しんねぇ   作:メデューサの頭の蛇

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第二話 美少女?え?俺?

 

 

転入生というものはどこに行っても人気者だ。

物珍しさが目立つ故になのだが、その転入生本人からすれば迷惑以外のものでも無いと思う。

つまりだ。俺は今、クラスメイトに囲まれていた。

どこから来たの?とか、真月って隣のクラスの子と同じ名前だけどどうして?とか色々聞かれた。前者は良いが、後者の質問はもし同名だけだっただけなら少し失礼じゃないか?と思う。何も関係の無い人物から関係者とだと思われるんだからな。まぁ、隣のクラスの真月くんは俺の弟だけど。

毎時間、休み時間になると質問攻めに合い、休める時間の筈が全く休めないという事態に陥った。授業時間の方が落ち着けるってどうなんだろうか。

だからこそ、昼休みなら皆もご飯を食べなければならないので、質問攻めに合わないと思っていたのだが、現実は非情で。

 

「ねぇ!一緒に食べない?」

 

と誘われてしまった。

コミュニケーション能力が高くて逞しい事だが、勘弁して欲しい。一定以上と仲良くなっても付き合いが面倒くさいだけだ。弟の様に、作戦の為に努力できる様な人格でも無いからな。疲れる。

どうしようか、どう断ろうかと応えあぐねていると、教室の扉がバーン!と勢いよく開いた。

何だ何だ?何事だ?という様にクラスメイト全員が振り返ると、そこには困った様な表情を浮かべている赤い前髪と黒い後髪をした少年に、ニコニコと笑う橙色の逆立った髪の毛を持つ少年がいた。

俺の髪と同じ色を持つ少年を見た瞬間、お前が神か!と心の中で叫んでしまう程ナイスタイミングだった。初めて、弟に感謝したかもしれない……いや、それはないか。

二人の少年、九十九遊馬と真月零は一直線に俺の元へ来てこう言った。

 

「「一緒に昼ご飯食べようぜ!/ましょう!」」

 

暫く呆気に捉えられていた俺は、苦笑してこくりと頷く。愛する弟とその友人の頼みだ、断れるはずがないだろう。

 

「という事なので、ごめんなさい」

 

誘ってくれた優しいクラスメイトにぺこりと頭を下げて謝る。こういうのは誠意が大事であり、ちゃんと一緒に食べれない悲しみというものを表に出す。すると大抵は許してくれるものだ。この世界の人間は基本的に優しいのだから。

クラスメイトは全然大丈夫!と首を振って、今度一緒に食べようと言ってきた。その言葉には素直に頷いて、去っていくのを見送る。

さて、弁当を取り出すか。横に立てかけてある指定鞄の中から弁当箱を取り出して、二人に振り返った。

 

「良かったのか?」

 

遊馬くんが首を傾げてそう聞いてくる。そんな事聞いてくれるのか、優しい子だ。俺の遊馬くんへの好感度が上がった。

俺は首を振り、大丈夫だと言って笑う。

 

「初登校日は弟と食べたかったですし」

「嬉しいです!僕もそう思ってたんですよ!」

「流石私の弟です。考える事は一緒ですねー」

 

イェーッイとハイタッチをして笑いあう。基本的に、弟とは思考回路が似ているのでこういうのも自然にできてしまう。流石私と私の弟、息ピッタリですな。

 

「さて、どこで食べるのです?案内頼みましたよ?」

「まっかせとけって!真姉!」

 

ドン!と自分の胸を叩いて言う遊馬くんは頼もしく思えるが、思わず俺は謎の単語に首を傾げてしまった。隣を見ると零も同じく首を傾げている。

 

「しん?」

「ねぇ?」

「あっと、真月の姉ちゃんの事、そう呼んでんだ」

 

遊馬くんが言うには、真月の姉ちゃんを略して真姉らしい。ネーミングセンスは置いておいて、どうしてそうなったのだろうか。普通に鈴として呼んでくれても良いのに、一応同い年なのだから。

その事を遊馬くんに伝えると、苦笑しながら頭を掻いて悪りぃと言った。

 

「何かこっちの方がしっくり来るんだよな」

 

