した。遊馬くんの時みたく、全力で走らないところに彼なりの優しさを感じる。
この間にこの学校へ来たばかりなので、グラウンドが何処かわからない俺とは違い、何週間も前からいる零にただついて行く事にする。零の方が知っているだろうしな。俺は覚えるのが少しだけ苦手だからな、頭の良い彼に任せとけば大丈夫だろう。まぁ頭良くても、方向音痴なんてあるから、頭の良い奴イコール何でもできるって訳ではない。第一、零だってできない事や苦手な事があるのだから、それは当然だろう。
零ができない事は、料理とかだろう。彼の生い立ちも関係しているが、何分俺に任せっきりなところもある。だから、こうして今は任せてるが、それはそれだ。
そして、苦手な事だが……零の場合、人付き合いか。ああ見えても、他人との距離の測り方がいまいちわからないらしい。本人がそう言ってた。ただ、相手を調べて、どう接したら親やすくなるのかはわかるんだとか……なら何故、それが分かって、距離の測り方がわからないんだって思うけど、本人の問題だろうな、きっと。親やすくなるだけで、本来の自分が距離を置いているのだから。そりゃぁ、わからなくもなるもんだ。
「あ!そう言えば、姉さん」
「ん?何?」
「同じ司会になるギラグって人、知ってますか?」
「あぁー、遊馬くんが言ってたね。ギラグという奴が同じ司会だと……そうだねぇ、名前はともかく姿は知りませんねー」
「姉さんも知らないんですか」
「全く」
も、って事はお前もか、弟よ。
あー、いやでも、遊馬くんに詳細を聞いている時にスポーツデュエル大会を提案したのはギラグという奴で、零と一緒に帰ってる最中に会ったと言っていた。なら、姿は見た事あるんだろう。では何故、自分も知らないみたいな事を言ったのか。それは多分、
零は何事も徹底的にやるタイプだ。作戦も徹底的に練るし、勉学も必要な事ならばと学んでいる。そんな完璧主義者が、自分が通う学校の生徒を調べないわけが無い。ターゲットとなる遊馬くんを含めて、全生徒の名前と顔を一致させ、学年や誕生日、出身などを調べているはずだ。俺には到底真似できない事だ。
まぁ、そんな零もうっかりする事もあるのだが、ほんの偶にである。良くあるときは調子乗ってる時だけか。
という訳でだ、そのギラグという奴はこの学校の正式な生徒では無い。ただ、ハートランド学園の制服を着た、何者かという事。
けど、ま、見当はついている。この時期に、となるとな。
「(仲間……かぁ……)」
そういや、この姿じゃ会った事も無いもんな。そりゃ、あっちはわからないだろう。けど、他とは違って俺達は髪型はほぼ一緒だから、わかると思うんだが、多分わからないのは相手の頭が良く無いだけだろうな、うん。
……というか、ギラグという名前は彼方の世界でも俺は呼んでいたし聞いていたので、もしかして、だと思っていたが……零の言葉によっていよいよ真実味が増してきた。まぁ会ってもわからないと思うが、それは仕方が無い。
「(というかちゃんと仕事、してたんだな)」
俺達に課せられた
今は、あのアストラルという奴と九十九遊馬を墜とすという事になっているそれは、彼らを突き動かすのに十分な理由だ。
まぁ、俺にとっては暇潰しなんだが、仲間にはちゃんと規律を守る奴がいる。面倒臭い事に、そいつがサボる事を許してくれない。
崇高なる魂で無い時点で、彼奴もまた俺達と同じように歪んでいるはずなのに、なぁ。なのに何で、あぁも正しくあろうとできるのか……謎だ。
でも、それよりも目の前の問題だろう。スポーツデュエル大会なる、名前からしてスポーツとデュエルを混ぜるというぶっ飛んだ内容の大会だ。十分、楽しませてくれるだろう。
「(あぁ、嗚呼、愉しみで仕方がない)」
どんな事を見せてくれるのだろうか。俺の八割は、喜怒哀楽の楽でできているから、何事も楽しんだ方が良いと思う質だ。
くすくすクスクスと笑っていると、俺の手を握っている零の手に力が入った。どうしたというのか。
「零……?」
「……何でもありませんよ」
いやいや、絶対何かあるだろうに。こういう時だけ、嘘が下手だなぁ。俺は安心させるように、零の手をきゅっと握り返した。
さて、スポーツデュエル大会。楽しむのもいいが、ちゃんと司会をしなきゃな。みんながわかりやすいように、このよく通るって言われている声で届けてあげようでは無いか。
その代わりに楽しみを求めても、別に良いだろう?
嗚呼、ああ、何故思い出してしまったのか。それもこれも、自分が手を繋いでいる相手が悪い。そう、相手が悪いのだ。決して自分は悪くはない。こんなに切ない気持ちの悪い思いなんて、数年の間、記憶の奥の奥に仕舞っていたというのに。
相手はすっかりと忘れているこの記憶。嫌な、忘れたい記憶。でも、忘れてはいけないこの記憶。ずっと背負わなくてはいけないもの。
「(お気楽なもんだな……)」
後ろで楽しそうに笑う相手を、横目で見ながらそう思う。こうやって手を繋げているのは相手が忘れていてくれるお陰だが、正直気は乗らない。罪悪感が押し寄せてくるからだ。
殺戮王子とも言われていた自分が今更何を言うのだと思うかもしれないが、やはり、やっぱり、身内は心に残るものだ。それも小さな頃からずっと一緒だった、血を別つ姉弟。傷が残らないという方がおかしい。
繋いでいない方の手を見る。この手は、血にまみれている汚れた手だ。この手で両親を殺し、臣下を何人、何十人と殺してきたが、別に後悔はしていないし、反省もしていない。したいからした、それだけだ。
だけれど、今でも思う事がある。もう一度、その王子と呼ばれていた時に、血濡れた刃を振り下ろすその瞬間に戻りたいと。
明るい笑顔が鮮血に染まった、その過去を塗り替えたい、と。
「零……?」
「……何でもありません」
本当に……嫌な事を思い出してしまった。
心の中で、舌打ちをする。
タグにブラコン、シスコンと入れておくべきなのか悩みますね。でも、ただの麗しき姉弟愛になるのかな……。
俺はモテてないのか?寝言は寝て言え。