本人がそう言うのならば、別に良いかと俺は放置する事にした。呼びたいように呼ばせとけば良いし、同じ様に真月と呼ばれてもややこしいだけだ。丁度いいのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち話もそこそこに、俺は遊馬くんに案内されて屋上に来ていた。どうやら、遊馬くん御一行は皆が皆屋上で食べる風習があるらしい。確かに教室よりも開放的でいいが、冬は流石に寒そうだ。

この前会った小鳥ちゃんや神城先輩の他に、ナンバーズクラブと名乗った子達や、神城先輩の妹さんがいた。随分と賑やかなメンバーであるが、これが普通らしい。ここに、遊馬くんや零、俺が加わったら大人数だな。それでなくても、多いが。

既に定位置になっているであろう場所に、慣れた様子で遊馬くんと弟が向かった。フェンスを背にして、地面に敷いてあったレジャーシートの上に座り此方を手招きする。正直、何処で食べれば良いのか迷っていたので助かった。

よっこらせ、と声に出さないながらも弟の隣に座る。遊馬くんの隣に座るかと思った弟だが、どうやら向かい側に座ったらしい。まぁ、隣よりは真正面の方が相手を観察しやすい。というか、遊馬くんの隣が女子で固まってるんだけど、モテてるの?マジで?

 

「じゃ!食べようぜ!」

 

待っててくれたのだろう彼らに、遊馬くんは一声かけていただきます!と嬉しそうに言った。それほど、昼ご飯が楽しみだったのだろうか。

食事を必要としない身体になってから、こうして人間体の時に娯楽として食べる事がある俺としては、美味いものを食べるという幸福感には納得できるが、常に摂取している彼らが楽しみにする理由が少し分からなかった。授業がつまらなすぎるとかだろうか?

しかし幸福というものは、あまり得過ぎると分からなくなってしまうものだからな。俺もそうだったし。こうして些細な事に感じるのは良い事なのだろう、きっと。

俺は自分で作ってきたお弁当の包みを膝の上で広げる。朝に頑張って作ってみたのだが、中々これが面白い。

料理自体は節約の為にする事が多かったが、その殆どは現地調達な為に郷に入っては郷に従えという事で現地の料理を真似てたりしていた。まぁ真似たと言ってもあまり上手くできなかったのだが。

という訳で、日本のこの時代の料理があまりわからなかったので、Dパットで調べたりして作った。案外楽しくて、食材が余ったりしたのだが、まぁ暇なときに食べよう。上手くできたはずだから、味は良いはずだ。弟に食べさせたら、美味いと言っていたので大丈夫である。

零はあまり嘘は言わないからな。

 

「すっごーい!それ鈴ちゃんが作ってきたの?」

 

観月小鳥だったか。その子が俺の弁当箱を覗き込んで称賛の声を上げた。純粋な心から来るものらしく、興味深そうに見ていた。

 

「そうですよ。食べてみます?」

「え?いいの?」

 

頷いて微笑んでから弁当箱を軽く差し出せば、小鳥ちゃんは少しだけ逡巡した後、自身の箸を持ち出し卵焼きを持って行った。

卵焼きは単純な料理だ。出し巻きとも呼ばれるこれは、家庭によって味が違ったりする。甘かったり、辛かったり、何も味がなかったり。

そんな単純な物だからこそ、それを作った人の腕がわかるというものだ。そこまで考えて取ったという訳でもなさそうだが、本能的なものなのだろうか?女子として負けるもんですか!みたいな?

パクリと口に運んだ後、数回ちゃんと噛んでから飲み込む。ゴクリと喉が鳴れば、小鳥ちゃんは箸を少しぎゅっと握った。

 

「美味しい……美味しいわ!」

 

暫くしてバッと顔を上げてそう言った小鳥ちゃんに驚いたが、どうやら満足してくれたらしい。笑顔で言ってくれた。

料理を褒められるのは嬉しい事なので、素直にありがとうと伝えておいた。良かった、口に合うものらしい。

 

「姉さんの料理は絶品ですからね!僕も大好きです」

「真姉すげぇな!今度俺にデュエル飯作ってくれよ!」

 

デュエル飯……とは?

 

「遊馬、デュエル飯ならワタシが作ってあげるのに」

「キャットちゃんのデュエル飯は煮干しオンリーでしょ!駄目よ!私が作るんだから!」

 

キシャー!やら、むー!やらの怒り声を上げて睨み出した小鳥ちゃんとキャットちゃん。猫と鳥はまぁ相性悪いよな。某バレーボール漫画でも、ごみ捨て場の戦いとか何とか言ってたし。けど、あれはいつ思い出しても例えが酷いと思う。確かに烏と猫なら、そうなるだろうけどさ。

 

「ただ作るだけでなく、健康の事も考えなくては。その点では、バランスの良いお弁当を作る真月さんの方が適任ではなくて?」

 

兄の神代先輩は給水タンクの前で座ってぼっち飯なのに対し、皆と仲良くこの場にいる妹さんの神代璃緒先輩が冷静にそう分析してきた。

いや、褒めてくれて有り難いけどさ、そもそもデュエル飯って何なの。

デュエル飯という単語に困惑していた俺を見かねて、弟が律儀に教えてくれた。

曰く、遊馬くんのお婆ちゃんが作る握り飯の事で、元気が出るという事で定評があるそうだ。

その説明を聞いても、意味がわからなかった。意味不明、理解不能。ただの握り飯、おにぎりじゃん。どういう事だってばよ。

前を見ると、未だあの少女二人がその事について言い争っていた。デュエル飯が、デュエル飯をとかが聞こえるあたり、何方かが作るとは決まっていないらしい。

何の違和感もなくその言葉を連呼する事から、この人間界では普通の事なのだろう。郷に入っては郷に従え。そのデュエル飯とやらを今度見せて貰うことにした。

因みに毎日パンだという弟の分も作ってある。今彼が持っている包みがそれだ。零は食事にはあまり関心が無いらしく、いつもパン等の購買で済ませていた。まぁ、それを見兼ねて俺が作ったわけだが。

 

「まぁ、そのお弁当も真月さんが作ったのかしら?」

「はい!僕の為にと、良かれと思って一肌脱いでくれました!」

「弟思いの良いお姉さんなのね。うちの凌牙とは大違いですわ」

 

まぁ、お前らを見てると兄妹逆転してる感じだもんな。双子なのだからそういうものなのだろうけど、お世話を焼いているのは妹さんの方が主にらしい。

だけど、妹を守るのは兄の役目とか何とか思ってそうな雰囲気だよな、神代先輩。孤高の鮫は家族さえいれば良いみたいな……シスコンか。

にしても、ピーマンと玉葱が嫌いとは。神代先輩は意外にも子供だった。確かに中学二年だが、何処か悠然とした構えを取っていたりするから、もっと年上なのかと思ってしまう事がある。だから、そう子供っぽい部分を見てしまうと、雰囲気に合ってねぇなと思う。ギャップという奴なのだろうが、別にそんな要素いらない。

 

「探しましたよ」

 

もぐもぐと自分が作ったお弁当を食べながら、仲良くみんなと団欒していると、ふとそんな声がかかった。声がした方を見ると三日月型をした茶髪の男子とその他大勢がいた。誰だろうか?

チラリとみんなを見ると、呆れたような表情を浮かべていた。誰かがまたか、と呟いたあたりこの事は前にもあったらしい。どういう事かと首を傾げていると、弟がそっと教えてくれた。

何やら、そこにいる璃緒先輩がこの学園に復帰した日の事。その容姿端麗から数多の部活からのマネージャーとして勧誘を受けたらしい。

その日は、璃緒先輩が自ら相手して全員を組み伏せて解決したらしいが……組み伏せるって凄いな。正面突破だろう?女子が男子に敵わないというわけではないだろうが、あの細腕から一体どんな力が。

というか、璃緒先輩。病院生活だったのか。その生活も響いてないのは、ちょっと可笑しい。人間じゃねぇよ、俺が言えた義理じゃないけどさ。

以上の話から省みるに、あの部長さん達は懲りずにまた勧誘してきたのだろう。男は懲りないものなので、わかる気もするが。

 

「貴方達、まだ懲りていなかったのかしら?」

 

立ち上がった璃緒先輩の瞳が部長さん達を射抜く。その冷たく光る眼を見ているだけで、此方を向いていないのにも関わらず少し身震いしそうになる。

ひっと声を上げた彼らは立ち去ると思いきや、違う違うと首を振った。どうやら懲りてはいるようだ。なら何故、此処に来たのだろうか?

代表と思われる三日月型の人が一歩前に出て、苦笑いをした。

 

「今回は神代璃緒さん、貴女に用があるわけじゃないんです。用があるのは、そこの貴女!」

 

ビシィ!と勢いよく指差した方は俺。思わず後ろを見るが、誰もいなかった。という事はだ、彼奴らが用があるのは俺という事になる。

 

「真月鈴さん!貴女に是非我がサッカー部のマネージャーをして頂きたい!」

 

サッカー部部長の三日月型がそう言った後、後ろの男子達も、俺も!俺も!といった風に押しかけてきた。勢いに負けそうになり、仰け反る。何故、何故に俺なんだよ!?

みんなに助けを求めようとチラリと見ると、成る程といった風にため息を吐いていた。零もおろおろしている様に見えて心底楽しんでそうだし、誰も助けてはくれなさそうだ……使い物にならんな!

ここはハッキリと自分で断らなくてはならなそうだ。

未だガヤガヤ言う彼らに向かって、スッと頭を下げた。腰曲げ九十度。綺麗なお辞儀である。

 

「ごめんなさい」

 

俺が声を発すると、みんな黙ってくれた様でシンと静かになった。話しやすいと思いながら、続きを言葉にする。

 

「私、部活には興味ありません。それに、マネージャーなんて楽しくなさそうな事、したくないので」

 

頭を上げてニッコリと笑う。

マネージャーというのは、部員の世話や部活の準備等など面倒くさい事ばかりだ。面白味もかける。その部活がやっている事が興味あるものなら良いが、お生憎様興味があるのはデュエルと料理とあと旅である。しかも、それは趣味の範囲。わざわざ部活でする程でもないし、目の前にいるスポーツ部活なんて論外中の論外。

マネージャーになってください!だが断る!

 

「そこをなんとか」

 

一度全員璃緒先輩にコテンパンにやられた事からか、下手に出ている。良い方向だな。これなら、付け入りやすい。

 

「では言いますが。マネージャーをやって、私に何の得があると?」

 

そう問うと少し逡巡した後、笑顔を浮かべてきた。ここで良い事を言って引き込もうというのだろう、魂胆が見え見えである。

 

「部員との絆が深まる!その部活の事がわかる!あと楽し---」

「それ、貴方達が思う事ですよね?私は今日初めて貴方達に会いましたし、部活の事がわかる前に興味が全くないです。あと言いましたよね?楽しくなさそうだって」

 

俺の言葉に部長さんは押し黙る。

 

「勧誘するならもっと上手くすれば良いのに、ド下手ですね、小学生の方が上手いです。そんなの誰も興味持ちませんよ?それに、私が楽しいと思っている時は弟といる時ですし……そうだ、私と戦って負けてくれましたら、入っても良いですよ?」

 

俺がそう言えば驚いた様な顔をした。そりゃ驚くだろうな、わざと負ければ入ってくれるというのだから。

 

「一度は負けているのでしょう?簡単な事です。さて、どうするのですか?」

 

一度は女子に負けた身。これ以上公衆の面前でひ弱な女子生徒に負ける覚悟があるのなら、断らないだろうが……見るからにプライドが高そうな連中だ。自ら負けるなんて事するだろうか?

俺の見立てが正しければ、ここで退くはずだ。

 

「……失礼しました」

 

ぺこりと頭を下げて、皆が皆去っていく。ぞろぞろと大勢で屋上から降りていく姿は滑稽だが、まぁこれで助かっただろう。

さて、昼ご飯の続きだと振り返れば、みんなが少し引いた様な眼をしていた。璃緒先輩だけは、感心した様な感じなのだが……何故だ?

 

「姉さんはもうちょっと自覚を持ってください」

 

弟に呆れられました。何故だ。

 

 




主人公は顔は良い方だとわかってますが、顔面偏差値が何故か高いこの世界では中の中ぐらいだと思ってます。つまり、あまり自覚がない。

弟?美少年に決まってるだろ?

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